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童話トリップ!  作者: 深月 涼
第3章 シンデレラ
15/53

【我らが王子は】セントラ王宮舞踏会実況スレ【世界一ィィィ!!】

魔女さんの1人称は素とそれ以外とで変わっています。

魔女モード演技中は、対人だと『ワタシ』、文脈によっては『あたし(ex.あたしゃ)』、心の中で呟く本来の自称の仕方は『私』です。

言葉遣いに惑わされがちですが、実は結構……。





 ザワザワとした喧噪、優雅なワルツを誘う音楽、見た目にも楽しく美しい軽食の数々。

 美しいドレスに身を包んだ女性がまた一人、麗しい青年貴族の手を取って中央へと進み出る。

 それを私は――――――横目で見るとも無く見ていた。

 レースをふんだんに使った、青と金を差し色に使った白のドレスに金の靴。

 髪は金髪は染め上げられ、凝った形に結い上げられている。

 そうして、嗜みとして最小限程度の化粧をしている私は、そっと羽毛で飾られた扇を口元に当てた。

「秋田」

「多分それ、違うよね~?」

「何故バレたし」

 肩の上には小さな妖精さん。あの2頭身の方の……もっと言えば人間が衰退しそうな方の妖精さんが乗っている。

 ……まあ普通に『パック』なのだけれど。


 “私達”がこの世界に来てもう5年程経つ。

 その間、様々な事があった。

 私達が最初の1年を過ごした場所―――“始まりの森”。

 皆で名付けたのだけれども、結局『森』で通用するから普段はあまり使われていない。

 そしてその『始まりの森』の出現場所を含め、周辺地域を治める王国の名を『セントラーダ王国』という。

 こちらも同様に、身内からは『セントラ』あるいは『戦虎』などと呼ばれていたりするが。

 なお、その当て字が出始めた頃には「あらやだかっこいい」などと良く言われたものだ。


 まあ、その件については置いておくとして。

 この世界には大雑把に分けて3つの地域があり、一つはここ、中央のセントラーダだ。

 一つの国と一つの地域に挟まれた、実質この世界の中心といっても良い国。

 その歴史も古く、かつては群雄割拠だった事もあるこの世界を、一つに纏め上げる程の力を持っていたらしい。

 武力を良しとしなくなった頃からは、徐々にその在り様も変質し、四季はあるものの極端な変化の無いこの国は、比較的穏やかで暮らしやすい国といわれている。

 実際、この国の各地をホームとする仲間も多い。

 

 そのセントラーダの北にあるのが、雪国ノーディス公国。

 年中雪に覆われた地での生活は中々に厳しいらしく、閉鎖的で保守的な国だ。

 だがその分、懐に入れば過ごしやすいと言えるかもしれない。

 雪の女王をはじめ、この国にいる仲間達も相応に多い。


 セントラーダの南にある海を越えた先の大陸は、北の各国に比べれば、まだまだ未開の大地といえるだろう。

 完全に人がいない訳ではなく、いくつかの集落、都市国家もどき、あるいは部族といった集団が、大陸全土に散らばって各々コロニーを形成しているらしい。

 乾燥地帯が多い為、遊牧民が多いのも特徴である。

 その中でも要注意なのが、セントラーダと海を隔てて隣接するサウバーク王国。

 国としては比較的新しいし、他の2つの国ほど大きくもないが、それだけにまだまだ安定した情勢とは言い難い部分も秘めている。

 ……だがまあ、今代の王は我々さえ手玉にとり利用し尽くす様な口八丁手八丁の要注意人物なので、革命だの内戦だのにはならないだろうが。

 仲間の一部はそちらで生活し、『追放者達の為の失楽園(エリュシオン)』などと自称する一大農場地帯を築いている。

 農地改革から品種改良から大量生産まで、実験も兼ねて幅広く行っており、今や、仲間達の台所事情の要として無くてはならない場所だ。

 もちろん私もその恩恵に預かっている内の一人で、特にコメ味噌醤油ついでに蕎麦関係は本当にお世話に―――


 閑話休題。


 東西については目下調査中である。

 何せ海が広すぎて調査しきれない、というのが実情だ。

 過去を紐解けば、その昔沈んだ大陸だの島だのがあるらしいが、目下調査中である。

 とはいえ、その調査も現在ほとんど出来ていない状況だが。

 最近は海にも魔物が出没するらしく、海を主たる生息圏にする仲間達ですら、あまり遠出は避けたいところなのだとか。


 ともあれ、そんな中央の大国からの舞踏会への招待―――実際には召喚だとしても―――である。

 ここ最近の国と『森』との関係から言っても、すげなくお断り、という訳にはいかなかった。


「王子様は遅くなるみたいだよ?ハハッ」

 足元から小さな声がしたが、見えん。……ラットか。いや、下水道魔王だな。

「王様達も来ないねー。まーったく、何の為に呼び出したんだか」

 肩の上の妖精さんがらしくない口調で、いや本人的には普段の口調なのだが、とにかくその様に言った。

 ちなみに、妖精さんは隠蔽の魔法が掛かっているので他人からは見えない。

 もっと言えば、掛けているのは私ではなく本人だ。

 私の使う幻影の魔法と効果が似ている癖に、それでも少し違うあたりが面白い。

「城には今誰がいるんだったかねえ?」

「えっとぉ、まず『ぬこの王さま』、それと料理人の中に『注文の多い料理長』さんがいたはずだよ」

「なるほど、どうりでこの世界の料理にしては、凝った装飾が多いと思ったよ」

 こういった宮廷に出入りするのは初めてだけれど、一般人の生活水準から察する事くらいは出来る。

 だから今回の会場内を一通り見て、違和感を感じたのだ。

 一人でこっそり納得していると、再び足元から愉快げな声がした。

「調べてみた結果、一部のアンチ魔法グループが第1王子を中心に纏まり始めているらしいねっ、ハハハッ」

「だけど、第2王子は親魔法派だって言うよー。ぬこの王さまがお仕えしてるのも第2王子なんでしょ?」

「むしろ魔法許容派、って言った方が正しいんじゃないかな?ハハッ」

「行き過ぎて、第1王子と第2王子の関係が中大兄皇子と大海人皇子の様にならなければいいがね」

 ふと口を挟んだ私の台詞は、2人揃って「「まっさかー」」と笑い飛ばされてしまったけれど。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


57:じゅげむっ!

   そちらはまだ始まらんのか


58:魔法少女みこっち5 ピュアオレンジ

   おっそいねー


59:魔法少女みこっち5 ピュアグリーン

   何かあったんですかね?


60:浮かれ小坊主

   それはまだ分からないけどさ


   それよりそっちはどうなの~?


61:人魚王子

   ただ今川を遡上なう!


   もう少しで森に着く所だけど

   このまま湖まで一気に行くつもり


62:エメラルドの都の魔法使い

   こちらももう間もなく到着予定!

   首洗って待ってろ!


63:妖精王

   空飛ぶ移動要塞……3年ぶりくらいか?

   焼夷弾だけは止めておけよ


64:エメラルドの都の魔法使い

   そこら辺はマッチ売りさんに全面的にお任せ☆


65:魔弾の射手

   それ任せたらあかん奴や!


66:親指姫

   でも本当に来るんでしょうか……?


67:心臓に剛毛の生えた騎士

   森の要である魔女がいないとなれば

   必ずや来るだろうな


68:ジャックと豆の木

   今度こそ2度と来る気が起きなくなるくらい

   全力で叩きのめしてやろうぜ!


69:王泥棒3rd

   張り切るのは良いけどよ~

   罠にはじゅ~ぶん注意するんだぜ~?

   あっちこっち色々仕掛けてあっかんな~


   オレが


70:おおかみさん@戦闘準備万端!

   お前か!!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 さて、改めて周囲を見渡してみよう。

 舞踏会会場である城の大広間では現在、紳士淑女が歓談中であったり、一部のカップルが優雅に踊っている最中である。

 国王陛下並びに王妃殿下は最初の開幕こそ壇上で挨拶したものの、気が付けばふっつりと姿を消していた。

「やはり、ワタシを誘い出す為の罠かねえ」

「だとしても、今のところ森の方も何もないみたいだし……」

 肩の上の住人も首を傾げている。

 と、その妖精さんの向こうで、酷くこの場にはそぐわない人物を見かけてしまった。

「どしたのー?」

 やや遠い目つきをした私に気付いたのか、パックが声をかけて来たが、それより先に私はその人物の所へ歩み寄って行こうとしていた。

「子供がいるね」

「ホントだー。でも何で?」

 パックと二人、首を捻る。

 目の前にいたのは、ドレスを着た可愛らしい10歳前後の少女。

 具合が良くないのか、俯き加減で座っているだけだったが。

「彼女は宰相さんの娘さんだねっ。第2王子の婚約者とも言われているよ!けどそれって、当の宰相さんが勝手にそう決めていて周囲に言いふらしているだけ、みたいだよっ!ちなみに王家はノーコメントさ!ハハッ」

 ねずみの相変わらずの情報収集能力に、内心こっそり舌を巻きつつ、こつりこつりと彼女に向って歩み寄る私。

 変に注目されない様、こっそりと幻影の魔法をかける。

「いいの~?勝手な事しちゃってさ」

「かまわんだろ、これ位。むしろこれで向こうから何か仕掛けてくるなら儲け物さ」

 周囲から見れば、まるで空気に溶け込むように消えて行った事だろう。

 だがこんな喧噪の中で、たかが小娘一人、いようがいまいが誰も気にすまい。

 少女の目の前に立った私は、優しい声を作ってそっと話しかけた。


「どうしました?小さなお嬢さん(リトルレディ)?」

 指向性の幻影は、小さな少女にのみ開かれている。

 私のその声に、女の子は夢見る様に顔を上げた。

(おやまあ……とんだ美少女じゃないか)

 思わず“普段の”口調で内心呟いた。

「りとる……れでぃ?」

 まあまあ、声まで可愛いじゃないの。

 幾分ぼんやりしているのは……もしかして眠いからか?

 見た目十になるかならないか位の小さな少女に、恐らく夜の十時を回っている頃だろうこの時間は遅過ぎた。

 ……そう考えれば、主催の王族がこの時間にいないというのはおかしい。居なくなるには早すぎるからだ。

 何かトラブルでもあったのだろうか?

 念の為掲示板にも意識を飛ばしてみるが、森の方は特に異状無い様子。

 ならば、何かあるなら城の中、か―――?


「もしかして、眠くなってしまった?」

「……ココ、眠くなんかないもん」

 あらあら、可愛らしい。

 ちょっとだけ拗ねたその姿は、思わず誰もがお持ち帰りしたくなる程で。

 だからなのか、余計なお世話スイッチが入ってしまった。

「そう、でしたら少しワタシとお話しませんか?」

「お話……?でも……」

 おや、困った表情をされてしまった。

「何か、お困りですか?」

「“お父様”は、ここで王子様が来るまで大人しくしていろって仰っていたわ。勝手にお喋りして、叱られないかしら?」

「……その、“お父様”は?」

「“お仕事”があるから外すと仰っていたわ」

 放置かい!

 額に青筋が浮かぶのが分かる。

 ネグレクトは立派な虐待だよ!

 周囲には世話をしてくれそうな大人の姿も無い。

 まったく、侍女も付けずに何やってんだい!それとも席を外しているとでも言うのだろうか?

 こういう場で、貴族同士情報交換なりパイプを作るなりするのは確かに重要だけれども、だったらこんな場所に、年端もいかない子供を連れて来る方が間違っている訳で。

 話を聞く限り、彼女の父親は“王子様”にご執心らしいし?それまで待たせるつもりかと思ったら、口が勝手に動いていた。

「そう。では、このままお部屋までお送りしましょうか?」

 肩の上から「あちゃー」という呆れ返った声が聞こえて来たが無視した。

 仕方が無いだろう。私はこういうのを見せられると放って置けないのだよ。

「でも、お父様に……」

「お父様には、具合が悪くなったとでもお伝えして置きます。そうすればきっと、怒られる事も無いでしょうから」

 ひ弱だの軟弱だのと怒られるだろうか?そこら辺は後でネズミに見張らせればいいだろう。児童虐待には完全報復だ。

「このまま頑張って起きていても、良い事など一つもありませんよ。もっとも、お嬢様の白い奇麗なお肌にシミやそばかすが出来てしまったり、これ以上背が伸びなくなっても宜しいと仰るならば、それはそれで構いませんが」

「……お嬢様じゃないわ。ココはお姫さまよ」

 食いつく所はそこか。


 どうやら彼女の名は『ココ』というらしい。

 パステルピンクのふわっふわしたドレス、くるっくるに巻いた鬱金の髪に、小さなティアラ。

 まるで仏蘭西人形の様に可愛いと思っていたら、名前までそれっぽくて可愛いじゃないか。

「ではココ姫、貞淑な淑女は余り夜更かしするものではありません。さあどうぞ、こちらへ。只今寝室へとお連れ致しましょう」

 ココ姫はしばらく逡巡していたが、やがて眠気が勝ったのか私の手を取った。

 こっそりと広間を抜ける。目の前にはいつのまにか、一匹の黒いネズミがいた。

 どうやら先導してくれるらしい、有難い。

 ネズミの後について広間を抜けた私は、人目の無いことを確認し、纏う幻影を侍女のそれへと変えた。

 これなら、誰かとすれ違っても不審に思われる事は無いだろう。

 ココ姫は実は相当眠たかったらしく、ゆっくり歩くだけで睡眠導入剤代わりになっている様で、こっくりこっくり舟を漕いでいる。

 こうなってはこちらの声も聞こえてはいないだろう。下手をすると記憶すら残らないかもしれない。

 まあ、余計な事など忘れて貰うに越した事は無いしな。

 だが今のこの状態が危なっかしい事には変わり無いので、最終的に抱き上げて運ぶ事になった。

 ……何故この様な場所で肉体労働せねばならぬのか、解せ……あっ、私か。


「ふう」

「お疲れ様~」

「あんたは見ていただけだっただろう?」

「空気読んで黙ってたじゃーん。で?これからどうするの?」

「ただ広間に戻るだけじゃあ芸が無い。少し散策してみるかい?何かあるかもしれないよ」

「そうこなくっちゃ!」


 あの煌々と照らされた大広間とは真逆の、薄暗い廊下をこつこつと小さな音を立てて歩く。

 他人の目が無ければ、態々使用人の振りをする必要も無い。幻影の魔法はすでに解いていた。

 まるで人気のない廊下に、妖精の含みを持った声が響く。

「使用人さんは皆広間の方かなー?」

「まさか全員が舞踏会に掛かり切りという訳でも無いだろうがね」

 客の連れて来る使用人や客室への案内担当など、本来であれば裏方にも常時1人2人いなければおかしい所だが。

 しかしそうなると、先程の『ココ姫』の一件にも違和感を感じる……。

 貴族の娘に付き人がいないなど、有り得るだろうか……?いや……。

「向こうは気付いているかなー?」

「どうかねえ、まあ監視しているのであれば――――――」

 ざざっ

 ざざざっ

「まあ、こういう事にもなるかねえ」


 視線の先の曲がり角から5人ほど、背後からは10人。

 廊下の広さからしても、それ以上は望めまい。

 いやいや、これはどこからだ―――?どこから仕組まれていた?

 ココ姫はグルだろうか、いやない。ならばその父か―――?だが、王子の嫁にしたいという娘を、態々囮にするだろうか―――?事後承諾か、それとも単に姫の件は偶然で、最初からこの機会を待っていた、とか―――?しかしそうなると侍女の件が――――――

 ……だがまあ、馬鹿正直に遊んでやる理由もあるまい。

 幸いこの廊下には外に通じる窓がある。パックの魔法があれば、人一人逃がす事は容易いだろう。煩くして舞踏会会場で騒ぎになっても困るしな。

 ん?もしやむしろそれが狙いか?『また森の連中か』的な悪印象を植え付ける目的で。

 ―――などと考えていたら、兵が目前に迫っていた。

「パック」

 小声で呼び掛ける。隠蔽の魔法はいまだ有効。ならば、私が動かず彼に守って貰えばいい。その方が『私は何もしていないのに』と相手に恐怖を植え付ける事が出来るからな。

 ……ふむ、先程はとっさに逃走経路を考えたが、最悪一網打尽にして背後を吐かせるというのもありかもしれん。

 恐怖に怯えれば簡単に色々と吐き出してくれる事だろう。そうしたら証拠を握って……くくく、いやらしい相手に対して強気に出られるというのは実に素晴らしい。

「わー!魔女さんそんな邪悪な顔してないで前向いてーーー!!」

 む!?

 パックの魔法をすり抜けた優秀な兵が、怯えた目で私目がけて剣を振り上げ――――――ドカッという音と共に昏倒した。

「無事か」

 その低い声に、不覚にも痺れた。


 ああ、“姿だけ”は知っていたよ。

 セントラーダの第2王子、エドワード。


 別名、『プリンス・ブリザード』


 あるいは『世界で一番美しい人』よ。




  

 


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