【探検発見】クローブタウンイベント情報その73【僕の街!】
ジャイアン降臨。
「今日はこれからどうするんです?」
食事を終えたところで、騎士が訊いてきた。
「ええと、一度外に出て、街や森の重鎮さんなんかと顔を合わせておいた方がいいと思うんです。あたしはともかく騎士さん……アースクライドさんは、森の訪問者達と会った事ないですよね?」
「なるほど、それもそうですね」
考えるように軽く首を傾げたけど、すぐに頷いてくれた。
それからバタバタと出かける準備をして、彼とは玄関で待ち合わせる事になった。
玄関に到着した頃には、すでに彼は身支度を整えて待っていたけれど。
「そうそう、名前なんですがね」
「はい?」
隣に立つと、その背の高さが良く分かる。
顔を合わせようとすると、見上げなきゃならなくなるもん。
何を言われるのかと思っていたら、相手は苦笑したみたいだった。
「アースクライド、っていちいち呼ぶのは長いし面倒でしょう?仕事仲間の間では『アース』という名で通っていました」
……ああつまり、そう呼べって事?
「アース、さん?」
「敬語も必要ないですよ。気楽に行きましょう」
「……そういう『アース』も、敬語じゃない『の』?」
許可……というか妥協点?が出たので、さっそくそうしてみる。
「自分はこれが『地』なもので」
なんかキラッキラした笑顔で返されてしまった。
……ま、本人が良いって言うならそれでいいけど。
「あんまり勝手に動き回ると迷うから気をつけてね……って、これくらいは灰かぶりさんに聞いてるか」
「そうですね。でも注意するようにします」
「そうして」
森の中を出口に向かって歩いて行く。
時折かさこそと音がするのは、妖精さんか小動物さん達か……。
顔ははっきり見えないけど、どうやら見られてはいるみたいだな。
顔を覚えてもらうのが第一だから、いちいち挨拶しなくていいのは楽といえば楽だけど……。
「見られているようですね。このまま行ってしまっていいのですか?」
言外に「挨拶はどうした」と聞かれ、少し足をゆるめる。
……っとに、首痛くなりそうだなあ。
「顔が把握されれば、とりあえず問題ないかなって。みんなが遠巻きにしているのは……」
そこで言葉が出なくなった。
『何年も前にやらかした暴走のせいで、小さな生き物達はみんな、あたしを恐れる様になってしまっているから』
そんな風に真実を伝える勇気は、まだ無い。
「やはり『外』から来た人間を受け入れろ、といった所ですぐには無理なのでしょうね」
黙っていたら、勝手に解釈された。
「その辺は、自分達と変わらないのかもしれません」
そう言って彼は苦い笑みを浮かべた。
どうやら森の重鎮と呼べるような人達は、奥に入ってしまっているか出払っているらしく、結局会うことは無かった。
あたしも、みんながどこに住んでいるかなんて詳しく聞いた事無かったしなあ。
妖精郷は別だけど、あそこの近くには『塔』もあるし、みだりに近づけない。
それに、いきなりおっきな人間が2人もやってきたところで、まともに相手できるのは妖精王さんかパックぐらいだろう。
そんな訳であたしたちは、薄暗い森を出てしばらく南下。
やがて田畑や民家がちらほらと見え始め、その先の防風林を抜ければ……そこはもう立派な港湾都市が広がっていた。
「これが……」
隣から感動するような、びっくりして声が出ない、といった感じの声がした。
「港湾都市クローブタウンへようこそ」
「あ、羽帽子の騎士さん」
かっこいい騎士団の制服に身を包んだ男装の麗人が、こちらに声を掛けてきた。
「お勤めご苦労さまです」
「いえいえ」
にっこりと浮かべる笑顔も、今日の青空のように爽やかだ。
「こちらは?」
隣からアースが問いかけると、「童話騎士団第一分隊、隊長の『羽帽子の騎士』と申します」「……セントラーダ王宮親衛特務騎士、アースクライドです。ご丁寧にどうも」と挨拶が交わされた。
「それにしても、『騎士団』ですか?」
あー、本職の騎士には、そこやっぱ引っかかるよね。
「私設騎士団ですが。実際には、有志で集まって組織された『自衛警戒組織』ですよ」
警察……ううん、用心棒集団みたいなものかな?かなりきっちりしているけどね。
「現在は、こうして街の入り口で入街管理の真似事などをさせて頂いています。後は、2グループに分かれての哨戒ですね」
「そうですか、お引き留めしてしまって申し訳ない」
「これも仕事の内ですよ。では、ぜひ満喫して行ってください」
「?……ありがとうございます?」
満喫、の意味が良く分からなかったのだろう。
でも、これから嫌でも理解すると思うよ。
「こっち」
「……ここ、ですか」
うん今『止めは』って単語省略したよね?絶対。
クローブタウンは初めてなのかな?傭兵やってたから、あちこち行ってると思ってたけど……?
賑やかな街の中を歩けば、ちらほら見かけるのは獣の姿の人達。
耳や角の生えた人もいれば、あそこで肉屋やってるミノさんみたいに、顔面からしてもう獣!っていう人まで様々だ。
……っていうか、さっきすれちがった禍々しい羊の悪魔っぽいのって、もしかして『じゅげむっ!』さんじゃないの……?先生何やってんすか!
そんな街の中心部から少し離れたアーケード。
天井がしっかりしているせいもあって、昼間にもかかわらず薄暗い印象の、だけどその分キラキラとまばゆい灯りの装飾に浮かび上がった、いかにもファンタジー世界!と言いたくなる様なアーケードの一角にある、一軒のお店。
あたしたちが今目の前にしているのは、あの美髯聖女さんのお店『金の靴』だった。
ただ、アースが引いたのも分かる。
だってこのお店、周囲に負けず劣らず……というか全面勝利なくらいにすっごいド派手なんだもん。
というか、店主……ホステスママの聖女さんを見れば分かるけど、ここは“オカマバー”だ。
表の派手派手しいネオン看板、どうやって作ったんだろう……。
「あらン、いらっしゃい」
「ごぶさたしてまーす」
「……」
隣の人に至っては言葉も出ないか。うーん、インパクト強すぎたかな?
「なぁに?人の顔じっと見て」
「………………いえ、ずいぶんと立派な髭ですね」
言葉にするのに10秒くらいかかった気がするけど、大丈夫かな?
「うふふ。髭は男の象徴よぉ?これを切るなんてとんでもないわぁ」
「……」
気持ちは分かるが……こっちみんな。
「今日は誰か来てます?」
「まだこの時間だからねえ。もう少しお昼近くになったら誰かしら来るでしょうよ」
そっか。……見たとこ忙しくはなさそうだけど、もうすでに仕込みとか準備とかしてるんだろう。
えーっと、今10時ちょい過ぎくらい?しまったもう少し街観光してからの方が良かったか。
「昼間も開けているんですか?ここは」
「ランチもやっているから、よかったら食べていってちょうだいな」
ばちん、と重そうなウィンク一つよこして、聖女さんは中へ入って行ってしまった。
「どうしますか?」
どうしよう。
考え込んだその時だった。
「よう」
「よっす」
「あ」
後ろから声を掛けてきたのは、あたしの仕事仲間でもある『無礼MEN!』のみんなだった。
「その人が例の?」
「うんそう。ええっと、アースクライドさん」
「どーもにゃー」
「こんちゃーす」
基本的に明るくてノリのいいメンバーは、あたしがマッチ売りだって知っても態度を変える事無く付き合ってくれる……多分珍しい部類の人達だろう。
「その人の紹介?」
「そんなとこかな」
「……はじめまして」
多少ぎこちない気はしたけど、それでも微笑みを絶やさず挨拶した彼に、みんな一目置いたみたい。
あー、まあ、けも耳ならミリオンさんがいるか。
「飯にはまだ少し早いだろ」
「うーん、そうなんだけどね。ここに来れば誰かに会えるかなっ、て思って来ただけだったから」
ロバさんと話していたら、急にわんこさんとにゃんこさんが声を張り上げた。
「じゃあさ、「一曲演ろうぜ!」」
案内するべき人を置いてお仕事とかいいのかなーって思ったんだけど、外にいたあたしたちの話が聞こえたらしい聖女さんが、わざわざ店から出て来て任せなさいって言ってくれた。
店の入り口に出来た簡易のステージ。
街の人も慣れたもので、何だ何だと集まって来る。
「この街に入ってからずっと思っていたのですが……ここはまるで毎日がお祭りのようですね。いつもこんなに賑やかなんですか?」
「そうよぉ。ふふっ、いっつもこうなのよん」
設置の様子を見ていたアースは、一緒に見ている聖女さんとしゃべってる。
ほとんどまっすぐここへ来たから街の様子とかあんまり解説出来て無かったけど、聖女さんに任せれば安心、かな?
やがて準備が出来て、突発ライブがスタートした。
「行くぜ野郎ども!!」
「「おおっ!!」」
最初はいぬみみキーボードさんの流れる旋律から。
続いてロバ耳ドラムさんと、ぬこみみベースさんの重低音が響く。
そうして、ヒュプノスさんのけたたましいシャウトで歌が始まった。
え?あたし?あたしはもちろん特効(特殊効果)ですよ。
火柱なら任せろー!!……なんてね。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
637:無礼MEN! ぬこみみベース
という訳で
ライブスタート!
638:エメラルドの都の魔法使い
おっ、始まったか
639:おおかみさん@俺も吠えるぜ!
今日はずいぶんと早いな
640:美髯聖女
今日はマッチ売りちゃんが騎士さん連れて来てるのよん
641:くるみ割り人形
なるほどそうでしたか
642:羽帽子の騎士
あまりに度が過ぎるようなら取り締まりますからね
643:無礼MEN! わんこギーボード
はーい
644:無礼MEN! ロバ耳ドラム
はーい
645:ひゅぷのす
はーい
646:ハーメルンのセロ弾き
おい名前www
647:7人の狩人 3番目
狩猟対象って事でいいか?(笑)
648:浮かれ小坊主
ひゃっはー狩りだーwww
649:ひゅぷのすあらため 無礼MEN! にわとりギターボーカル
かりうどさんがいうとしゃれにならない
うそですうそですごめんなさい(笑)
こんがり肉の刑はイヤー(笑)
650:美髯聖女
そういえば確保とか言っていたけど何なのん?
651:7人の狩人 3番目
あ、俺か
王都で知り合った人がいると言っただろ?
その人がどうやらマッチ売りの保護者らしくてな
マッチ売りもそうだが
何かワケアリみたいなんで会わせてみようかと
652:エメラルドの都の魔法使い
それってキチクの所業じゃね?
わざわざ傷口抉るような事にならなきゃいいけど
つかそれって向こうでも何かやらかしてたって事か?
653:おおかみさん@のど乾いた
聞いた限りじゃ
特に何か事件があった様には思えないんだが
トラブル抱えてんなら
今の内に解決しとかねーと
今後何がどう絡むかわからんぞ
441:浮かれ小坊主
えー?
それってさあ
何かフラグ臭くなーい?(>△<)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
灰かぶりさんのお役目を引き継いでから、数日が経った。
森の仲間達とは、掲示板くらいでしかやり取りはない。
安全面も考慮して『不用意な接触は避けるべし』との通達があったからだ。
……全部が本音かどうかは、判断の難しいところではあると思うけど。
でもその分?と言っていいのか、聖女さんのお店に通うのがすっかり日課になってしまってる。
というか「街頭で路上ライブやるくらいならウチで演んなさい」と、見かねた聖女さんに場所を提供して貰っちゃったからなー……。
女の子なんだから深夜に路上はやめなさい、だって。聖女さんマジいいひと。
そんな訳で、あたしのお仕事は今、聖女さんのお店『金の靴』の臨時ウェイトレス兼演奏者。
演奏が盛り上がった日には、あたしが作った『魔法のマッチ』を出すと、皆その場で買ってくれたりする。
『魔法のマッチ』なんて言っているけど、自分の願望が幻として見える以外は普通のマッチなんだけどね。
同居状態のお城の騎士――――――アースクライドとは、まあ、それなりの関係、かな?
いや、変な意味じゃなくてさ。お互いつかず離れずっていうの?
たまーに妙な距離感で迫られたりする事もあるけど、正直そういうのは宿にいた頃さんざんかわしてきた実績があるのですよ、えへん。
だから今更本気にとったりはしないけど…………本気じゃないよね?
まあそれはともかく、さすが騎士だけあって、あたしが夜のお仕事の時には一緒にくっついて来てくれるし、終わるまで待っててくれる。騎士っていうよりは紳士?
だからって、何も用事が無い訳でもないらしい。
向こうのお仕事については、何度か連絡を取っているらしい場面を見かけた事があるから。
でも、何でか妙にこそこそしてるっぽかったんだよねー。
少しだけ聞こえちゃったのは、「ええ、予測通りでした」って一言だけ。
向こうが誰だったのかまでは分からないけど、内容が定時連絡のお仕事なら、お相手はミリオンさんあたりかな?
聞き耳立てるつもりはなかったから、その事について後で謝ったら、本人には「何でもないですから」ってそっけなく言われちゃった。
むむ……?そんなに他人に聞かせたくない内容だったのかな?
あたしのお役目については、今のところ特に変化は無し。
というか、あれほど頻繁に侵入があったのがウソみたいにぴたっと止まったんだよ。
王子様や王様あたりが公に通知して、森への介入を止めさせているのが効いているのかもしれない。
灰かぶりさんがお城に行ったの、無駄じゃなかったんだね!
という事で、今のあたしはライブの真っ最中!
ステージ衣装は聖女さんがいつの間にか用意してくれてたらしい、ピンクと白のストライプのエプロンドレスと、おそろいの三角巾。
自分の得意技、マッチの幻影魔法と灰かぶりさんに貰った記憶の紋章フル活用で、じゃんじゃか盛り上げて行っちゃうよー!
「この、周りに映る模様も魔法ですか?」
「模様っていうよりは、わたしたちの使う文字、かしらねぇ。ほら、今彼女が演奏しているでしょう?それについて色々意見を書き込んだりすると、こうして壁に映し出されるようになっているのよ」
「……なるほど、それは面白い試みですね。では、この様子も、どこからでも見られるなどという魔法が?」
「ああ、さすがにそんな大それた魔法は使えないわよぅ。そういうのはそれこそ“お祭り”でもなければねぇ」
「ほう?ないことはない、と。では、どうやって皆は今の状況を知るのです?」
「ああ、それはねぇ、“実況者”がいるのよ。ほら、あそこにいる農夫みたいなのと、とんがり帽子の変な言葉遣いの男、いるでしょ?あのあたりの連中が今どんな歌をうたっているのか、どんな観客がいてどんな風にウケが取れているのか“掲示板”に書き込んでいるのよん」
「“掲示板”ですか……。本当に何でもあるのですね」
「そうねえ、無い物や足りない物は、だいたい開発して来たかしらねえ」
「そういえば、この彼女の歌う“歌”も、地元の人の話だともっと過激な物を想像していましたが……、確かに聞き憶えない音楽ですが、歌詞の内容は割とまっとうな物ですよね?」
何か理由が?と聞くアースに、聖女さんが苦笑してる。
そりゃああれですよ、一応気を使ってるからね!誰にとは言わないけどさ!
それにしても、最初あんなにびっくりしていた聖女さんとも普通に喋るくらいには慣れたみたいだなー。
脇でちらちらと見ながら、そんな風に考えていた時の事だった。
「今日も賑やかだな」
がらん、と扉を開けて入って来たのは狩人さんの3番目―――ドーピーさんと、それから――――――
「…………マリー……?」
目が合って、逸らせなかった。
「義父、さん」
あの火からずっとそばにいた人。
身寄りのないあたしの、きっと恐らく唯一の家族。
義父こと、ガイアスと名乗る傭兵、その人だった。
聖女さんのところは、いわゆる『ニコファーレ』な仕様です。




