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童話トリップ!  作者: 深月 涼
第3章 シンデレラ
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【美少女に】セントラ王宮舞踏会実況スレPart2【かまけ過ぎた結果】

 果たして偶然か、あるいはこれ以上情報与えない為、守ったふりをしただけなのか。

 常人にはあり得ない程整ったその顔だちを眺めながらそう思う。

 襟足までかかる艶やかな白金の髪に、深い水面を覗く様な美しい青玉(サファイヤ)の瞳は、見る者に鋭利(シャープ)な印象を与える。

 襟から覗くは白磁の肌。だが脆弱なイメージが無いのは、その体格の良さと先程の冷たく輝く瞳のせいだろう。

 青を基調とした夜会服に身を包んだその人は、何も言わずに私をじっと見つめている。

 そんな美しい人を前に顔を顰めてしまう自分については、もう諦めた。

 どうせどの様に思われようが、余り状況は変わるまい。

「………手を」

 意外に硬くて大きな手に手を取られ、思考が硬直する。……何故?

「ぶふっ」

 おい肩の上、噴き出す前に止める位しろ。

 例え相手に見えなくとも、妨害の方法などいくらでもあるだろうに。

 戸惑う私に構う事無く、王子はそのまま踵を返す。

 その先には先程までいた大広間。え、やだ、嫌な予感しかしないのだけれど。

「殿下!」

 慌てて周囲の兵士が止めに入る。

 それはそうだろう。何といっても今王子が手を繋いでいるのは恐ろしい大悪魔……にも等しい、森の魔女なのだから。

 だが王子が「だから何だ。何か問題でもあるのか」とぎろりと睨み付け、威圧感たっぷりに返した為、兵士達はしぶしぶ引き下がらざるを得なかった様だ。

「王子様やるぅ~」

 楽しそうに口笛を吹いてる場合じゃないよ、パック。


 そして止める者のいなくなった彼は歩き出す。

 手を握られたままの私も、必然的について行かざるを得ず。

 こうして私は再び華やかな舞台へと戻る事となった。

 この世界で一番美しく、父である国王に対しそれなりに意見も言える立場というトンデモ権力まで持ち合わせた第2王子という、とてつも無く人目を引く人材と共に。

 ―――確かに何がしかのリアクションがあるだろうなとは思っていた。

 ……思っていたが、この状況は望んでない。

 絶対もっと秘密裏に接触して来ると思っていたんだ、私は……!!

 確かに黙っていれば、私が魔女だと気付く人はそうはいないだろうけど!だからって堂々とし過ぎだろう!?まさかとは思うが、人の胃に穴を開けるのが王子としての仕事だったりしないだろうな!?

 肩の上の住人はさっきから爆笑しっぱなしだ。

 掲示板も「キター」じゃない。……お前ら後で覚えていろ。

「どうか、1曲お相手願いたい」

 この男……断れないと分かっての犯行だな?よし、殺意を抱く位は許せよ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


372:おおかみ@オレの嫁のライバル!

    イケメンキター!!


373:魔弾の射手

    キマシタワァ(n‘∀‘)η゜・*゜・*


374:美髯聖女

    ウホッ


375:ジャックと豆の木

    王子様逃げてー!!


376:魔法少女みこっち5 ピュアピンク

    王子様キターーー!!

    なんて素敵すぎる展開……っ!!


377:魔法少女みこっち5 ピュアオレンジ

    ウマウマー!


    これだけでご飯3杯は行けますっ!!


378:白雪姫

    口惜しや……

    南大陸になど行かなければ

    今頃はわたくしも……


379:浮かれ小坊主

    あ、それ無理

    今回魔女さんご指名だったからねー☆


380:親指姫

    魔女さんのロマンスですかっ?

    絶対ぜーったい応援しますですっ


381:森の魔女

    お前ら……


    いい加減にしな!ノシ雷(幻)


382:エメラルドの都の魔法使い

    にしても

    王子も何がしたいんだか(^^;)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「殿下」

「……何だ」

「ワタシが魔女と知った上でのお誘い、ですね?」

「そうだが」

「……理由をお尋ねしても?」

「此処で話すには不向きな話題だ」

 ……だったら何で態々踊る様に仕向けた。

 ぴきっと青筋が浮かびそうになるのを我慢し、代わりに頑張って笑顔を浮かべる。

 頑張る部分、超重要。

「それは―――」

 どういう意味かと問いただすつもりで口を開いたその時、不意に、頭の中で警告文が躍った。


『侵入者、キターーー!!!』


 同時に、がらあん、がらあん、と時を告げる重苦しい鐘の音が辺り一帯に響き渡る。

 掲示板を慌ただしくチェックすると、案の定向こうも騒ぎになっていた。

「すごいや、50人体制の部隊で突入!?ひゅーっ!敵さんの本気キター!!」

「はしゃぐんじゃないよパック。いいかい、帰るよ!」

 時の鐘が深夜12時を告げるなど本来ならばあり得ない。それはもはや騒音問題だ。

 その異常に会場全体が混乱している。

 私達は、その混乱に乗じて逃げ出す事にした。

 握られた手はさほど力も込めてられていなかった様で、案外あっさりするっと外れた。

「何処へ行く」

 って、ついて来る気かいっ!?

「すっごーい、この状態で会場放置とか!王子様がそんなんでいいの~?」

 おい肩の上!感心してる場合じゃないだろう!?

 大広間を抜ければ、目の前は外に通じる大階段。

 城の構造としてそれで良いのだろうかと思わなくもないが、今回は有難い。

 階段手前で立ち止まり―――「おい、何処へ行くのかと聞いているのだ」

 五月蠅いねえ、こちとら急いでいるんだよっ!

 心の中まで魔女モードになった私は、その場で履いていた金の靴を脱ぎ棄て、新たに銀の靴を履き直す。

そして隣の大男に構う事無く靴の踵を合わせ、3回鳴らした。

「ドロシーの靴っ!!」


~~~~~~~~~~~~~~~~

666:森の魔女

    今から転移するよ!


    そっちは今どうなっている!?

    

667:おおかみさん@やーってやるぜ!

    早々にマッチ売りと合流!

    あいつらあっちこっちに隠れてたらしいな


668:幸福の王子

    以前の様な侵入口でのトラップもあまり効果が無いようですね

    少しやりすぎましたか……


669:人魚王子

    湖に到着!

    カエル君と親指姫に会ったので一緒に行動する予定!

    ここが文字通りの水際になるかな……


670:エメラルドの都の魔法使い

    すまんが間に合わん

    現在位置は戦虎王都上空

    もう少しかかる!


671:風車に挑んだ老兵

    吾輩も駆けつけましたぞっ!

    皆の者、お早く避難を!


672:魔弾の射手

    参るわほんま

    あっちこっちから兵士達が湧いて出とるん


    当て難さはどうとでもなんねんけど

    やたら面倒でしゃあないわ

    スキルもタダとちゃうねんで!?


673:名付け親の死神

    邪魔だな


674:美髯聖女

    一か所に集めるわよ!


675:死者の王

    さて俺も出るべきか……?


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 まあ僅かな距離とは言え、息も切らせずついて来た辺りは褒めてやろうじゃないか。

 私の方は、重っ苦しいドレスと締めまくったコルセットのせいで、腹筋がヤバい事になっているがね。

「とーおちゃっくぅ。どれどれ~?戦況はどうなってるかな~」

 靴の魔法―――瞬間移動で辿り着いたのは、朽ちた外観の高い塔の屋上。

 外壁の上に飛び乗って、パックが遠くを見る仕草をする。

 私はそれに構わず、屋上の片隅に設置された鏡台へと向かった。

 すぐに魔法をかけると、まず映像が飛び込んで来た。


「見た所、放火魔とおおかみが善戦しとる様だねえ。まあ予定通りか。騎士団の連中はどうしたい?」

 時折視界の端で眩い光が瞬くが、あれはマッチ売りの仕業だろう。

 いつもより近い場所でのフラッシュに、心臓が掴まれた様にドクドクいう。

 久しぶりの直接戦闘の気配に、自分でも気付かない内に緊張していたのかもしれない。

 鏡が森の入口付近の映像を映すと、普段は近隣の街で衛兵として詰めている『童話騎士団』の姿が見えた。

 これなら何とか人員の問題は解決出来そうだな。

 それに、この位置からなら挟み打ちも期待出来るかもしれない。

 ……なら、ここは任せても大丈夫だろう。

 続いて、タブレットを動かす様に鏡の表面で指を滑らせる。

 新たに映し出されたのは湖の岸辺。

 川から湖に移動した人魚の夫妻が、敵兵士に向って水の魔法で応戦している。

 文字通りの水際作戦という訳だ。

 良く見れば、マッチ売りの炎が飛び火しない様、人魚夫妻が目を配っているのが分かる。

 そっちで延焼を食い止めてくれるのは有難い。

 その分手薄になった防御を、親指姫やカエルがカバーしている様だ。

 時折電撃が奔ったり、風のカッターが相手を翻弄しているのが見える。おや『避雷針』

「親指姫ちゃんもやるねー。僕の教え方が良かったのかなっ」

 いつの間にか傍に寄って来ていたパックが、鏡を覗き込んで得意げに言った。

「相性も悪くなさそうだね」

「人魚の一家は全員親指姫ちゃんの事気に入ってるからね~。お互いが好き同士だと相性も良いんだよ、きっと!」

「そういうもんかい?」

「そうそう!」

 ふうむ。

 パックの持論はさておき、いくら放火の前科があるからといって、昔とは状況も心の持ちようも違うマッチ売りが周囲を気にしない訳が無い、……と思っているし知ってもいる。

 だがそこはそれ、正直冷や冷やする部分もあった。

「ありゃ大丈夫かねえ」

「多分皆、同じ事思ってると思うよ~……」

「同じ事、というのは何だ?」

「ああそりゃあ、あのバカ娘が調子に乗って、あん時の様に森を炎上させやしないかと……」

「魔女さん魔女さんっ!!」

 非常に珍しく、パックが慌てた様子でぐいぐいと後ろ襟を引っ張るので、何なんだと思いながらも振り向くと、そこにはいる筈の無い――――――否、いてはならない人物が無表情でじっと鏡を覗き込んでいた。

「~~~~~~~~~~~~~っっっ!!??」

 声にならない悲鳴などというものが、比喩でも何でも無く実在するのだという事実を、私はこの時初めて知ったのだった。


「中々に興味深いな。これは遠見の魔法具(アイテム)か?それにしては鮮明に写っている。それにその隣にいる小さな生物……これがかの妖精という種族か。ふむ、益々もって興味深い」

 鏡と―――この場所に来てすぐに隠蔽の魔法を解いていたパックに視線を移し、しきりに興味深いと口にするこの国の第2王子。

 あの(・・)パックが逃げ腰になっている事もそうだが、私も驚愕に口を開け閉めし、何か言うどころではなかった。

 つまりはそれほどにあり得ない―――驚嘆すべき事柄なのである。

「あ、あの、何、何で!?」

「?」

 驚きの余りまともに口のきけないパックに、表情を変える事無くただ僅かに首を傾げる王子。

 その辺りでやっと自分の思考が戻って来た。

「……何故、どうやって此処まで来たのか、そう聞きたいんだがね。こちらとしては」

「……靴を」

 靴?

「置いて行っただろう。あの靴の持ち主を特定し、追跡する魔法があると聞いて行使した。それだけだ」

「それだけってそれだけじゃあ“こんな所”には来れるはず無いんだよっ!!」

 あのパックが、ワンブレスでしかもノリツッコミの様相で返した。

 余裕の無いヤツなんて初めてじゃないか?

「話には聞いたが、あんた、魔法に対して嫌悪感やら忌避感やらといった物を持たないそうじゃないか。人様から聞いた胡散臭い魔法でも、利用出来るとなったら躊躇しないという事かい?」

 目つきが険しくなる。こいつは、とんでもないよ。


 あの“魔法ジャンキー”の弟子とな。

 ならば、好きに使える自身の魔力の量も相応にあるって事だろう。

 “あいつ”はああ見えて、陰で『TASさん』などと呼ばれる程度には非効率が嫌いだ。

 才能の無い奴に魔法を教えるなど、絶対にしないだろうからね。

「そういった物が無い訳ではない。だが、未知なる物に興味を抱くのは当然だろう?お前達の魔法はこれまでの価値観を根底から変えるものだ。故に興味の対象となり得る」

「なるほどねえ、だから教えを乞うたかい。そして教えたのは『ねこの王さま』って訳だ。……全く余計な事を」

 これであのタイミングの良い『12時の鐘』にも説明が付く。

 何故彼等、城に勤める仲間達が舞踏会会場にいなかったのかも。

 恐らく召喚する様仕向けたのは彼等だ。今後、森と魔法許容派の王子が協力して上手く事を運べる様に。

 だが彼等にしたって“この状況”は想定外な筈だ。……いや、案外ねこの王め、こうなる事を見越してこいつを“ここ”に寄越したんじゃなかろうな――――――?


「所でここは―――どこだ?何故その様に驚く?俺がここに来ては拙かったのか?」

 その問いは当然だろう。

 妖精郷のある森の湖。そのど真ん中に、この塔は位置していた。

 

 そもそもここは普段から隠蔽の魔法を掛け続けている為、資格無き者は見る事さえも叶わない。

 だからこそ兵士も、国の偉い人達も、皆血眼になって捜すのだろう。

 目には見えない『(ナニカ)』を、その中に隠された秘宝『イミテーションブルー』を。

 それがどんな姿をしていて、何処にあるのかも知らないままに。


「ここはワタシ達の魔法の中心、『眠り姫の塔』だよ。……あんたには確認して貰いたい事がある。いいかい、こうなったらもう逃げるんじゃあないよ。恨むんなら考え無しに来ちまった自分自身を恨むんだね」

 睨み付けてやっても相手は何処吹く風。さっぱり気にも留めていない様だ。

 威圧のスキル……取っておけば良かったかねえ?








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