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11 死神との再会

「ほぁ!? ……ちょっと待って、あなたもしかして――」


 信じられない事態の連続だが、エルゼはふと過去の記憶を思い出す。

 そう、あれは……昔兄や姉と一緒に読んだ本に載っていた――。


「あなた、もしかして精霊じゃない!?」


 精霊とは、人間とも動物とも違う不可思議な存在である。

 神の使いだとも、自然の力が具現化したものとも言われているが、はっきりとその正体はわかっていない。

 その存在は希少で、ほとんど真偽不明の伝説のようなものだった。

 だが、エルゼははっきりと覚えている。

 昔読んだ本の中に、今の仔ウサギと同じように羽の生えた猫の姿をした精霊が出てきたのを。


『うーん、もしかしたらそうなのかも』

「……自分ではわからないの?」

『うん、わかんない。気が付いたらここにいたから』

「そう……」


 なんとか身を起こしたエルゼに、仔ウサギの精霊はすりすりとすり寄ってくる。

 そのふわふわの頭を撫でながら、エルゼは問いかける。


「……あなたの家族は?」

『わかんない……』

「そうなの……じゃあ、帰るところは――」

『…………』


 しょぼん、と落ち込んだ様子のウサギに、エルゼは慌てて明るく声をかける。


「じゃあ、私のところに来ない!? ちょうど私も一人なのよ!」

『ほんと!?』


 とたんに、ウサギは嬉しそうにぴん、と耳を立てた。

 その素直な反応に、エルゼはくすりと笑う。


「えぇ、二人なら寂しくないわ」


 エルゼとしても、何もわからない異国の地で話し相手ができるのは有難い。


「よろしくね、私はエルゼよ」

『エルゼ?』

「えぇ、そう。あなたは……」

『……名前、わかんない』

「そうなの。だったら……」


 ふわふわの体を持ち上げた時、エルゼはぴんと来た。


「シフォン! あなたの名前、シフォンっていうのはどう?」


 真っ白でふわふわなこの精霊は、エルゼの大好きな生クリームのたっぷりかかったシフォンケーキを思い起こさせる。

 そう告げると、ウサギは嬉しそうにぱたぱたと羽根を動かした。


『シフォン! 今日からシフォン!』

「ふふ、気に入ってくれて嬉しいわ、シフォン」


 ぎゅっと抱きしめると、あたたかなぬくもりが伝わってくる。


「私ね、探している人がいるの。どこにいるかはわからないんだけど……」

『んとね、シフォンも誰かを探してたの』

「本当!?」

『うん、でも……誰を探しているかはわからないの。どこにいるかも……』


 エルゼの腕から地面へと飛び降りたシフォンが、きょろきょろと周囲を見回した。


『もしかしたら、あっちにいるかも』

「あっ、待って!」


 ぴょん、と駆け出したシフォンを慌ててエルゼは追いかける。


(シフォンは本当に精霊? どうして精霊がエルンスタール王宮に? それに……誰を探しているの?)


 まだまだわからないことばかりだ。

 だが、どうせリヒャルトの居場所はわからないのだ。

 今はとにかく、シフォンについて行こう。

 ぴょんぴょん、と軽快に駆ける小さなウサギを、エルゼはひたすらに追いかけた。

 シフォンはどんどんと王宮の建物から離れ、ひとけのない方へ向かっているようだ。

 やがては島の端が近づいてきたようで、青く澄んだ湖面が見えてきた。

 そして、島の端までやってきたエルゼの目に入ったのは――。


「なに、これ……」


 もともとは何らかの建物だったのだろう。その残骸のだけが残っている。

 大きく崩壊しており、もはや原形をとどめていなかった。

 華やかなエルンスタール王宮とは正反対の、まるで別世界のような退廃的な光景だった。


「何なのかしら、ここ……。ねぇ、シフォンは知って――シフォン?」


 声をかけると、シフォンは慌てたようにエルゼの足元にすり寄って来た。


『ここ、怖い……』


 シフォンにはこの雰囲気が恐ろしく感じられたのだろう。

 安心させようと、エルゼは小さな体を抱き上げる。


「大丈夫、私がついてるわ。でもあなたの探し人はここにはいな――」


 注意深く建物の周囲を歩いていたエルゼは、不意に足を止めた。

 ……少し離れたところに、誰かがいる。

 たった一人、崩壊した建物を見つめるようにして立っている。

 エルゼはその姿から目を話すことができなかった。


(そんな、どうして……)


 エルゼの視線に気づいたのだろう。件の人物がこちらを振り返った。

 日に透けるような鮮やかなプラチナブロンドの髪に、人形のように整った顔立ち。

 氷のように冷たい蒼の瞳からはなんの感情も読み取れず、エルゼの頭に「先詠み」の力で視た夢がフラッシュバックする。


(リヒャルト……!)


 いずれエルゼを殺しマグリエルを滅ぼす、死神がそこにいた。

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