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童話トリップ!  作者: 深月 涼
第2章 親指姫
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【速報!】親指姫妖精郷入り!直後にイベント発生の模様!【最終進化キター!!】

 本当は、妖精郷になんて行きたくありませんでした。

 でも、お世話になったカエルさんの言う事なのです。嫌だなんて、言えませんでした。

 そうして2人でたどった妖精郷へ行く道は、びっくりするほどすんなりと通れてしまったのです。


 元々住んでいる小川は妖精郷のある湖とつながっていましたから、しっかりしたハスの葉みたいな水草で船を造り、カエルさんに引っ張っていってもらえばすぐだったのです。

 冬にはそれなりに寒くはなるものの、雪もめったに降る事がないこの地方では川も湖も凍りつくことがありませんのです。

 もし湖に氷が張ったとしても、それは一時的なもので、昼間になれば溶けてしまいます。

 カエルさんも本来冬になれば冬眠するべきなのですが、とーっても頑張り屋さんなのであまり眠くなったりしないそうなのです。

 なので、昼間の暖かい時間のうちに一気に湖まで行ってしまう事にしました。

 いくらカエルさんでもやっぱり大変なのですよ。

 私も風の魔法を使えましたから、それで葉っぱを後押しをすれば、旅は旅といえるほど時間をかけることも無く無事に目的地までたどり着いてしまいましたです。

 湖まで行けば後は一直線。

 ど根性全開なカエルさんの背に乗って湖を横断すれば、お向かいはもう妖精郷なのです。

 この移動方法なら、危険な陸地をわざわざ歩かなくてもいいのです。


 でもわたしは、この時ほど何か大変な事が起こって欲しいと思った事はありませんでした。

 もちろん、何事も無いのが一番だとは分かっているのです。

 そう思う方がおかしい事も。

 でも、それでもわたしは、1秒でも長くカエルさんと一緒にいたかったのですよ。


「妖精郷へようこそ『親指姫』」

「やっと来てくれたんだね!待ってたんだよ!」

「さあ、こちらへいらっしゃい。お茶を用意してあるわ。ここまでの道は大変だったでしょう?ゆっくりしていらしてね」

 妖精郷に入った瞬間、世界がキラキラ輝いて見えたのです。

 同じくらいの背の高さの人達―――妖精の王様、浮かれ小坊主の名前で有名な妖精パックさん、そして奇麗で優しい妖精の女王様が、私達を出迎えにわざわざ門の前までやって来て下さっていたのです。

 皆さんとてもお奇麗で、泥まみれのわたしはすごく場違いな気がして、うつむいてしまいましたです。

「貴女に似合いそうなドレスも仕立てたのよ。まずはその汚れを落として、キレイにしてからね」

 妖精の女王様はとても優しくして下さって……それがとっても悲しかったのです。

 後ろを振り向けば、門の外と中でカエルさんが妖精の王様と何かお話をしていました。

 でも、結局一度もわたしを見る事も、お話しする事も無くて―――。

 カエルさんは、そのまま背中を向けて去って行ってしまったのです。


 ついて行きたかったのです。

 行かないでって言いたかったのです。

 でも、わたしが今のままだと、カエルさんにご迷惑をかけるのです。

 だからわたしは決めたのです。ここまで来たら、絶対強くなるって決めたのです!



「これで1つ肩の荷が下りたな」

 妖精の王様はそう言って、ほっとしたような息を吐きました。

「本来ならば、君のお相手たる“別の”妖精の王なり王子なりが渡すのが道理なのだろうがね」

 王様、苦笑してますです。

 『親指姫』の最後の場面だと、ツバメに乗ってやって来た妖精の国で、親指姫は妖精の王様から羽を貰って、妖精の国の王妃様になるのです。

 でも、ここ『妖精郷』にいる王様は、別の作品のキャラクターなのだそうです。

 そうはいっても王様は王様。

 王様は、『この世界』に来た時からずっと、よく分らない謎のアイテムとして私に贈られる筈だった『妖精の羽』を持っていたそうなのです。

 だから今こうして無事に用事が済んで、王様ホッとしていらっしゃるのですね。

 あ、もちろんですけど、羽を貰ったわたしも、お話と同じでこれからは王妃さまに、なんていうお話は無いのですよ。

 あくまでわたしは、ずっとこの先も『親指姫』なのです。


 『儀式(イベント)』を終えた今の私の背中には、小さくて透明な、虫の羽みたいな形の『妖精の羽』がくっついています。

 少し意識すると、羽は小さく震えましたです。

「自在に使える様になるまで、ボクがみっっっちり教えてあげるから!何も心配しなくていいんだよ!」

 少しだけ宙に浮いたパックさんの羽は、休むことなく小刻みに動いていますが、不思議と羽音は聞こえません。

 ただ、その羽の下に向かって、細かい光の粒が静かに落ちて言っている様に見えました。

 あれが有名な『妖精の粉』というやつなのでしょうか?

 まるで蝶のリンプンみたいなのです。

 見つめる私の目の前で、パックさんは器用に空中を一回転して見せてくれました。すごいのです……。

 わたしもあんな風に、ひらひらとお空を飛べる様になるのでしょうか……?

 ―――いえ、強くなると決めたのです。

 ……頑張るのですよ!ふぁいと、おー!なのです!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


365:妖精王

    気がかりがこれでまた1つ減ったな


366:妖精の女王

    安堵いたしましたわ


367:浮かれ小坊主

    ドレスもすっごくにあってるし

    まさに『新生!親指姫!』って感じ!


368:親指姫

    みなさん持ち上げ過ぎなのですよー……


    でもでも、本当に何から何までお世話になってしまったのです

    ありがとうございます、なのです


369:人魚王子

    おめでとう親指姫

    よかったね


370:親指姫

    王子様もありがとうなのです


371:魔弾の射手

    戦力増強とはまためでたいわ


372:ぬこの王さま

    何か新しい属性とか


    貰っちゃった?貰っちゃったの!?


373:エメラルドの都の魔法使い

    妖精の羽か……

    個人で別だったりするのかねえ?

    性能が違うとかさあ


    あー、コピーとかできればなあ

    こっちに少し回して貰うのにー(ギリギリ)

    実験!実験!実験がしたいです!安西先生!!


374:森の魔女

    魔法ジャンキー共はその位にしときな


375:浮かれ小坊主

    大丈夫だよー☆親指姫

    僕等がしっかり守るから

    羽むしられたりとかはないからねー☆


376:親指姫

    はいですぅ


377:妖精王

    おいウチの新人になにしくさっとんじゃあワレェ


378:妖精の女王

    にこっ


379:エメラルドの都の魔法使い

    まだなにもしてない!

    っつーかそこまで非道な事するつもり無いから!!


380:ぬこの王さま

    オズはともかく俺まで怒られる訳ー?


    解せぬ


    それはともかくさー

    ホントに何もないの?

    新属なし?


381:親指姫

    え、ええっとですね

    

    雷属性が付いたです?


382:ぬこの王さま

    雷!?レア属じゃん!ひゅーッ!


383:魔弾の射手

    雷てこれまたなんでやねん

    イメージ違うとるんちゃう?


384:ぬこの王さま

    何でもいいよ!これで後炎属性がいれば!


385:浮かれ小坊主

    いれば?


386:ぬこの王さま

    ビバ!合体魔法(ク○ノトリガー準拠)ですよっ!!


387:森の魔女

    ああそういう……


    ……そういや狩人の3人目が

    なんぞ拾って帰って来たと聞いたがね


389:浮かれ小坊主

    つ【緊急!】マッチ売りの帰還【速報!】


    のこと?


390:親指姫

    えっ……


    えっ……!?

    マッチ売りさん生きてたです!?


391:妖精王

    何と……


392:妖精の女王

    まあ……


393:浮かれ小坊主

    戦力拡大大歓迎☆

    と言いたいところだけど


    あの時みたいな事にならなければいいね……


394:森の魔女

    そうそうその事だよ


    ねこよ

    後は分かってるね


395:ぬこの王さま

    あいあい~


    じゃあこれ以上はスレ違いになるし

    移動しようか



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 オレは、“ここ”に来るずっと前からカエルの役をしてた。

 親指姫はどうかしらねーけど、オレはある程度以前の事は覚えていたから、その事についてもよく覚えてる。

 ……つっても、“ゲーム”の事だけだけどな。

 どうせならば、とネタキャラに走ったのは事実。

 モニター越しに映る自分のアバター。それは、今と同じカエルの姿。

 正確には、デフォルメされた可愛いカエルの姿で。

 ……でもやっぱり、あんまり可愛くないかもしれないな。

 毒々しい色のヒキガエル。

 そりゃそうだ。

 だってオレの役どころは……


 『親指姫』に出て来る『魔女ガエルの息子』だし。


 親指姫には言ってない。

 言ってどうなるもんでもないし。……あんまり言いたくなかった、ってのもあるけど。

 あのいかにも穢れのない純真で可愛いらしい顔が、嫌悪感で歪むところなんて見たくなかった。

 きっと、いくらあいつでも嫌がると思うんだ。

 ただのヒキガエルならまだしも、……それだって結構ぬめっとしてるし、十分キモチワルイし、今更かもしれないけど、こんな物語の序盤でいなくなる様な醜い悪役設定のやつだって分かって、それから先もずっと一緒にいたがるとか……そんな風には思えなかった。


 一応悪役なんだよ

 醜い役どころなんだよ。

 そんな俺達が一緒にいるの、どう考えても不自然だろ?


 だからオレは、良心が耐えられないからって理由で突き放したんだ。

 掲示板で見た、魔女のあの言葉にそそのかされるみてーにして。

 あの子を守りたくても、今のままじゃ守りきれないのは確かだったしな。

 攻撃力も防御力も大した事無くて、使えるのは水属性の魔法が少し。

 そんな、強くない自分が嫌だ。

 醜い自分が嫌だ。

 あの子は、こんな劣等感の塊みたいな自分とじゃなくて、もっとキラキラした所にいなきゃいけねーんだ。

 同じ仲間達と一緒に、いっつもキラキラした笑顔で、笑ってなきゃいけねーんだよ。


 

 ……そうは、思うんだけど……よ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


754:森の魔女

    まあ、あの子が来るまでもうしばらくあるんだ

    今からピリピリする必要など何処にもないさ


755:人魚王子

    だってさ


    大丈夫だよ

    狩人さんだって人間的に問題ある人をわざわざ連れて来たりしないさ


756:親指姫

    わかりましたです

    大丈夫なのです


757:浮かれ小坊主

    大丈夫そうにないから言ってるんだけどなあ


    何?そんなにカエルさんの事が心配?


758:親指姫

    えっと……


759:森の魔女

    相変わらずだねえ


760:浮かれ小坊主

    そこまで気になるっていうならさー


    無理しなくていーんじゃない?


761:魔弾の射手

    なんやお前さん

    いつになく親切やんか


    からかいもせんと

    ほんま珍しいこっちゃ


762:浮かれ小坊主

    同胞だからねー

    そりゃあ親身にもなるってもんさー


763:ぬこの王さま

    まあさ親指姫ちゃんの場合はさ

    行きたいとこがあるなら無理して残らなくてもいいと思うよ

    自分の身を守るだけの実力があるとすればだけどね


    妖精郷を離れて他の人にくっついてった

    行動派というか武闘派な妖精だって

    いない訳じゃないんだし


764:妖精王

    そういう事だ

    自分で決めたことならば

    誰も止めはしないだろう


    それでも迷った時は我らに言うといい

    相談に乗ろう



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 妖精郷に来て、しばらく経ちました。

 みなさんとっても親切で、優しくしてくれるのです。

 周りも水と草花に囲まれていて、とっても居心地がいいのです。

 カエルさんと一緒に居た時は、木の枝と大きな葉っぱで作った小さなお家と枯れ葉のベッドでしたから、大きなお城の大きなお部屋にふかふかの布のベッドで眠れるのとか、とっても贅沢なのです!


 カエルさんの事、忘れたことなんか無いのです。

 ときどき、思い出すのです。

 でもでも、落ち込んでなんていられないのです!

 パックさんがはじめに言った様に毎日特訓にお付き合いして下さっているので、お空を飛ぶのもだいぶ上手になって来ました。

 さすがにパックさんみたいに宙返りとかまだまだですけど、それでも飛ぶ速さは妖精の中でも速い方だって、お墨付きを貰えたのです。

 魔法も特訓してますよー!

 妖精の王様と女王様が直々に見て下さっているので、かなり上達したと思います。

 わたしの新しく貰った『雷』の属性は妖精の中でも珍しいらしく、掲示板などでお話していると、魔法使いさん達から声をかけられる事も多くなりましたです。


 そんなある日の事でした。

「武装集団がこっちまで来てるらしいぞ!」

「おおかみはどうした!?」

「狩人達は!?魔女さんは!?」

「くっそ、なんでこんな時に限って出払ってんだよ!!」

「動物たちは避難してんだろうな!?」

「ヤンキー兄弟、無事だと良いけど……」

「皆、どうか無茶しないで……!!」

 暖かい昼下がり、妖精郷の街をお散歩していたら、突然周囲が慌ただしくなったのです。

「どうしたのですか!?何があったのです!?」

 お城に向かって走る男の子の妖精さんを捕まえて聞いたのです。

「何か、武器持った“人間”がこっち来るって!妖精郷は一時閉鎖だよッ!!」

 一時閉鎖……つまり、中にいる妖精さん達も、一切出入り禁止になるという事なのです。

「外、外の様子はどうなのです!?」

「詳しい事はわっかんねーよ!とりあえず避難だ避難!」

 急に不安が押し寄せて来ましたです。

 ――――――カエルさん、カエルさんはどうしたでしょう。

 妖精郷の反対にいるのなら、多分見つかっても酷い事にはならないと思うのです。

 カエルさんはカエルさんなのですから、人間が興味を持つとは思えないのです。


 でも、もし、カエルさんがこの辺に来ていたら――――――?

 もし、蹴飛ばされたりでもしたら―――?


「あっ!?どこに行くんだよ!?」

「ちょっとだけ外の様子を見に行くだけですうううう!!」

「馬鹿!ちゃんと斥候が見に行ってるから大人しく戻れってーーー!!!」

 羽の代わりにお星様を背負(しょ)った青い髪の妖精の男の子は、最後までおばかさんな私の事を心配してくれたのです。

 でも、わたしはその声を背中で聞きながら、今にも閉じようとしていた門を超特急ですり抜け、勢い良くお外の世界に飛び出して行ったのでした。







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