第十二話 イケメン魔術師系は最近はやっていると思う
部屋に入ってきた私を見て、輝かんばかりのイケメンたちが声をそろえる。
「「「「ああ、カンナ。お帰り」」」」
「お帰り。でもねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」
「む? 何か気に障ることでもしてしまったか?」とクレメンスが答える。
むしろ気に障ることしかない、と私は思った。
「なんで!!! ここにいるのよ!!!」
「俺はお前のためにここに来た。その、お前がカロリーナに因縁をつけられていると聞いてな。居ても立っても居られずここに――」
な、なるほど。そもそも、なんでそんなことを知っているんだ、という問題もあるが、今は置いておこう。
「わ、わかったわ。最低限、ここに来た理由はわかったわよ。で、でもそうじゃなくて!!!」
私はさっぱり何が悪いのか、理解できていなさそうなクレメンスに向かって言った。
「何を! どうしたら! この男子禁制の女子寮に、男が! しかも四人でいるのよ!!!」
「だから、新開発した俺の魔術で、ここに来ることができたんだ」
「は?」
なんか嫌な予感がした。
「いや普通、魔術って、火とか水とかそういう感じじゃないの? なにその……新開発した魔術って」
そう。
カンナが学院で習っている魔術は、あくまで火を起こす、とか水を出す、とかその程度である。そりゃそうだ。入ってまだ二週間しか経っていないし。
「ああ、これこそが俺の開発した新魔術――その名も侵入魔術」
【そう。俺はある時、気が付いてしまった。オレとカンナの間には距離がある。俺は男子寮で、カンナは女子寮。その距離をどうにかしたい、もっとカンナに近づきたいと思って開発したのが、この新魔術だ。効果は簡単。この魔術を使えば、どんな堅固な部屋だろうが、どんな密室でもたちどころに入ることができる。つまり今の俺にとっては――】
「この部屋に入ることは、造作もない事だ」
か、かっこよくねえええええええええ!!!!!
私はドヤ顔をする電波男に向かって吠えた。
「普通、『距離がある』って言ったら、心の距離とかそっちの方でしょ!!! なんで最短で私との物理的距離を詰めようとしてんのよ!!!!!!!! 地道にアプローチしてきなさいよ!!!」
【ほぅ……単なるストーカーかと思ったが、新魔術を自分で開発していたとは、中々やるな。魔術の才能だけで言えば、王族の僕をも凌ぐか?】
【へぇ。今までにない新魔術の開発といえば、卒業生でもできるかどうか怪しい。それを一人で、習得していたとはな。やっぱおもしれー男だ】
【はぁ〜、人間の女子の部屋ってこうなってるんだ〜】
ふざけんなじゃねえええええええええ!
なんでちょっとライバルの実力を認めあってるみたいな雰囲気になってんだあ!!!
やってることは完全に不法侵入だろおおおおおおおおおおおおお!!!!
と私が衝撃のあまり口をパクパクさせていると、ノックの音がした。
ふわっと扉を開け、私は顔だけを出して、すっかり存在を忘れていたカロリーナ様に応対する。
「あなた……そのさっきから声が大きくないかしら? しかも男性っぽい声も――」
「ち、違います! 男性なんていません! そ、そうです。私、結構地声が低めなんです!!」
「そうなの?」と首を傾げるカロリーナ様。
「それにしてもあんたノロマね。そんなに遅いなら手伝ってあげましょうか?」
「絶ッッッッ対にいりません!!!! 取りあえずカロリーナ様は、私がいい、と言うまでそこでじっとしててください!!!」
そう言って、バァン!!!とドアを占める。
中に戻ると、私のベッドの近くで、何やらアホたちのアホによるアホのための作戦会議が開かれているようだった。
「おい、どうするんだ?」と身内では、素顔を晒すことにしたらしいアレックスが聞く。
「危機に陥っているときに、颯爽と助けにくれば女性は喜ぶって聞いていたが、彼女、あんまり嬉しくなさそうだぞ?」
「んー、もしかして、ちょっとタイミングが早かったのかもな。彼女がもうちょっと危険が迫ってからでも、良かったかもしれん」
そう難しい顔をするのは、相変わらず胸をはだけさせているグレイズ。
「だいたい、クレメンス。お前の魔術でびっくりさせちゃったんじゃないか?」
「いや、俺はちゃんと驚かさないように、10分前から侵入魔術を作動させて、お前らと一緒に部屋に潜んでただろ? 俺が彼女を怯えさせるわけがない」
「いや~、ローズヒップティーでも入れようかな~」
「全部ピントがズレてるぅぅぅぅぅ!!!!!!!」
私は大声で叫んだ。
「だから! 今現在、女子の部屋に男子がいることが!!! 問題なの!!!! 白馬の王子様に憧れる女子はいても!!!! プレイベート空間に王子様が急にいたら!!!! 困るでしょ!!!」
そんな私の様子を見て、再び、男どもがヒソヒソ話を始める。
「なんか、彼女怒ってないか?」
「ほら、あれだろ。女子って好きな男子を部屋に入れるときは、綺麗にしたがるもんらしいぜ」
「たしかに、引くほど汚かったんもんね……」
「問題ない。彼女は前世から、片付けも掃除もできない、そういう女性だった」
「うわァァァァァァァァァァァァァァん!!!!! 私の眼を見て、急に何かを悟ったような顔で、部屋を勝手に片付けるなあぁぁぁぁぁぁ!!! 貴様らは母親かぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
急に、優しい顔で「掃除ではできなくても素敵だよ」って言ってくる男たちに、私は地団駄を踏んだ。
――しかし、そんな私の後ろで、ものすごいノック音が鳴る。
「あら、私分かっちゃったわ。あなた……男性を部屋に連れ込んでるんでしょ??」
ドア越しに聞こえてくるのは、喜びが隠し切れない、と言った様子のカロリーナの声。
「あんな素敵な男性に囲まれて、まだまだ男を部屋に呼んでいたのかしら。私が、あの四人の方々に、告げてしまったらどうなると思い??」
そう言って高笑いする声が、ドア越しに聞こえてくる。
「貴女は終わりよ、おわり」
「………………」
よ、よかった、と私は無言で胸をなでおろした。
なんかもう、一周回って、この高慢なお嬢様の方がまともに思えてきた。そうだよね。客観的に見たら、どう考えたって、男四人がこの部屋の中に侵入してきただなんて思わないよね。
「さあ、観念してドアを開けなさい! あなたのような地味な人が、あんなに素敵な男性に囲まれているだなんておかしいと思っていたわ」
【あんな素敵な男性か……他の皆には申し訳ないが、きっと僕の事だろう】
【ほぉ……俺が、彼女に似合う素敵な男性か。客観的に見たらやはり前世から彼女との縁がある俺こそが、素敵な男性なのだろう。この言葉を聞けただけでも、わざわざ、侵入魔術を開発した甲斐があったな】
【へぇ、素敵な男性ねえ。意外と話が分かるんだな。おもしれ―女だ】
【あらまあ。僕と彼女の相性の良さが、わかってしまうなんて……僕も罪作りな男だな】
「アホ共がぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! なに急に照れ出してんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
もう無茶苦茶である。
後ろからは壮絶なノック音に、眼の前には、急に顔を赤くして「いやいや困ったな」と口々に言い始めるアホ共。
神様、私はいったい、どうしたらよろしいのでしょうか?
私的イメージ
→【魔術】
最近、ヒーローがかっこいい魔術や魔法を使う、という展開が好まれていると思った。流行に疎い私でも、今回ばかりは『ヒーローがかっこいい魔術を使うシーン』が書けたと思う。大満足です。




