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第二十話 だいたい、魔王は復活しがち



『拝啓 お父様、お母様へ

 私は今、王都の貴族学院で、大変なことになってしまいます。

 それもこれもすべては、生まれ持った私の能力のせいです。

 できたら、アドバイスを頂きたいです。


 地味に生きたい娘・カンナより』




――――――――――――――――――――――――――――





「はぁ……」と私はため息をついた。


 今現在、私は晴天の中、学院内にあるカフェの一席に座っているところだが、気を抜くと、ひっきりなしに周りから心の声が聴こえる。


【カンナ様がカフェにおられるわ……。次はどんな恐ろしい計画を練っているのでしょうね】

【あれはカンナ様……? 今日もなんて素敵な地味顔なのかしら】


 風評被害ィィィィ!!!!!!!


 これはたぶん、後ろの席に座っている女子生徒二人の声だろう。

 私は、改めて自分の圧倒的風評被害っぷりに、開いた口が塞がらなかった。


 恐ろしい計画?

 そんなものはありません。ないったら、ないのです。


 素敵な地味顔?

 あなたビラに毒されすぎですよ、と言ってあげたい。

 だいたい、素敵な地味顔ってなんですか????


 こうして私は、ものの見事に、貴族学院を裏で牛耳るイカれた一年生の地味女となってしまった。


 私はしみじみ思う。

 噂って、本当に怖いな、と。



 しかし、しかしである。

 私は、負けるわけにはいかない。

 私は地味なモブ令嬢として一生を過ごしたいのだ。


 なにもこんなラスボス的な扱われ方ではなく、学院では、ヒロインとヒーローのやり取りをボケッと眺めるだけの人畜無害のモブ令嬢A。

 これよこれ。

 これこそ、私の目指す理想である。


 だが、今のところは、だいぶ当初の未来予想図から、はずれてしまっている。

 四人のアホ男どもは、四六時中私の周りを付きまとうし、悪役令嬢からは触れてはいけない相手扱いされるし、聖女は猪突猛進で言うことを聞かないし、一般生徒にはビビられているし、でもう散々である。




 とはいえ、私には一発逆転の秘策があった。

 それは――両親への相談である。


 そう。

 客観的見て、こういうわけのわからない事態に一番役に立つのは、両親だ、と昔から相場が決まっているのだ。


 幸い、私は昔からお父様、お母さまに対し、「地味に生きたい」と主張していた。

 そんな両親だったら、何か役に立つアドバイスをくれるに違いない。


 そう思ってこの前、手紙を出し、やっと今日返信が届いたのだ。


「よし、読みますか」


 口に出して、気合を入れる。

 今日は、四人にも、リリエッタちゃんにも一人にしておいてほしい、と言い聞かせてある。

 やっと来た勝負の時、今を逃すわけにはいかない。


 シンプルな白の便箋の封を開け、手紙を読み始める。

 若干汚いこの字は、お父様の字である。


 え~、となになに?


『カンナへ


 貴族学院で大変なことになっている、と言うことを聞いて、驚いたよ。

 お前はいつも、地味に生きたい、と子供のころから言っていたからね』


 よっしゃー!

 私は思わずテーブルの下でガッツポーズをした。

 これこれ、やっぱ頼りになるのは親である。


『そして、"生まれ持った私の能力"、という文章にもびっくりしたよ』


 そう。

 これはいい機会だと思った私は、【心の声が聴こえる】と言う能力を、両親に打ち明ける気満々だった。


 まあ、あんまり前世の記憶持ちです~とかは言いたくないのだけれど、まだましだろう。

 私は、自分の能力をぶっちゃけて、協力を取り付けるのだ。



 うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

 なんて理想的な展開――



『まさか、カンナにも能力が発現したなんてね』


「んんっ!?」


 パァンッ!!!!


 私は反射的に、全力で手紙を折りたたんでいた。

 何か今、異様に嫌な予感がする。すっごい嫌な一文が躍っていた気がする。


 私のモブ令嬢生活をよりやっかいにするような要素が感じられたぞ、おい。


 ちっと舌打ちをしながら、再度手紙を開ける。


『まさか、カンナにも能力が発現したなんてね。それもそうか。学院に入学した、と言うことは、もうカンナも15歳。能力が芽生える時期だろう。なんて言ったって、君は、聖女と勇者の娘なんだから』


「アウト」


 パァンッ!!!!

 

 めちゃくちゃ近所迷惑だなと思いつつも、私は物凄い勢いで手紙を閉じた。



「ふぅ」と一息つき、カフェで暑い日差しの中、アイスコーヒーを嗜む。

 コーヒーの冷たいのど越しが、私の喉を潤していく――


「はっはっは、いやまさかねそんなわけない」


 気を取り直した私は、恐る恐る手紙を開けて、再び読み始める。 

 まあ、たしかに。

 こんなモブ令嬢の私に限って、まさかそんな出生に秘密があったとか、よくあるアニメみたいな展開があるわけな――


『そう。もしかしたら、カンナ。君はとっくにわかっていたのかもね。僕――つまり君の父親は、先代の勇者だ。今から三十年前、悪しき魔王を倒し、人間界を守ったのは、何を隠そう――この僕というわけだ』


「はい、アウト」


 魔王って何よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!


 私は思いっきり心の中だけで、叫び声をあげた。


 唐突に新単語ぶち込んでくるんじゃねええええええええええええええええ!!!!!!!


 は???

 へ????


 どうした。我が御父上は急に厨二病患者にでもなってしまったのでしょうか。



 最悪だこれ。


 いや、待てよ。最悪、御父上が勇者だとしよう。ってことは、うちのママが聖女?

 嫌でも、それはおかしくないか、と私は思いなおした。


 普通、聖女とは、だいたいが美女である。

 しかし、うちのお母上は、どちらかと言えば、下町のおばちゃん、と言う風貌で、とてもじゃないが、聖女様なんかには見えない。

 さすがにそんなわけは――


『カンナ、君は今、混乱しているのかもしれないね。あのお母さんが、聖女なの!?ってね』


 その通りである。

 父上は予知能力者か何かかな?


『そう。お母さんは昔、とんでもなく美女だったんだ。まさしく、絶世の美女。僕は一緒に旅をして、どんどん彼女が好きになっていた。しかし、魔王討伐が終わった瞬間、彼女は気が抜けてしまったらしくて、どんどん太っていき、かつての美貌は見る影もなく――』


 うわあ……。

 わが父ながらすごいストレートに言うな、と思いつつ、私は次の文字を読もうとしたが、赤いシミがついてしまっていて、どうも先が読めない。


「なにこれ」


 仕方ない。

 不思議に思いながら、二枚目の文を開ける。


 そこには、震えた小さい文字で、

『カンナ――お母さんは、今でも美人で、誰よりも魅力的だ。いいね????』と書いてある。


 父ィィィィィィィィィィ!!!!!

 アンタ、絶対余計なこと書いて殴られたでしょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!


 誰よりも魅力的だ(キリッ)

 じゃねええええええええ!!!!!


 いやもう遅いよ。

 もはや、字がビビり切っているもん。


「はぁ……」


 何やらどっと疲れたが、まだまだ手紙には続きがあるようだった。


『そして、なぜだかわからないが、近ごろ、魔物の動きが活発化している。30年前に封印したはずの魔王が、復活しようとしているらしい』


「は? へ?」


 えっ、なにその急展開。


『僕も、そしてお母さんも、どちらも、もうとっくに魔物や魔王と闘うだけの力はない。このままだと、魔王が世界を滅ぼしてしまうだろう。 

 しかし、最近うちに、ビラが届いたんだ。カンナ。君は最近、"聖女"と呼ばれているらしいね。それはそうだ。君は、僕たちの力を受け継いでいる。カンナ、世界を救うのは、君しかいないんだ。どうか、魔王討伐の旅へと行ってもらえないだろうか?』



「って!!!!」


 私は、手紙を握りしめながら絶叫した。


「なんで異世界ファンタジールートに!!!! 入っとんじゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」



 もはや学園物ですらないのですが……。


 

私的イメージ。

→【魔王】


あまり異世界恋愛では見たことがないが、異世界ファンタジーでは常連の存在。

そして、だいたい封印された割には、ほぼほぼ復活し、その復活率はじつに百パーセントを越える。


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