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童話トリップ!  作者: 深月 涼
第6章 不思議の国のアリス
44/53

【激闘なう!】ディオス討伐スレ2013戦目【倒せラスボス!!】

今回はSAN値が下がる表現があります。


備えよう。





めそっど ひゅめり




 黄金の巨大反時計を背に、その神(ディオスクロイ)は立っていた。

「やあ、本当にギリギリだったね。もう少し遅かったら、ぼくお城になにしてたかわからなかったよー」

 白いシャツに半ズボン、赤のベストの裾は燕尾。

 懐中時計を手に、くすくすと笑う白髪に赤目、白い兎耳を頭上に生やした奇妙な少年。

 ……やはり、王城にねこの王と眠り姫を置いて来たのは正解だったか。

 期限を決めた当の本人が、飽きたとかつまらんなどという理由で勝手に攻撃を仕掛けないとも限らない、という予想はあながち間違いでも無かった様だ。

「ねえ、さっそくはじめようよ!ぼく、まだるっこしいのキライなんだよねー」

 言い方がまだるっこしいのは、突っ込まないのが優しさか。

 こちら側に発言者は無く、すぐにディオスの攻撃第一波が飛んできた。


 何処からか飛んで来たのは、大きな卵。

 鋭いスピードで飛来したソレを、裸の王様より先に撃ち落としたのは射手。が、直後中から何か出て来る!

 しかしこの攻撃は前回もあったしな、対策練ら無い訳が無い!

「灰かぶり!」

「分かっている!」

 不可視系魔物(モンスター)実体化アイテムを投げつけたオズに合わせ、卵から出た瘴気を可憐な花に変換!これぞ幻影魔法と変身魔法のコラボ!(ドヤァ)

 私の後ろでは、次々と聖女が、皆にステータ()スアップ()の魔法()を掛けて行く。

 オズもアイテムでステの補助に回った様だ。重ね掛けは基本、だしな!

 ボスだけに、ディオスにバステ魔法は掛けるだけ無駄、と言う事で自軍のメンバーに次々付加の魔法が掛かってゆく。

 オズが視線で促すと、エドが真っ直ぐディオスに迫って行った。

 魔剣の斬撃を次々と浴びせるエドに、半獣(ワーウルフモード)のおおかみが合わせ、その鋭い爪でディオスに向かって行く。

 おおかみ自身はかく乱目的というのもあり、見た目それ程効いて無い様だが、少なくともエドの魔剣のダメージの方は良く通っている様だった。

 時折射手の魔弾がディオスの頭部に喰いつく。嫌になる位の正確な射撃。

 だがこちらも、ちまちま削ると言った方が正しいだろう。


「いやあ、みんな強くなったねえ」

 ディオスの秀麗な顔が歪んだ。

 ―――嫌がらせが楽しくて仕方無い、そんな風に。

「こっちもちょーっと本気出さなきゃ、かなあ?」

 ディオスの背後から、音も無くそっと女の子が出現する。

 青いドレスに真っ白なフリルのエプロンを着た、表情の無い少女。

 訪問者(ビジター)なら誰でも知っているその少女の名は――――――アリス。

 一時期、メルヘンワールドで迷宮の真ボスとして登場していた……筈だ。

 そしてその実態は、メルヘンワールドでのディオスのアバター。

 ディオス自身の説明によれば、彼女(かれ)の“試験”に合格した者だけが、この世界にめでたく召喚された、と言う事らしい。

 召喚直前直後にあったと思しき出来事に関しては私自身良く覚えていないし、混乱していたせいもあって、まともに理解出来ているとは言い難いのだが。

「やっちゃえ」

 ディオスの気楽な掛け声と共に、アリスがトランプを撒き散らす。

 無数のそれらは、まるで意志を持つかの様に私達に襲い掛る。が、

「させないわよぉん!」

「やらせん」

 聖女の守護結界と裸の王様の拳により阻まれる。

 そして、トランプの弾幕が止んだと思われた瞬間、裸王が結界から飛び出し、アリスを文字通りぶっ飛ばした。

 ……いくら人格の無いゲームアバターとはいえ、半裸神は容赦無さ過ぎだろう。

 そう、ちらりと思わなくもなかったが。

 表情が変わらなかったのは、当の本人と傍で護衛任務に当たる従者、そしてエドくらいのものだろう。


~~~~~~~~~~~~~


278:世界図書館管理人

    アリスの行動パターンは以前のものと変化ありません

    効果も同程度と推察されます

    しかしくれぐれも油断なさらぬ様


279:7人の狩人 5番目

    ここまでは一緒か


280:浮かれ小坊主

    このまま押し切っちゃえーっ!


281:白鳥の湖の悪い魔法使い

    それが出来れば苦労しない(真顔)


282:ノロウェイの黒牛

    苦戦しないディオスなんてディオスじゃねえ


    むしろこっからが本番、だろ?


283:ぬこの王様

    最前線は掲示板見てる余裕あるかなー?

    出来れば向こうの新技来る前に

    こちらのとっておき開放したい所


    もたもた様子見してても勝ち目無いし

    舐められてる今の内がチャンスじゃないかな?


284:うごく石像 アフィン

    よーっし

    いったれー!灰かぶりさん!!


~~~~~~~~~~~~~~~~


 ふむ、そろそろ頃合いか。

 私は戦闘状況と掲示板を交互に見つつ、脳裏に必要な魔法を思い浮かべた。

 下手に待った挙句、戦況が不利になってしまっては意味が無い。

 例え神にとっては児戯であろうと、一見押している様に見えているだけであったとしても、それがチャンスだというのなら利用するのみ。

 魔力循環制御回路陣(ネットワーク)を意識し、必要な心力の確保を始める。

 エドの魔剣はディオスを切り裂き、おおかみ、射手、半裸神の攻撃がダメージを蓄積させて行っている。

 ひと通りステータス上昇も終わり、聖女とオズも攻撃にに加わり始めた。


 今なら。


 『ゲート』と名付けた魔法の展開準備に入る。

 強い意志を思わせるアカペラから始まるその歌は、ずどどどん、と力強い太鼓のリズムと共に展開して行く。

 望みは唯ひとつ。

 愚かでも、くだらなくても構わない。生きたい、と思う、人の心を届けたい。……唯、それだけ。

 難点を挙げるとするのならば、相手には到底理解されないだろうな、というその事だけで。

 詩歌が展開して行くにつれ、ネットワーク中の、そしてその先に繋がる溜め込んだイミテーションブルーの魔力すら吸い尽くして行くのが分かる。


 きっと恐らく、チャンスはこの1度きり。


 その1度に賭ける……!!


「『ゼムジの山や、ゼムジの山や、ひらけ!』」


 ぐぐ、と空間が歪む。

 まともな風ではありえない奇妙な風が、この場を取り巻く。

 行け、行け、逝け……!!!

 この世界が、真に『信じる心が力になる』世界なら!!


 緩やかに吹き始めた風が暴風へと変わりつつある中――――――ディオスは嗤った。

「あははははっ、これはすごい!これはすごいねえ!カミサマでも無いくせに、次元に干渉しようとしちゃうなんて!でもこれはまずい、これはまずいなあ!ぼく滅ぼされちゃいそうだよ!」

 そう、その場から動く事も無く、未だ余裕の見えるディオスが、突然狂った様に笑い始めたのだ。

「んー、でも何でそんな、みんなぼくの事きらいになっちゃったのかなあ。ぼく一応みんなの事助けてあげたよね?そこの王子さまに至っては、ぼくが創造主だ。それなのに、なんでかなあ?」

 本気で理解していなさそうなディオスに、その場にいた全員が反発した。

「本気で言ってんのか、コノヤロウ」

「アホな事抜かすなや!うちらの過去全部奪っておいて、今更その言い方は無いやろ!?」

「ワタシの大事なご主人、無くシタ。……許さない、絶対にだ」

「別世界から浚って来たクセに、救う、ですって?可笑しな事を言うのねえ」

「そうそう。俺達にとってみれば、これ以上無い位の大悪人……いや、悪神もかくや、ってな所業だけど?」

「そもそも、勝手に作り出しておいて、勝手に壊すなど、我々生物の事を真に考えているとは言い難い。……お前の言う人とは利己的なものだろう?自らに利の無い神など、誰が好んで有難がるというのか」

 皆構えた武器はそのままに、今まで散々溜め込んで来た文句をぶつける。

 というかこれらの文句は、エドの以外、数年前に散々言った筈なのだがな。

 ディオスは未だ平然と立っている。

 くっ、ここまでしても、力が、力が足りないというのか!?

 ネットワークに探りを入れる。

 残りの魔力量は、すでに1/3を切った。

 時間が……持たない!!


「べっつにー。人間ごときにありがたがって欲しいとか、おもわないしー!それにしても、まだわっかんないかなー。ねえ王子サマ、君たちが厭う魔法もねー、使う人次第なんだよー?どうしてここの人たちは、この良さが分かんないんだろうねー?理解されないってかなしいなー♪あはっ」

 吹き荒ぶ風の中、平然とのたまうディオス。

「マニュアルも無しに、大きすぎる力を扱うのは危険、ってこったろ」

「大事な物傷つけられ過ぎたから嫌気が差した、ってのは分からない感情じゃない」

 おおかみとオズが、嫌そうにそう言う。

 この数日間の内、実に相互理解が深まったものだ。

 意識の変化は何も、向こう(ホステイツ)にだけ求められるべきでは無い。

 むしろ、郷に入れば郷に従えという様に、こちら側(ビジター)にこそ求められるべきではなかったか。

 そういった思考が過ぎる中、当のディオスは軽ーく肩をすくめる。

「そこは各人ががんばらなきゃ。努力はするものだよ。とくに、きみたちみたいな“ちっこいの”はね」

「やかまし!ちっこくて悪かったなあ!」

「だからと言って、好き勝手弄んでも良い訳では無いし、そうされても困るのでな」

 射手と半裸神が応える。

「むー?もてあそんだだなんて心外なー。僕は君たちのこと、ちゃあんと選別したよー?君たちだって、“こっちに来てよかった”ってホントは思ってるくせにー」

 なん、だと……?

「さっきも殿下が言ったであろう?勝手に“自分(かこ)”を奪う様な輩、感謝など出来るか、とな。この世界を好意的に見られる様になったのだとしたらそれは、我等の努力の成果であるし、あるいはこちらの世界の住人達が、常識を乗り越え受け入れてくれたが故。……好き勝手引きずり込んで玩具の如く扱ったお主では無い」

「んー、そう?それって今更関係あるー?来たばっかの時ならいざ知らずさあ、もう何年も経ってるよね?無くした物には潔く背を向けて、新しい世界に目を向けるべきじゃなあい?アハハハッ」

 その言葉で理解する。

 神は、過去を返そうと思えば出来るのだという事を。

 そして……返すつもりはないのだという事も。

 ……この世界を滅ぼすという言葉を、撤回するつもりが無い様に。

「馬鹿におしで無いよ!この邪神――――――!!」

「ふざっけんな!返せ!“俺達”を返せ!!」

「冗談じゃ、ないわよう!」

「人をおもちゃにすんのも、ええかげんにしとき!」

 不意に、神はにたり、と笑んだ。

 何か、面白い事でも思い付いたかの様に。


「じゃあさ、そこまでいうのなら……返してあげるよ。“君たち”の“過去”を」


 瞬間、襲って来たのは嵐の様な途轍もない頭痛。

 そしてほぼ同時に理解する。


 ………悔しい事に、神の言っていた『救う』という言葉は、間違ってはいなかったのだと。


「きゃああああああああああ!!」

「ああああああああああ!!」

「厭ああああああああっっ!!」

「うあああぁっぁ!!!あああああああああっっ!!」

 意識の何処かで、周りに居る皆も、もがき苦しんでいるのを見た。

 中には、誰がしかの名を呼ぶ声も聞こえて来る。

 此処だけじゃない。

 その悲鳴は、森中、恐らくは世界中に響き渡っていただろう。


~~~~~~~~~~~~~


777:幸福の王子

    あ、あああああっ


    何故わたしが『幸福』などと呼ばれなければならないんだ……!!


    うそだ、うそだ、うそだっっ!!

    世界はわたしから全てを奪って行ったのに!!


778:じゅげむっ!

    ……周囲の状況からして

    まだ自分は楽な方か


    ……はは



779:ジャックと豆の木

    何でおれ、こんなところにいるんだ?


    なんでおれえ、こんなところでよめもらって子どもまで作ってんだよ




    そんな資格なんか無いだろうに!!!


780:赤い靴

    やーは

    やーは


    やーは××××なのです

    だから×××を×××しなければならないのです


    ×××はどこですか?


781:人魚王子

    ……そっか

    オレ……結局食べちゃったのか


    ああ火が

    マッチ売りちゃんも絶賛発狂中だなあ


782:みこっち5 ピュアピンク

    いやー

    まさかの


    黒歴史開放とか望んでなかったわー


    これぞホントの自業自得?


783:青い鳥

    やばいよやばいよやばいよおおお!!


    っていうかピュアピンクさんも

    冷静に見せかけて鬱の一歩手前じゃん!?



    ていうか……ねえ

    ここが今こんななっちゃってんなら

    最前線はいったいどうなってんの(震)


784:永遠の少年@鬱

    碌な事思い出さないし

    こんなだったら思い出さない方が良かったよ


    生きてるのなんか楽しくない

    おかしいな

    最初っから分かってた事だったのに

    あーあ



    最前線?

    崩れ落ちちゃってんじゃないの?


785:妖精王

    くそう!


    どうにか

    どうにかせんと……!!


786:雪の女王

    白雪も笑ろうておるだけになってしもうた


    どうにかせねば先へ進めぬ

    分かってはおるのに……!!


787:親指姫

    だれか……たすけてください……


~~~~~~~~~~~~~


「灰かぶり!?しっかりしろ!オズ、聖女殿!」

「……っぐ、うぅ……これが、これが“我ら”の、『おれの』過去か……!!」

「裸の王よ!これはいったいどうしたというのだ!」

 突如発狂したかに見える我々に、エドが慌てているのが見える。

 珍しいなどと思っている余裕は無い。

 ただひたすら、襲って来る記憶と感情の奔流をやり過ごす事で精一杯だった。

「今まで奪っていた“過去”を返しただけさー」

 しれっと言ったのはディオス。

「けど、やっぱ要らなかった、でしょ?」

「き……っさま!!」

 にたりと笑うその姿に、エドが激高した、その時だった。


「『灰かぶり』ちゃん『ゲットだぜ』」


 は……っ

 その声に、一瞬だけ呼吸が戻る。

 神との問答で霧散していた筈の魔力は、今、掌の中に。

 すどん、と何か厚い物を突き破る音がして、

「がっ、は」

 目の前にいた誰か―――

 目が、

 合って。

 ちょっと、不思議そうな、かお

 

 どさりと、倒れたのは。


「殿下!!」

「王子!?」

「くそおおおおおおおおおっ!」

「ああもう、今、回復してあげるからね!意識失うんじゃないよ!!」


 悲鳴も忘れて皆が対処に当たる。余りの事に動けない私以外。

「あーあ、残念。急所はずしちゃったかー。でもあの体勢だとちょっとむずかしいよねー。ま、いいや……その妙な剣、いい加減うざったかったしー。ああでも良く出来てるよ。“急造にしては”だけどね。あははははははっ」

 ディオスの言葉に、のろのろと顔を上げる。

「ねえいいの?灰かぶりちゃん。王子さま、しんじゃうよ?」

 もう一度視線を下げる。

 目の前には腹部に穴のあいた血塗れの、


 王子様(エリック)が。

 

「あ……」


 そうして私の意識は、今度こそ闇へと堕ちた。








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