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バスタード・ソードマン  作者: ジェームズ・リッチマン


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イカれたメンバー


「こりゃ駄目だ」

「駄目だな」

「無理だなこれは」


 いざグリムリーパー討伐。そう意気込んで東門までやってきた俺だったが、そこには定期便の馬車を待つギルドマンの行列があった。

 “なんだかよくわからんがゴブリンの強いやつを倒せば金が貰えるんだろ?”みたいなニヤケ面を浮かべている連中が特に多い。誰も彼もがボロい任務だぜって感じの気軽さでバロアの森に向かっているようであった。


 レゴールからバロアの森入口までを往復する馬車は年々その本数を増しており、今日なんかは特にひっきりなしに運行されているが……この様子では森についたところで、どこを見てもギルドマンが居そうな雰囲気だ。とてもではないがまともに討伐できる気がしない。さすがに獲物の取り合いになるだろう。それに、同じ場所を大勢で探してもな……。

 同じことは俺の近くにいたロレンツォやヴェンジも考えていたようで、お互いに顔を見合わせ、誰からともなく作戦会議をすることになった。


「グリムリーパーは討伐してぇんだけどな。皆して同じ場所で探すのはさすがに厳しいよな」

「誰かが探した場所を探し返すようになりそうだな……俺は御免だ。多少離れていても、別の場所から探索を進めたい」


 ロレンツォは元々大人数で群れるタイプではないから、まぁそう言うだろうな。

 実力もあるし、ちょっと木々の深い場所からでも探索できるだけの能力はありそうだ。


「ハッ、同感だ。俺は久々に金の匂いがしたから討伐に来たんだぜ? こっちだって無駄足で帰るなんざお断りだ。北部寄りから入って探すことにするぜ」


 ヴェンジは普段色街の用心棒をやっているので、滅多に討伐に参加することはない。

 だが丁度今の時期は暇なのか、金属製の警棒のような武器を持っての参戦である。確かヴェンジは打撃タイプのスキルばかり持っている奴だったので、それを上手く扱える武器なんだろう。


「じゃあ三人で北部の探索でもしようぜ」

「断る」

「嫌だね。一人でやってな、モングレル」

「二人とも即答すぎんだろ」


 良いじゃねえか三人くらいで等分だったらよ。索敵の下手くそな俺を寄生させてくれよ。荷物持ちくらいなら喜んでやってやるぜ? 強い奴らと組んで討伐すればやっかみも少なくなるだろうしさあ。


「三人で場所を被らせても効率が落ちるだろう。探索エリアを分けて互いに不干渉で潜らないか」

「オッ、良いねぇ。さすがは“報復の棘”の人間だ。話がわかるじゃねえの」

「付き合い悪い奴らだなー……俺が一人でグリムリーパー討伐しちまうからな?」


 二人は言葉を返さず、やれるもんならやってみろと言いたげに鼻で笑っていた。

 ……スゥー……まぁまぁ、まぁまぁまぁ良いさ。

 ちょっとばかしいつも以上に強めの身体強化で森を探索してやるからよぉ……!




 人の多いポイントよりもやや北寄りからバロアの森へと進入し、ある程度行ったところでロレンツォとヴェンジの二人と別れた。

 夏に入りかけて下草の多くなった悪路を強引に進みつつ、グリムリーパーのついでに何か魔物がいないかと探してはみるが、普通の獲物だってそう簡単に見つかるものではない。根気よくやっていくしかないな。


 ……あの二人は俺以上にソロ気質なとこあるからなぁ。なんていうか、根っからの一匹狼というかね。

 俺なんかは人目につかないところでチートでズルしたいって理由でソロが好きだが、何でもかんでも一人が良いってタイプじゃねえんだよ俺は。できることなら気の合うやつと一緒が良いしな。楽しいから。

 一人でハルペリアを旅していた頃はその辺りの感覚は麻痺していたが、誰かと過ごし続けているうちに段々と前世からの感覚を取り戻しつつある。一人より大勢のほうがやっぱ好みだ。

 こうしてただ森を探索するだけってのも飽きるしなぁ……大人数とは言わないから、せめて誰か一人くらいは一緒に居て欲しいところだぜ。


「……ん、何か気配がするな」


 小規模な川辺に近づいてきたところで、俺は珍しく何かの気配に勘付いた。俺が気づけるってことは、相当に迂闊なやつが近くにいるということだ。

 経験上、こういう時の獲物は俺に気づいていないパターンが多い。

 しめしめだ。無防備な魔物か、あるいは元から警戒なんて考えもしないグリムリーパーか……。


「……あっ」


 藪を跨いで向こう側の景色を見た時、気配の正体が目に入った。


「ふんふんふーん……おっ? おおお? おおなんだ!? モングレルじゃねえか!」

「あ……ども……」


 やっべ、ブレーク爺さんじゃん……。

 なんか上裸でバーベキューやってんだけど……何してんだこの爺さん……。


 茂みの音で一発で居場所がバレた俺は、かなり気が進まなかったものの諦めてブレーク爺さんの前に出た。この爺さんを無視すると後でだいたい面倒な絡まれ方をするのだ。この場でコミュニケーションのノルマを済ませておかなければならないのだ……。


「なにやってんだい、ブレーク爺さん……」

「おうよ! 岩塩で肉焼いてんだ!」

「へー」


 今度はどんな非合法なことをやってんのかと身構えていたが、どうやら随分とまともなバーベキューをやっているようである。

 焚き火の中に置いた四角い岩塩。その上に薄切りにした肉を置いて、じわじわと焼いているようである。脂の出てきた肉に岩塩の味が移り、なかなか美味くなっていそうである。普通に美味そうだ。


「数日前にどっかの馬が逃げ出したみてぇでよぉ! 森の中で脚をやっちまったみてぇで、身動きできなくなってたんだわ!」

「ふんふん……ん?」

「こいつはツいてるぜって思ってよ! そいつを絞めて肉にして食ってんだわ!」

「おお……」


 普通かと思ったけどそうでもなかったわ。

 いやまぁ森の中に迷い込んだ馬は大抵ロスト扱いになるけどさ……見つけた以上は念のために街に戻してやっても……いや、今回ばかりは多くを求め過ぎか。怪我をしていて動けないなら、治療も難しかったかもしれないしな……。


「モングレルもほれ、食えよ肉! 塩味強くてうめぇぞ! 酒が進むんだ! ガハハハ!」

「ウッス……イタダキャス……」


 大量にあるらしい肉を仕方なくいただいておく。俺も共犯になっちまう……。

 ……しょっぱ! しょっぺぇよこの肉! 塩分吸いすぎだわ! 酒のツマミっつっても限度があるだろ!?

 腎臓の未来を諦めてないとこのしょっぱさは楽しめねえぞ……!


「で、なんだってモングレルはこんなとこに来てんだよ? なんか変な草でも育ててんのか? ヘヘヘ」

「いやそういうんじゃないっす……普通に討伐だよ。なんでも、ゴブリンに憑依したグリムリーパーが出たっていうからさ。剣霊ワットタイラーっつうんだと。そいつに懸賞金が掛かってるもんだから、今ギルドマンが大勢森に入ってるんだよ」

「なんだ? ゴブリンのグリムリーパーだと? おいおい、良い金蔓じゃねえか!」

「みんなそんな感じで森に入ってるんだよ。まぁだから物騒な時期だから、ブレーク爺さんもあんまり無防備に野営するもんじゃないぜ?」


 うーん、しょっぱい……が。しょっぱいは美味い。生憎と酒はないが、行動中に塩分を摂取しながら食うものとしてはかなり上等な気がするぜ……欲を言えば、レモン汁たっぷりの茶碗に肉をガガガッと潜らせて塩味を落としまくってから食いたいところだが……。


「そいつは逃す手はねぇな……おいモングレル! 一緒にグリムリーパーぶっ殺しにいくか!」

「ああはい……えっ?」

「グリムリーパーだよ、ぶっ殺して懸賞金を掻っ攫おうや! ちょうど森の中で食える大量の肉もあるしな! ガハハハ! 他の連中よりじっくり探索できるじゃねえか! なあ!?」


 マジかよ……すっげぇ乗り気じゃんブレーク爺さん……。

 いや、この爺さんがやたら強いってことは知ってはいるが……強いのは知ってるんだが……。

 さっきは俺も誰かと一緒が良いとは言ったが……! 誰でも良いってわけじゃないというか……!


「おうモングレル、食ったらすぐ動くぞ! ワットタイラーだっけか? ユニークは早いもの勝ちだ! ぶち殺して賭場の種銭にすんぞ! ガハハハ! あ、そこに引っ掛けてある肉はモングレルが持てよ!」

「……ウッス……」


 なんかもう既に俺と一緒に行動することが決まってる感じだしよ……。

 まじかよ……ブレーク爺さんと一緒かよ……嫌過ぎる……。


「討伐したら分け前は半々な!」

「そりゃ当然だぜ爺さん……」


 こうして、俺はブレーク爺さんと一緒にグリムリーパーを捜索することになったのであった。


 ……“ローリエの冠”と一緒に探索しとけば良かったぜ!



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― 新着の感想 ―
正直この爺不快だからまだ出てくるのかよって感じ・・・
最後まで読んだーリアルなスローライフがすごく面白い 設定やキャラの言動に違和感がなくてよき それそうと作者のブックマークやお気に入りユーザーが全部リッチや死霊関係で笑った
ブレーク爺さんのメイン武器がバスタードソードだから チーム バスタード・ソードマン の結成だな
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