【悪いけど】ディオスクロイ討伐スレ2014戦目【余裕なんて無いから!】
「くすすすすっ、ゲームを教えたのは君だろう?魔法使いくん♪それなのに、全部彼女のせいにしちゃうの?」
中空から降り来り、灰かぶりにそっと寄り添いながら「えー?」と嘲笑するディオスに、オズの魔法使いはギリ、と歯を食い締める。
「本当は、戦わなきゃいけなかったのかもしれない。戦って、自分の居場所勝ち取らなきゃいけなかったんだろう。周りには無関心な連中だけしかいなかったけど、それでもきっと“敵”はいなかった。……弟だって、いた。創ろうとすれば、きっと作れた。居場所ってやつを、さ。お互いの状況の上辺だけ見て碌に考えもせず逃げ場を与え、結果創る努力すら放棄させたのは、確かに俺の責任もあるよ。……でもだからこそ、ここで逃げ出す訳にはいかないんだ。今度こそ絶対に『居場所』を勝ち取ってみせる!俺だけじゃない、灰かぶりや仲間たち、それに、この世界の住人全員分のな!」
びしっと指を突き付ける。まさに『異議あり!』のポーズで。
柄じゃないのは十分に承知の上。
分かってるけど、こういう時くらいはノリも大事だろ?
……自分でも、こんなに熱くなれる時が来るなんて思ってもみなかったけどさ。
最後まで冷静な何処かで、他人事の様にそう思う。
「あはは!いいよ、おもしろいね!そうだなあ、じゃあサービスで、声だけは届く様にしてあげる。けど彼女がそれに気づくか、気付いても正気に戻るか、正気に戻ったとして現状をどうにか出来るかは、保証しないけど♪」
真っ黒な制服を着て、虚ろな眼をしたままぼんやりと佇む灰かぶりの頬を、少年の小さな手がそっと撫でる。
まるで愛おしい物を愛でるかの様なその手つきに、隣にいた男から『ばしゅうう』っという効果音付きで怒気が溢れるのが分かった。
いや、あくまでそんな気がしただけで、そんな効果もスキルも聞いた事無いけど……認識としては、そう大した違いは無いと思うぞ、うん。
「十分だ。灰かぶりの目は必ず俺が覚まさせてやる」
あーあ、やれやれ。
エド、あんたそれ、気付いてんのかね。まっ、いいけど。
「灰かぶりさんなら、必ず気付くさ」
「あんまり灰かぶりさんを無礼とると、痛い目見るで!」
「信じる事が大事、って時もあるわよねぇ」
「そうとも、声を掛け合えば必ず届くと信じよ!」
「マダ、終わった訳ではありまセン。絶望する理由など、何処にもナイ!!」
仲間たちが次々に決意を述べる。
それを見たディオスは、嬉しそうに微笑んだ。
「ふふふ、それじゃ、第2ラウンド開始と行こうか!」
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211:ぬこの王さま
うあー……精神的にクるなあ、これ
うっかりSAN値直葬されかけたけど
皆大丈夫か!?
212:浮かれ小坊主
どうしようもう絶望しかない……って
( ゜д゜)ハッ!
て、点呼ーーー!!
213:仮面の槍者青ひげ
……
214:死者の王
……
215:下水道魔王と地下王国
…………ハハッ
216:浮かれ小坊主
発言内容が3点リーダーしかないとか
皆全然無事じゃ無い!?
217:わんこさん@お肉落としちゃった(´;ω;`)
うつだしのう
まあ起っちゃった事はしょうがない
しょうがないとして!
で?現在の戦況は?
218:ロバさん@お塩川に流しちゃった(´・ω・`)
開き直り早ッ!?
あ、オレもか
219:世界図書館管理人
決定的な事象はまだ
ですが見たところかなり不利なようですね
灰かぶりさんが人質に取られました
220:浮かれ小坊主
工工エエエエエェェ(´д`)ェェエエエエエ工工
221:ぬこの王さま
まっじかーい
222:羽帽子の騎士
戻ってきた記憶がかなりきついですが
それどころじゃないみたいですね!
状況もっとkwsk!
223:世界図書館管理人
音声までは拾えませんから何とも……
ただどうやら神様の手足となって動いているようです
224:ぬこの王さま
魂抜けちゃってアリスのアバターみたいになっちゃっているのか
それとも自分の意識がありながら操られている状態なのか……
225:アナスタシアは雪の女王
そこが分からんのも判断に困るの
どうやら皆自分を取り戻し始めておる様じゃ
本調子とはいかんがな
226:妖精の女王
ですが待っている間も惜しいのでは?
外にはまだ魔物達がうようよしているのですから
227:妖精王
……うむ
よし、妖精郷からも援軍を出すぞ!
動きのとれる者から順次外へ!
228:人魚王子
炎上なうだったマッチ売りちゃんは派遣の騎士さんが落としてたから
これ以上の延焼は無いはず
くすぶっていた火もこちらでざぶ~んしておいたから
問題ない大丈夫だ(例の声で)
ただ申し訳ないけど
嫁と息子の調子が今1つなんで
大事をとって本拠に戻らせてもらうよ
229:7人の狩人 3番目
了解了解
少しでも本調子じゃない連中は無理するなよ
なに大丈夫さ
あいつらなら出来るって信じたからこそ送り出したんだろ
230:ぬこの王さま
……そうだな
各自持ち場、担当に戻ってくれ
気をしっかり持てとは言わない
だけどせめて自分の出来る事は精一杯こなす様に
図書館管理人は各都市部における魔物の侵攻状況を!
まだ負けると決まった訳じゃないんだ
最後まで気を抜かずに行こう!
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「――――――っ」
「――――――っ!!」
「―――っぁあ!」
「無事――――――今―――!」
「まだだ、まだ終わりは―――!!」
揺さ振られた気がして目を覚ます。
暗い闇の中で、目の前だけがぼんやり明るい。
明るい部分からは時折光が明滅している気がしたが、ぼんやりした『私』には、それが何なのか良く分からなかった。
「――――――灰―――!!」
痛くて何処か切ない。
何故そんな気持ちになったのか気になって、周囲に意識を伸ばす。
―――誰かが何かを言っている。
「―――!?まだ目を覚まさないのかよ!」
「寝ぼけるにも程があんだろうか!!」
「くそっ、いくら相手が―――だからって、手を出さずにいるのももう限界だぞ!?」
「ちょっとくらいならいいんでない?オレが許可する。寝ぼすけには、一発頭にきっついのお見舞いしてやれ!」
「ちょ!?オズ結構むちゃくちゃ頭に来てんちゃう!?」
「結構じゃない、相当だよ!」
「イキマス」
小柄な人影が妙な動き方をする。
……何かが当たって痛い。
“振り払う”
碌に考えもしないまま、頭に浮かんだその動作を実行に移す。
「っぁあああああ!!」
「っぎ……っぐ」
「シャレに、なんないわよ、もう!!」
叫び声。
悲鳴?
けらけら笑う、誰かの声。
「目を覚ましたっぽいけど、ま~だまだだねえ」
途端に飛んで来る攻撃。
でもそれは私が手を横に振るうだけで、あっけなく弾け飛ぶ。
攻撃。
……攻撃?
『誰』が?
『誰』に?
原因は…………
……『私』かっ!!
気付けば体が動かない。
動かないどころかこれは……ディオスに支配されている!?
必死にもがこうとして、指1つ自分の意思に沿わない。自由が、利かないッッ。
「あれー?もうめがさめちゃったー?でももうちょっとおとなしくしててねー」
途端に意識まで抑え付けられそうになり、それを必死に耐える。
感覚だけはあるので其処から理解出来てしまうのだが、今の『私』は神と“繋がっている”。
その『繋がり』を神はほんの僅か、潰さないよう細心の力で押したつもりなのだろう。
だが、向こうはちょっとだけのつもりでも、こちらにとっては膨大な圧力となる。
少しでも気を抜けば、今にもぺしゃんこになってしまいそうだった。
意識を保ちつつ、眼前の『窓』から見る様な何処か隔たりのある光景を見れば、仲間達は灰かぶりの体を人質にされて防戦一方の様だ。
恐らくはこの『光景』も、神による『サービス』とやらなのだろう。
未だにはっきりしない意識と視界を抱えたまま、どうにかならないかと『意思』だけでもがいてみせる。
だが、必死に目を覚まさそうとしたところで、神の力に人の意思など、所詮はちっぽけな物。
『神』の中にいるからこそ、その力の絶望的なまでの差に心が挫けてしまいそうになる。
しかし目の前の、それでも諦めない仲間達を見てしまえば、絶対に諦める事など出来ない。
中でもエドとオズ、この2人の殊更熱心にこちらへ干渉しようとしている様子が見て取れるとなれば、なおの事。
「ムリムリ無謀、ムダムダ~♪くすすっ♪さ~て、ここからどうする~?どうする~♪」
『…………っく』
何とかしたいとは思う。
思うのだがっ……!!
けらけら笑うディオスに、起死回生の一打を与えられる様な余力などもう無い。
私にも、彼らにも。
やはりサイアクは……。
自身の犠牲を考えて、それには内心で……といっても実際心くらいしか自由になる物は無いのだが……首を振る。
ディオスによって支配され、私の意志が通らない体に、自ら死を選ぶ“自由”が与えられるとは思えない。
実際、舌先ちろりとすら動かせないでいるのだから。
こうしている間にも私の手は指揮者の様に動き続け、神と直結しているからか、口元ピクリとも動かないままに魔法を乱発している。
この絶望的な状況、例え心を先に殺したとしても、むしろ悪化させる事にしかならないだろうと思った。
……ん?心?
……アイコンタクトだけでは無理がある。
今見ている映像が自身の目を通して見えている物なのか、それすらも判断しきれない現状では。
手足は勿論口も自由にならず、言葉は発せられない。
――――――ならば、逆を目指せば良い。
神の力と繋がっているのなら、それはネットワークと一緒だともいえる筈だ。
腕が動かせないなら意志の力で、口が動かせないなら感情で。
自身の魔力を辿り、額に輝く記憶の紋章を、“自らの意思で”発動させる。
そうすれば、間違いなく『オズ』が―――『遠藤』が気付く!!
さらに意識を神へと遡らせれば、神の意志が自分目掛けて流れ込む。
次の攻撃は、アリスの魔法と良く似た物。
複数の『竜』が具現化し、襲い掛かる。
ならば、その前に、『気付け』!!
~~~~~~……
真言の様な力強く平坦な歌詩。
掠れた様な囁き。
そして―――低くて重い濁音の圧力が、一気に辺りを打った。
「なっ!?」
「これは!?」
「ちょっと!?ヤバそうな雰囲気じゃない!?」
「大技、来るでぇ!」
「……いや、むしろ周囲に警戒しろ!小型の“何か”が複数来るぞ!」
よし!やはり気付いたか『その意味』に!
オズの警戒に他の皆も倣って構える。
かくして『私』より放たれた小型の竜―――の様な魔物は、惚れ惚れする程に美しい連携により、さして苦労するでもなく駆逐されて行った。
「んー……ふふ♪なあるほどねえ」
私の後ろ斜めやや上に浮かぶディオスが、物凄く楽しそうに含み笑いをする。
止め様とすれば止められるだろうに、それでも邪魔をしないのは、果たして余裕の表れか。
「じゃあー、こういうのはどうかなっ?」
これは……っ。
次に準備されたのは、場に顕現している全ての魔法を無かった事にする魔法。
……ならば。
~~~~~~~~にゃんにゃん♪♪♪
「「ハイイイイイイイイ!!??」」
場違いなほどに可愛らしい、微笑ましくも明るい“詩”に、おおかみと射手が揃って奇声を上げた。
「あらぁ、これは、おちょくられていると言っていいのかしらぁ?」
据わった目で『私』を睨む聖女。
いやすまん。選曲は私だ。
「って聖女さん、バフ消されるから準備してっ!!前衛、しっかり盾になれよ!エドと射手は一旦引いて!魔法の効果、全消去だっ!!」
「えっ!?ヤダそうなの!?早く言ってよ!」
「任せる!」
「あいよ!」
「む……」
オズの慌てた指示に、聖女も気を取り直す。
裸の王様は……どうやら気付いたか?
「オズ」
「ああ、間違い無い」
エドの問いかけに、主語も無しに肯定するオズ。
そして、オズは真っ直ぐに問い掛けて来た。私に。
「灰かぶり、聞こえてるんだろう!?意識、戻ってるんだな!?」
~~~?~~~
~~~~~~
~~~~?
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繰り返される問い掛けと答え。
それは歌詞の中で行われる誰かとの遣り取り物であると同時に、私からオズへの「“声”は聞こえている」という返答でもあった。
そしてそれから導き出される今後の指針は。
「よし、ならそのまま『歌』っててくれ!俺たちに次何が来るのか教えるんだ!」
『詩歌』は引き続き流れている。
今はもうイントロ部分を終え、語りかけという内容そのままに、普通の歌の如くメロディに沿って曲が流れていた。
「分かるのか?」
言葉少なに問い掛けるエド。
それでも、何がどうとすぐに理解出来るオズは、ここへ来て生来持つ頭脳の回転の良さが発揮されているらしい。
「もっちろん!“こいつ”を教えたのは俺だからな。『詩歌』にはそれぞれ『意味』がある。それを“解読”してやるから、お前らは指示に従ってチャンスを作れ!!」
「「「おう!!」」」
希望が見えた様な、気がした。
「ふふふ……おもしろいねえ、やってごらん。どれだけの事が出来るのか、見せてもらうよ」
言われっ、なくとも!!
かくして、歌による会話を命綱とした奇妙な戦いは、神と人との戦、その最終幕の開幕ベルを華々しく鳴らした。
シリアスさんの、この一仕事終えた感。
ボス戦も残すところ後1話です。もーちょい。
でぃすぺでぃあ いーぴーのば すふぃりあ




