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バスタード・ソードマン  作者: ジェームズ・リッチマン


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夏の定期ピクニック


 翌日、まだ夜のように暗い明け方に俺は目を覚ました。

 ソロでバロアの森に潜り、遥々サングレールからピクニックに来ているお客様を歓待するためだ。

 レゴールの入口で“ようこそ、ここはレゴールの街だぜ”と話すだけのモブ男としては、やはりお客様は全て等しく歓待してやりたいのだ。

 レゴールへようこそいらっしゃい。良く来たね。あんたはどうしてこの街に? 仲間の数と配置は? 話すことはいくらでもある。楽しみだぜ。


「……いつもなら野営道具をしこたま持っていくところだが……さすがに呑気にソロキャンはやってられないからな。装備多めにしておくか」


 幸い、季節は夏だ。夏の野営は虫の不快感を除けば凍死のリスクもほぼ無いので、楽ではある。冬よりも装備はずっと少なくて済むからな。

 おかげで装備類を多めに持っていける。バスタードソード、ランタンシールド、ヘルム、胴鎧、投げナイフ、チャクラム、ソードブレイカー、その他色々……もちろん結構無茶な背負い方にはなるが、隙間に布系の道具を詰め込めば案外なんとかなるものだ。

 俺の場合、重量に関してはほぼどうとでもなるんでね。むしろガッチリとした造りで壊れる心配のない金属系の装備類はそれだけで運びやすいまである。ランタンシールドなんか本来明かりを入れるところにバックラー型のフライパンまで入っちまうんだぜ……。

 鎧やヘルムなんかも空洞の中に着替えとかテントの布地をギュウギュウに詰め込めるしな。嵩が減るから楽なんだこれが。

 そんな持ち歩き方していざって時装備できないだろって思われるかもしれないが、それに関しても全く問題はない。リュックの中に入っていても全然大丈夫。俺はスキルを使えば早着替えできちまうからな。おかげで着脱用の紐の結び方と解き方を完全に忘れてる装備がいくつかあるレベルだ。今更覚えるのも億劫でなぁ……。


「……さて。とりあえずギルド寄ってから……行くか」


 準備はできた。仕上がってみれば、装備はいつもの夏キャン用の大荷物である。

 奇しくも、俺は毎年この時期に大荷物を抱えてバロアの森で長期ソロキャンを嗜んでいることになっている。今も丁度それに近い時期だ。

 例年の実態は、バロアの森ではなく故郷シュトルーベでの墓参りなのだが……どうやら今回は、本当にバロアの森での長期キャンプになるらしい。嘘から出た真だな。


 ま、つまりはいつもと同じってことだよ。


 大荷物を担いで森を歩いて、野営をして……夏の虫の鬱陶しさに時々イラッときては、下草を剣で薙ぎ払い、一仕事を終えたら座って水をガブ飲みし、魔物除けのお香の煙が空に昇っていくのを眺めるのだ。




「おはようエレナ。……朝早いのに忙しそうだな」

「ああ、モングレルさん……おはようございます」


 ギルドは既に動いていた。昨日から続く事件への対応のため、しばらくは二十四時間体制になるのだろう。町中にもちょくちょく衛兵の見張りがいたし、厳戒状態だ。当然、ギルド職員はフル稼働なのだった。


「忙しいですよ、本当に。ミレーヌさんがバロアの森に行ってていないので……」

「え、マジか。なんでミレーヌさんが森に?」

「今回は現地での窓口が必要との判断でして……それに、ギルドマンの顔を一番よく知っているのがミレーヌさんですから……いつもすごい仕事のできる人ですけど、今回ばかりは本当に尊敬しますよ。私は森で寝泊まりなんて恐ろしくてとてもじゃないけど無理です」


 ミレーヌさんは顔の広さを買われ、バロアの森の陣地で仕事をしているらしい。出張受付嬢である。

 色々と物が運ばれて居住空間も整えられてはいるんだろうが、都会暮らしの女性にとっちゃかなり劣悪な環境だ。ミレーヌさんも当然それを承知の上で行ってるんだろうが……たくましい人だな本当に。昔からそうなんだろうなぁ……。


「ギルド職員の事務仕事を手伝ってやりたいところではあるけど、俺はただのギルドマンだからな。森の中で仕事させてもらうよ。とりあえず訊くだけ訊くけど、今何か美味しい仕事はあるかい?」

「モングレルさんは平常運転ですね……ええ、色々ありますよぉ、特大の仕事が。バロアの森入口までの物資運搬、森での行方不明者捜索、臨時伐採作業者の護衛……今ならどれも特別報酬が付いてて稼ぎ時となってますよぉ」


 カウンターで頬杖を付きながら、どこか自棄っぱちな雰囲気で話している。接客態度の優れた受付嬢さんだな。


「そいつは稼ぎ時だねぇ、心惹かれるぜ。……で、仕事受けてるギルドマンはどんくらい?」

「……まだ朝早いのでなんともですけど、大手以外の人は渋ってる感じですねー……多分今日中にはギルドから告示が出て、シルバー以上のギルドマンには招集がかけられると思うんですけど……そうしたら森の浅層辺りはガッチリと固められるんじゃないでしょうか。わかんないですけど」

「兵士の動きはどんな感じ?」

「兵士さんのことはわかりませんよ私。お仕事してるんじゃないですか?」


 なるほど、まあだいたいわかった。さすがに徴兵よりもちょっと緩めで、ギルドマンたちの腰もやや重めってところだろうか。

 戦争では勇むような奴でも、正体不明のエリート相手はさすがに及び腰にもなるってことだろう。気持ちはすげぇわかる。普通に嫌だよな。


「じゃあ俺は行方不明者の捜索任務を受注させてもらうよ。いつもこの時期に長期キャンプしてるから、そのついでにな」

「長期……その荷物、本気です? いえ、ギルドとしてはありがたいことなんですけど……相当に危険だって話ですよ? 既にギルドマンも何人も殺されてるみたいですし……」

「大丈夫大丈夫、俺はレゴールで一番強いギルドマンだからな。地域補正でハルペリア最強になってるから問題ねえよ」


 エレナは俺を気遣う気持ちもあったのだろうが、仕事は仕事だ。

 半分呆れた顔で、臨時の証明書を渡してくれた。こいつをバロアの森の臨時基地まで持っていって、そこの窓口に出せば良いらしい。多分そこではミレーヌさんが色々やってくれるのだろう。向こうに行けばもうちょっと詳しい現況が聞けそうだ。


「気をつけてくださいねー」

「おー」


 ギルドを出た俺は馬車駅の近くで既に開店していた商魂逞しい屋台でいくつか携行食を買い込んでから、バロアの森へと向かった。




「モングレルさん、おはようございます」

「やあミレーヌさん、おはよう。……ミレーヌさんが森の中にいるの、すっげぇ変な感じするな。大丈夫かい?」

「ふふふ、そうでしょうか? 私は昔はこういった場所にもよく訪れていましたので、皆さんに心配されるほど辛くはありませんよ」


 臨時基地に行くと、やはりミレーヌさんが居た。天幕の下でいつものギルド職員の制服を着て、いつも以上に質素な机と椅子で受付をしてくれている。違和感がすごい。


「基地もすげぇな。昨日の夜から随分と工事が進んだんだな……」

「はい。警備も兼ねて、夜を押して皆様作業してくださっていました。“若木の杖”のサリーさんがいくつも光源を配置してくださったおかげで、とっても快適だったんですよ。こうして実際に、現地で皆さんの働きを見たいと思っていましたので、不謹慎なタイミングではあるのですが、少し感動しています」


 なるほど、サリーも活躍してたのか。こういう外での陣地構築では光魔法は大活躍だろうな……。敵が潜んでいそうな場所に光を配置しておくだけでも十分侵入者除けになるだろうし、夜間作業するにも最高だ。


「“アルテミス”の皆さんはあちらの砦に詰めて防衛してくださっています。臨時基地周辺の木を伐採して射線を確保、砦上部から周囲を警戒といった形ですね。ナスターシャさんの水魔法のおかげで衛生用水も問題ありません。頼もしい限りです」

「なるほど、さすがゴールドランクのパーティーだ」

「ライナさんにご挨拶されていきますか? それとも、受注を変更してモングレルさんも“アルテミス”と一緒にお仕事をされるということもできますが……?」

「ああそれはいいよ。挨拶も大丈夫だ。普通に森に入って、ギルドマンの捜索をやるさ。例年のキャンプついでにね」


 俺がそう言うと、ミレーヌさんは困ったように微笑んだ。結構お節介焼きな人である。

 挨拶も別にいいよ、変なフラグになりそうで逆に怖いからな。ミレーヌさんには森行ってくるわって伝言だけお願いしとくぜ……。


「……で、実際森の状況はどうなんだい。基地の中が兵士やギルドマンが多いのは見りゃわかるが……」

「不明な点は多いですが……訊かれる方が多いので、現状につきましてはこちらの書類にまとめておきました。御覧ください」

「お、助かるね」


 ミレーヌさんが見せてくれた紙には、色々と続報などもあって訂正線なども引かれていたが、現況がわかりやすく書かれていた。


 発見されたギルドマンの死者の数とその名前。

 現在もバロアの森に潜ったまま帰還していないパーティーやギルドマンの名前。

 交戦の末に死亡した“日陰者”と思しき犯罪者の数。


 ……やはりギルドマン側の死者数が昨日よりも増えている。ざっと三倍だ。知らない名前も多いが、知ってる名前もちょくちょくある。……まじか、この人殺されちまったのかよ。

 未だ帰還していないギルドマンの名前も……ちょっと驚くようなものがあった。


 けど今のところ、俺が留意しておかないといけないのはその下に書かれている“日陰者”に関する情報だ。


 “光輝粛清(トショカール)”。

 “後光のサルバドール”が使うギフトの断片的な情報が、そこにはまとめられていたのだった。


マスクザJ様によるコミカライズ第3巻が2025/11/27に発売されます。今回もウルリカとライナの表紙が目印です。

描き下ろし漫画が非常に豪華な巻となっております。

メロンブックス様では私の短編SS特典もついてきますよ。

よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
これギルドマンを殺戮していって、交渉のテーブルにアーレントさんを引き出したいのだろうか。狙いが陽動以外で分からんな
唐突にcv.津田健次郎になってて草 これバロアの方にかかりきりになると悪魔の正体はここにいる奴だって勘ぐられそうですね。いつもイベントの本筋には絶対に関わらないでお馴染みだったのに張り切っちゃうから
蒸着じゃないけど 収納したままで装備装着がスキルで出来る弁理そうだけど スキル解除したら装備は収納された状態なの? そこら辺とっちらかって回収忘れたりしない   あとそれでスキル発動したら全て煤けませ…
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