エピローグ
前話と時間が前後しますのでご注意。
「んで、これからお前どうするんだ?」
とりあえず一息ついた後、話しかけて来たのはオズの魔法使いさんだったです。
「っつってもな。しばらくはどっか、ねぐらと職探さねーと」
カエルさん……元カエルさんだった人間さんは、困った様に頭の後ろに手をやったです。
「カエルになりたいなら、お望みどおり戻してやってもいいんだがね」
「それって下僕って事じゃないスか。勘弁して下さいよ魔女さん……」
ヒェッヒェッと笑う魔女さんに、困ったようなカエルさ……ええと、元カエルさん。
あ、こっち見たです。
こっちを見た元カエルさんは、何だか寂しそうな顔してるのです。
「お前とも、これでお別れだな」
えっ!?
「な、何でですかっ!?」
慌てるわたしに、呆れた様な声で元カエルさんは言ったのです。
「お前なあ、こんなんじゃもう一緒にいらんねーだろ?オレは家を探すか旅に出るかしなきゃならねーし、お前は妖精だから妖精郷に引っ込むだろ?ほら、これでお別れだ」
「やですっ!!」
わたしは、おっきくなった元カエルさんの肩を引っ張ったのです。
人間になったカエルさんは、とてもかっこいい服を着ていたのです。
真っ白な軍服みたいな服に金の肩のモールを付けて、とってもキラキラしていて、まるで王子様みたいだったのです。
でもでもわたしとしては、カエルさんはカエルさんのままでいてほしいですっ。
カエルさんは人間になった方が幸せなのも知ってるです。
そう、ご本人が強く望んでいた事も知ってるです。
だって、元々カエルさんは人間さんでしたから。
それでも、わたしはカエルさんと一緒にいられなくなるくらいなら、人間さんなんて止めちゃえばいいって、半分本気でそう思っていました。
とっても自分勝手だって分かってるです。
そんな自分が嫌で、でもどうしても離れたくなくて、わたしはぐずぐず泣いてしまいましたです。
「お前なあ、泣くなよ。なにも永遠の別れって訳じゃないだろう?」
「やー!でー!すうう!!やっと会えたのに、こんなにすぐにお別れだなんてあんまりですようっ!わたしはカエルさんと一緒にいたいんですっ!……でもそこまでカエルさんが言うのならわたしが一緒に行きますですおそばにおりますですずっとついて行きますうううう!」
「だー!落ち着けってー!」
どうしてもお別れしたくないわたしは、ついにだだをこね始めましたです。
妖精は妖精郷にいるのが普通ですが、時には外の世界へ飛び出す妖精さんだっています。
さっき王様に報告しに戻ったパックさんだって、実は結構頻繁に妖精郷抜け出してますです。
「ばっかお前、羽貰ったくらいで強くなった気でいるんじゃねーよ。お前に外の世界は無理。無理ったら無理」
「そういうカエルさんだって人の事言えないじゃないですかあああ!!」
「てっめ、分かっててもそう言う事言うんじゃねーよ!凹むだろ!?」
元カエルさんは確かに前のカエルさんの時よりおっきいですから、その分強くなってるでしょう。
でもきっと、もっと他の……たとえば力だけなら、そこで興味深そうに見てる狩人の3番目さんの方が強そうです。魔法なら、そこにいるねこの王さまやオズさんに敵わないでしょう。
「だからわたしどこまでも付いて行きますです!お役に立ちたいのです!」
「お前が付いて来たって地元の人間に面白がって捕まるだけだ!下手すりゃ子供のおもちゃだぞ!」
「それでもいいですもん!」
「よくねえええええ!!」
泣きながらお話してるせいか、自分でも良く分らなくなって来たです。
言い合いに口を挟んだのは魔女さんでした。
「親指姫、あんたが出てった所で迷子になるのがオチさね。その度にカエルに探して貰うってのかい?無駄なこった、やめときな。で、カエル、そっちはこの森から出て行くって?」
2人とも、魔女さんの方を見たです。
迷子……。その可能性は否定できないです。
元々カエルさんのところにいたのだって、行くあてが無くて迷っていたからなのですから。
落ち込む私を置いて、魔女さんとカエルさんの話し合いは続いていました。
「そりゃ……、人間になったんだし、外の世界もまあ興味あるし……?」
「何かしたいって強い想いがある訳じゃないなら、無理にここから出ていく必要は無いだろ。下手な所に行っておっ死ぬよりは、この森に居た方がまだましってもんさ」
「……魔女さんは、オレがこの森を出る事に反対なのか……?」
びっくりです。魔女さんは、基本的に誰かの行動を無理に止めたりする人では無いですから。
「あんた親指姫の事、大層大事にしていたそうだね。掲示板で親指姫が言っていたよ、『とても優しくて、いつも守ってくれていて、恩を返し切れないくらいにいっぱいお世話になった、すごく大切な人だ』とね。文字を追うだけでも分かる位に、そりゃあ嬉しそうだったよ」
「えっ……!?」
カエルさんが、とたんに真っ赤になったです。え?え?何があったですか?
「そ、そりゃあれだ、見捨てられねーって言うか、その、保護者的な……」
「ほおう?その保護者的な感覚で、感情で、責任感で彼女の事を今まで守って来たけれど、人間になったら途端に手のひら返しで、ハイさよならかい?」
「そっ……!」
「そんな事無いのです!」
思わず口を挟んでしまったです。
でも、いくら魔女さんでもその言葉は聞き捨てならないのですよ!
「カエルさんはそんな薄情な人じゃないのです!そんな自分勝手な人じゃないのです!きっと……っ、多分っ、わたしの事っ、考えてくれて……っ」
また、涙が出てきてしまいましたです。
これじゃあ、ますます迷惑掛かるです……。
「お前……」
「本当はどうしたいんだい?」
途方に暮れたようなカエルさんに、魔女さんがさっきとは別人みたいに優しい声で促しました。
オズさんは「悪魔のささやきキター」なんて言ってますけど、(そして魔女さんの持ってる杖で叩かれてますけど)きっとカエルさんが本当の事を言える様にって、そんな優しい配慮なのです。
「本当は……そりゃあ、傍にいて、守ってやりてーと思うよ。ほっとけねーし、置いてった後の事、心配だとも思う。けど、オレはこの通り人間に戻っちまったし、逆にやっかい事にしかならねーだろ、この状態ならさ」
せめて同じ大きさならな、とカエルさんが苦笑いの表情を浮かべた時でした。
「こんな」
「ことも」
「「あろうかと!」」
ねこの王さまとオズさんが、何だか変な顔をしながらえばったのです。
「てれててっててー!」
そう言いながら、ねこの王さまが後ろ手にした手から取り出したのは―――
「願い事叶えキャノ」
がうん!
「へぶしっ」
え、今何が起こったです?
何だか虹色の光が見えたと思ったら、ねこの王さま吹っ飛んじゃいました。
「打ち出の小づちだ!」
オズさんが胸を張ったまま言いました。
何だか不自然な気がしたのは気のせいです?
「この魔法ジャンキー共、嬉々として取り出したね。そんなに見せびらかしたかったんかい」
「さすがに引くわー」
魔女さんとマッチ売りさんが少し離れた気がします。何故でしょう?まさかそれでさらに大きくするとかですか!?
「あのっ、それどうするつもりですか!?」
これ以上カエルさんが大きくなったら困るのですよっ!
でも、その心配はいらなかったみたいです。
「安心しなって。これは元々願いを叶える道具だ。だから今回は物語の時みたいに大きくするんじゃなくて、反対に小さくすればいいのさ」
「「えっ」」
きゃー、カエルさんとハモっちゃったですう。
照れている場合ではありませんでした。
オズさんは、カエルさんに「そこへ立ってて、動かないで」と指示して何やら準備運動を始めたです。
腕思いっきり振ってますけど、まさか力いっぱい叩くとかじゃないですよね?
そんな事を考えていたら、カエルさんに話しかけられたです。
「いいのか?」
心配そうな顔をしてるです。
だからわたしは、あえて笑顔のまま、問い返しました。
「かえるさんこそ、です」
「オレは―――」
いまいち決心がつかないのか、カエルさんが何か言いかけた時―――
「いっくよー」
オズさんとねこの王さまが、2人で力いっぱい手を振り上げたです。
何でか決めポーズっぽいです!?
「待て!まだ返事してねえ!」
「「ちいさくな~れ♪」」
すっこーん
こうして、カエルさん改め―――「イッスン」by魔女さん
「カエルで良いッス!!」
結局本人の希望通りに、カエルさんはカエルさんのままでいいという事で落ち着きました。
「ま、これで丸く収まった訳だ。よかったじゃないか、親指姫」
「まる、く……?」
話しかけて来た魔女さんの言葉に、カエルさんが首を傾げたです。
「何だいカエル、文句があるなら『本物のカエル』に今からでも戻るかい?」
「すんませんっした!!」
すばやかったですぅ。
「さて、ここはもういいだろ。お前達は妖精王の所に行って事情を説明して来な。そっから先は、好きにしたらいいさ」
「魔女さん達はどうするんだ?」
カエルさんが訊ねると、魔女さんは困ったような声で言いました。
「あたしらかい?そりゃあ、コレ、どうにかしなきゃだからねえ」
魔女さんが落した視線の先には、まだ目の覚めない兵士さん達。
もしかしたら、オズさんかねこの王さまあたりが、何か魔法かけてるかもしれないです。
「そうさ、不法侵入者はおしおきしなきゃ、ね」
そう、そっと怖い笑顔を浮かべました。
きっと、ここにいた全員が怖がってるです。
だって、誰も何も言わなかった―――いえ、言えませんでしたから。
―――その日、森に侵入してきた武装勢力の大半は一時的に失明し、そうでない者達は精神に深い傷を負ったまま、全員が捕縛された状態で街の近くで見つかったという。
その後、親指姫とカエルは妖精郷を出る事になった。
今は、以前のカエルの住み家近くの水辺に家を設置し、2人仲良く住んでいる。
家は半ば水辺にせり出しており、そこから親指姫が花畑に出かけたり、カエルが水に潜って水草や小魚を捕って来たりする。
そんな2人の最近のお気に入りは、睡蓮の葉の上でのデートだ。
今日も今日とて肩を寄せ合い、2人仲良く釣り糸を垂らす。
「あーあ、せっかく強くなったってのにな」
元人間でカエルで一時人間に戻り、今は水に住む妖精―――通称『カエル』は、そう天を仰いでぼやいた。
「でもその分、水の魔法強くなったじゃないですか」
そばにいた親指姫はそう言って慰めるが、『カエル』は今一つ納得が行っていないようだ。
「オレは“物理”が強くなりたかったの」
「剣とかですか?今のカエルさん、剣さばきかっこいいのです!自信持つですよ!」
無邪気に応援する親指姫に適当に相槌を返し、カエルは再び天を仰ぐ。
まるで井戸の底から青い空を眺めるカエルの様に。
「あーあ、ホントに一寸法師見てーになっちまったなあ。笑えねえ……」
出てくる言葉はぼやきの様であったが、その顔には確かな笑みが浮かんでいた。
◆カエルの王子
やや後ろ向きなツンデレガエル。
直情的な性格でもあり、失敗してはその度に後ろ向き加減に拍車がかかる。
最終進化を遂げ、親指姫と共に暮らすようになってからは、あまり思い詰める癖も鳴りを潜めている様だ。
妖精化した後、ゼ○伝のリ○クみたいな緑の服と、耳の部分に出来た水かきみたいな大きなひれがトレードマークとなる。
得意:魔法:水 武器:細剣 特殊:STR重視 ややINT
称号:魔女ガエルの息子→カエルの王子(NEW!)→水棲妖精(NEW!)
特技:ハイジャンプ
◆親指姫
泣き虫で怖がりな迷子の妖精だったが、カエルと出会い徐々に変わっていく。
変な敬語を使うが、そこが可愛いorキャラ作りだと皆思っているので誰もツッコまない。実は性格も含め、全部天然。
最近、『カエルさんが好き過ぎて生きるのがつらたん』から『カエルさんと新婚でラブラブ嫁』にジョブチェンジした。ちなみにカエルは認めていない。
雷魔法は単純に風魔法系統の進化先なだけ。
得意:魔法:風、雷(NEW!) 武器:杖 特殊:INT重視 浮遊 飛行
称号:親指姫(完全体)




