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童話トリップ!  作者: 深月 涼
第4章 マッチ売りの少女
28/53

【騎士とは】王国騎士さんについて語るスレ【どんな人かしら?】

「……とまあ、こんな感じかね」

 灰かぶりさんに、ざっとだけど家の中の案内をして貰ったあたし達は今、日当たりの良いキッチンでお茶を飲んでいた。

 灰かぶりさんの家の中は外のおどろおどろしい印象と違って、日の光溢れるキッチンとそれに続く居心地の良さそうな居間、木のぬくもりの感じられる寝室、本棚がいっぱいの書庫、と、女の子が憧れそうなカントリー調の家具で揃えられた素朴で温かみのある空間になっていた。

 キッチンに薬草っぽい物がぶら下がっていたり、入ってはいけないよう厳重に鍵の掛けられた作業場(アトリエ)なんかがあるのは“いかにも”って感じだったけど。

 でも本職の魔女っぽい部分はそれだけで、後はいたって普通の民家みたい。

「随分外観と違うのですね」

 一口だけ“おあいそ”って感じで香草茶に口をつけた騎士―――アースクライドは、何がおかしいのか薄笑いを浮かべながら首を傾げた。

「当たり前だろう?ワタシを誰だと思ってるんだい」

 にやりと笑う、ドヤ顔の灰かぶりさん。

「居心地のいい空間というのは、魔女も人間もそう変わりゃせんよ。態々暗い部屋で陰気な生活を送りたがる奴も、いる事は()いるがね。あたしゃこれが気に入ってるってだけさ。外から見える中の様子は窓に幻影魔法をかけてそれっぽく見せているだけで、これで目隠しも兼ねているって訳さ」

 灰かぶりさんは自慢げにそう言い、優雅にカップを口に運ぶ。

 一方騎士は「なるほど」とだけ言ったけど、その顔に浮かぶほほ笑みは崩れない。

 ……この人達って、結構……。

 そんなはず無いのに、どこからか隙間風がぴゅうと吹き込んだ気がした。


「さて、肝心の『塔』に関する話だがね」

「え?」

「あの」

 そこで初めて騎士の表情が戸惑いに変わった。

 というか、あたしもびっくりしたんだけど。

「魔女殿、自分もここにいるのですが」

 遠慮がちに問う。一応気を使うというスキルは持ち合わせているのか……。

 うーん、例の件もあったし、あんまり良い印象持ってなかったから、意外に思ってしまっている自分がいる……気がする。

 だけど、そんなあたし達の心配をよそに、灰かぶりさんは余裕の笑みでもってこう言った。

「なあに心配いらないよ。こう見えてセキュリティはバッチリだからね、彼がこれからの話を聞いて何をどうしようが『塔』は動かないさ。それに今後共に住む以上、お互いに巻き込まれる状況は想定しておくべきだろう?」

 あっ、そっか、これから一緒に住むんだ。……え、この人と?

 思わず隣を見ると、金の髪がきらりと光って、きれいな青い瞳と視線がぶつかった。うわ!

「ただし!」

 うわわっ!しまった動揺して意識が飛びかけた!

「今言った通り『塔』に立ち入らせる権限はマッチ売りにしか与えないし、与えられない。そこは承知しておいとくれ」

 最後のセリフは隣の金髪騎士―――アースクライドに向けて言った言葉。

 そして彼も予定調和みたいに「それで良いですよ」と軽く頷いた。

「マッチ売り、手を」

「えっと」

「右手を出しな。手は甲を向けて。……そう」

 言われた通りに右手の甲を差し出すと、灰かぶりさんはその右手に両手をかざして、何か念じ始めた。

「記憶を封じる紋章よ、ここに宿れ」

 すうっと右手に熱を感じ、灰かぶりさんの手が離れると、そこには緑に輝く美しい紋章が写っていた。

「今写したのは『記憶の封印球』そのレプリカだ。これが『塔』に関する全権のカギになる。くれぐれも玩具(おもちゃ)にするんじゃないよ」

「はっ、はいっ!!」

 さすがにシャキッと背筋が伸びた。

「ま、日常的に音楽聴くくらいは良いだろ。ワタシもやっているしな」

「あ、知ってます。てか、いいんですか?」

「言ったろ?玩具にするんじゃなければ、それ位は構わないとね。とはいえそれ位しか日常では使い道が無いのも事実だがねえ」

「いえっ、そんな事無いです!ありがとうございますっ!!」

 むしろこれって、すごい物貰ったんじゃなかろうか。

 路上ライブとかする人間にとっては、最新式のプロ仕様コンポを持ち歩く様なものだ。

「『塔』は基本的には全面封鎖だ。いくら権利があるからといっても、みだりに近寄るんじゃないよ。警戒警報は『森に侵入者があった場合』と『塔』に何かあった場合に鳴る様になってる。特に『塔』に何かあった場合はすぐに駆け付けとくれ。もたもたするんじゃないよ」

「は、はいっ!」

 灰かぶりさんの鋭い視線に、再び背が伸びる。

「あんたの能力は、ワタシみたいに後方支援を担当するよりはむしろ直接戦闘に向いてるから、有事の際には騎士と共に素早く現場に急行し、速やかに事態を収束させる事。いいね?」

「はいっ!」

「わかりました」

 隣の騎士と2人で頷く。

 ここまでお膳立てしてもらったんだ、引き受けない訳にはいかない。

「出来る限り頑張ります」

 そう言ったあたしに、灰かぶりさんは「せいぜい頑張んな」と薄く笑った。


「最後に、連絡用通信魔法の発動方法を教えておこうかね」

「えっ?」

 え、あれ?通信って、塔経由の森限定とか掲示板ぐらいしかなかったんじゃなかったの?

「まだ全面的に使えるようにはなってないよ。というか広めてはおらんね。いわゆるβ版というやつさ」

 あ、なんだ、そうなんだ。

 でもβって事は、正式リリースも視野に入ってるって事だよね?

「こう、手の指を中3本折り畳んで……手のひらにつけるように、そう、で、そのまま手のひらを向けて耳に当てる。会話相手については、魔力循環制御回路陣(ネットワーク)に登録した特定の相手だけになるがね」

「あっ、電話みたいな」

「そうだね」

「デンワ?」

 あー、“こっちの人”には分からないか。

「昔“訪問者(ビジター)”のいた世界には、そういうものがあったんだよ」

 あ、すっごく面倒くさそう。

「あんたにも必要かい?」

 今振ったのはわざとかな?……聞かないけど。

 だけど騎士アースクライドは、それには首を横に振った。

「いえ、自分は大丈夫。すでに手続き終えています。この森の中にいる限り、どこからでも使えるんですよね?」

 あ、もう既に登録済みなんだ。相手はねこの王さまかな?

 あたしはそう思ったんだけど、どうやら灰かぶりさんが考えたのは、それだけじゃなかったみたいだ。

「『ネット』がある場所ならどこでも使えるようになっとるが……一体どこに繋がっているんだろうねえ」

 2人とも、何だか意味深な微笑みを交わし合ってるけど……。

 何か今、騎士と魔女さんの間で見えない火花が散った気がした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


556:灰かぶり

    食えないねえ


557:浮かれ小坊主

    食えませぬかー


558:エメラルドの都の魔法使い

    なぜ衰退妖精さんになったし


    俺今あんまり身動きとれないから

    何かあった時どうにかしたくても

    手が放せないんだよね


559:じゅげむっ!

    仕事しろ


560:ジャックと豆の木

    エメマンさんは大国に技術明け渡した責任取ろうや


561:ノロウェイの黒牛

    お前あれで都市部にどんだけ影響出たと思ってやがる

    こんなとこで油売ってる暇があるなら

    弾幕合戦の後始末きっちりやれやコノヤロー


562:仮面の槍者青ひげ

    例の剣はどうした


    ここで進捗を聞いてもいいんだがな?ん?


563:えめまん

    みんなつめたい (´・ω・`)


564:灰かぶり

    自業自得じゃないか……

    とにかくねこの王やマッチ売りの言うセリフじゃないが

    あの男何かありそうだね

    

565:ヘンゼル

    いたずらしちゃう!?ワナしかけちゃう!?


566:グレーテル

    戦争!?戦争!?


567:灰かぶり

    ガキどもは手を出すんじゃない

    それを決めるのはお前達では無いし

    あたしらでも無いんだからね


    森の中で余計な問題起こす様なら

    こっちにも考えがある


    今の言葉よぉく覚えておおき?


568:ヘンゼル&グレーテル

    ((((((ガクガクブルブル))))))


589:7人の狩人 3番目

    まあそう脅さんでも(汗)


    射手もジャックもいるし

    有事の戦力には事欠かないだろ

    

590:浮かれ小坊主

    狩人さん達はマダー?


591:7人の狩人 3番目

    例の防衛戦には間に合わないと分かっていたから

    ゆっくり帰国したしな

    今首都のあたりだ


    それでちょっと気になる話を聞いたんで

    聖女さんに相談があったんだが……


592:美髯聖女

    あらん?ご指名とは珍しいわねえ

    何か御用?


593:7人の狩人 3番目

    ああ

    聖女さんはマッチ売りと付き合いあるだろう?

    悪いがそれとなく彼女の様子を見ていて欲しい

    もちろん街にいる間だけで構わない

    仕事もあるだろうしな

 

    それと後で店に寄るんで


594:美髯聖女

    ふぅん?

    何かワケアリみたいねぇ


595:7人の狩人 3番目

    実はとある人物に会ってな

    その辺の話はまた近くなってから話す

    

    とりあえず今はあの子を確保しておいてくれ


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 翌日……つまりは同居1日目。

 朝御飯の支度が完了したところで、2階にある割り当てられた仮の自室から騎士が下りて来た。

 昨日の夜はお互いに軽く自己紹介をして、それから以前いた街……イーステラの宿の話を少しだけした。

 正直、ほとんど面識がない、しかも男の人とのシェア生活ってどうだろうとは思ったんだけど……まあ、これも仕事のうちだと割り切るしかないのかな。

 灰かぶりさんだって、嫌な顔しつつもお城に行くこと自体は拒否しなかったし、似たような立場のあたしがここでごねるのは、なんか間違ってる気がした。

 それに、ここで頑張れば森の仲間達にも少しは……少しは打ち解けてもらえるきっかけになるかなー……みたいな。

 騎士の方は、一応こちらが女性という事で、向こうも気を使ってくれているんだと思う。

 交わした会話も当たり障りのないものだったし、それから遅くなる前にとすぐに部屋に引っ込んじゃったから。……お互いに、だけどね。

 一応枕元に置いてある明かり代わりのランプ(ほとんど電気と同じで、スイッチに触れて切り替えるだけで使えるようになってる)の炎に、用心としてセコム的魔法をかけたけど、発動しなかったあたり必要無かったって事でいいのかな……。騎士さんマジ紳士的な意味で。


 そんな風に昨日の事を思い返しながら準備していたら、騎士が目を丸くしてた。

「あの、どうかしました?」

 声をかけてみる。

 丁寧な言い方なのは、まだお互いのちょうどいい距離感が掴めないせい。

 これもその内変わって行くのかな?いつ家主が帰って来るのかにもよると思うけど。

「……いえ、朝からこんな豪華な食事を頂けるとは思っていませんでしたから……」

 え?豪華?いや、むしろ手抜き料理だよ?

 一応、炊こうと思えばご飯だってあったけど、異世界の騎士さんに『もっちりふっくらな山盛り御飯をお箸で』はさすがにハードルが高いかと思って、今日は洋食メニューにした。

 ふわっふわのスクランブルエッグには、カリカリベーコンを添えて。

 英国風山形食パンは、スライスしてトーストに。当然外はカリっと中はしっとりもちっとな感じ。個人的な事を言わせてもらえば、バターはたっぷり!が基本かな。

 シーザーサラダには、好みでチーズとクルトンとカリッとベーコンをこちらもたっぷり。

 それに絞りたてのミックスジュース。

 ……割とよくある感じの朝食メニューだよね?

「これで、手抜きですか……?」

 だって手間のかかった料理作ってないもの。

 パンはパンだねが倉庫で冷凍保存されてるからそれを焼いただけだし、オーブンだって時間と温度の設定しただけだし、ミックスジュースは適当にカットした野菜や果物を、風魔法のかかったミキサーもどきの容器で粉砕くらいしかしてないし?

 後の技術(テクニック)はほら、あたしってば、だてに宿での看板娘していませんでしたから?ふふん。

「冷めないうちにどうぞ?」

「では……」

 昨日とは逆に、彼の方が委縮しちゃってるみたい。

 ほんとにそんな大した事してないんだけどなあ……。

 ぼんやり考えながら見守っていたら、ばりっとトーストを引き裂いた騎士が呟いた。

「パンが真っ白だ……」

 驚くとこそこ!?


「自分の生まれた村は、それほど裕福ではなかったですから」

 朝食を食べながら軽く雑談が始まった。

 でもそっか。いまだに農村だと雑穀のパンが当たり前だもんね。

 田舎の日常生活で出される雑穀パンってすごいんだよ!?レシピなんて当然ないから適当に練って混ぜて焼くだけ。硬いし、味もお察しな感じ。

 よく市販されたりレシピ本に載るような、対日本人使用のふんわりもっちりな雑穀パンなんかじゃないんだから!

 中には、その素朴さが良いって人もいるんだけどさ。

 当然だけど街に住んでた時には、簡単設定の自動オーブンとかフープロ、ミキサーもどきなんてものは無かったから、宿の食事を手伝っていたあたしでさえ、今朝の支度はすっごいらくちーん、とかうっかり鼻歌出そうなレベルだったけどね。

「魔法があるというだけで、これほど生活が変わるのですね……」

 真剣な表情の騎士。ただし手に持っているのは2つに割れたトーストだけど。

 ……早く食べないと冷めるよ?

「……ちょっと言葉が出ないですね」

「そこまで!?」


 大げさだと思っていたけど、彼は本気だったみたいだ。

「先ほども言いましたが、自分はかつて、貧しい農村で暮らしていましたからね。今でこそ騎士として取り立てて頂いていますが、その前は傭兵の互助組織にいましたし、食事は悲惨なものでしたよ」

 あー……想像はつくかな……。

 あの義父さんでさえ、戻って来た時には宿の女将さんと旦那さんに小突かれながら、めっちゃかっこんでいたもんな。

「じゃあ義父さんが、よく仕事仲間の人や後輩さんを連れて来てたのって……」

「あそこの料理は美味しかったです。染み渡る、っていうんですかね」

 ほっとするんです、と騎士はその美麗な顔に笑みを浮かべた。

「……」

 もそりとこちらもパンを口にする。

 確かに久しぶりだけど、彼が言うほどびっくりする味じゃない。

 喉まで出かかった『義父さんはいまどうしてる?』の言葉。

 その言葉を、パンと一緒に飲みこんだ。

 本当はちゃんと聞くべきなんだろう。今どうしているのか知っているのかとか、今でも連絡取り合っているのかとか。

 でもそれを聞いたら、こちらの事情も話さなきゃいけない訳で……。

 どうしてあの『(ばしょ)』を飛び出したのか、とか。

 だから、昨日も今も話す機会なんていくらでもあったのに、私はその話題にうまく触れられないでいる。

 こちらが気にしているのがわかるのか、騎士もその話題を自分からは口にしない。


 飲み下したパンは、あまり味がしなかった。










マッチ売り嬢は元日本人の様ですが、中にはそれ以外の人もいます。

例えば『赤い靴』の女の子は元露西亜人。

掲示板は全自動翻訳機能付きなのです。






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