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童話トリップ!  作者: 深月 涼
第4章 マッチ売りの少女
27/53

【いきなり同居とか】始まりの森近況報告スレ257森目【ありなんか!?】

 気がつけば、目の前には見知らぬ少年がいて、顔を覗き込まれていた。

「う~ん、不思議だなあ」

 どこか面白そうにきらめく瞳は、緑とも青ともつかない不思議な色をしていた。

「“この環境にちゃんと適応できる人間”って事で条件付けした筈なんだけど……、どこで間違えちゃったのかなあ?」

 不思議そうに首を傾げられた。

 頭の上の真っ白なウサギの耳が、惑うようにひょこりと揺れる。

 瞬いた少年の瞳に釣られてこちらも瞬きをすると、ぽろり、と涙が一つこぼれた。

「くすくすっ、やっぱりニンゲンって変なの。怖い事なんて一つもないのにね」

 一つも?本当に?だってあたしは“こんな世界”知らない。知っている事が一つもない世界で、周りにいる人達の中にも、知っている人はいなくて。

 ――――――だから怖い。周囲にある物全て、何もかもが恐怖の対象だった。

 だから、あたしは―――

「じゃあ、怖くなければいいんだね?」

 まだ何も言っていないのに、少年はまるであたしの心を読んだみたいに言った。

 怖くなければ、あたしも普通に過ごせるかな。

 怖くなければ、みんなを守れる?

 怖く、なければ――――――

「大丈夫だよ。次に目を覚ました時には、この世界に対する恐怖なんて消し飛んでいるからさ」

 状況が理解できた時には、すべてが遅すぎた。

 今さらながらに膨れ上がる恐怖で、目の前が滲む。

 ここには今あたし一人だけで、助けを呼ぼうにも声すら出ない。

 “虹色”が取り巻く中、あたしは“彼”の下す裁きに備える様、ぎゅっと目をつぶった。

 

 ああそうだ、目の前にいる“彼”は、

 

 彼は―――




 次に目を開いた時、あたしは燃え盛る炎の渦の真っただ中にいた。




 暗くて深い森の中にいたはずなのに、気がつけば燃え盛る小さな村の中にいて、訳も分からないまま救出された。

 何をどう説明していいのか分からない混乱した頭と、実際に煙でやられた肺のせいで、あたしは一時口がきけなくなっていた。

 そのせいか、どうやらあたしは、この村に元から住んでいた住人の最後の一人だと勝手に思われたらしい。

 助けてくれたのは、この国―――セントラーダに雇われていた傭兵団の人達。

 なぜ雇われているのかとか、どうしてあのタイミングでそこにいたとか、村が燃えた理由とか、気になる事情を一つ一つ聴いてみたけれど、ショックで記憶が無くなっていると好意的な受け止め方をした彼らは、何があってどうしてあんな事になったのか一切教えてくれなかった。

 そしてその傭兵団を率いる一人―――まあ今の義父に当たる人なんだけど、その人が身元引受人となって面倒を見てくれる事になった。

 ……なんだかジャンケンで負けたみたいな顔してたけど。


 傭兵団のリーダーだったひげ面のおじさんは、身なりを整えればそこそこイケてる顔立ちで、仕方なしとはいえ義理の親子関係を結んだからか気を使って声をかけたりしてくれて、多分だけど、彼にしてはとても良くしてくれたんだろう。

 女の子の面倒みるとか、そういうタイプには見えなかったから。

 でもさ、いくらなんでも小さい子扱いしすぎじゃない?って思う時もあったけどね。

 周囲までそんな感じだから参っちゃう。

 14歳は、まあ、彼らにしてみたら子供かなあ。

 いやでも、同じ10代でも10歳と15歳はだいぶ違うからね!?


 2~3週間ほどだろうか、彼らと行動を共にしたのち、私はとある宿場町の宿に預けられる事になった。

 最初こそ頻繁に顔を出してくれていたけれど、1、2年もすれば戻ってくるのは半年に1度、とか。

 ……やっぱ面倒だよね、小娘の世話なんてさ。おまけに義父(とう)さん、出稼ぎ労働者(ようへい)だし。

 そこは、まあ、察せられない事もないんだけど。

 義父さんはたまに帰ってきては、頭を撫でてくれて、ちょっとだけ父親らしい“いかにもな”事を言って、そしてまた“お仕事”に出かける。

 たまに友人とか仲間とか連れてきては、あたしに挨拶させる事もあるんだけど、あれっていったい何なんだろう……?

 

 落ち着いて生活できる事になって、あたしの心も安心したというか……ちゃんと言葉にして話せるようになった。

 それでもまだ、ぎこちなくなるのは許して欲しいところだけど。

 宿のおじさんもおばさんも常連の人達も、助けられたって事情を知っているのか皆私に優しくしてくれるけど、それでも素を出して本音で話しができるほど、私は彼らに心を許すことが出来ないでいたから。

 記憶は、『森』にいた頃の事からなら覚えてる。それ以前はさっぱり。

 ただ、あの頃感じていたはずの恐怖だけが、まるで紗幕に包まれたみたいに掴み取れなくなっていた。

 助けられてすぐに確認したから『掲示板』も見ようと思えば見えるし、だから居場所だって『彼ら』に伝えることが出来た。

 ここから連れ出して貰って、『仲間』に戻してもらう事も。

 もっとも、『あんなひどい事』をした自分が、元に戻りたいと言ってちゃんと帰れるかっていうと、そうは簡単にいかないんだろうけど。


 だからまさか、本当に見つけてもらえるなんて思いもしなかった。

 ましてや、もう一度仲間として『森』に迎え入れてもらえるなんて。

 最悪、こちらの一般人として生涯を過ごす事になるんだろうな、とか思っていたくらいだったし。


 出会いは偶然。

 立ち寄った『森』の狩人さん達が、宿の看板娘の―――あたしの事なんだけど、その『歌』を聞いた事がきっかけ。

 この辺では聞いた事のない不思議な旋律―――ぶっちゃけ『元の世界』の歌は、宿の女将さんや常連さんに言わせれば「鼻歌で終わらせるにはもったいない」との事だった。

 そんな訳で、興が乗ると少しだけ歌わせてもらうんだけど……、たまたまその時に居合わせたのが狩人さんの3番目―――ドーピーさんだったのだ。

 それからあっという間に城勤めをしているというシマウマカラーのネコミミ男……ねこの王さまが来て、魔女さんに会って……。


 そうしてあたしは、彼らに今まであった事のすべてを話し、身の振り方まで考えてもらった。

 出た結論は一つ、それは旅に出る事。

 いつまでも宿でお世話になっている訳にもいかなかったし、ちょうどいい、なんて自分で自分に言い訳をして。

 本当は少しだけ違う。

 数ヶ月前に帰ってきた義父さんが、隠れてこっそり“あたしの”見合い相手を連れて来ていたから……。


 その時のあたしは、とにかくショックを受けていた。

 まるで居場所を奪われたみたいな、そんな感覚しか持てなくて、きっととてもひどい顔をしていたと思う。

 お相手は金髪の、多分凄いイケメン。

 義父さんの後輩に当る人らしいけど、その時の―――少なくとも事情が分かってからのあたしはそれどころじゃなかったから、もうよく覚えていない。

 あの日は、帰ってきた義父さんが珍しくちゃんと挨拶なんかさせるから何事かと思ったけど、深夜にこそこそ二人だけで話をしているのを偶然聞いてしまって……。

 そのときあたしは、ついにこの日が来たんだな、と思った。

 なんだかよそよそしい態度だったり、お仕事の期間が延びたり、しばらくそんなのばっかり続いていたから。

 その時の話の内容も、中々にヒドイ物だったなあ。

 「貰ってやってくれないか」という義父さんに、「まだ人生の墓場に足を突っ込むつもりはありませんよ」と笑う男の人。

 その日はそれからもうまともに眠れなくて、次の日は義父さん達に対してどんな顔をして会えばいいのか分からないしで、とにかくひたすら逃げ回っていた様にも思う。


 ……ついに本格的に面倒になったんだろう。拾われてから4年……いや、もう5年近く経っていたし。

 確かにこの世界だと嫁に行ってもおかしくはない年齢なんだろうけど、そんな理由をくっつけてでも手放そうとした事実が、悲しくてとてもつらかった。

 この世界の一般人には見えない掲示板を使って『森』の仲間たちと密に連絡を取り合うようになったのは、そんな寂しさもあっての事かもしれない。

 何より、今まで身内だと思って接して来た人達以上に本音で話せたり、言葉を選んで話す必要がなかったりしたのは、あたしにとっても……はけ口、というと言葉が悪いけど、そんな風に自分の心を整理する助けになった。


 そうして決めたんだ。

 手を離した義父さんの意思に従い、好きかどうかも分からない様な人のもとに嫁に行って何も出来ないままただの主婦として暮らすより、今度こそ誰かの為に何かが出来る自分になろう、と。


 宿のおじさんやおばさんには、変な人と関わるなとか、わざわざ出ていかないでここで働けばいいんだよ、とか凄く心配されて散々止められたけど、私はその声を振り切って出て行く事にした。

 旅立ちの日、いつもの三角巾とエプロンスカートではなく、シャツとズボンに帽子をかぶったあたしは、出がけに義父さんとすれ違った。

 ああ、こんなタイミングで見つかるなんて、と観念してギュッと目をつぶったけど、次の瞬間、義父さんはあっさりと宿の入り口をくぐって中に入って行ってしまった。

 足を1歩、2歩、それから……。


 結局、父はあたしに事に気付かなかった。

 服を少し変えただけなのに、それだけの事でもう、義父さんにはあたしが分からなかったのだ。


 正直がっかりした。

 義父さんがあたしに向ける感情や意識は、その程度のものなのか、と。

 けれど、それでも気持ちを切り替えまっすぐ前を向く。


 これからのあたしは、宿屋の看板娘『マリー』じゃない。


 背負った丈夫な袋の中には、相棒とも言えるマッチがたくさん。

 虹色塗料を塗った特別製のマッチで、夢と幻を売るのがお仕事。


 

 そう、今のあたしこそ本当のあたし。


 『マッチ売りの少女』だ。

 



 『森』に一番近い街『クローブタウン』で、あたしは本格的に活動を開始した。

 街頭に立ち、歌を歌い人を呼び、マッチを擦って手品師の真似事をする。

 マッチ売りのマッチは特別製で、擦った者の望む夢が見られるようになっているから。

 いわば小規模のイリュージョンみたいなものだ。

 時にはその後『本来(どうわ)のように』マッチを売る事もある。

 家を持てるほど稼ぎがあるわけじゃないから、普段は宿屋住まい。

 元宿屋の看板娘が宿住まいっておかしいかな。

 最初は同じ街を拠点とする仲間達から遠巻きにされていたけど、その内、同じく音楽を生業とする『無礼MEN!』や、『ハーメルンのセロ弾き』さんなんかとは良く話をするようになって、今では一緒に組んでライブをやったりもする。

 街の片隅でちょっと変わった酒場(バール)を経営する『美髯聖女』さんは、あんなナリだけどライブ会場の提供主になってくれたりとかで凄く頼りになる人だし、そんな感じでお店に入り浸っていると、たまーに冒険帰りの狩人さん達や白雪姫さんなんかも立ち寄ってくれる。


 あの頃とは比較にならないくらいに、人間関係は広がっている。

 もし、あの頃、こんな風に声をかけていたら、声をかけられたら、そうしたら、きっとあんな事にはならなかったのにな――――――



 そんなある日の事。

 突然『森』に呼び出された。

 お相手は『森』の重鎮『魔女さん』で――――――えっ!?そんな大役、本当にあたしでいいんですか!?


 なんと、ここ最近色々あった結果(あたしも少しだけ絡んでたけど)、なんと『魔女さん』は『灰かぶり』として―――そして何より第2王子の婚約者として城に行く事になったらしい。

 正直「どうしてそうなった」って感じだ。

 魔女さん……ううん、今は『灰かぶり』という称号の彼女には役目がある。それも、抜けると『森』の存亡に関わるくらいの大きな役目が。

 だけど、それでもこの国の王様の命令には逆らえないらしい。

 だから、そのお役目を私に肩代わりするというのだ。


「ちょっと待ってくださいよ、そんな無茶な!」

「ワタシだって正直不安だよ。だがね、あんたぐらいしか手が空いてて、そこそこ腕の立つ奴がいないんだからしょうがないだろう?」

「嘘だ、絶対いますって!『エメラルドの魔法使いさん』とか、他にもいっぱい!」

「エメマンは今剣に夢中でそれどころじゃないよ。それに野郎に姫の寝姿毎日見てろって、普通に問題だろう?それは」

 う、それはそうかもだけど。後その略し方はどうかと思います。

「あんたを指名したのはね、ある程度INTがあって有事の際の火力になりうるからさ。それに独身女性で、そばに守る者も守られる者もいない、いわば孤独な人間だという事。さらには森、あるいはクローブタウンに定住する理由があるという事」

 つらつらと並べたてられた理由に目を丸くする。

 ちゃんと考えられた理由に「ぐう」も言えない。

「(それに、なんといっても『森』の監視対象だからね。近くにいてもらう分には好都合なのさ)」

「?」

 魔女さんが少しうつむいて何か言った気がしたけど……なんだったんだろ。


「あの、でもあたし魔女さんみたいに鏡操れないですよ?ナビとか無理だし」

 魔女さんは幻影の魔法使いだ。

 あたしも少しなら使えるけど、その媒介も威力も違う。

 魔女さんは鏡、あたしは炎。同じ役割を期待されても困る。

「そこら辺はちゃんと考えてあるさ。詳しくはこれから説明するが……」

 そう言いながら踵を返す。

 森の奥にある魔女さんの家。

 真っ黒なレンガに瓦屋根のその家―――小さな館といった方が正しいかも。

 その家のドアを開く。

「騎士はもう来てる。くれぐれも面倒事は起こさんどくれよ」

 魔女さんのイメージぴったりの、暗褐色の暗い玄関ホール。

 そこには、暗い部屋の印象を吹き飛ばすかのような明るい金の髪をした、一人の男性が立っていた。

「どうも、先にお邪魔しています。――――――貴女が一緒に暮らすという『見張り番』の方ですか?私は『アースクライド』と――――――」

 あたしを見たとたん、ぺらぺらと饒舌にしゃべりだしたその男は、急にその軽薄そうな口をつぐんだ。

「……あたしは」

 名乗る前に、向こうから“確認”された。


「貴女はもしや、『マリー』さん?」

「え?」

「覚えていませんか?以前イーステラの宿でお会いした……」


 …………あ?…………ああっ!?


 言われて気がつけば、確かに見覚えがあった。

 あったのは確かなんだけど……。


 この人、義父さんに「嫁に」とかって話しされてたイケメンじゃん!?

 ぅえっ!?ちょ、なんでここにいるのっ!?



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


228:灰かぶり

    とまあこんな感じかねえ


229:魔弾の射手

    肝心の同居については何ともいうてへんの?


230:妖精王

    それ以前の問題ではないのか?


231:浮かれ小坊主

    ねえねえ相手ってどんな人ー?


232:ぬこの王さま

    うーん俺と同じ匂いがするヤツ


    かな(笑)


233:魔弾の射手

    ちょ


    それシャレになっとらんがwwwwww


234:ぬこの王さま

    いわゆる出世頭っていうのかな?

    数年で重用される様になったとかで


    王宮に勤める騎士の中ではキチッとしてる方だと思う



    ……ぱっと見


235:ジャックと豆の木

    ぱっと見www


236:妖精王

    その一言はいらんwww


237:マッチ売りの少女

    あのー


238:灰かぶり

    おや


239:妖精王

    珍しいな

    何だ?


240:マッチ売りの少女

    今度同居する予定の人が知人だった件


241:浮かれ小坊主

    ええっ!?


242:ジャックと豆の木

    おっ、おう!?


243:魔弾の射手

    何やてぇ!?


244:マッチ売りの少女

    しかもあの人昔傭兵だったよ

    なんで王宮で騎士になんかなってんの


245:浮かれ小坊主

    え、どういうこと



246:ぬこの王さま

    つ資料


    イーステラ出身

    23歳独身

    元ユゥリシア傭兵団所属

    3年前の『サウバーク紛争中のセントラーダ国境侵攻防衛戦』にて

    セントラーダサイドにつく

    セントラーダ&サウバーク革命軍合同

    『ツグミ髭の王様人質奪還作戦』の影の立役者

    セントラーダ第2王子に目をつけられ登用

    現在親衛騎士として主に極秘任務を担当


247:浮かれ小坊主

    わお!カルネデアの英雄!?


    大物じゃん!


248:灰かぶり

    ああ、あの『私を食べてください!』のお嬢さんを守って

    戦場駆け抜けたっていう


    なるほどねえ……(意味深)


249:ジャックと豆の木

    どこの子龍さんかwww


    いやまて確かそれヤッたの王様じゃね?


250:妖精王

    どちらにしろ要注意という事か


    さて今後どう転ぶか……?












  



5年もあれば、何かしら巻き込まれてもおかしくない(爆)

訪問者(ビジター)的には、偶然知り合った、王座をはく奪された元国王が奪還すると決めたので、それを補佐する為に革命軍に組み→大暴れ(パレード)して敵側にトラウマ植え付ける→第2王子に見つかる。という、某騎士とそう大差無い流れとなっております。




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