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童話トリップ!  作者: 深月 涼
第3章 シンデレラ
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プロローグ

「やれやれ、厄介なものだね」

 古ぼけた―――様に見える苔むした石壁と床で造られた塔の屋上。

 さえぎる物は何もなく、冷たい風の吹きすさぶその場所で、魔女は小さく溜息を吐いた。

 目の前には何故か鏡台があり、彼女は割と真面目な表情でそれを見つめていた。

 鏡の部分には、まるでコンピュータのモニタの様にいくつかの情報が表示されている。

 魔女は刻一刻と変化していくその情報に素早く目を走らせ―――

「放火魔、後ろから3人、右後方から5人。まとめてふっ飛ばしな」

 その言葉の直後、目の前の森の中で、どおんという大きな音と共に虹色の派手な火柱が上がった。


「囲まれてるねえ。さて、どうしたもんか……」

 やや思案し、次の指示を出す。その答えに淀みはない。

 ややあってから、目の前でシュウゥッ、という鋭く大きな音が鳴り、鋭い光が辺りを貫いた。

 ふと、魔女が空を見上げれば、明るい月がぽっかりと浮かんでいた。

「おやそうかい、今日は満月だったかね」

 次に出て来たのはやっぱり溜息。

「諦めたりは、……しないんだろうねえ」

 月を眺めたまま疲れた様に眉を下げ、そう零した。


 最近、酷く『森』への不法侵入が増えた。

 毎夜毎晩、必ずと言っていいほど誰かがこの森へとやって来る。

 ……よからぬ思いを携えて。

 森の秘宝―――イミテーションブルーの情報を、この『森』が現れた場所に元からあった国―――セントラーダ王国のトップに公開してからというもの、その頻度はますます上がる一方だ。

 実際にどういったシロモノで、何処にあるのかという所まではバレていないようだが、“彼ら”はそれを突き止め実際に手に入れるまで止まる事はないだろうと思われた。


『おおかみ!』

『ちっ!……ぶね、掠ったわ。射手、支援サンキュ!』

 魔弾の射手―――ロビンフッドが特技(スキル)を放つと同時に、森の一角が赤く染まる。

『トマホゥゥク・ブゥメラン!!』

『『うぎゃあ!!こっちまで巻き込むんじゃねえ!!』』

『わりーわーりー』

『ぜってぇ悪いと思ってねぇだろ!』

『めっちゃ悪意あったわ今の!』

『うわあ……』

 ホームとしていた南大陸の荒野から森に帰参したジャック(と豆の木)が放ったバスター・トマホークの特技(スキル)に、おおかみと射手が巻き込まれたらしい。……戦闘中ではあるが、楽しそうで何よりである。


 基本的に現地住民との戦力差は明らかであり、余程のことが無ければ “こちら”側が後れをとることはない。

 むしろ、出来るだけ傷付けない様に追い返すのに苦心する程であったし(相手側に重傷者や死亡者を出してしまった場合、そこから端を発し、全面戦争まっしぐらなのは分かり切った事実である。ちなみに今回もわざと掠らせたり極端に威力を減らしたりして、あくまで気絶で済むよう腐心している。マジめんどくさい)、強さでいえば、森の深淵から溢れだす魔物の方が余程強力だ。

 しかし仲間の全てが優位に立つ訳ではない以上、この状況は歓迎出来るものでは無く、一刻も早い解決が望まれた。

 森に対する支援の為、今回のジャックの様に、世界の各地に散った仲間達も次々と戻り始めている。

 国という大きな権力と事を構えるのが先か、それとも無事に和平を結ぶのが先か、答えが出るのには今しばらく時間が掛かりそうだ。

 

『魔女さん!後どのくらい!?』

 森の中の湖のど真ん中に位置する“塔”の屋上で、鏡を見ながら声を聞く。

 試験的な意味合いも込めて現在使用中の通信の魔法は、もちろんこの塔の地下に眠る“イミテーションブルー”と、そこから森全体に張り巡らされた“魔力循環制御回路陣(ネットワーク)”の恩恵を受けている。

 現在はIB(イミテーションブルー)の効果範囲内にとどまってはいるが、全世界を対象にした連絡には掲示板が役に立っているので今のところ問題ない。

 とはいえ、先だっての『白鳥の湖窃盗事件』の様な事例もあるのだが。


 だが今夜の様に、おおかみ、ロビンフッド、豆ジャック、そしてマッチ売りの少女による実戦部隊(即席パーティ)と、レーダー兼オペレータ担当の魔女の橋渡しには十分に役立っていた。

「ふむ、残りはこれで最後の様だね。前方から5人、その後ろアーチャー3名。マッチ売り、最後に1発、派手にぶっ放しな!」

『了解!ほーか、ほーか、ふぁいやー!!』


 マッチ売りを巡回パーティに入れたのは、仲間として認める為の最終試験の様なものだったのだが、かつてのあの日の様に森が燃えないのは、彼女の魔力コントロールが上手く行っているからだろう。

 魔女の言葉に応える様に、マッチ売りの少女は、虹色に燃える炎をバンバン放って行く。

『ひょーい、派手だねえ』

『こっちも負けてらんねえな。―――そこっ!!』

『残り1人、いただきやっ!』

 射手とおおかみが奥に隠れた弓兵を叩くと鏡の中の赤い点が消え、『Enemy Zero』の緑文字が全面に表示された。


 実際に外の風景に目をやると、ひとまず無事に終わった様で森は静けさを取り戻しつつあった。

 マッチ売りの少女に関しても、今回はあの当時の二の舞はなるまい。立派な戦力として数えていいだろう。

 問題は……。


 魔女が手にした一枚の招待状。

 それは、この国の王が住まう、白亜の城からの舞踏会のお知らせ。……事実上の召喚状と言っていい。

 彼女はそれを見て、もう一度だけ溜息を吐いた。








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