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第十七話 なぜ異世界恋愛の男たちは、総じてアホ女に引っかかってしまうのか?



「そんな……ひどいです……!!」


 おぉ……!


 割とすぐショックから立ち直ったらしいリリエッタさんは、4人の冷たい態度に涙を浮かべた。


「私、純粋に仲良くなりたくて……ぐすん」と言い出す。


 そもそも、純粋に仲良くなりたい子が、語尾に「ぐすん」とか付けないだろ、と私は思っていたりするんですけど、まあそれは置いておいていいか。


「待ちなさい!!!」


 しかし、その瞬間、どこから湧き出したのか、男子生徒二人がリリエッタをかばうように前に出た。


「いくら高名な『四騎士』であろうとも、彼女を泣かすとは何事ですか!」

 そういうのは、眼鏡がきらりと光る細い男子生徒と、


「彼女は守ってみせる!!!!」と謎の意気込みを見せるガタイ良さげな男子生徒である。



 その二人を見て、アレックスが「ああ」とつぶやく。


「ライナスとアランか」


「ねえ、ちょっと誰?」と私は、なるべく情緒不安定なリリエッタさんを刺激しない様に、ひそひそ声でアレックスに聞いた。


「眼鏡のライナスは、大臣の息子で、アランは王族――僕の遠縁だ。でもおかしいな。二人には、それ相応の婚約者がいたはずだったけど……」


「う、うるさいですよ! それに、そんなものは親が勝手に決めた婚約です。僕の家柄しか見ていない相手よりも、僕は、僕の心を見てくれるリリエッタがいいんです!!!!」


「そ、そうだ!! 家同士が決めた結婚に、なぜ人生を、なぜ心までも、縛られなければいけないんだ!!!」


 どうでもいいけど、こころこころ、言いすぎィ!!!!


 二人は酔っているかのようにキラキラとした瞳で、「心」と連呼する。心の内をすべて暴露した彼らの顔は満足感と開放感とでいっぱいいっぱいである。

 このまま放っておいたら、真昼間から踊り出して、歌でも一曲歌いそうなノリ。


 恋愛って怖い、と私は再確認した。


「えー!?」


 そんな混沌とした雰囲気の中で、空気を読めない脳天気な声がした。

 色白イケメン吸血鬼の声である。

 

「人間って、婚約者がいるのに、他に好きな人を作っていいの?? えっ!? 愛人ってこと??」


「うっわ……」


 私は思った。えぐいな、と。


 下手に貴族慣れしていない天然吸血鬼による純粋無垢な一撃は、完全にリリエッタさんと男子生徒に突き刺さったようだ。三人とも、顔を引きつらせている。


「お前なあ……もうちょっと言葉を選べよ」とグレイズが宥めるが、吸血鬼の勢いは止まらない。


「え!? だって、そもそも、婚約したんだよね??? 両家でちゃんと約束したわけじゃん。それなのに、勝手に約束を無視するっておかしくない?? せめて、新しく好きな人ができたんだったら、両親とか婚約者に一言言ってから、新しい恋愛に踏み出すべきなんじゃないの?? そんな簡単な連絡すらできないの??」


「うわぁ……」


 正論パンチの嵐。

 なんかもう、リリエッタさん三人の顔色が真っ青になりかけている。

 もうちょっと手加減してやれよ、と私はビビりきっていた。しかも、悪意がない分、より一層たちが悪い。


 ちょっとこいつの暴走を止めて、と私は目で合図をした。

 それを見て、力強くうなづいたのは、クレメンス。

 

 珍しく頼りがいのありそうなヤンデレ系イケメンに、私は夢中で頷いた。


 なんだ。

 監禁、監禁騒ぐサイコパスかと思っていたが、こいつもやればできるではないか。 


 そうそう、私としては、ここで余計なことをリリエッタさんに言い過ぎて、余計な火種を起こしてしまうのは避けたい。


 というわけで、どうかここで、この吸血鬼を黙らせておくれ……!


「おい、バートン。考えたらわかるだろ?」


 クレメンスが低い声で告げる。

 お、いいね。


「二人だって、婚約者がいるのに浮気をしたら悪いことくらいわかっている。ではなぜ、そんなこともわかっているのに、婚約を解消したりしないのか? そう――」


 そこで情緒たっぷりに、一息をつくクレメンス。

 そのまま、この争いを鎮めるような一言を――


 しかし、私は忘れていた。このアホはどちらかというと、4人の中でも空気が絶望的に読めない部類のイケメンだと、私は、すっかり忘れていたのだ。


「この二人は、そこまで本気じゃないんだ」


 んん??


「この二人は、彼女のことは好きだが、実家や婚約者にわざわざ婚約解消をするレベルではない。つまり、このライナスとアランは、飽くまで軽い遊びのための女性と思っているんだ。アホ吸血鬼め。そのくらい、わかって差し上げろ」


「ほぅ……」とほかの三人が、たしかにな、みたいな雰囲気を醸し出す。


 ちげええええええええええええ!!!!!!!!!!


「なんで!!!! なんで余計煽ってんのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」


 案の定、といおうか。嫌な予感がしたので、リリエッタさん方面を向くと、ライナスは口をぽかんと開けて目を丸くしており、アランはふるふる体を震わせている。ちなみにふたりとも、顔の色は真っ青を通り越して、紫色になっている。


「ふ、ふざけないでください!!! 『四騎士』だか、なんだか知りませんが、だいたい、そんな地味な女性をみんなで囲って、恥ずかしくはないんですか!!!」


 おぉ! 結構いいことを言うじゃないか!

 私は久々に感動していた。


 苦節一ヶ月……、ここに来て初めて、「地味」と言われた。

 なるほど中々人を見る目がある眼鏡だな、などと私が馬鹿なことを考えていると――



「おい、貴様ら」


 底冷えするような声。


「え゛?」


 後ろを見ると、怒りに染まった顔を見せるイケメン×4。


 彼らの普段の鋭い美貌が、より一層冷たさを纏い、表情が消えた眼がこちらを見ていた。


「今、なんて言った?」


 そう告げるのは、アレックス。


 しかし、アレックスだけではない。クレメンスも、グレイズも、バートンも、一切笑っていない。


「彼女を言うに事欠いて、『地味』だと?」


 アレックスの魔力が荒れ狂い、常人の百倍(本人談)もある濃密な魔力が辺りを満たす。


 ライナスとアランは、この世の終わりか、魔物の大群に遭遇してしまったかのように青ざめ、がたがた震え始めた。


「ふざけるなっ!!!! 彼女の美貌が!!! わからないのかっ!!!!」



 お、おう……。


 んんん???


 び、美貌……??? 

私的イメージ

→【婚約破棄をする男】



だいたい馬鹿。あとは、陰湿かつスケベそうな笑い方をしている(気がする)

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― 新着の感想 ―
[一言]  言い過ぎィ……主人公は野獣先輩の生まれ変わりかなんかなのでしょうか……(白目)  あ、今回も面白かったです。  最後までこのテンションで突っ走るのだろうと思いながら読ませてもらってます。
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