表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
弱小領地の生存戦略! ~俺の領地が何度繰り返しても滅亡するんだけど。これ、どうしたら助かりますか?~  作者: 山下郁弥/征夷冬将軍ヤマシタ
第一章 生存戦略

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/289

4回目 一発逆転の銀河



「誰のために、身体を張ってると思ってるんだ!?」


 いつものベッドの上で目を覚ました瞬間。彼は勢いよく身を起こした。

 石を投げつけられて絶命した男。クレインは怒っている。


 先祖代々の、思い入れがある土地を守りたいのはもちろんだが、彼が生き残るための戦略を立てているのは、主に領民の命を助けるためだ。


「それを……もう!!」


 クレインはきちんとした教育を受けたからこそ、人並みに領主としての責任感はあり、人並みに善悪の判断もつく。


 何だかよく分からない情熱に突き動かされているが、虐殺など絶対に防いでやるぞ――という正義感で動いているのだ。


 だというのに、暴動で命を落としてしまったのだから、起きて数分は荒れに荒れていた。

 しかし、ふと我に返り、彼は急に落ち着きを取り戻す。


「このご時世だし、200年かけて納めた税を使い果たされたら……それは怒るか」


 財政破綻する領地が散見される中での散財だ。領民の怒りは、分からないでもない。

 彼はそう納得しつつ、この顛末(てんまつ)を前向きに考えることにした。


「ま、まあいいさ。有識者たちの献策を、無料で使えることになったんだから」


 時間が巻き戻っているので、献策大会で配った賞金は無かっ(・・・)たこと(・・・)になっている。

 巨額の賞金に釣られて、真剣に考え抜いた専門家たちの政策が、丸ごと手に入ったのだ。


 クレインは使えそうな意見を、軒並み覚えておいた。

 忘れないうちに、早速メモに書き出していったが――しかし、その筆はすぐに止まった。


「え? あれ? マズい、もう結構忘れてる」


 暴動が起きるまでの間に、もちろん記録を残していた。具体的な計画を立てていた内政案もあった。

 にもかかわらず、いくつかの草案は、既にうろ覚えになっている。


 衝撃的な死に方をして、記憶まで飛んだのだろうか。

 焦りつつも、クレインは出来る限りの内容を速記していった。


「まあいいや。大筋で覚えていれば何とかなる! やるぞ!」


 笑いながら机に向かい、ガリガリと書き進めていたクレインは、少し経ってから、また我に返った。

 そういえば、そろそろ(・・・・)じゃないか? と。


 そして寝室の入口に振り返ると、メイドのマリーが扉を半開きにして、恐る恐る自分のことを様子見をしているではないか。


「く、くれいん、さまー?」

「ああ、マリーか。どうして入ってこないんだ?」

「いえ、あの、荒れていらしたようなので」


 彼が独り言で声を荒らげていたのは、廊下を歩いていたマリーにも聞こえていた。

 完全にブチ切れていた領主が、突然机に向かったかと思うと、笑いながら殴り書きを始めたのだ。


 そんな中でモーニングコールをするには、かなりの勇気が必要だったことだろう。

 状況の把握を終えたクレインは。気まずそうに後頭部を掻きながら言い訳した。


「ちょっとムカつく夢を見ただけさ。もう何の夢かも覚えてないけどね」

「そ、そうですか?」

「うん。叫んで喉が乾いたし、水でも飲もうかな」


 今日もクレインの朝は、1杯の水から始まる。

 しかし水を飲み、食堂で朝食を済ませた後は、普段と違う行動を取った。


 部屋の本棚にしまってあった領内の地図に、いくつかの書き込みを加えてから、彼は領都の南側にある鉱山に向かう。





    ◇





「坊ちゃん? 珍しいですねぇ、こんなとこまで」


 鉱山に着いたクレインは、茶髪を短く刈り上げた、タンクトップ姿の男に声をかけた。

 彼はアースガルド領の鉱山で親分をしている、バルガスという男だ。


「俺はもう領主様だよ、バルガス。坊ちゃんはよせって」

「へへっ、あっしらにとっちゃ、子か孫みたいなもんですがね」


 地元の顔役であり、労働者とアースガルド家の仲を取り持つ存在でもある。

 クレインの幼少期から屋敷に出入りしているので、仲のいい親戚のおじさんか、準家臣のような位置づけの人物だった。


「で、今日はどうしたんですかい?」

「大事な話があって来たんだ」

「大事な話?」


 滅多に鉱山まで登ってこないクレインが、一体何の用かと、バルガスは首を傾げる。


 一方のクレインは手招きをすると、周囲に人がいないことを確認してから、坑道前の事務所に地図を広げた。


「いいかバルガス。今から話すことは秘密だ。この話は絶対に、外に漏れてはならない!」

「声が大きいですよ坊ちゃん。んで、秘密の話ってのは」

「まずはこれを見てくれ」


 広げた地図には大量の×印が付いており、それは鉱山から見て、南東の方角に点在している。


「こりゃあ……大森林の方ですね?」


 アースガルド領の南東には、険しい山と森に囲まれた、未開拓エリアが広がっている。

 そこには断崖絶壁が多く、切り開いたとしても農耕地には使えない場所だ。


 貴重な薬草や山菜なども生えておらず、価値あるものが見当たらない不毛の土地。わざわざそんな場所を開拓せずとも、平地の未開拓地は残っている。


 調査記録すら満足に残されていない地域だが、そこに広がる、この×印は一体何だろうか。

 首をかしげたバルガスの耳に顔を近づけて、クレインは囁く。


「この辺りに、銀の鉱床があるらしい」

「……なんですと?」


 領内で銀が採れるとなれば、国内での発言力と重要度は一気に増す。

 何故なら、()しくも昨年の暮れに、王家が所有する銀山の一つが完全に枯れたからだ。


「銀不足のご時世だからな。もし採掘できるようになれば、かなりの力を付けられると思う」


 資源を発見した者の特権として、鋳銭師(ちゅうせんし)を呼んで銀貨を作成する――貨幣製造権を申請できることになっている。

 一定の身分は必要になるが、子爵家ならばそこも問題ない。


「本当なら……すげぇことですがね。こいつはアテになるんですかい?」

「昔の文献からアタリを付けたんだけど、試してみる価値はあると思う」


 どこまで信じていいのかはクレインにも分からないが、それなりの自信は持っていた。細かいポイントこそ違うが、献策大会に集まった数名の学者が、同じ主張をしていたからだ。


「何にせよ、一度調査してみてほしい。予算は出すからさ」


 派手な功績を残そうとした、目立ちたがりがいた可能性は否定できない。

 だが、銀があることを前提に、複数の学者が正確な位置(・・・・・)はどこか(・・・・)で激論を交わしていたのだ。


 だから全くの空振りではないだろうと、大きな期待をしているクレインに向けて、バルガスは言う。


「それで何も出なかった日には、その……」

「何も無かったという情報にも価値はあるだろ? 俺の子孫たちに、この場所は掘ったとして何も出ないから、調べるだけ無駄だと伝えられるじゃないか」


 たとえば、アースガルド領で稼働している、スズや銅の鉱山が枯れたとしよう。

 新しい鉱床を探す時に、探さなくてもいい場所が分かっていれば、少しは楽になる。


 これは次に(・・)繋がることなんだと力説するクレインを前に、やがてバルガスも折れた。


「そこまで言うなら探してみますがね。ま、期待はせんでくださいよ?」

「分かってるよ、駄目で元々さ」


 難しい顔をしたバルガスだが、領主からの強い要望とあれば、動かざるを得ない。

 彼は険しい崖や谷を踏み越えるために、決死隊に近い調査隊を募ることになった。





    ◇





 調査を依頼した、1週間後のことである。


「うぉら、どけどけ! 邪魔だ邪魔だぁあああ!!」

「な、なんだ!?」

「て、敵襲! 敵襲ーッ!?」


 屋敷の玄関扉を蹴破りながら、バルガスはクレインの屋敷に乱入した。

 敵城に一番槍を付けた兵が、そのまま城門を突破するような勢いだった。


 ここ3日を夜通しで駆けてきた、彼の眼は血走っている。

 傍目(はため)には特攻としか映らないため、警備の衛兵たちは、慌てて彼に駆け寄った。


「バルガスさん!? 止まってください!」

「坊ちゃん! てぇへんだ! 坊ちゃーーん!!」


 現在の時刻は午前5時前。こんな時間に領主の家に突撃すれば、殺されてもおかしくはない。

 しかし彼は、足元にしがみ付いた顔見知りの衛兵を引きずって、構わず前進した。


「ん、んん……なんだ? この声、バルガスか?」


 物音に目を覚ましたクレインが様子を見にいくと、バルガスは階段の下で取り押さえられていた。

 そんな彼に、寝ぼけ眼を擦りながら、クレインは尋ねる。


「どうしたんだよ、こんな朝っぱらから」

「あ、ありました! ありましたぜ! 銀が!」

「へぇ、銀河? そりゃあ……良かったね」


 何の話だろう。今はまだ夜明け前。夜空に銀河があるのは当たり前だ。


 などと、寝ぼけて意味の分からないことを考えていたクレインも、数秒経ってから言葉の意味を理解した。


「――待て。銀があったのか!?」


 一発逆転の秘策。富国強兵政策を実施するための屋台骨。

 生命線にもなり得る銀鉱脈が、発見されたというのだ。


 一瞬で覚醒したクレインは、ドタバタと階段を駆け下りると、最後には転びそうになりながら、バルガスの両肩をがっしりと掴んで叫ぶ。


「で、でかした! 調査隊の参加者には褒美を弾もう!」

「ありがたく! ささっ、坊ちゃんも現地に!」


 その後クレインも旅支度を整えて、銀が発見された場所に向かったところ、周辺一帯にかなりの埋蔵量が確認された。


 試掘してみると、どこを掘っても銀が出てくる。坑道を作るどころか、しばらくは露天掘(ろてんぼ)りでやっていけそうな規模だった。


「やったぞ、資金源だ! これで領地が開発できる!」

「やりましたね、坊ちゃん!」


 崖をいくつか越えた先に、こんなお宝があったのだ。本腰を入れて調査してみれば、歴代の当主もすぐに見つけられただろうが――


「放ったらかしにされていて、本当によかった!」


 開発する意義が見いだせないから、誰も手を付けなかったのだろう。

 そう思いながら、自分と同じような性格をしていたであろう、ズボラなご先祖様たちに感謝を捧げた。


 何はともあれクレインは、資金源が手付かずのまま残っていたことに感謝しつつ、快哉の声を上げる。


「坊ちゃん! これなら他のポイントにも、埋まってるかもしれませんぜ!」

「ああ、調査の資金はいくらでも出すから、追加調査を頼む! ……あとさ、坊ちゃん呼びはよせって」


 銀山が軌道に乗れば、大抵の問題には解決の目処が立つ。

 だからクレインは、アースガルド家のほぼ全財産を、鉱山開発に注ぎ込むと決めた。


 しかして今回は、根回しも忘れなかった。


「これで領内が豊かになる! 減税が待ってるぞ!」


 事前に予定を組み、演説をして回ったところ、金の使い道に異論を唱える者はいなかった。

 むしろ誰もが大歓迎だ。鉱山開発への期待の声が、領内の至るところから叫ばれている。


「よし、いける。いけるじゃないか!」


 舞い上がったクレインは、銀鉱山の開発準備を全力で進めていった。

 同時に、銀貨作りの権利を求めて、王宮に使者を送り出し――


 ――後日。屋敷に送られてきた暗殺者の手により、クレインは殺害された。



 王国暦500年4月28日。

 アースガルド領は、領主の突然死(・・・)によって、王家の直轄地に併合されることになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の善良性 [一言] え〜、ひでぇ……
[良い点] 主人公が強くなると相手も強くなる流れが良いですね。 前回2話で速攻だったのにさらに短くなるなんて・・・ [気になる点] 暗殺者は王家かな・・・ [一言] 周回して情報を盛ってどんどん強く…
[一言] 王家にまで、殺される(笑) この国、腐ってやがる!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ