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童話トリップ!  作者: 深月 涼
第4章 マッチ売りの少女
30/53

【まさかの】マッチ売りの少女を監視するスレ【おっさん逆ハーレム!?】


本日のセトリ。

りんほら

くろせか

ばくふうなすらんぷさん


以上








「心配したんだぞ」

「うん、ごめん」

 義父さんは、あたしがいなくなってからずっと探していたらしい。

 お世話になった宿の女将さんや旦那さんに、あたしが「胡散臭い連中と付き合う様になってからおかしくなって、とうとう出て行ってしまった」と聞かされて。

 ……あの時、気付かなかったくせに、今更。

 そう思わなくもなかったけど、義父さんの表情は本当に心配してくれてたみたいに眉の間がきゅって寄ってて、……嬉しくない訳じゃないし、複雑。

「んで?どうすんだ?一回戻るのか?」

 あたしにそう問いかけて来たのは、ドーピーさん。

 義父さんとは、少し前に都のほうで出会ったらしい。

 関係者だって知って連れて来てくれたんだって。

 あたしの事最初に見つけてくれたのもこの人だし、そう考えると、何かすっごい偶然。

 だけど、義父さんは怪訝な顔をした。

「一回?何言ってるんだ、こいつは地元に帰らせるんだよ」

「……そりゃ、彼女次第ってヤツじゃないのか?」

 怪訝な顔がもう一つ増えた。

 ドーピーさんは、あくまであたしの考えを最優先してくれる立場に立ってくれるみたいだ。

 義父さんとはまた違うタイプだけど、こういうしっかりした男の人って、すごく頼りがいあるな。

 どっちかというと今のあたしの心情的には、3者面談でいう保護者の立場に立ってくれているのはドーピーさんな気がする。

「冗談じゃない、あんたらみたいな得体の知れないのに付き合ってたら、こいつがホントに行き遅れちまう」

 えっ!?信じらんない、心配するとこそこ!?

 それに今、訪問者(ビジター)全体に対する暴言を聞いた気がした。

 宿の人達も確かにそんな風な言い方してたけど、まさか義父さんまでそんな事考える人だったなんて……。

 ……絶対帰るか、ばーか!


 一人でテーブルの下、拳を握り締めていた時だった。

「ガイアスさん、今彼女は微妙な位置に立っているんです。今すぐに“どうこう”というのは出来ませんよ」

「アース、お前まで何を……!」

 がたん、と思わずといった感じで義父さんが立ち上がる。

 けど、アースは気にした様子もなく、淡々と意見を述べただけだった。

「これは個人的な意見ではありません。彼女は『森』と『城』、両方の委任を受けてここにいるんですからね。……自分もそうですが。なので、貴方が『個人』で動くというのなら、自分はそれを止めねばなりません」

 目が、鋭い光を宿した気がした。

 ドーピーさんが「ほう」と小さく呟いた。

「……それに、“あの時のお話”まだ覚えていますよね?なら、何か問題でも?」

 “あの時の話”がどんな内容の話を指すのかが分かって、びくりと体が反応した。

 え、でも、アースは……。


 気が変わったのかな。

 気が変わって“それ”を前提に、あたしとの関係を進めて行く気でいるのかな。

 ただの同居人でも仕事仲間でもなく―――“そういう”。


 そこまで、考えた時だった。

「で?結局どうする気だ?」

 ドーピーさんに話を振られてはっとする。

 そうだ、黙ってちゃ、駄目なんだ。

 “あの時”みたいに、黙って耐えて、流されるだけじゃ、駄目なんだ。

 ……繰り返さない為にも。

「義父さんには、もうついて行かないよ」

 はっきりと、彼の眼を見てそう言い切った。

 折しもバックにかかる音楽は、『無礼MEN!』演奏による爆風を追い風にひたすら走って行く系ソング。

 『無礼MEN!』は音痴っていう人多いけど、こういうストレートなメッセージ性のある曲なら、むしろ彼らのダミ声は似合うんじゃないかと思う。

 とと……、思考が逸れた。

 そうだよ、ここで何もしない訳にはいかない。

 あたしは、この人が思う様な、ただの一般人じゃないんだもの。

 訪問者(ビジター)の一人なんだもん。

「あたしの事、助けてくれた事も、今まで育てて来てくれた事も、今すごく心配してくれてるんだって事も十分に理解した上で言うけど……あたしはあの場所へはもう戻らないよ」

「なんで……」

 義父さんは茫然としている。

 うん、だから、ゴメンね。

「今まで言わなかったけど、あたしも訪問者(ビジター)の一員なの。扱えるのは炎と少しの幻影。……このまま、何も無かった振りして帰る事も確かに出来るだろうけど、でもそうすると、『魔法』使えないよね?……それは、無理だから」

「無理なんて事は無いだろう!今までだって無くても生きて来れたじゃないか!」

「無理だよ」

 言い切った。

「出来る事を隠して、自分を隠して、そうやって誰からも隠れてひっそりこっそり生きるのはもう無理。自分を表現出来る場所を見つけてしまったから、その手段があったから、皆がそれで笑ってくれるから、あたしはここにいる……ううん、いたいの」

 それがあたしの出した答え。

 でも、全部の理由じゃない。

 たぶん、言えないもう一つの理由は、目の前にいる人そのものだから。

『義父さんはあたしの事探したけど、どうせその内面倒になって放り出すんでしょ?例えばあの日みたいに、隣にいる人とかに』

 言えないのは、言わないのはきっと、あたしの精一杯の強がり。


「マリー、頼むから俺と一緒に帰ってくれ」

「……」

 答える事の出来ないあたしに代わって口を開いたのは、アースだった。

「無理に連れて帰ったとしても、しこりが残るだけですよ。ひとまずこのまま様子を見ませんか?“まだ時間はあります”し」

 自分も付いていますから、と、そう言ったアースは、あたしの事を守るようにそっと肩を抱いた。

 いやかばってくれるのは嬉しいんだけど、え?なぜ今?

 それに、あたし達を見る義父さんの目が、やたら鋭く細まった。

 え、何。なんで空気悪くなってんの。

 この二人、仲良くなかったっけ?


 その後も何か言いたそうにしていたけど、ドーピーさんとアースがこっち側に立ち、聖女さんまで登場したとあっては、さすがに分が悪いと判断したらしい。

 義父さんがしぶしぶ立ち去ってから、悪くなった空気を払しょくするみたいに、いきなり飲み会の宣言が出された。

 あたしもアースも当然巻き込まれて……特にアースは何だか男性陣に絡まれてたっけ。

 アースがべろべろに酔っぱらうまで飲ますとか、あんたら鬼かと。

 お開き直前、聖女さんがアースにしなだれかかりながらウィンクして、

「そういえばうちねぇ、シロート参加募集始めたのよん。新しい扉開きたかったらいつでも言ってねぇん♪」

 とか言ってたけど、本当に開いたら困るの聖女さんじゃないですか。まったく、これだから酔っぱらいは!

 アースも「かんがえときますぅ」って、ろれつ回ってないし!?

 一応王国騎士でしょうが。明日大丈夫かな?


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


329:おおかみさん@夜食はラ~メ~ン♪

    マッチ売りって何

    反抗期の家出少女みたいな事になってんの?


    それと宴会なら誘ってくれてもいいんだからね?(チラッ)


330:7人の狩人 3番目

    こっちに来る話が纏まった頃

    保護者ときちんと相談しておけとは言っておいたんだが……


331:灰かぶり

    結果このざまって事かい


332:ぬこの王さま

    城に訪ねて来た時は

    明るい感じでハキハキしゃべってたから

    何かを隠してるっていう様子も無かったんだよ


    その時点では

    当人の中だけで決着がついてたって事なのかな?


333:幸福の王子

    しかし周囲はそうでもなかった、と?


334:エメラルドの都の魔法使い

    だな


    しかしこのタイミングで関係者が2人か……


335:浮かれ小坊主

    マッチ売りちゃんの

    って事~?


336:おおかみさん@五月蠅いから寝ろって言われた(´・ω・`)

    何やらキナ臭くなって来たな……


337:ぬこの王さま

    さてさてどう動くかな~?


338:軍用ブーツを履いたぬこ騎士

    旅から帰って来たにゃ

    この騒ぎにゃ?


    ぬこの王さまがにゃにか企んでるって事は

    そのうち燃え上がるにゃ?


    マッチ売りの少女だけに ( ´,_ゝ`)


339:緋色のナデシコ

    その例えは許さないし許されない


    訴訟も辞さない


340:浮かれ小坊主

    そこまで!?


    いやまあ森が炎上は確かに困るけどね!?


341:7人の狩人 3番目

    どうでもいい事かもしれんが


    そういえば騎士

    最後の方目が据わってたぞ

    何考えてるんだか


342:魔弾の射手

    それあかんやつやないかい!


343:浮かれ小坊主

    ちょwww


344:灰かぶり

    やれやれ

    一度様子を見に行ってみるかねえ


    よっこら


345:ジャックと豆の木

    老人かっ!


 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 家に帰って、即行アースを風呂に叩き込んだ。

 そういえばシェア初日に、お風呂の使い方が分からないって言い出した事あったっけ。

 ……大丈夫だよね?酔ってるけど。倒れたりとか……いやいや、老人かっての。

 少し心配だったけど、まさか見に行く訳にもいかないし、リビングでおとなしく灰かぶりさんの本をお借りして読んで待ってた。

「……マリー……マッチ売り、さん?」

 どちらもあたしだけど、今のあたしは訪問者(ビジター)としてここにいる。

 だから彼も、「マッチ売りさん」って呼んでくれてたんだけど……やっぱまだ酔ってんのかな?

「お風呂あがった?ならあたしもはい――――――」

 言葉は続かなかった。

 立ち上がろうとしたその腕を取られて、気がつけば仰向けになった状態で床に押さえつけられていたから。

 ――――――え、ナニコレ。


 もしかして、これって、『押し倒されてる』って状況じゃないの!?

 あ、あれ?動けない!?

 もがくあたしを見つめているのは、いつもより冷ややかな彼の端整な顔。

「……油断したら駄目でしょう」

「あんたが今それを言うかっ!!」

 思わず突っ込んじゃった。


「……思ったんですけど、以前と性格違いませんか?」

 は?

 え、何。今この状況で言う事がそれかっ!?(2度目)

「違うって……違うも何も」

 性格が違う様に見える、ってのはアレだ、前は物静かだったじゃねーかコノヤロウって事が言いたいの!?

「……単に本音が言えなかっただけよ」

 ぷい、と顔を逸らす。

 この状況でまっすぐに見詰め合えるほど、あたし神経太くない。

「彼らを信用してはいなかったという事ですか」

 冷たい声。

 確かに、そう取られても仕方ないかもだけど。

「頼ってたよ、信じてもいた。でも、彼らはまっとうで善良なよくいる一般人で、そんな人達に“あたし訪問者(ビジター)なの”なんて、言える訳無いじゃない」

「だから、騙してた?」

「言うつもりは、無かったよ。……あたしは、居場所が保証されてればそれで良かったんだ」

 出て行けと言われて、すぐに出て行けるほど、当時のあたしは生活能力に自信が無かったし。

「居場所が無いのは今もだけどね。……今も、探しているよ」

「ここじゃないんですか?」

「だって間借りしてるだけだもの。……憧れはするけどね」

 どうでもいいけど、なんで急にこんな事するんだろう?

 アースは、ここに来た時からあたしが訪問者(ビジター)だって知ってる。

 義父さんや、あの頃お世話になった人達の為に怒っているのかな?

 それにしては、向けられている感情が『怒り』とは少し違う気がした。

 なんだろう、もっとこう、冷ややかな……。


「何を、考えてます?」

「え、何って……」

 目の前の人の事、かな。

 でも、それを正直に言う訳にも行かなくて、あたしは話題を逸らした。

「居場所の事。アースは、『マッチ売りの少女』なんて話、知らないでしょ?」

「『マッチ売りの少女』?それは貴女の事ですか?」

 まあ、知らないだろうなとは思っていたけど。

「そうとも言えるし、そうじゃないとも言えるかな。『マッチ売りの少女』はね、家が貧乏で、冷たい両親に1年中売れもしないマッチを売るように言われていたの。毎日毎日街頭に立って、「マッチを買ってください」ってお願いするんだけど、誰も買わないの。そうこうしているうちに冬になって……彼女、死んじゃった」

「……それが、貴女ですか?」

「あたしは助けられたけどね、義父さんに」

「……よく、わからないのですが」

 戸惑いが掴んだ腕から伝わる。もうあんまり力、入って無いんじゃないかな。

 あ、腕に力入れたらまた、きゅって力込められちゃった。

 どうあっても逃がす気はない、みたいな?……マジ?

「分かんなくていいよ。あたしは彼女だけど、彼女はあたしじゃないの。そしてね、彼女のそばには誰もいなかった。亡くなった祖母の元にしか、彼女の居場所は無かったんだ。死んだ先にしか居場所が無いのは悲しい事でしょう?」

「だが、貴女のそばにはたくさんの人がいる」

「……そうだね」

 お互いに視線が合っていない気がする。

 思い浮かべる顔も、きっと違う。

「自分には、『彼』の考えている事が理解できます。自分も『彼』も、貴女をここから連れ出したいんです。連れ出して、閉じ込めてしまいたいと思っている。自分の知らない人達と、自分の分からない話題で楽しそうにおしゃべりをして笑っている貴女を見たくないから。……きっと、同じ穴のムジナ、というのは、自分の様な者の事を言うのでしょう」

 いつの間にそんな言い回し覚えたんだろう。

 びっくりして視線を真上に向けると、ちょうど彼もあたしの方を見たところだった。

「ぁ……」

 声が、出ない。

 何を言うべきだろうか。頭が一瞬で真っ白になった。

「実はね、口説くように“言われている”のですよ」

 誰に、誰を。

 疑問は喉の奥に引っ込んだまま、出ようともしない。

「……それ、仕事、なの?」

 やっと出て来てくれた声は消えそうなほど小さく擦れてて、その上本当に聞きたかった事とちょっと違ってた。

「……仕事じゃなければ、いいんですか?」

 冷たい、冷たい瞳が、近づいて――――――


 ざぱあっ


 ――――――え?

 今、何が。

「まったく、ここは逢引する為に貸し与えた訳じゃないんだがね」

「貴女は……」

「灰かぶりさん!?」

 盛大に水を被ったと思ったら、まさかの灰かぶりさんの登場とか!

 頼もしすぎますって!!


 結局、幻影とはいえ水を差された格好になった彼……というかあたしもだけど、2人は小一時間ほどきつくしかるの刑を受け、灰かぶりさんはそのままさっさと城へと戻って行った。

 ホントに荷物取りに来ただけだったみたい。

 うあー、でも危なかったーーー!!


 念の為個室の戸締りを厳重にして、その日は就寝と相成った。

 


 その頃森の暗闇の中で何が起こっているのかも知ろうとはせず、あたしはただひたすら布団の中で、さっき起りかけた事件を反芻しては悶絶したり考え込んでしまったりをずっと繰り返していた――――――








たぶん今回がこの作品中一番糖度高いです(笑)




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