託される干し肉
聖堂騎士、後光のサルバドールが持つギフト“光輝粛清”。
それを含めたサルバドールに関する断片的な情報が、紙には書かれていた。
どうもこのギフトは刀剣類、主に刺突タイプの刀剣に付与する能力らしく、“日陰者”たちが共通して持っているクリスには全てこの“光輝粛清”が掛けられているらしい。
発見に至ったのは尋問の末にゲロった“日陰者”による証言と、証言を承けて短剣を詳細に検査した“月下の死神”が裏取りしたおかげらしい。呪いとか魔法とかスキルの調査は結構スムーズにいくのだが、ギフトになるとどうにも痕跡を辿りにくいって話は聞いたことがある。結構手こずっていたのかもしれないが、聖堂騎士のギフトを暴けたのは大手柄なのではないだろうか。
肝心の“光輝粛清”の効果だが……“敵に応じて剣の鋭さを底上げする”というものらしい。
便利そうだけど……なんか地味だな! って俺は思ったのだが、話はそれだけに止まらないそうで。
情報を引き出した“日陰者”も組織の中では下っ端だったためにそいつ自身も詳しくは知らないようだったが、間違いなく他にも効果があるとのことだ。
色々と試したところ、確かに相手に反応して剣に魔力が流れて鋭さを増しているのだが、その発動条件がかなり限定的だという話だ。
例えばレゴールの兵士がクリスを持ち、拘束された“日陰者”と対峙しても発動する様子はない。
しかし“日陰者”に握らせた場合は、レゴール兵士相手にしっかりと発動するのだ。敵に応じてと言うにはちょっと違う。“ハルペリア人相手限定で鋭さを増す”という方がしっくりくる。だとするとなんかこう、感じ悪い能力だが……それでも地味な能力の域を出ない。
長年聖堂騎士をやってる奴がそんな地味なわけねーだろってことで、“他にも何かありそうだから油断すんな&何かわかったら報告してね”ということだそうだ。
「現在、バロアの森は複数の大手パーティーと軍属経験のある有志の方々が組んだ組織がパトロールしています。これにより、浅層部分の安全を確保していますが……“日陰者”はどこに潜んでいるかわかりません。モングレルさんもお気をつけください」
「ああ、わかってるよミレーヌさん。無理はしないさ。そっちもあまり無茶しないようにな」
「ありがとうございます。お達者で」
“日陰者”が持つ短剣の能力は未だよくわかっていない。相手の目的も不明だ。“日陰者”への尋問は行われているが、後光のサルバドールはあえて部下たちに何も伝えずに連れてきたらしく、どれだけ脅そうが痛めつけようが大したことは喋らないらしい。
幼い頃にギフトを見出され、専門の施設で徹底的に洗脳じみた教育と訓練を施され、手駒にされる。それが“日陰者”であり、“日陰者”たちには詳細な情報など与えられていない。
……わかったことといえば、後光のサルバドールがそういう連中を率いているクソ野郎ってことくらいなもんだな。
気は滅入るし参考になるほどの能力の情報ではないが、まあ、森を散歩するモチベーションにはなったから良しとしよう。
出発の直前に、森で発見されたギルドマンたちの遺体が並ぶ場所で軽く冥福の祈りを捧げる。
見ない顔もあればたまに見る顔も並んでいて……その骸を前に涙を流す仲間の姿や、兄弟の姿もあった。
そしてギョッとすることに、その近くで“ローリエの冠”のメンバーの姿を見つけてしまった。
しかもいるのは青ざめた顔で話しているローサーとロディの二人だけ。リーダーであるダフネがそこにはいない。
「おい、ローサーとロディ」
「あ……モングレルさん!」
「モングレルさん、大変なんだ。聞いてくれ」
「ダフネは? ……死んだわけじゃないよな?」
「森でダフネとはぐれた……! 昨日、探索してたら急にギルドマンになりすました奴に襲われて……!」
どうやら“ローリエの冠”も“日陰者”の騒動に巻き込まれたらしい。
それは、行方不明になった奴らの一覧を見てわかってはいた。ダフネがいないってのも書いてあったからな……。
けど、ダフネが死体になってるとしたら……。
「三人で森を歩いてたら、ソロのギルドマンが声を掛けてきたんだ。水を分けてくれないかって……けどダフネが“あいつは敵だ”って、すぐに看破して……躊躇無く手斧を投げてくれたお陰で、どうにか不意打ちは突かれないで済んだんだけど……相手が強すぎて……」
そう言って、ロディは自分のレザーアーマーの端を摘んで見せた。よく見るとレザーには長い切れ目が入っており、ベロンと捲れてしまっている。盛大に剣で切り裂かれた痕だ。
……ああ、内側に仕込んでた罠用の金具で刃が止まったのか。なんて運の良い奴だ。
「もう強すぎてどうしようもなかったからな……ダフネだけ全力で逃がして、俺たち二人で足止めしたんだ。ローサーは重装備で逃げられないだろうし、だったら俺が攻め手にならないと駄目だろ。けどダフネに危険を背負わせたくなかったから……逃げてもらって」
「……お前ら……随分と格好良いことするじゃねえか」
女一人を逃がして、男二人で“日陰者”に立ち向かったのか。やるじゃねえの……。
「それでどうにか勝ったんだけどさ」
「勝ったのか!?」
「ダフネが最初に斧でザックリと怪我を負わせてたのと、ローサーの守りが相手からすると予想以上に硬かったのと、俺が鎧の内側に仕込んでいた金具が辛うじて身を守ってくれたのと……俺が思い切り振り下ろした剣鉈が、なんとかギリギリ相手の脳天をかち割る威力があった。……それだけだ。運が良かったよ。剣を当てられた回数じゃ、全く戦いになってなかった。死んでないのが今でも不思議だ」
「怖かった」
「お前はデカい盾があるから良いだろ。俺なんてまともな防具がなくてもっと怖かったぞ」
偶然や幸運に恵まれたとはいうが、“日陰者”一人を返り討ちにできたのはすげぇと思う。よくやったと褒めてやる。
……けどダフネがいないのは……。
「それから、逃げたダフネの行方がわかっていない?」
「ああ……場所も悪かったんだ。ちょっと奥側で、慣れてない場所だったし……ダフネも必死で走ってただろうから、迷っても仕方ないと思う。……ただ迷ってるだけならいいんだ。でも、今は“日陰者”っていうあいつらが大勢いるんだろう? 俺とローサーだけじゃ、無理だ」
「探してやりたいけど、俺達二人じゃ危ないからな……誰かのパーティーと一緒に行けたらと思って、ここで待ってるんだよ」
……良かった。ひとまずはセーフだ。まだダフネが死んだと決まったわけじゃないか。
いや、遺体安置所に二人がいるから普通に焦ったぜ。ちょっと安心したわ。……そうか、ダフネは行方不明か。できる限り、それも探さないとな。
「……探す他にも仕事はあるから、ミレーヌさんに聞いておけ。探索は強い連中に任せときゃいいさ。無理はもう昨日やっただろ?」
「でも、ダフネがさぁ……」
「安心しろ、俺が見つけてきてやるさ。これから捜索目的で森に入るからな。だからダフネが居そうな場所を教えてくれ。そこを目安に調べてやるよ」
「モングレルさん……ありがとう!」
「ありがとうモングレルさん、ダフネを……見かけたら、頼む……! 少ないけど、これ……!」
ロディは自分の荷物から薄手の革袋を取り出して、俺に差し出してきた。
「探索用にまとめてきた干し肉……モングレルさんが持っていってくれ。魔物を惹きつける匂いは出にくいけど、しっかり味はする自家製の干し肉なんだ。俺が持っているよりモングレルさんの方が良いだろうから……だから、頼むよ」
「……ははっ、まさかロディの方から干し肉を渡されるとはな」
俺はちょっと複雑な、けど確かに温かな想いを感じた。
しょうがねえ。肉は美味いからな……持っていっておやつにしてやるよ。
「報酬を貰っちまったら働かないわけにはいかねえよな。任せとけ、絶対に見つけてやる」
「ありがとう、モングレルさん!」
「……けどここまで格好つけといてなんだけど、ダフネって結構しぶといっていうか、生命力強いからな……俺が森に潜ってる間に戻って来るかもしんねえから、その時はあれだ。二人は温かく出迎えてやれよ」
「はは、わかってるよ……ありがとう。気をつけて」
二人の若者に託されて、俺は更に背負う物を増やすのであった。
さあ、そろそろ出発しよう。
食料とやる気は十分だ。あとはじっくりとバロアの森を探索することにしよう。
なに、適当に歩いて、適当に出会った敵を仕留めていくだけだ。
やること自体は例年と変わらない。場所が少し違うだけ。
今年も頑張ってやっていきましょう。
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