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童話トリップ!  作者: 深月 涼
第3章 シンデレラ
19/53

【緑柱石の】エメラルドの魔法使いについて語るスレ3ピュタ目【錬金術師】

説明パート再び。



 あれから、王子を連れて一度屋上まで戻って来た。

 手間は手間だが、その方が飛行時間が短く済むから楽だろうと踏んだからだ。

 そう、これから行く先は雲の上、天空の城、オズの居城たる空中移動要塞。

 言ってしまえば只の棒っ切れである魔女の箒に乗るには、ちょっと処では無いコツが必要だ。

 王子には柄の方では無く、柄と尻尾の両方が重なり合う部分に尻を置く様に指導した。

その方が尻が不安定にならなくて多少は楽だろうという、私なりの気遣いの賜物だ。

 安定性を求める為に、少々はしたなくはあるが、私も跨る格好をする。

 普段スカートで乗る際は気を使って横座りなのだが、今はそんな事を言っている余裕は無かった。

 言って置くが2人乗りなんぞ、今まで一度だってした事が無い。ぶっちゃけてしまえば初見で1発、という奴だ。慎重にもなる。

 しかも相手が世界で一番美しい王子となれば……事故った後の周囲の反応が恐ろしい。顔に傷が!的な意味でな。

 スカートの中を見られても困るので、下に誰もいない事を願いたかったが、さっきの今だ。仕方無しに光学迷彩(ステルス)の魔法を掛けておく。

「いいかい、しっかり掴まっているんだよ」

「あ、ああ」

 まあ、殿方には不安定この上ないだろうねえ。

 魔女の箒なんて、乗る機会はそうそう無いだろう。

「それじゃあ、行くよ」

 そう言い置いて、私はとん、と軽く床を蹴った。


 飛行時間はそう長くは無かった。

 オズが森の上空まで来ていたからだ。

 だがそれでも巨大建築物の入口に辿りつくのには、毎度毎度苦労させられる。

「今から向かうのは、あれだよ」

 目の前には、巨大な城が浮かんでいた。

「あれは?」

「オズの魔法使いが住む空中移動要塞、『エメラルドの都(ラド)』さ」

 良く見ればそこかしこに砲台らしき物が突き出しており、ただの城というよりは、やはり要塞という形容が相応しい。

「上に行くのではないのか?」

「良いんだよ、こっちでさ」

 城の下部、基底の方に向かって飛んで行く。

 やがて、最下層がはっきりと見えて来た。

「オズ、開けておくれ」

『了解ー』

 通信で来た事をオズに告げると、外に設置されたスピーカーから了承の声が返って来た。

 そのまましばし待つと、最下層の中心部が淡く輝き始め―――

「おい、魔女」

「あれは無害、牽引ビームさ」

 こちらから何をするでもなく、私達は城の内部へと引き上げられて行った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~

27:おおかみさん@ひとやすみなうー

   というかさあ


28:7人の狩人 3番目

   主に空中要塞について語るスレだよな


29:ジャックと豆の木

   んだんだ


30:魔弾の射手

   オズはんは魔法ジャンキーの内の一人で

   トンデモ錬金魔法使いやろ?

   みんな知ってるわ


   いまさら何話せっちゅーねん


31:浮かれ小坊主

   え?そりゃあ魔女さんとの関係についてとか?


32:下水道魔王と地下王国

   ハハッ


33:白鳥の湖の悪い魔法使い

   それ触れたらあかん奴や(真顔)


34:浮かれ小坊主

   おっ、魔法使いさん久しぶりー!


35:白鳥の湖の悪い魔法使い

   おひさー

   魔法使いスレと聞いて!

   おかげさんでみんな元気よ?


   その分そっちが大変そうだけどな

   いざとなったら白鳥軍団が30分で駆けつけるんで言ってちょ(真顔)


36:7人の狩人 1番目

   それは頼もしいな!

   こっちはもう少しかかりそうだし

   警戒に当たってくれると助かるぞ!


37:白鳥の湖の悪い魔法使い

   おっけー(真顔)


38:ぬこの王さま

   んで、肝心のオズの魔法使いの事は?

    

39:じゅげむっ!

   今頃王子が発狂しているに1票


40:浮かれ小坊主

   綺麗にカラーリングされたメタルライトグリーンの建物とー☆

   金の石畳の街道で出来たド派手な城塞都市がー☆

   まるっと一つ空飛んでるんだよ☆

   普通の人だったら目ん玉飛び出ると思うなっ☆


   でもボクとしては目を輝かせるに1票っ☆

   あの人結構魔法に興味あると思うよ☆


41:千匹皮

   小坊主キラキラさせすぎワロた


   でもそれと耐性があるかどうかはまた別の話じゃない?

   あそこ中もぶっ飛んでるって聞いたけど

   どこでもドアがあるとか悪魔が住む暖炉があるとかさ

   ……正直な所、魔法少女専用お立ち台があるってホントなの?

    

   という訳でSAN値ぴんちに1票


42:ぬこの王さま

   いやあれはめっちゃ喰らいつくと思うよー

    

   何せあの王子様魔法で釣り上げたこの俺が保証する


   どうでもいいけど千匹皮

   暇つぶしに掲示板なんか覗いている余裕あんのか?

   後ろ気をつけた方が良いぞ?


43:千匹皮

   嫌な事言わないで下さいよ!

   噂すると影っていう……ひぎぃ!ヤバいので落ちます!


44:浮かれ小坊主

   千匹皮ちゃんったら相変わらずぅ☆


45:おおかみさん@まったりくつろぎ中

   だからノーディスの王子には気をつけろとあれほど……


46:魔弾の射手

   言ってへん言ってへん


47:ぬこの王さま

   で、何の話だっけ?



~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「いらっしゃーい!待ってましたー!」

「先にお邪魔してまーす!うっわー、ホントイケメンだー!」

「身のこなしに隙がない……話に聞いていた通りの人みたいだね」

「ようこそ王子様、エメラルドの都へ。魔女さんもご無沙汰しています」

「どうぞこちらへ、お茶が入ってますから。せっかくなのでプリンス・オブ・ウェールズにしたいところですが、さすがにそれは無理なので、せめてロイヤルミルクティーにしてみました」

 駐機場で箒を降りてエントランスホールへ向かうと、さっそく姦しい連中に取り囲まれる羽目になった。

「今日も賑やかだね、魔女っ娘達は」

「やだ魔女さん、今は魔法少女っていうんだよ!」

「そうそう」

 みこっち5とか名乗るこの集団のリーダー、ピュアピンクこと『アカネ』が訳知り顔で訂正すると、似たような顔でセカンドリーダーのピュアオレンジこと『カリン』が頷く。

 ……どっちだって似たような物ではないかと思うのだが。

「オズはどうしたね」

「オズさんなら応接室(レセプションルーム)にいるって」

「2人が来るの待っているから、と言っていました」

「そうかい、なら向かわせてもらおうかね」

 ピュアパープルの『ノゾミ』とピュアグリーンの『チヒロ』がそれぞれ説明すると、突然ピュアホワイトの『ユキ』が声を上げた。

「あっ、じゃあわたし、先に行ってオズさんに今から皆来るからって言って来るね!」

「あっ」

 あの子はまた勝手に……。

 思いついたら即行動、の(大体いつも悪い方向へ働く)癖は、まだ治っていなかった様だ。

 他のメンバーも、それぞれ思わず上げた手を下すタイミングを失っていたり、苦笑したりしている。

「まあとにかく向かおうかい」

 先触れが行ったという事で、心持ゆっくりと歩き出した。


「やあ、久しぶり」

「久しぶりだね、オズ」

「そちらが?」

「ああ。王子、これがこの城の主、オズの魔法使いさ」

「はじめまして、エドワード王子」

「ああ。……俺の事は良く知っている様だな」

「まあね。森の関係者の中でもある程度の事情通なら、これ位は知っていて当然、かな」

「ふむ」

 さて、初対面の挨拶はこれくらいかね。

 ソファに腰掛け、長くなる話の為に口を湿らせる。

 ふむ、ユキの奴、相変わらず美味い茶を淹れるものだ。

 こういうのも“女子力”の内に入るのだろうか?

 自称魔法少女達は、話の邪魔をするつもりはないが、かといって出て行く様子も無く、各々菓子や茶を持ち寄って勝手にテーブルをセッティングしていた。

 これからの議論を―――議論になるかどうかは分からないが、観戦する心積もりなのだろう。


「わざわざここまで足を運んで貰って済まないね、王子様」

「いや、……必要な事なのだろう?」

「うん、勿論その通りだよ」

 敬意もへったくれも無い、やたらフレンドリーなその物言いに、さしもの王子殿下も少々戸惑っている様だ。

 ふむ?こういうのはねこの王で慣れているかと思ったのだが。

 まあ、あれで案外、城勤めという事で気を使っているのかもしれないな。

「王子様に、あの部屋に長居してもらっては困る事が分かったからね。彼女はあのまま眠らせておくべき存在なんだ。……何故だか分かるかな?」

「……それを訊きに来たのだが」

「そうだね、―――では質問を変えよう。唐突だが王子、貴方は神様を信じるかい?」


「神……だと?」

「うんうん、まずそっからか」

 予想の範囲内だという様に、オズが何度か頷いた。

「この世界の成り立ちは、もちろんご存じだよね?当事者だもの」

「それは、当然だな」

「そう、この世界は神様によって創られた。だけど可笑しな事に、この先どの文献を漁っても、神様という記述はどこにも見当たらないんだ」

 この世界に、神という他者によって勝手に放り出されたからと言って、何も知らないままではいられない。

 手近な所から、果ては王宮に乗り込んでまで、この世界の事についてありとあらゆる事を調べて来た。

 当然その中には、元凶である神の事も含まれていた筈だったのだが。

「神はこの世界を創り、そしてその後すぐにこの世界を去った。それが君たちの知る神様という概念の、最初で最後の行動の全てだ」

「その神が、どうしたというのだ?まさかとは思うが」

 今度は分かりやすく眉にしわが寄った。それはそうだろう。この流れが読めない程、王子は頭が悪くない。

「まさか、何処かに降臨なされたとでも言うつもりか」

「うーん、正確にはちょっと違うね。っていうかそもそもさ、俺達を此処に連れて来るなんて芸当、神様でもない限り無理よ?」

 この辺はねこの王さまが、もうとっくに説明してると思ったけどなあ、などとぶつぶつ呟く。

 まあ、信頼されてもいない内に神だの何だのと言ってどっぴきされるのも問題だろうしな。そこは単純に言う機会を待っていたのだろう。

 もしかしたら舞踏会の折にでも、纏めて話すつもりだったのかもしれない。

 今となっては憶測でしかないが。


「お前達が自分の意思でこの世界へとやって来た訳では無い、という事だけは聞いていたが」

「そういう事。さっきもちらっと言ったけど、眠り姫の呪いはね、そこにいる魔女が掛けたものなんだよ。そして王子様にはその呪いを解く資格がある事が証明されてしまった。で、何でわざわざ人一人を半永久的に眠らせるなんて呪いを掛けたのかっていうと、その呪いが神様の封印と結びついているからだ」

「神を、封印しただと……?」

 王子は僅かに目を見張る。

「うん。今神様は、あの森の奥深くに封印されている。何で封印なんかしたかって言うと、俺達は『彼』に、勝手に連れて来て勝手に玩具にされた事に、ものすごーく腹を立てているからだよ」

 オズはそう言って、話で乾いたであろう口を紅茶で湿らせた。


「神を封印など、その様にあっさりと出来るものなのか……?」

「馬鹿言うんじゃない。見ず知らずの他人同士の集団が力を合わせ、知恵を絞りつくしてやっとこさ封印したんだ。しかも、次にいつ目覚めるかも分からないってんで、びくびくしながら見張りまで立てて、毎日確認してる位だよ。とんでもない話さね」

 オズが一息入れたので、代わりにこちらが口を開く。

「それ程にか。……この世界の神は、お前達にとっては友好的では無かったのだな」

「そうだねえ。自由になりたきゃ自分と戦えなんて無茶振りする様な輩と、友好的になれという方が可笑しいと思わないかい?神を封印して、その影響下を一時的とはいえ抜け出すのに1年。その間ずっとあたしらは、あの森で神と戯れていたよ。――――――あの頃が一番酷かったねえ」

 殺伐としたあの雰囲気は、好き好んで思い出したくなる様な物じゃない。

 名前や過去という存在の証明を奪われた事、帰るに帰れない上に、神による戦争の強制。

 自由を得る為にどれだけの物が犠牲となったか。

 それは何も眠り姫の様な存在だけでは無い。皆大なり小なり心身に傷を負ったのだ。


「それでもこの世界は、あたしらにとってみれば夢の様な世界さ」

 自分達流に言うとすれば、それはまさに“信じる心が力になる世界”なのだろう。

「もちろん代償が必要であったり、それなりの手順を踏まなきゃ出来なかったり、そもそも出来ない事自体も多いがね」

 例えば他人の精神に直接影響を及ぼす様な魔法は使えないし、周囲の時間を僅かに速めたり遅らせたりする事は出来ても、タイムマシンさながらの時間移動は出来ない。次元と呼ばれる様な、この世界以外の事象に関しても干渉は不可能だ。

 そんな話をしていたら、「あれ?魔女さん前に若返りの薬作って無かったっけ?」と、アカネが口を挟んで来た。

「あれは時間に干渉している訳ではないよ。干渉しているのは肉体の構成に関してさ。大体、時間で戻したら精神まで子供に戻ってしまうだろう?」

「あっ、そうか」

「そもそも時間なんて大きな物に干渉するのに、出来る事が大人か子供の2択っておかしいじゃないか」

「あー……ですよねー……」

 ゴメン魔女さん、とアカネが申し訳な下げに謝った。

 余計な事を聞いたとか、そんな所だろうか。別にこれ位構わないのだが。

 時には雑談で一息入れる事も必要だと思うしな。

 

「で、これらの事から、自力での帰還は無理と判断したのさ、我々は」

「そうか」

 オズの言葉に、小さく頷く王子。

 聞きたい事も言いたい事もあるだろうに、余計な口を挟まないで貰えるだけ有難い。

 おかげで話がスムーズに進む。

 これがもし、王宮に勤める大臣だの何だのといったお偉い方々だったら、そうは行かないだろう。

「自分達の望みは、好きに魔法を使って自由に生きたい。ただそれだけさ。この世界の人間には迷惑な事かも知れんがね」

 甘いミルクティーも、冷めれば多少は苦味を増す。

 たった今自嘲したせいもあったかもしれないが。

「……そこまで魔法にこだわるのは何故だ?お前たちを好きに利用しようとする神はもういない。その上で、この世界の在り様も知っていてなお、何故魔法を追及する事を止め様とはしないのだ?」

 この世界の人間からしたら、そういう風に思える物なのかもしれないが。

 だが、私達はそうではない。そういう考え方に理解は出来ても、妥協は出来ない。

「使える物があるのに、取れる手段があるのに、それを利用しない手は無いだろう?」

 結局は、そういう事なのだ。






魔法少女に関しては……ホンットすんません(笑)





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