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童話トリップ!  作者: 深月 涼
第5章 眠り姫
39/53

【緊急!!】ディオス復活速報スレ【至急確認!!】

1:幸せの青い鳥

  やばいよ!やばいよ!眠り姫が起きた!起きちゃった!!


2:浮かれ小坊主

  これは、ちょーっとまずいかなー


3:白雪姫

  どうなっているのかしら?

  察するに皇太子殿下が塔に登って

  眠り姫にキスをしたという事でよろしいの?


  うっかりなら磔

  確信ならファイヤーダンスの刑ですわ


4:妖精王

  白雪の…

  

  だが恐らくは、だな……

  誰か目撃者は居らぬか?


5:眠り姫

  本人ノシ


  気が付いたら男の人の顔が目の前にあったから

  間違ってないと思う

  あと「姫、助けに参りました」って言ってた


  この人皇太子さまなの?


6:7人の狩人 5番目

  どういうことだ?

  眠り姫の情報を外に漏らした者がいるという事か?


7:あほのイワン

  バカこくでねぇだ!

  ありゃあディオス封印の要

  そっげな大事な情報売る愚か者さ

  この中に居るとは思えねえだがよ!


8:灰かぶり

  眠り姫はまだ居るかい?

  そばに皇太子は?

  誰から聞いたか聞けるかい?


9:ぬこの王さま

  もしかして……


10:魔法少女みこっち5 ピュアピンク

   そうそう簡単に口を割るかなあ

   

   ぬこの王さまは何か心当たりでも?


11:眠り姫

   聞いた

   神様だって


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 広間に居る仲間達全員に衝撃が走った。

 恐らく森で待機している連中も同様だろう。

 掲示板を覗いている全員が、ショックを受けているに違いない。

 封印されて眠っている筈の神が、どの様にすれば皇太子に情報を与えられるというのだろう。

 確かに何度か『フードの男』として目撃されてはいたが、彼の目標はあくまで『塔』の制圧だった筈。

 『神』を封印した場所に近づいた様子も無かった。

 ならば、エドの時も含め、ここ最近の封印が揺らいだせいか、あるいは封印状態であったとしても干渉出来るだけの力があったという事か……?


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


17:眠り姫

   なんか神託があったんだって


18:7人の狩人 7番目

   神託って……

   そんな……


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その時だった。


『やあ、みんなー、ひ~さ~し~ぶ~り~♪』


 広間の中空から、年若い男の子の声が聞こえた。

 ――――――この声を、私はこの5年間、忘れた事は一度たりとも無かった。

 私達を絶望の淵に叩き込んだ、あの邪神野郎(トリックスター)


『やあー、げんきしてたー?ぼくはねー、ちょーねてたからぁ、これからいーっぱいあそびたいとおもってまーす。だからね、みんなー、あーそーびーましょー♪さーあ』


「だれがあそぶかっ」

 誰かが反射的に突っ込んだ。

 私も非常にそう思うぞ。全力でお断りだ!


『そんでー、ぼくがなぜ復活できたのかー、知りたいと思うだろうからぁ、ネタばらしねえ』


「小坊主よりタチわりィ」

 誰かが呟くように言った。いや、あれと比べるのは、流石に小坊主が可哀そうだと思うぞ。

 奴は発言内容で分かる通りの愉快犯だが、実際は言動だけで、行動は至ってまともだからな。

 ……遊び過ぎて最終的には叱られる事も多いが。


『のろいのしくみが割にたんじゅんだったからぁー、王子様っぽくてぼくの話聞いてくれそうな人にかたっぱしから声をかけたんだー。あとはまあ、かんたんだったよー。王子さま役にえらんだヒトがちょうたーんじゅんでさーあ。ぼくの封印の要“だった”眠り姫いるでしょ?彼女はきみたち悪い異世界人に邪悪な呪いをかけられて永遠の眠りについているんだかわいそーでしょう?っていったらあっさりしんじてくれたよー。あははははっ』


 くそ、―――――したい。(自主規制)

 結局この5年は、これまでやって来た事は、一体何だというのだ。

 今回のこの件についてもそうだが、もっと他に取れた対策はあっただろうに。

 のんびり構えていたという自責と、間に合わなかったという後悔と、何をどう仕掛けてくるのか分からない焦り恐怖と共に、強く唇を噛んだ。


『んでー、呪いは運命の王子様のきよらかな口づけだ、きみたちしかできないことだよっていって、王子さま役の人に、呪いをとけるほんとうの王子になれるように祝福をあげたのね?ぼくの。あ、おとーとくんのは……みす?おまけ?家族単位でかけちゃったっていうか……ねえだってめんどうじゃん。神さまにニンゲンのくべつなんてつかないよ?これでけっこうニンゲンって数おおいし』


「随分とアバウトな話……大体、むしろそれ呪いの類じゃないか」

 全くだ。

 ねこの王の漏らしたひと言に、即座に内心で同意する。

 ………って、何だと?


『うふふふふふ~、封印の呪いをとくのに眠りの呪いの方を利用するとかぼくてんっさーい、いえー!さすが万能、創造の神!』


「うぜえ――――してやる」

 誰かの呪いの様な呟きが聞こえた。 

 あの封印を当たり前みたいに掻い潜って、神託に祝福(のろい)とはな……流石神だと称賛すればいいのか?

 魔法使い系最強だったオズやじゅげむっ!と、ねこの王。それに妖精郷の皆と雪の女王が知恵を出し合い、魔力の提供までしてくれ、最終的には眠り姫を犠牲にし……それで―――それでやっとだったんだぞ。


 ……そうか。

 5年。

 あれだけやって、たった5年しか持たなかったのだな……。


 絶望的な気分になり、ぺたん、と床に崩れ落ちた。

「おい、大丈夫か」

 今の私は、恐らく物凄く情けない顔をしているだろう。

 へたり込んだ私の顔を、覗き込んで来た完璧超人でいつも傲岸不遜なエドが、今は酷く困った様な顔をしていた。

 ……決して、好き好んで彼にその様な顔をさせたい訳では無い。……無いのだが、今の私は無力感に打ちのめされてしまい、正直力が入らない。

 ああでも、待て。……ちゃんと頑張るから。

 ……頑張れる様になる。

 お前の守りたいモノには、決してヤツは手を出さないし、そもそも手出しなどさせない。―――させるものか。

 だからエド、お前は心配しなくて良いんだ。


 この騒動の発端の理由を思い出して、無理やり四肢に力を入れる。

「……」

 無言のままだったが、それでも力強く支えてくれた。

 エドは、何だかんだ言っても、やはり優しいのだろう。

 しまったな……。よりによってこんな時に実感するなど。

 ……悔しいし、非常に不本意だが……絆されてしまいそうだ。


『あー、それからね、せかいのみんな』


 不意に、神は語り掛ける対象を変えた。

 ……何だ?

 私もエドも中空を見据える。

 降って来る訳の分からない物を見極め様とするかの様に。


『ぼく君達のことずっと見てきたけど……なんか、つまんないから消すから』


 っな!?

 

 先程とトーンすら変わった冷ややかな声に、きっと全員驚いた筈だ。

 当然、私も含めて、の話だが。


 ―――5年前、ディオスはそれでもこの世界の神だった。

 この世界そのものに、危害を加える様な事は一切しなかったのだ。

 遊ぶのは森の中。玩具の駒は私達だけ。――――――その筈だったのに。


「それは、この私も、そしてこの国も含まれるという事か」

 エドが私の両肩を支えながら、ぎろりと中空を睨みつけた。

『うん?そう言ったよ?世界の全部だって。だってさ、せっかくこの世界に“魔法”なんて便利な物設置したのに、きみたちのやった事って何?いらないってはねのけて、わざわざ不便な生活してる。最初はどうなるかなって面白半分で見てたけどさ、もうつっまんないんだよね、何にも起こんないから。ずっと“見てた”から分かるけど、どうせきみたちこれからも同じような生活するつもりでしょ?したいと思ってるんでしょ?なら、この先停滞したまま衰退するだけだし、だったらちょっと実験して、それで結果が出なかったら―――もういっそ全部壊しちゃおうかなって』

「実験?」

 エドが訝しげに問い返す。

『そうだよ?魔法の力や使い方に慣れた人間を入れたら、少しは面白くなるかなって。ほら、よく言うでしょ?技術革新?―――でも、きみたちはそれも受け入れようとしなかったね。そんなに魔法が嫌いなんだ?せっかく何でも敵う夢の様な法則なのに。万能性もリスクも受け入れたその先で、変わって行く工程が面白いんじゃないか。進化もせずに停滞ばかり望むきみたちには……心底がっかりだよ』

 『神』の中で導き出された結論はとても身勝手な物で、その言い方はまるで空気の様。

 酷く残酷で、とてもとても軽い返答だった。


「そうか。……それは覆らないのだな。……承知した。ならば私も、この“遊戯”に参加させて貰おう。壊される訳にはいかん。私も、彼女も、彼等も―――この国も、世界も、な」

 エドが、いつもの不遜な笑みを浮かべる。

 でもその瞳は、きっと怒りに燃えていた。


「そう。―――ならば歓迎しよう、王子さま」

 邪神の声色が三度変わる。

 降りて来るのはあくまで“声”だけなのだが、それでも萎縮する心が抑えられずにいた。

 ―――怖い、怖い怖い。

 足ががくがくと震え、今にも崩れ落ちてしまいそうであったが、エドにしっかりと肩を支えられていた為、何とか辛うじて立っていられた。

 

『悪意と幻想にまみれた(・・・・)おとぎの世界(メルヘンワールド)へようこそ。

 準備は良いかな?……もう、引き返せ(かえれ)ないよ。

 僕は悪夢の再来(ディオスクロイ)

 森の深淵、黄金の反時計都市カウンタークロックガーデンにて君達を待つ。

 あぁ、1週間位は猶予をあげる。準備はしっかりとね。だけど、それ以上待つ様なら……魔物の強さ、段階的に引き上げちゃうから』


 会場中から悲鳴や呻き声が聞こえた。

 だが『神』は、それに構う事無く言葉を続ける。

『最初の上限開放は10日後。そこから3日後くらいずつで引き上げて行って、んー、1年()つかなあ……うん、キリが良いし、保っても保たなくても1年で“消す”から』

 それは、世界滅亡のカウントダウン、という事なのだろう。

 言いたい事だけ言った『神』の“声”は「最後にぼくを楽しませてくれるの、楽しみにしてるよ。じゃねー」という軽い言葉を残し、消えた。


 その瞬間、悲鳴と怒号が会場中を埋め尽くした。

 中には刃物を握りしめ、私達に詰め寄って来た者もいた様だったが……。

「灰かぶり」

 エドの声が響いた途端、ふ、と急に場が静まり返った。

「……何、でしょう」

 私の喉から出た声は、不安と戸惑いで掠れた物となっていた。

「勝算はあるか」

 何処までも冷静で冷徹な、統治者の顔を見た様な気がした。

 エドの手を外し、向き直る。

「……オズが魔剣を開発しています」

 正確には改造中なのだが。

「オズ」

「はい、確かに。しかし確実な物ではありません」

 あのオズでさえ、遊びの一切無い真剣な声だった。

 まるで旧来より仕えた一兵士であるかの様に。

「他には」

「灰かぶり殿と妖精郷を中心に、『神』に対抗する為の魔法開発を行っております」

「先頃言っていた、あれか」

「完全に出来ている訳ではありません。ですが、今まで行って来た封印が、例え仮初の永遠だったとしても―――まだ、時間はある筈……でした」

 力無く首を振る。

「勝ち目があるとは言い切れないが、無いと言う訳でもないと思う。正直現状では未知数だ」

 ねこの王が結論を述べた。

「一週間、か。ギリギリまで時間を貰えたとして、何処まで出来るか」

 悩み始めた私達に、国王陛下が声を掛けて来た。

「……あれは――――――“あれが”我等の―――我等を創り出した創造の神だと言うのかね」

 その言葉に、私達は首肯する。

 普段にも増して白い顔の陛下は、残念そうな、悔しそうな……複雑な表情で項垂れ緩く首を振った。

 その反応に、ざわ、と広間がざわめく。

 それは、あれだけ騒いだにも関わらず、魔法使いや兵士達に守られていた為に、この騒ぎから逃げられなかった人達だ。

 ―――どうやら一般の人間には、その存在は知られていなかったらしい。


 些か同情する。

 創世以来、久方振りに歴史の表舞台に立った『神』があれではな……。

 ざっと2千年近く無視を決め込んでいた(そのせいで死亡説も流れた)かつての世界の神と、一体どちらがマシだろうか。


「王子殿下、貴方を、この国を、この世界を巻き込む事になってしまい、大変申し訳ございません」

 私はエドや両陛下の前に跪いた。

 日本だったら土下座モノだ。

 巻き込まれた事に気が付いたのか、無関係な外野が一気に騒ぎ始めた。

 怒号が飛び交う中、エドの発した一喝がその場を沈める。

「国王陛下にも、重ねてお詫びいたします」

「よい、灰かぶり殿。こちらとしても、我が息子が調子に乗って勝手な行動を取ったが故の咎は免れんだろう。……どうやら“神託”という名の―――今となっては呪いを受けたのだろうな。そして“神託”は兎も角、あ奴の行動を知っていてなお、止めなかった私の責もある」

「陛下に責はありませぬ。元よりお互い知らぬ事情も有りました故。さらには交渉の折、こちらの説明が不十分であった事も、重ねてお詫び申し上げます」

 王陛下のその言葉に、さらにねこの王が謝罪を重ねた。

「お互いに自らの事情を優先した結果、最悪の事態を招いてしまいました。今回の一件(デモンストレーション)で、我々が恐ろしい力を持っている、信用など出来ない……そう思われても仕方がありません。それだけの力を我々は見せた」

「ですが陛下方、そして殿下、我々とて無為にこの世界を傷付けたい訳では無いのです。……こう見えて気に入っている部分もありますし……何より、今は我らにとっても住みかとなった世界。守りたいと思う心は真実なのです。―――伏してお願い申し上げます、どうか我々に力をお貸し頂きたい」

 最後にオズがそう述べ、彼等や私も含む、広間に居た森の仲間達(ビジター)全員が、揃って跪いた。


「……これは、何処までが貴殿等の狂言なのかね」

 言葉を発したのは、私達の背後……あの小太りの宰相殿だった。

「ペロウ」

 王陛下が咎めるが、今は更なる誤解を深めるべきでは無い。

 言葉を尽くす事こそが肝要だ。

「そう思われても仕方の無い事なのでしょう。ですが、誤解無き様願います。我々がこの国と手を結ぶ事を願ったのは事実。必要ならば拳を交えてでも、という少々不良じみた荒っぽい方法を取ったのは、今となっては下策やも知れませんが。ですが、この国を、世界を手に入れたり混乱に陥れる為だけに、あの『神』に何かを願った事はありませんし、ましてや縋った事など、只の一度も無ありはしません」

 例え元の世界に帰りたくとも、『神』のあの様子を見てしまえば、頼るなんて真っ平ご免、というのが半数以上を占めるだろうと思う。

 ……ちなみに残りの半分は、当たり前だが『無理だな』と思う方だ。


「“奴”は混沌をもたらす道化師にして脚本家……。そして今度はいよいよ役者として派手に舞台に登場するつもりらしいな……!!」

「絶対に止めて見せる!この世界は俺らにとっても、もう大事な世界なんだ!」

「往く事を許して欲しい。この世界にとっても害悪となるのならば尚更に」

 今まで黙っていた狩人達やジャック達が、口々に訴え出る。


「お前達、立て」

 エドが厳かに告げた。

「あの神は訪問者(ビジター)達に危害を加えると言い、また、我等の住むこの世界その物を消すと言い切った。そして私は、それに立ち向かい敵対すると宣言した。―――ならば、やるべき事は1つ」

 きっと剛毅果断(ごうきかだん)と言うのは、エドの様な人間を示す言葉なのだろう。

「協力し、あの禍神(まがつかみ)を倒す。―――封印などでは生ぬるい。二度とこの世界に干渉させぬ様にする事が必要だ」

 きっぱりと――――――それは何処までも決然とした決意の元に。

 実際には、それがどれほど実現不可能に近いものなのか、きっとエドは分かっている。

 分かっていても、やらなければならない。

「標的は『神』ただひと柱」

 エドが指令を下す。

「一週間で魔剣と魔法、両方とも実用化させます」

 ねこの王がそれに応え、私達全員が頷きを返す。






 ――――――そして私達は走り出した。


 物語の終わり(エンディング)へ向かって―――














今回はエピローグ無し。

このまま最終章へ突入します!





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