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弱小領地の生存戦略! ~俺の領地が何度繰り返しても滅亡するんだけど。これ、どうしたら助かりますか?~  作者: 山下郁弥/征夷冬将軍ヤマシタ
第四章 同盟締結編

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51回目 意味不明な動き



「ああ、いや。戦いそのものは有利なんだぁ。ただ、補給が滞っているようで」

「……補給が、か」


 南伯に喧嘩を売るような真似をして、南での商売を縮小させたヘルメス商会だが。

 現在は東と北へ注力しているようだった。


 それは密偵を使うまでも無く分かるほど、公然と進めている商売戦略だ。


「普通に考えれば、北侯のお膝元に戻ったと見るべきだけど。まさか西ともバランスを取ろうとしているのか?」


 密偵が北、南、東の動向は多少掴んでいるとしても。

 王都を挟んだ反対側。

 西の販路がどうなっているのかはクレインにも分からない。


 もしかすると西にも利権を多数抱えていて。

 東が潰れたら困るのと、同じような状況になっている可能性がある。


 西も現状維持ができるように、わざと北侯の足を引っ張っているのだろうか。

 そんな推測をしつつ、クレインは茶をすすりながらトムからの続きを待つ。


「ヘルメス商会の輸送力を考えれば、北侯の全軍……二十万人分の物資も、賄えるはずなんだけどなぁ」


 一方のトムは、少し間を置いてからのんびりと切り出した。


 しかし確かにそうだ。

 ヘルメス商会の力を考えれば、能力が不足するわけがない。

 そう思ったクレインは重ねて聞く。


「現実問題、どうなっているんだ?」

「どうも、人事異動やら何やらで、責任者が各地に散ったそうでなぁ。馴染みの店主も東へ異動したとか。……左遷されるような人じゃあなかったのに」


 輸送能力が足りなくなる原因があるのか。

 それとも手を抜いているのか。

 結果としては、上からの決定で強制的に前者ということになっている。


 その判断ができるのは商会長のジャン・ヘルメスだけだ。


 クレインの脳裏に浮かぶのは、表向きは人のいい笑顔を浮かべつつ。

 金の力で数多の人間を破滅させる、醜悪な裏の顔を持つ老人の姿だった。


 毒殺未遂以降アースガルド領では見かけていないし。

 クレインとしても、できれば二度と会いたくない人物ではあるのだが。不穏な動きには違いない。


「この時期に配置転換だと? あのジジイ、一体何を考えている」

「さあ、そこまでは」


 ここで、今までにあったヘルメス商会の動きを振り返ってはみた。

 が、クレインには彼らの狙いがさっぱり分からない。


 アースガルド家に多額の出資をしながら、暗殺を企んだり。

 南側では南伯に圧力をかけて、東伯の縁談を援助したりもしていた。

 王都での敵対買収は未だに動きがあるようでもある。


 そこまではまだいい。


 北から東へ一大勢力を築き。ラグナ侯爵家が王都の商会を乗っ取ったところに便乗して、中央でも空いた産業をかっさらうという動きに見える。


 南を捨てることになったとは言えど、北、中央、東、その全ての行商路を独占できると考えれば得はしていただろう。


 サーガ商会も北との輸送に使う約束で飼い殺しにされていたので、そこまでならばクレインにも理解できた。


「でも、よく考えてみれば全方位を裏切ってんだよな、あの商会」


 しかしクレインが状況を考えてみたとき、例の商会は滅茶苦茶な動きをしているように思えた。

 まず懇意だと言う北侯を裏切り、西侯への利敵行為をしていることだ。


「あの商会、西侯からすれば敵対陣営だろ?」

「まあそうなるわなぁ」


 次に東伯の御用商であるサーガ商会を潰したこと。

 販路を乗っ取った時点で、東伯への敵対行動となるだろうと判断した。


 一時期とはいえ東方面へ経済的な打撃を与えているので、これは東侯も不利益を被ることになる。


「サーガ商会に喧嘩を売った時点で、東伯や東侯とも敵対しそうなものだけど」


 クレインから見れば、大勢力へ片っ端から喧嘩を売っているようにも見えた。


 それでも何か利益につながり。別な目的の基に動いているのだろうかと、彼は真面目に考える。

 しかし情報は足りず、目的は見えてこない。


「まさかその分の点数稼ぎにアスティの縁談を進めていたのか? いやいや。仮にそうだとして、北侯を裏切るのは何なんだ……」


 ついでに言えばアースガルドから東へ物資を運び。

 今回の戦争でも東側勢力を応援して、戦力を拮抗させようとしている。


 それでも一部の物資はアースガルド家に卸していたので、真正面から敵対していたわけでもない。

 敵を援助するのとは別に、しっかりと子爵領にも利益がある行動はしている。


「全国に拠点があっからなぁ。むしろ戦争なんてさせん方が儲かるんでは?」

「あの商会は武具も扱うだろ?」

「ああ、戦争特需ってやつもあるかぁ」


 クレインからすれば、意味不明な動きでしかなかった。

 何でも扱う国一番の商会が。

 どの勢力にも等しく、害と利益をばら撒いているようにしか見えなかったらしい。


「……ダメだ、意味が分からない。そういう生存戦略なのか? ヘルメス商会の規模でやることではないと思うんだが」


 確かに多少の不利益を被ったところで、どこの勢力も無下にはできないだろう。

 しかし、限度がある。


 現に南伯は流通を差し止められて以降、ヘルメス商会との取引は断っている。

 今のところは上手く回っているとしても、近い未来で破綻するだろう。


 どっちつかずの動きをし続ければ、そのうち破滅する。

 そのうち大勢力の全部を敵に回す未来すらあり得るのだ。


 目的に見当が付かず、彼の胸中には不快感ばかりが広がっていた。


「まあ、ヘルメス商会は置いといて。北侯は本当に評判が悪いようで」


 そして、クレインの顔が曇ったのを見て。

 トムは多少強引にでも話題を変えることにしたらしい。


「……何をやらかしたんだ、北侯は」 

「ええと、まあ色々あったな」


 ヘルメス商会の意味不明な動きに混乱していたクレインだが、話を聞けば更にげんなりしてきた。


 ラグナ侯爵家が麻薬の密売事業で儲けているとか。

 王都の商会を潰しにかかっているとか。

 西側で反抗した貴族の娘を拐い、どこぞへ売り飛ばしたとか。


 そんな話がポロポロ、トムの口から出てきたのだ。


「アースガルド家と縁深い、スルーズ商会とか、ヘルモーズ商会。ブラギ商会とかには手を出していないようだけど、ありゃあ酷い」

「そうか」


 その点を除けば。北侯は本来と全く同じ動きをしている。そう判断したクレインは、むしろ安心していた。


 今では味方なので、悪評を立てられても良いことは何一つ無い。

 しかしイレギュラーだらけの中でも、そこだけは彼の予定通りと言えた。


 まあ、ここまでくれば未来知識がどこで役に立つかも分からないので。

 クレインはトムが仕入れてきた北侯の悪評を、二十分ほど聞き続けた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 初期だったらクレインがヘルメスに死に戻り前提で直接接触を試みて情報収集する流れになりそうだけど、今回はいかに?続きが楽しみです。
[気になる点] あー そういえば初めに悪い噂一杯あると言ってた 完全に忘れて支配者としては有能に見えるが なぜそうなった
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