25 新たな選考
待ちに待った次の選考の日がやって来た。
集合場所となっているのは、王宮の庭園の一角。
だが前回のようにガーデンパーティ―の準備がされているわけではなく、何の選考が行われるのかはわからない。
たどり着いたエルゼはきょろきょろと周囲を見回し、あることに気が付いた。
(前回よりも参加者が少なくなってる……?)
はっきり数えたわけではないが、確かに前回よりも人数が減っている。
気づいたのはエルゼだけではなかったのだろう。
周囲から声を潜めた会話が聞こえてきた。
「聞きまして? パトリツィア王女とカリーナ王女、花嫁選考を辞退され国に帰られたそうよ」
「カリーナ王女は当然ですわね。リヒャルト殿下に媚薬を盛ろうとしたなんて、その場で罰せられなかったのが不思議なくらいですわ」
「パトリツィア王女は……皆の前であんな風に袖にされたら、恥ずかしくてもう表には出られませんもの」
くすくすと馬鹿にするような忍び笑いが耳に届き、エルゼはむっとする。
媚薬の力に頼ろうとしたカリーナ王女はともかく、正々堂々と想いを伝えたパトリツィア王女に嘲笑される点などないではないか。
「もっとも、大恥をかいてもあさましく居座ろうとする方もいらっしゃるようですけど」
「田舎育ちの方は感性がずぶとくて羨ましいですわ。恥の概念というものをご存じないのよ」
あからさまにこちらを見ながらくすくす笑われたが、エルゼは堂々と胸を張って微笑み返した。
(ふん、言いたいだけ言えばいいわ。あなたたちと違って、わかってくれる人だっているもの)
この場にいる花嫁候補の何名かは、控え目にエルゼに声をかけてくれる。
「ごきげんよう、エルゼ王女」
「どんな選考かはわかりませんが、お互いに力を尽くしましょう……!」
「えぇ、ありがとう。皆様の健闘を祈ります」
彼女たちの言葉が、エルゼの背中を押してくれる。
背筋を伸ばし、堂々と待っていると……やがてぞろぞろと選考を司る女官が現れた。
彼女たちが一緒に連れてきたのはリヒャルト……ではなく、恰幅の良い中年男性だ。
洗練された衣装を身に纏っていることから見るに、おそらくはエルンスタールの貴族なのだろう。
「皆さま、本日はお集まりいただきありがとうございます。これより、次の選考の説明に入ります」
女官の言葉に、場内は一瞬で静まり返る。
エルゼも一言も聞き漏らさないように、耳を研ぎ澄ませた。
「リヒャルト殿下の花嫁……つまりエルンスタールの皇妃には様々な素養が求められます。本日の選考で見させていただく素養は……ずばり『芸術』『観察眼』『適応力』です」
女官がそう発表した途端、場がざわついた。
だがその中でも――公爵令嬢グロリアや彼女の取り巻きのアマ―リアを中心とした一団は、余裕そうな笑みを崩していない。
(おそらく……事前に選考内容を聞かされていたのね)
相変わらずの不平等っぷりに乾いた笑いが漏れそうになるが、このくらいでめげるエルゼではない。
(どんな選考でも、華麗に逆転してやるんだから!)
メラメラと闘志を燃やすエルゼの視線の先で、件の恰幅の良い中年男性が一礼した。
「本日の試験に際し、ラックス伯爵にお越しいただきました。ご存じの方も多いでしょうが伯爵は芸術方面に造氏が深く、数多くの芸術家を支援していらっしゃいます。まさに審美眼に関しては一流の御方です」
どうやら今回の試験は選考に関するものになるようだ。
(なるほど、音楽か絵画か詩作か……なんだっていいわ。私だって、ここに来る前にお母様やお姉様にビシバシ鍛えられたんだから!)
「今回の選考では、皆さまにここエルンスタール王宮の美しい光景を絵にしていただきます。画材の方はこちらでご用意いたしましたのでご心配なく。何を描かれるかに関しての制限はございませんので、人でも建物でも風景でも、ご自身の良いと思ったものを心のままに描き出してください」
なるほど、何を被写体に選ぶかというところから試験は始まっているということか。
「審査はこちらのラックス伯爵にお任せいたします。制限時間は夕刻の鐘が鳴るまで。そして一番重要なルールとして……」
女官はそこで一度言葉を止めると、険しい目つきで花嫁候補たちを見回し、告げる。
「花嫁候補同士での相談は一切禁止といたします。従えない場合は相応の処遇が待っていることをお忘れなく」
厳しい言葉に、集まった花嫁候補たちは息をのむ。
だがエルゼは内心で首をかしげていた。




