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第二十話 なんかどっかで聞いたような気が……



 お、おかしい。

 おかしいって……。


 私はひたすら微妙な顔で、カフェのテーブルに突っ伏していた。


 異世界でモブ令嬢になろうとせっせと励んでいたら、なぜか逆ハールートに突入……したと思ったら、最終的に、ハイファンタジー系の魔王討伐ルートに突入していた。


 何を言っているか、いまいちわからない?

 大丈夫、私もいまいちわかってないから。


 とはいえ……、


「あれでも、これってチャンスじゃない?」と無意識に、私は口に出していた。


 顔を徐々に持ち上げつつ、私は頭をフル回転させていた。


 そうだ。

 たしかに、私のしょっぱい魔力量では、魔王どころか、その辺の魔物だって倒せやしないだろう。


 私はなんと言っても、魔力量最底辺クラスの中でも、超超低空飛行の成績を叩きだしている地味女である。まあ正直なところ、低空飛行どころか、地面に激突しているレベルの成績だ。


 ええ、担任の先生には、「カンナさんは控えめですね。もっと本気でやってもいいんですよ」と笑顔で煽られている。


 いや私、本気なんですけどぉぉぉぉぉぉぉ!!!!

 めっちゃぜえはあ言いながら、死ぬ気で頑張ってるんですけどぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!


 ってか、魔術の授業で実力隠す生徒なんて、いるわけないのである。それなのに、担任の美人先生は私をキラキラした目で見つめてくる。


 ちなみにあの男どもは、魔力の量だけではなく、魔術の腕に関しても群を抜いているらしく、もはや『学院をいつ卒業してもいいレベル』らしい。

 煽ってるのか????

 私をあおっているのか?????


 ま、まあいい。


 冷静に状況を整理しよう。


 まず、私の実力では、魔王退治は絶対無理。

 かといって、このまま学院にいるというのも無理がある。

 だって、あんないかれた噂が蔓延しているのだ。もう、モブ令嬢なんて言っていられる状況ではない。


 そこで、このカンナ・アーチボルトは考える。

 逆に、魔王退治に立候補すればいいんじゃないか、と。



 そう。それこそが私が導き出した結論だった。


 まず、魔王退治に立候補。

 もちろん、私はすぐについていけなくなるだろう。しかし、これは計画の第一段階に過ぎない。


 次に、私は精一杯作ったしおらしい地味顔で、こう告げるのだ。

「もう、私は戦いについていけませんわ。どうかわたしを置いていってくださいませ」と。


 すると、どうだろう。

 心の声が聴こえる、という魔物との闘いに一ミリも関係のない特殊能力しかない私は無事追放され、安心して地方で地味生活を送れる、ということである。

 若干追放ものっぽくなってしまったが、まあいいだろう。


 え、いけるんじゃないか、これは。


 ふぅぅぅぅぅぅ!!!!


 大丈夫だとわかったら、俄然やる気が出てくるのが人間というものだろう。


 これで、すべてが終わるのだ。

 イケメンに追い掛け回される日々も終了である。


「よし、そうと決まれば――」


 そうして、元気になった私は、力強い声でこう独り言を口にした。


「目指せ魔王討伐、ね」


「わかったよ、カンナ」

「了解した」

「オッケーお姫様」

「わかったよ~」



「………………」


 後ろの方から絶対に聞こえてはいけない4人の声がして、私はギリギリとゆっくり後ろを振り返った。

 いや、まさかそんなわけがない。

 そうだ、だって私の後ろの席には、さっきまで女子生徒2人が――



 その期待を裏切るかのように、後ろの席には輝かんばかりのイケメンがいた。

 まるで、彼らがいるだけで一気に周囲が明るくなったような圧倒的な存在感。


「ご、ごきげんよう……今日は一人にしてほしいって言わなかったっけ????」


「そうだったんだけど、どうしてもカンナ――君が心配になってね」というのは変装系第一王子アレックス。


「君を探していた、というわけだ」


 そう言いつつ、どこか無表情気味な男は、前世の記憶持ち系イケメン――クレメンス。


「独り言を聞いて悪かったな。でもよ……俺たちの仲なんだからさ。一言言ってくれたっていいんじゃねーの?」と不満を口にするのは、野生系お色気枠のイケメン――グレイズである。


「そうだよ、まさか僕たちに黙って、魔王討伐に行くだなんて……」 


 そう俯くのは、人外系色白イケメンのバートン。



「カンナ! いつも君はどうしてそう、独りで抱え込むんだ!!」

「また俺を一人残すつもりなのか……」

「俺を頼れよ!! 何のために、俺が、お前の側にいると思ってんだよ!!」

「魔物なんて恐ろしいやつらだよ。やつら人間を何とも思っていない! そんなのに戦いを挑むなんて自殺行為だ!!」



 一気に駆け寄ってくるイケメンたち。

 ち、違うよ。言いたいことはいろいろあるが、アンタたちがいるせいで、私は地味ライフが送れないんだ……!


 くっ、なんて言って対抗しようか。私が頭を巡らせていると、不意に、さっきまで明るかった空に、黒く分厚い雲が登場し、雷鳴が鳴り響いた。


「は?」


「ついに見つけたぞ!!! 先代勇者と聖女の娘よ!!」


 空から突如降ってきたのは、巨大な肉体に、ねじくれた角。そして、口が頬まで裂けたそれはそれは、恐ろしい風貌の魔物だった。


「クックックック……。我は魔王様第一の側近。貴様の命をもらいに来た」


「は? え??」


「クックックック……。驚いて声も出ないか!! 笑止千万! 見るからに地味そうな女だ。こんなつまらん女が、我らの脅威になるかもしれないなど、魔王様はどうにかしておられる」


 悲鳴に包まれる一帯。

 生徒たちはカフェから逃げまどっている。


「クックックック……。ひ弱な人間どもめ!! この私が、貴様らに絶望を教えてやろう」


「そ、その絶望というのは……??」


 私は恐る恐る聞き返した。

 悲しいかな。入学してからの一ヵ月で色々ありすぎて、たいていの事では驚かなくなってしまった。

 今だって、まあ、ハイファンタジールートだもんなあ、くらいの諦め様である。


「ほぅ……我に臆せずに問い返してくるとはな……面白い。その胆力に免じて教えてやろう」


 そう言った魔物が、魔力を発し始める。


「見るがいい! この圧倒的な魔力を!! 我ら魔物の魔力は潜在的に、人間どもの十倍!!! しかし、この魔王軍大幹部・グレアスに至っては凡百の魔物と違う」


 クックックック、とグレアスと名乗る魔物が嘲笑った。


「私の魔力は、実に普通の魔物の5倍!!! どうだ!! 恐ろしかろう、勇者の娘!!! つまり、我は、常人の50倍もの魔力を有しているのだ!!!!」


 グレアスがそう言った瞬間、莫大な魔力が、辺り一帯に迸った。


「カンナ、後ろの方に」

「下がっていろ」

「どいてな」

「危ないよ~」


 私を守るように、4人がグレアスと対峙する。


「ほう……人間の中にも歯ごたえのあるやつがいるようだな。女を守り、死ぬつもりか??? だが、下らぬ!!! 教えてやろう!!!! この世界には決して越えられぬ、絶望というものがあるとなあ!!!! さあ我を恐れ、絶望にひれ伏せ!!!!! 人間共ォ!!!!!!!!!」


 待てよ。

 こいつ、今なんて言った????

 常人の50倍?????


 なんかどっかで聞いたような気が……

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