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37 なんだか今日は優しめで

「午後からは語学の授業ですよ、ルイーゼ皇女殿下」

「えー、退屈だなぁ……」

「まぁまぁそうは言わずに。立派な皇女になるために必要なことですから」


 現在、ルイーゼ皇女はラヴェンデル宮の中庭で休憩中だ。

 エルゼは草木に身を隠すようにして、その様子をこっそり観察している。


(私もよく授業をサボろうとして怒られたっけ……。ふふ、大国の皇女様もそれは同じなのね)


 頬を膨らませるルイーゼ皇女の姿に、かつての自分を重ねエルゼは微笑む。

 ルイーゼ皇女の周りには、いくつかの本が散らばっている。

「白うさぎの大冒険」「黒猫のお菓子屋さん」「こぐまの休日―」……。

 どれも可愛らしい動物を主人公にした話のようだ。

 その中の一冊を手に取り、ルイーゼ皇女は嬉しそうに開く。

 ちらりと見えた表示に、エルゼはぴんと来た。


(あっ、あの本知ってる!)


 エルゼが幼い頃、兄や姉と共に何度も読んだ本だった。

「森のお茶会」――森の動物たちが集まって、お茶会を開くという心温まるストーリー。

 どちらかというと庶民向けな内容だが、ルイーゼ皇女は目を輝かせて本に夢中になっている。


(森のお茶会、集まる動物たち……そうだ!)


 アイディアを思いついた表紙に、腕に抱いていたシフォンを強く締め付けてしまい「ぐぇ」という苦しそうな声が聞こえる。


『痛いよエルゼ~』

「ご、ごめんねシフォン! でもいいアイディアを思いついたの!」


 これならば、きっとルイーゼ皇女は喜んでくれるはずだ。

 きらきらと目を輝かせるエルゼに、シフォンはきょとんと瞳を瞬かせた。



 ◇◇◇



「さぁおいで~。怖くないよ~。ほらほら~」


 現在、エルゼは地面に這いつくばるような体勢で小さな仔リスと向かい合っている。

 仔リスは警戒をあらわにしているが、それでもエルゼの持つ木の実が気になって仕方がないのだろう。


「いい子だからおいで~。ちょーっと手伝ってくれればいくらでも木の実が食べれるのよ~」


 木の実を差し出すと、仔リスの鼻がひくりと反応する。

 ちょこちょこと慎重に近づいてきた仔リスは、「食べても大丈夫?」と問いかけるようにじっとエルゼを見つめる。


「えぇ、大丈夫よ。ただ、協力してほしいだけなの」


 エルゼの言葉が通じたのかどうかはわからないが、仔リスは警戒を解きかぷり、と木の実にかぶりついた。


「うふふ、可愛い」


 エルゼがそっとてのひらで持ち上げても、仔リスは逃げなかった。

 心を許してくれたのだろう。


「ういヤツじゃのう〜」


 愛らしい仔リスにデレデレになっていたエルゼは、背後から近づいてくる気配に気づかなかった。


「……何をやっている」

「うひゃあ!」


 突然背後から声を掛けられ、驚きに飛び上がる。

 慌てて振り返ると、そこにいたのはどこか困惑したような顔をしたリヒャルトだった。


「リ、リヒャルト殿下!?」


 そういえばここはあの廃教会のすぐ近くだ。

 リヒャルトと遭遇してもおかしくはないのだが、すっかり失念していたエルゼはばくばくと心臓が飛び出そうだった。


「き、奇遇ですね!」


 慌てて這いつくばっていた体勢から立ち上がり、服に着いた草や土を払う。


(うぅ、こんなみっともない姿を見られてしまうなんて、不覚……)


 予期せずリヒャルトと会えたのは喜ばしいが、間抜けな姿を見られてしまったのはマイナスだ。

 しどろもどろになるエルゼの体を駆けのぼった仔リスが、頭の上で「キキッ」と鳴いた。

 その光景を見て、リヒャルトは「理解不能」だとでもいうように眉根を寄せた。


「それで、何をやっていたんだ。そのリスはなんだ」

「えっとですね。詳しくは秘密なんですけど次の選考の準備と言いますか……」


 タイミングよく、エルゼの足元のバスケットの蓋が開き、中からシフォンが顔をのぞかせた。

 中にはシフォンだけでなく、何匹かのウサギが入っている。


「……動物園でも作るつもりなのか?」

「おぉっ、当たらずとも遠からず! リヒャルト殿下、冴えてますね!」


 動物園……ではないが、似たようなものだ。

 もうすぐそこに迫ったルイーゼ皇女の誕生祭。エルゼたちのグループは、舟の上で「森のお茶会」を再現しようと決めたのだから。


「とにかく、たくさんの動物が必要になるから協力を取り付けていたところなんです。ねっ?」

「キキッ」


 すっかりエルゼに懐いた仔リスが、相槌を打つように鳴いた。

 その姿を、リヒャルトは何も言わずにじっと見つめている。


(あれ、なんだか今日は優しめのような……)


 普段だったらもっと皮肉交じりに冷たい言葉をかけてきそうなものだが、今日のリヒャルトはエルゼの奇行に対して否定的なことは言わなかった。


(もしかして……動物が好きとか!?)


 ルイーゼ皇女はリヒャルトの異母妹だ。

 そのルイーゼ皇女が動物好きなら、リヒャルトだって動物好きなのでは?

 冷静に考えれば「いやそれは違う」となる超理論だったが、エルゼは大胆にもそのまま突き進んでしまった。


ちょっと体調が優れない状態が続いているので、しばらくの間投稿頻度を週一回程度とさせていただきます。

申し訳ございません。

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