第63話:無理やり契約されたドラゴンを解放する
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「さあ、どこからかかって来てもいいぜ、クソ弟の手先君よ。ハンデがないと負けちまうだろう」
「ご丁寧にどうも」
〔ダーリン、頑張ってー! いつも通り、落ち着いてやるのよー!〕
〔レイクっち、ガンバ~。平常心ね~〕
俺とプライオルは、王宮前の広場で向かい合っていた。
エンパスキ広場という名前だそうだ。
グラスコーチ・ドラゴンが悠々と座れるほど、大きな空間だった。
広場の外側には観覧席があり、すでに観客がちらほらと集まっている。
……これもどこかで見たような光景だな。
『グゥゥゥ……』
グラスコーチ・ドラゴンは、血走った目で俺を睨んでいる。
今にも食い殺したいが、ジッと我慢している……といった様子だ。
おそらく、プライオルの指示がなければ動けないのだろう。
「どうした、怖じ気づいたか? ま、こいつが相手じゃ無理もないか。この辺りでは最強クラスだからな」
「ああ、本当に立派なドラゴンだよ。どれくらい強いか見ただけでもわかる」
スキル――《ドラゴンテイマー》。
その名の通り、信頼関係を築ければドラゴン族ならどんなモンスターでもテイムできてしまう強スキルだ。
逆にいうと、意志に関係なく自分の手下にできてしまう。
しかし、《デモンズ・ドラゴンテイマー》なんて聞いたことがないが。
――あのドラゴンを殺してしまうのは、何だか可哀想そうだな。
プライオルが無理にテイムした可能性が濃厚だ。
殺し以外の方法で解決したいな。
「チッ……来ないんならこっちから行くぞ。せっかくチャンスを与えてやったのに愚かな男だ、お前は。グラスコーチ・ドラゴン! あいつを焼き払え!」
『グルァアアァ!』
直後、巨大な蒼炎の火球が放たれた。
広場の表面が熱でじんわりと溶けるほどなので、ものすごい高温だ。
本当に殺すつもりでかかってくるとは。
何はともあれ……【闇の魔導書】こい!
火球に手をかざし、お決まりの闇魔法を発動させる。
「《ダークネス・アイシング》!」
巨大な火球は一瞬のうちに氷で覆われ、即座に消えてしまった。
ガシャンと氷の球体は地面に落ちる。
予期せぬ反撃だったのか、グラスコーチ・ドラゴンは表情が険しくなった。
「すげえ! 炎が凍ったぞ! 傭兵と聞いていたが、ありゃあ相当の手練れだな!」
「しかも、無詠唱で発動させなかったか!? あんな強力な魔法が詠唱なしで使えるのかよ!」
「もしかしたら、帝国の宮廷魔術師より強いんじゃない!? いやぁ、すごいもの見ちゃいました!」
盛り上がる観客たち。
やっぱり、プライオルはあまり人気があるタイプじゃないんだろう。
当の本人もまた、目を見開いて驚愕とする。
「は、はぁ!? 火球を凍らせただと!? こいつの炎は鉄すら容易に溶かすんだぞ! ありえないだろうが!」
「厳密にいうと、火は現象だから凍らないんだ。周りの空気を凍らせることで、酸素の供給を断ったのさ。酸素がなきゃ火は燃えないから」
〔ダーリン、博識ー!〕
〔レイクっちって頭いいんだね~〕
「意味わかんねえこと言ってるんじゃねえ!」
実は、全部【闇の魔導書】が教えてくれた。
火って凍るんだなぁ……と思っていたら、【それは違います】と頭の中で説明してくれたのだ。
『ゥゥゥ……』
グラスコーチ・ドラゴンは静かに俺を睨む。
攻撃は防いだものの、俺はその強大な力を感じていた。
溜め動作なしでこんな強い攻撃ができるなんて、やっぱり相当強いんだな。
プライオルは悔しそうな顔をしていたかと思うと、突然グラスコーチ・ドラゴンを蹴り出した。
「ちくしょう! 何やってんだよ! お前は強いドラゴンじゃないのか!? 俺に恥をかかせるんじゃねえ!」
彼の横暴な行動を見て、観客たちは悲しそうに呟く。
「ちょっとやり過ぎじゃないか……? いくらテイムしたからってあんなに蹴るなんて……」
「あのドラゴン可哀想……」
「プライオル様はいつもあのような態度をとられるよな……」
グラスコーチ・ドラゴンは抵抗もせずジッとしている。
テイムされた以上、完全な主従関係が結ばれているのだ。
だからといって、何をしてもいいわけじゃないだろう。
「暴力を振るうのはやめろよ。ドラゴンだって生き物なんだぞ。むしろ、主が僕を守るべきじゃないのか?」
「うるさいんだよ、お前は! テイムした瞬間、ドラゴンは俺の物だ! 自分の所有物をどうしようが、俺の勝手なんだよ!」
「命は物じゃないだろ」
モンスターは基本的に、人に対して凶暴だ。
でも、中には温厚な性格のものもいる。
目の前にいるグラスコーチ・ドラゴンだって、もしかしたらこんなことはしたくないのかもしれない。
そう思うと、ただ倒すのは憚れた。
「もう一度火球を放て! こうなったら根比べだ! あいつが魔法を使えなくなるまで攻撃しまくれ!」
蒼炎の火球が何発も放たれる。
また同じように凍らしては、攻撃を防ぐ。
ふと、グラスコーチ・ドラゴンの瞳に、薄らと陽光が反射した。
……涙だ。
その瞳には涙が浮かんでいる。
やはり、本当は嫌なのだ。
どうにかして救えないかな。
そう思ったとき、【闇の魔導書】が自然にめくられ、とあるページが開かれた。
――――――――――――――――――――
《ダークネス・リリース》
ランク:SSS
能力:対象を意志に反する契約から解放する
――――――――――――――――――――
おっ、これならいいんじゃないのか?
“意志に反する契約”だから、無理やりな解放ではないしな。
試してみる価値は十分ありそうだ。
「クソッ、どうして何度も防がれるんだよ! 魔力が枯渇しねえのか!」
「そんな攻撃は通じないよ。今度はこっちの番だ。《ダークネス・リリース》! 対象はグラスコーチ・ドラゴン!」
『グァァァ……!』
瞬時に、黒い波動がその巨体を覆う。
「おい、コラ! 何やってんだ! 俺の所有物になにしやがる!」
「苦しんでいるから助けるんだよ。主なのにそんなこともわからないのか?」
グラスコーチ・ドラゴンの身体が徐々に小さくなり、ぽてんと地面に落ちた。
プライオルはキレまくる。
「何でこんな小さくなってんだよ! お前は最強のドラゴンだろうが!」
「元々、テイムするときはこれくらいの大きさだったんじゃないのか? お前のスキルで巨大化したとか」
「な……んだと……! そ、そんなわけあるか! 最初から巨大だったんだよ!」
プライオルは必死になって否定する。
その反応から、ヤツのスキルが何か関わっていることが想像ついた。
「そもそも、《デモンズ・ドラゴンテイマー》なんてスキル初めて聞いたぞ。いったいどんなスキルなんだ」
「ぐっ……お前なんかに教えるか! ちくしょう、興が醒めた! 俺はもう帰る! 後はお前らが片付けておけ!」
「「あっ! プライオル様!」」
プライオルは怒鳴り散らしたかと思うと、ずかずかと広場から立ち去ってしまった。
辺りが騒然とする中を、ミウとクリッサが駆け寄ってくる。
〔ダーリン、お疲れなさい。なんだか大変な戦いだったわね〕
〔ドラゴンも可哀想だったよ〕
「ああ、もしかしたら、あいつのスキルは何か特別なのかもしれないな」
小さくなったグラスコーチ・ドラゴンを拾い上げる。
今や、手の平にすっぽり収まるくらいの大きさになっていた。
『助けていただいてありがとうございます……私は、あの男に不当に契約を結ばされたのです……。非常に強力なスキルで有無を言わさずでした。本来なら、テイマースキルは信頼関係を築くことが前提なのに……』
「〔しゃ、喋った!?〕」
グラスコーチ・ドラゴンは俺を見上げると、あろうことか人の言葉で話し出した。
『私たちドラゴン種の中には、人語を介する物もいます。元々の性格が温厚でないと不可能ですが』
「〔そうなんだ……〕」
グラスコーチ・ドラゴンは、事の経緯を話してくれる。
やはり、プライオルは
「さあ、もうお逃げ。お前は自由の身だよ」
『助けていただいて、本当にありがとうございました。あなたは命の恩人です。ぜひ、お名前を教えてもらえませんか?』
「俺はレイクだよ。レイク・アスカーブ」
『一生忘れません。では、またお会いする日まで……』
グラスコーチ・ドラゴンはパタパタと飛んでいく。
観客は大盛り上がりでそれを見送る。
「おお~! ドラゴンが帰っていくぞ! レイクさんが解放したんだ!」
「無理やり戦わせてごめんね~! でも、もう大丈夫だから~!」
「レイクさんがいて良かったな! 気をつけて帰れよー!」
静かに生きていくことを願うばかりだ。
アフタル君もまた、群衆をかき分けるように護衛を引き連れ走ってきた。
「レイクさん、お疲れ様でした。兄上を止めてくれて……しかも、ドラゴンまで解放してくださって本当にありがとうございます。やはり、レイクさんはものすごい力を持っているんですね」
「いやいや、どうにか勝てて良かったよ」
「さあ、まずは休んでください。すぐに労いの準備をしますので」
俺たちはアフタル君に連れられ、王宮へと向かう。
何はともあれ、勝負に勝ててホッとした。
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