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73 完璧な皇妃になるために

 花嫁候補たちとリヒャルトの間では、定期的に選考とは別にお茶会が開かれている。

 選考会が始まった当初、リヒャルトの出席率はほぼゼロに等しかった。

 ただ花嫁候補たちが和やかに交友を深めたり、時にギスギスした雰囲気が漂ったり……そんな風に続いていたのだが、いつしか時折リヒャルトが姿を見せるようになったのだ。

 最初のガーデンパーティ―のトラウマもあってか、なかなかリヒャルトに話しかけられない花嫁候補も多い中、唯一物おじせずにグイグイ行く者がいた。

 それが小国マグリエルの王女、エルゼだ。

 花嫁候補たちは皆感づいていた。

 リヒャルトがこうしてお茶会に姿を現すようになったのは、エルゼの影響なのだと……。

 とはいえエルゼは吹けば飛ぶような小国の王女。


「エルンスタールの皇妃」として考えれば、あまりにも不利な立場だ。


 リヒャルトはエルゼを皇妃として選ぶつもりなのか。

 それともただの戯れなのか、はたまた別の女性を皇妃としてエルゼは愛人として召し抱えるのか……。

 おおっぴらに口にしなくとも、その光景を見守る花嫁候補たちはだいたい同じようなことを考えていただろう。

 だがここ最近、そんな二人の仲が明らかにおかしいのだ。

 まず、エルゼが前のようにリヒャルトに近づいていこうとしない。

 それどころか以前のはつらつとした雰囲気は鳴りを潜め、物憂げに俯いたり悲しげなため息を零したりとあからさまに沈んだ様子を見せているのだ。

 リヒャルトの方も、あからさまに出席率が落ちている。

 たまに顔を見せてもエルゼに声をかけないどころか、明らかに彼女の方へ視線を向けず、避けているのは明らかだった。

 これは二人の間に何かあったな……と、気づかない花嫁候補はいなかった。


「リヒャルト殿下は舞踏会の最終日にエルゼ王女を抱きかかえて退場したのでしょう?」

「その後に何かあったのかしら……」

「一時的なものならよいのですが……」


 二人の仲を案じる者もいれば、今がチャンス! とばかりに奮起する者もいないわけではない。


「ふふ、どうせこうなると思っていたわ! リヒャルト殿下からすればただのお遊びなのにあの小国の王女が本気になったから鬱陶しくなったんでしょう」

「本当に皇妃になれると思っていたのかしら。思いあがっちゃって馬鹿みたい」

「やはり皇妃にふさわしいのはグロリア様で――」


 会話の中にグロリアの名前が出てきた途端、周囲の花嫁候補たちは「しまった」とばかりに顔をひきつらせた。

 ……エルゼとリヒャルトの間に「何かあった」と予想される舞踏会の夜。

 本来なら、リヒャルトとラストダンスを踊り注目の的になるはずだったのはリグナー公爵令嬢グロリアのはずだったのだ。

 だが、彼女が有終の美を飾る直前に……彼はエルゼを抱きかかえて会場を後にしてしまった。

 グロリアはリヒャルトと踊る機会さえもなく、会場に取り残されてしまったのだ。

 予期せぬアクシデントが起こったということで、あの舞踏会自体は選考の対象からは外れるとすぐにと発表があった。

 だが、グロリアのプライドがいたく傷つけられたことは想像に難くない。

 グロリアやリグナー公爵家に睨まれることを恐れ、あの夜のことは花嫁候補たちだけではなく社交界の貴族たちもほとんど口にしない。

 口にしてしまったが最後、このように空気が凍り付いてしまうのだ。

 エルゼをよく思わない花嫁候補たちはおそるおそる、じっと黙って会話を聞いていたグロリアの顔色をうかがう。

 だがグロリアはその場で怒りをあらわにすることはなかった。

 ただツンと取り澄ました表情で、一言だけ告げる。


「あら、わたくしが何か?」


 その一言だけで、うっかりグロリアの名前を口にしてしまった令嬢は震えあがった。


「い、いえっ……! グロリア様は今日のお召し物もよく似合っていらっしゃって、まるで天から女神が降臨なさったかと――」


 わざとらしい美辞麗句を並べ立てる令嬢に、グロリアは内心で舌打ちをかみ殺した。

 ……気に入らない。何もかもが気に入らない。

 グロリアはエルンスタールの皇妃になるために育てられ、ここまで生きてきたのだ。

 それなのにあんな小国の王女に選考会を引っ掻き回され、この前の舞踏会では盛大に恥をかかされた始末。

 面と向かって笑われるのも我慢ならないが、このように腫れ物に触るような対応をされるのも苛立ってしまう。

 だが……何があったのかは知らないがエルゼとリヒャルトの間に亀裂が入っているのは好都合だ。

 ここをうまくつつけば……二人の関係は瓦解する。

 そうなればもうグロリアの独壇場だ。

 いずれ皇妃になることを考えれば、今から敵を作りすぎたり近づきがたいイメージを持たれるのはよろしくない。

 そう、誰もに愛される完璧な皇妃になるために。


「あら、ありがとう」


 優雅な笑みを浮かべてそう声をかけると、グロリアを褒めたたえた令嬢はあからさまにほっとした表情になる。

 その反応にまたもや胸の内がむかむかしてきたが、そんなことはおくびにも出さずにグロリアは次の話題に移った。

 ……内心では、いかにしてエルゼを再起不能なまでに蹴り落とすかを考えながら。


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