プロローグ
贅沢な調度品に囲まれた、真っ白な部屋。
大国セントラーダの王都、その中心にそびえ立つ白亜の王城。
その一室に、彼らはいた。
―――鏡よ鏡―――
大きな姿見の縁をそっと撫でると、映し出されたのは湖の“塔”に眠る、『眠り姫』の姿。
その姿をうっとりと見つめる、1人の男。
「神の御言葉は、誠真実であったのだ」
おお、と周囲から驚嘆の声が漏れる。
―――集まっていたのは、この国に仕える魔法使い達。
しかし、この鏡に掛けられた魔法は、彼らが仕掛けたものではない。
『神』の声に従い、『彼』が『教えるよう命じ』、あるいは『“こんな魔法はあるのか”と問いかけ』『手に入れた』いくつかの魔法。
―――その内の1つ。
それは言うなれば、盗聴と盗撮の魔法。
彼らは『敵』から仕入れたその魔法を、厚顔にも当然の様に駆使し、“塔”の内部を、彼らの目的と手段とその方法について知ろうとしていた。
―――かわいそうだよね、ひどいよね
うっとりと愛おしそうに見つめ続ける男に、囁きかけるは少年の声。
彼にしか聞こえない声に、男はきっぱりと返す。
幾度でも繰り返す……その決意を。
「分かっておりますとも。必ずや『姫』を救い出し、『御身』を開放いたします」
神よ、と呟き、唇の端を持ち上げたのは、セントラーダ王国第1王子。
――――――すなわち、この国の王太子であった。




