第45話:エースの帰還
「それでは、レイクの無事と功績を称え……かんぱーい!」
「「かんぱーい!」」
その後、ノーザンシティに帰るや否やすぐに大宴会が開かれた。
キメラモンスターを討伐した俺たちは、一番良い席に座らされている。
ライブリーさんが巨大なジョッキを持ってきた。
ドンッ! と目の前に置いてくる。
「ほら、レイク! 遠慮してないで、もっと飲みな! あんたのおかげでノーザンシティは救われたんだからさ!」
「あ、ありがとうございます、いただきます」
ワイルさんも俺を呼んできた功績が称えられ、酒を浴びるように飲んでいる。
〔初めてここへ来た時とは、雰囲気が全然違うわね。暗い空気なんか、どこかへ行ってしまったみたい〕
「みんな明るくなって良かったな」
〔これも全部、レイクっちのおかげでマジアゲぽよ~〕
やがて、呪い毒にやられていた冒険者たちもやってきた。
一応大事を取って、討伐隊には参加していなかったのだ。
「レイクさん! あなたのおかげで命が救われました! これであの娘と結婚できます! 本当にありがとうございました!」
「俺はもう死んでしまうのだと覚悟してたぜ! アンタのおかげで、こうして飯も食えるってわけだな!」
「またこうしているのが夢みたいだ! いくら感謝してもしきれんよ!」
屈強な男たちが、いっせいに頭を下げた。
みんな角度がピシッと揃っている。
何も悪い事はしていないのに、俺はめっちゃ緊張してきた。
「い、いや、頭をあげてくださいって! 俺は自分にできることをしただけで……!」
俺は必死に言う。
どんな誤解が生まれるか、わかったもんじゃないっての。
そんな俺を、みんなは笑いながら見ている。
そのうち、クリッサの話題に移っていった。
「それにしても、まさか空から女の子が降ってくるなんてなぁ!」
「あんなに強いなんて思わなかったぜ!」
「あの数のモンスターを瞬殺できるヤツなんて、なかなかいないぞ!」
クリッサは相変わらず、ふにゃぁとしている。
〔ウチ、強いっしょ~? まぁ、レイクっちのおかげなんけどねぇ~〕
〔こら、離れなさい〕
と思いきや、ベタベタくっついてくる。
それをミウが引き剥がすのは、もはや恒例となりつつあった。
「レイクさんはモテモテじゃないですかぁ」
「まぁ、それも当然ですけどね」
「くぅぅ、羨ましいっ!」
冒険者たちは大げさに泣いている。
「レイク! アンタは私らの救世主だな!」
ガハハハッ! とライブリーさんに背中を叩かれた。
めっちゃ力が強いので、振動がすごい。
――何はともあれ、無事に終わって良かったな。
ライブリーさんがギルドの奥に戻ったところで、酒場の入り口が乱暴に開かれた。
みんなの注目がそこに集まる。
「お゛お゛い゛! どうして出迎えがねえんだよ! ノーザンシティのエース、ナメリック様のお帰りだぞ!」
――な、なんだ?
酒場の入り口で、人相の悪い男が騒いでいる。
とたんに、ワイルさんや冒険者たちは暗い顔になってしまった。
「あの、ワイルさん。あの人は誰ですかね」
なんとなく予想はついていたが、念のため尋ねる。
「あいつはナメリック……うちのエースさ」
やっぱり……。
「そうですか、あの人が例の……」
〔女癖が悪い……〕
〔マジきも~〕
ナメリックは“俺最強”とか、“世界一の男”とか書かれた服を着ていた。
自己顕示欲がめちゃくちゃ強いようだ。
ワイルさんが小声で教えてくれた。
「ソロでSランクダンジョンを攻略できるくらい強いのだが……その分、アクも強くてな。いつもあんな感じなんだ」
やがて、酒場もざわざわして不穏な感じになってきた。
「お、おい、ナメリックが帰ってきたぞ……」
「マジか、今までどこに行っていたんだ……」
「しかし、いつにも増して荒れてるな……」
思った通りというか、こいつはあまり好かれてはいないらしい。
ナメリックはずかずかこっちに向かってくる。
「なんだぁ、こいつはぁ? よそ者かぁ? 良い女どもを連れているなぁ、おい」
さっそく、ナメリックは俺を小馬鹿にしてきた。
何か言う前に、ワイルさんが説明してくれた。
「レイク・アスカーブさんだよ。グランドビールから応援に来てもらったんだ」
「おい、マジかよ! こいつがレイク・アスカーブ!? ヒャハハハハハ! 探しに行く手間が省けたぜ!」
え……こいつ、俺を探しにグランドビールまで来るつもりだったの?
こわぁ。
騒ぎを聞きつけてライブリーさんがやってきた。
「どこに行っていたんだい! ナメリック! 探したんだよ!」
「うるせえな! どこに行こうと俺様の自由だろうがよ!」
ナメリックは剣を引き抜くと、ベチャァ……と舐めている。
そして、その両目はカッ! と見開いていた。
――おいおいおい、見るからにヤバいヤツじゃねえかよ。もしかして、こいつもやらかしマ……いや、ちょっと待て。
俺は首を振って、考えを改める。
こいつは単に、金属が好きな男なのかもしれない。
そうだよ。
人の好みは三者三様、千差万別っていうもんな。
きっと彼は、金属が主食なんだろう。
「俺様が一番だ! 誰も俺様に逆らうことは許さねぇ! この世の全ては俺様の物だ!」
ダメだ、こいつもヤバい輩だった。
「ナメリック、いい加減にしな! そんなんじゃ、世の中でやっていけないよ!」
「あ゛あ゛!? お前をボコしてギルドマスターの座を奪ってやってもいいんだぜ!?」
ナメリックはライブリーさんに詰め寄っている。
俺はミウにこそっと話しかけた。
「どこかで見たような光景なんだが……」
〔え、ええ、そうね……〕
〔マジ、きしょすぎて、テンションサゲぽよ~〕
どうしてこう、ギルドのエースは凶暴なヤツが多いんだ。
「おらぁっ! 死んどけ、ライブリー!」
「「あっ、ギルドマスター!?」」
ナメリックはライブリーさんを思いっきり殴ろうとした。
ので、俺はとっさにその腕を掴んだ。
「おい、お前。やめろよ。というか、ほんとにエースなのか?」
「なんだぁ、てめえは? 俺様に触るんじゃ……ぐっ!」
ナメリックは力が強いようだったが、俺はその腕を掴んだまま離さない。
周りの冒険者たちが、緊張した面持ちで見ている。
「てめえ、離しやがれ! ライブリーの後にはキメラモンスターをぶちのめしに行くんだからよお!」
「キメラモンスターなら俺が倒したよ」
「んだと、コラァ! 俺様の獲物を奪いやがって! せっかく、新しいアイテムを試そうと思ってたのによ! おい、お前ら! 俺の獲物だから手を出すなって、言ったよな!」
ナメリックはワイルさんや周りの冒険者を睨みつけている。
「いや……ナメリックはクエストが終わると、いつもどこかに行ってしまうから」
「みんな毒にやられて、早く討伐しないとヤバかったんだ」
「か、勘弁してくれ。ギルドは限界だったんだよ」
冒険者たちは怯えていた。
ナメリックは強さの代わりに、何か大切な物を失っているようだ。
「エースはみんなを導く存在じゃないのか?」
「……チィ! クソッ、離せ!」
俺が手を離すと、ナメリックは痛そうに手をさすっていた。
「強さに自信があるのなら、みんなのお手本になれよ」
「うるせえ! 俺様がギルドで一番強いんだ! 俺より弱いヤツらは、全員俺様の手下だ! いや、手下ですらねえ! ただの道具だ!」
ナメリックは四方八方に怒鳴りつけていた。
あまりにも人間性がヤバすぎる。
「ふんっ……だが、レイク・アスカーブがここにいるとはな。ちょうどいい、キメラモンスターを倒した実力を見せてもらおうか。このギルドの闘技場でなぁ」
――まさか、この流れは……。
「俺と勝負しろ、このザコ虫が。負けた方が勝ったヤツの言いなりになるんだ」
「しょ、勝負……っすか」
「ああ、そうだ。聞こえなかったのかぁ? あぁん?」
ナメリックは俺より背が高いのに、なぜか下から睨んでくる。
めちゃくちゃ眉間にしわが寄っている。
たぶん、目が悪いんだな。
まごまごしてると、俺の体まで舐められそうだ。
「じゃ、じゃあ、俺が勝ったら凶暴な性格を直して、俺たちにもう絡まないでくれ」
「ハッ、良いだろう」
ナメリックは意気揚揚と歩いていく。
俺たちが戦うと聞いて、ギルドは騒然としだした。
「レイク! 本当に戦うのかい!? 別に無理して決闘なんかしなくていいんだよ!?」
ライブリーさんも慌てている。
「いや、大丈夫ですよ。それよりも、ナメリックが少しでも改心しれくれると良いんですが……」
〔レイクっちの戦いが見れるし~、マジテンションアゲアゲマジヤバ~。ミウっちもそうっしょ~? マジチョベリグって感じ~?〕
〔……とりあえず、あんたはちょっと静かにしてなさい〕
俺たちは闘技場とやらへ向かって行った。




