第64話:最強のドラゴンを召喚してやる(Side:プライオス①)
「クソッ、アフタルめ! 面倒な傭兵を雇いやがって!」
俺は自室に戻った後、弟とその傭兵――レイク・アスカーブに対して悪態を吐いていた。
レイクとかいう人間が来た理由はだいたい想像つく。
大方、戦争を中断させようというのだろう。
チッ……計画の邪魔をするんじゃねえよ。
エンパスキ帝国は強大な国だ。
うまくいけば、世界征服さえ夢じゃない。
どうしてアフタルは理解しないんだ。
ふと目を上げると、あいつの肖像画が目に入った。
世間知らずな坊ちゃん面をしたアフタル……。
「俺を見下してんじゃねえ! この俺に逆らいやがってよ!」
アフタルの肖像画を破り捨てると、いくらか気持ちが落ち着いた。
――さて……まずは計画を練り直す必要がありそうだ。
自室の隠し扉を開け、秘密の部屋に入る。
ここには俺が密かに集めた魔道具などが保管されていた。
アフタルも父親も知らない空間だ。
極秘に作らせ、製作した大工も国外追放したからな。
部屋の一番奥の黒い水瓶に近寄る。
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〈魔の水瓶〉
ランク:S
能力:魔族の血を注ぐことで、魔界と接触することができる
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闇の行商人から手に入れた、非常に貴重な品だ。
値は張ったものの、手に入れて後悔はしていない。
これから始める戦争には魔族を利用してやるつもりだ。
世界を征服するという野望を裏から支える大事な魔道具だ。
水瓶に魔族の血を注ぐ。
じんわりと全体に広がり、歪な魔族が姿を現した。
巨大な牙に額から伸びた一本の角……。
漂うオーラは普通の魔族とは一線を画している。
『どうした、プライオル』
「遅いぞ。もっと早く出てこいや」
『すまないな。魔界と人間界を繋ぐのは、貴様が思っているより高度で手間がかかるのだ』
こいつはコカビ・エルケノス。
普通の魔族なんかじゃない。
言わずと知れた三大魔卿だ。
まさか、こんな大物と接触できるとは思ってもみなかった。
「というか、お前の授けたスキル全然役に立たないじゃねえか。ふざけてんのか」
俺のスキル、《デモンズ・ドラゴンテイマー》はこいつから貰った。
お近づきの印……とか言っていたが、役に立たないんじゃ意味ないだろうが。
『まぁ、そういうな。相手がレイク・アスカーブでは不思議ではない』
「……おい、お前はあいつのことを知っているのか?」
『もちろんだ。我々魔族もレイク・アスカーブには苦戦を強いられているからな。あれほど強い人間は長い歴史を見ても他にいない』
コカビ・エルケノスの話に、思わず言葉を失った。
あの傭兵がそんなに有名なヤツだとは……。
だっ、て俺とほとんど変わらない年のように見えたぞ?
「まぁ、あの傭兵のことはどうでもいい。それより計画のことを話すぞ。あんなの無視だ、無視」
『いいや、無視はできない』
「……あ?」
俺は昔から、自分の思い通りに事が進まないとイライラする。
話を否定されるなんてもってのほかだ。
『レイク・アスカーブが生きている以上、貴様の野望は絶対に叶わない。戦争が勃発すると、あいつは必ず妨害に入る。そういう男だ』
「そんなの知るかよ。放っておけばいいだろ。ただの男だぞ」
『あれほどの強敵が介入してくる……その危険性はよくわかっていると思っていたが?』
「うっ……」
たしかに、こいつの言うことには一理ある。
あの傭兵は見るからに正義感が強そうな男だった。
戦争が始まったなんて聞いたら、頼んでもないのに介入してくるに決まっている。
俺の一番嫌いなタイプだ。
『そこでだ。良い案がある。貴様のスキルも必要になる計画……貴様がいないと達成できない計画だ』
「なんだよ。だったらさっさと言えや。もったいぶるなって」
俺がいないと達成できない計画と聞き、気持ちが盛り上がった。
魔族は大事な話を後回しにする癖があるらしい。
こういう話は先にするもんだろうが。
『魔界には人間界とは比べ物にならないほど強いドラゴン――伝説の古龍がいる。それを人間界に召喚し、貴様のスキルでテイムしろ』
「伝説の古龍……だと? そんなの聞いたことねえぞ」
『魔界に伝わる生き物だからな。人間界には知られていない』
「なるほど……」
こいつと接触してから、一応魔族のことは調べた。
だが、どの文献にも伝説の古龍など書かれていなかった。
やはり、それほど特別な存在なんだろな。
どれくらい強いのか、今から楽しみになってきた。
『古龍の召喚にはこの水瓶を使う。まずは広い場所を確保しろ。その他には……』
コカビ・エルケノスの指示の元、俺は古龍召喚の儀式を進める。
世界を征服するには、下準備が大切だ。
まずは邪魔者を排除する。
見ていろ、レイク・アスカーブ。
今度こそお前を八つ裂きにしてやるからな。
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