表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
弱小領地の生存戦略! ~俺の領地が何度繰り返しても滅亡するんだけど。これ、どうしたら助かりますか?~  作者: 山下郁弥/征夷冬将軍ヤマシタ
第一章 生存戦略

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/289

9回目 全力土下座外交



「だからお前は誰だよっ!?」


 銀山の情報が漏れたのだろう。その後も4回の人生を繰り返したが、クレインは毎度の如く、暗殺者を送り込まれて死んだ。


 警備員を増やしてみたり、遠くまで出かけて難を逃れようとしてみたり、鎧を着こんで寝てみたりと、できる限りの手は打った。

 しかし全ての対策は、不発に終わっている。


 同じ暗殺者に刺殺され続けたクレインは、覆面からわずかに覗く、優しい瞳が目に焼き付いていた。


「……苦しみに満ちた現世から、今解放してあげるからね。みたいな、善意に満ちた目をしてたな」


 利害が絡んだ欲望の目をしていれば、謀略を跳ねのける情熱が湧いてきたかもしれない。しかし当の暗殺者からは、一切の悪意を感じられないのだ。


 それがクレインにとって、逆に恐怖となっていた。


「いや、しかしどうするかな……。力ずくで奪い取られたら、どうしようもない」


 暴力から身を守るには経済力が必要であり、経済力の基盤になるのが銀鉱脈だ。

 これはもう、卵が先か鶏が先かの問題だった。


「ぐぬぬぬぬ……。何か、いい手は……」

「おはようございまーす!」


 ベッドの上で唸っていると、今日も今日とて、メイドのマリーが入室してきた。

 彼女はベッドで唸る領主の姿を見て、困惑した表情を浮かべる。


「大丈夫ですか? クレイン様」

「あ、ああ、おはよう。モーニングコール、ご苦労様」


 彼女の記憶がリセットされていなければ、定期的に、朝一番から怒りを燃やす、情緒が不安定な男と見られただろうか。


 ともあれ、何にせよリスタートだ。

 開いたカーテンから差し込む朝日を浴びて、クレインは黄昏(たそがれ)ていた。


「あの、嫌なことでもあったんです?」

「嫌なことと言うか……なあ、マリー。君がお宝を持っているとき、目の前に山賊が現れたらどうする?」


 おはようの次に出てきた言葉がこれなので、マリーは返答に詰まった。

 しかし領主からの質問なので、まずはちゃんと想像してみる。


「山賊なら多分、お宝と私をセットで持って行っちゃいますよね? ほら、私は可愛いので」

「そう、それ! まさにそう!」

「ええ……?」


 長めの茶髪をさらっとかき上げたマリーは、ジョークを真正面から全力で肯定されて、言葉に詰まった。

 しかしクレインからすれば、その例えが最適だ。


 魅力的なお宝(銀山)を狙う山賊たち(暗殺者)が、宝を持っている本人(クレイン)まで害する。

 今まさに、その状態に立たされていた。


「そんなとき、どうやって身を守る? あ、ちなみにそのお宝は母親の薬代で、絶対に失いたくないとして」

「うわっ、急に条件が増えましたね。ええっと、どうしますか……」


 非力な自分が身を守るとしたら、交渉以外の道はないだろう。

 そう思ったマリーは素直に、それが現実に起きたらどうするかを考えてみた。


「お宝を半分あげるから、見逃してください……ってお願いをしてみます。少しでも手元に残れば、薬も買えなくはないでしょうし」

「なるほど? ……うん、いけるかもしれない」


 その状況では、高確率で宝を全部奪われて、マリーは売り飛ばされるだろう。

 しかしクレインに当て嵌めた場合、彼の視点からであれば、活路は見えた。


「やっぱりマリーはいいメイドだな」

「それならお給料を上げていただけると――」

「さあ、今日の朝食は何かなーっと」

「あっ、もう! 今朝もいつも通りですよ!」


 特別な日でもない限り、1年のほとんどで同じ献立になっている。

 これは料理人の負担を減らすためにと、先々代の当主が始めた伝統であり、当然今日も変わらない。


 しかして上機嫌なクレインは、マリーのお願いをさらっと流しつつ、軽い足取りで食堂へ向かった。


 まあ、事が上手く運んだら、少し給金を上げてあげようか。

 そう思いながら、彼は道中で今後の動きを思い浮かべた。





    ◇





 3週間後。クレインは数枚の報告書を手に、王都までやってきた。


 銀山をもう一度掘り当てるまでに1週間。王都まで馬車で12日。

 その後の2日で、謁見の順番待ちをしていた。


「クレイン・フォン・アースガルド。謁見を許可する!」

「ははっ」


 重要な議題には重臣たちが勢揃いするが、今日は国王と宰相、第一王子の他、数名だけだ。

 戦略資源に関わる謁見なのだから、もう少し人がいてもいいような気はした。


 しかし、急に予定をねじ込んだのに、2日待たされただけなのだから早い方だ。

 軽んじられているわけではないだろう。


 そんなことを考えつつ、クレインはめったに使わない礼儀作法に気をつけながら、謁見に臨む。


「面を上げよ」


 命じられたクレインは、膝立ちのまま、国王の胸元に視線を合わせた。

 自分は何の力もない田舎領主なので、腰を低くして、なるべく無難に対応しよう。という判断だ。


 もちろん事前に用件を伝えてあるが、老齢の宰相は儀礼的に尋ねる。


「アースガルド領で、銀の鉱脈が発見されたそうだな」

「左様でございます。仔細はこちらに」


 両手で報告書を掲げて、待つこと数秒。

 傍仕えの文官がそれを掬い上げて、国王の手元に運んだ。


 報告書を受け取った国王は、険しい顔をしていた。

 しかし読み進める毎に、だんだんと表情が緩まっていく。


「なるほどな。結構な範囲に、鉱床があると」


 冷静さは保っているものの、声は弾んでいた。

 国政の課題である、資源不足が解消される点も喜ばしいが、もっと目を引く内容があったからだ。


 それは、差し出された報告書の末尾に付記された、提案事項。

 ――別名、山賊への命乞いが、彼の心に刺さっていた。


「得られた利益の半分を、王家に献上する、とな」

「左様でございます」

「つかぬことを聞くが……正気か?」


 国王が確認を入れるのも無理はなかった。銀山から得られる利益の半分と言えば、現状のアースガルド家が稼いでいる、全収入と同じくらいにはなるからだ。


 領外から人を呼び、採掘量を増やしていけば、更に数倍の利益を叩き出すだろう。


 昨今は銀不足のせいで、貨幣の鋳造に影響が出始め、高騰が続いている。その解消プランが提案に盛り込まれている以上、相場を知らないわけでもない。


 つまり大儲けの機会を、自ら積極的に手放しているのだから、国王にも意図が読めなかった。


「採掘の人員も、費用もそちら持ち。どうして、こんな提案が出てきたのやら……」


 正直に言えばクレインも手放したくはない。利益は独り占めにして、領地の強化に使いたかった。

 しかし、その権利を持っていると、暗殺されることが分かりきっているので、これはもう仕方がないことだ。


 まだ続きはあるが、これがマリーの提案に沿った、「お宝を半分あげるから見逃して」作戦だ。

 命乞い以外の狙いも含めてあるので、クレインは落ち着いて返答した。


「陛下、私は正気でございます」

「忠義の心、天晴(あっぱれ)である……と、言いたいが、何が狙いだ?」


 王国の法では、見つけた資源は領主が独占していい。

 利益に税はかかるが、それでも儲けの1割ほどだ。

 

 王宮が召し上げを示唆したわけではないし、アースガルド家の東南側は、山脈と森林が広がるばかり。所有権に難癖をつける、他の貴族がいるわけでもない。


 険しすぎて一向に進んでいないが、森を開拓した分だけ、領地を広げていいという勅許(ちょっきょ)も有効だ。

 どこをどう切り取っても、正当に権利を主張できる。


 だというのに、クレインは最初から全面降伏の態勢だ。初手から、権利を放り捨てた土下座外交の姿勢で臨んでいるのだから、国王が不審に思うのも当然だった。


 こんなことをして、何を狙っているのか。

 疑問を見透かしたかのように、クレインは理由を述べていく。


「私め如きが銀山を保有すれば、いらぬ(いさか)いを招きかねません」

「まあ、そうか」


 その言葉で、何となく国王にも想像はついた。


 親戚から事業に噛ませろと言われて、面倒事になることは想像に難くなく、北方の小領主たちが連名で難癖を付ける可能性も残されてはいる。


 大義名分を気にせず、略奪目当てで紛争を吹っ掛けられる可能性は確かにあった。

 しかしここで、アースガルド側に大義があればどうだろう。


王家のために(・・・・・・)銀を採掘している我々を、邪魔するのか?」


 この、最強の言い分が手に入るのであれば、地方の小領主たちなど黙らせられる。

 なるほど、安全を担保しながら、確実に利益を出せる良策だ。


「欲張らずに献上する道が、最も平和であると考えました」

「……ある意味では、一番賢い選択だな」


 国王はそう納得したが、クレインにとっては、この大義名分の使い先が違う。

 彼が想定しているのは近場の小領主ではなく、ヴァナルガンド伯爵家や、ラグナ侯爵家への抑止だ。


 それに、暗殺者がどこの手の者かは判明していないが、正式な庇護を約束された領主を殺せば、大問題になる。


 だから表裏のどちらでも、下手に手出しをされなくなるはずだと、クレインは考えていた。


「しかし半分は過剰であるな。通常であれば2割か、あっても3割か」

「陛下」

「気になるではないか。……なんだ? 伯爵位でも欲するか?」


 くれるというのだから、黙って貰えばいい。

 そう目で語る宰相を横に置き、国王は献金の理由を尋ねた。


 国王にとっては身内の毒殺事件以降、久しく無かった朗報だ。


 血生臭い事件ばかりで、気分が沈んでいたところに現れた、久々の景気がいい話。

 そして、個人的に気になる話でもある。


 威容を(たた)えた国王は、心なしか明るい表情で種明かしを迫っているが、一方のクレインは理想の流れがきたことに、内心で歓喜していた。


「私が望むものは、人材です」


 これが本題であり、王宮を訪れた狙いだ。どうやって切り出すか悩んでいたものを、国王から切り出してくれたのだから、クレインからすれば幸運という他ない。


 今の彼はポーカーフェイスを維持して、喜びを隠すことに全力を注いでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 1話で死んでない! と思って喜びましたけど、冒頭で4回死んでた・・・
[一言] 暗殺者が送り込まれるから仕方ないんだよ!と言えればいいのにw
[良い点] それでも4回チャレンジしたのもすごい……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ