表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バスタード・ソードマン  作者: ジェームズ・リッチマン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

360/404

串刺し通り魔殺人事件


 “報復の棘”のローザに殺人の冤罪を着せようとしている奴がいる。

 実際に濡れ衣として成立するかというと微妙なのでただの嫌がらせ目的だったのかもしれないが、そのために殺人をしたのだとすればそれはそれでやりすぎだ。その程度で殺しのラインを超えてくる奴は逆に危ないだろう。野放しにしておくわけにはいかない。


「同じギルドマンとしてよ……許せねぇよな、レオ」

「うん。まあ、許せないね」

「だったらもう……捕まえてやるしかねえよな! 誰よりも早く!」

「そこで“誰よりも早く”って表現が出るのはちょっと違和感があるけど……まあ、競うように一刻も早く捕まえるべきだよね」


 せっかくなので俺と同じくギルドに来ていたレオを捕まえて、この一件の捜査に乗り出すことになった。

 レオは修練場で稽古をするつもりで来たらしいが、その予定を返上して俺に付き合ってくれる程度には義憤に燃えているようだ。


「まぁ必要なのは直接的な犯人確保ってよりは犯人に結びつくような情報なんだけどな……ほら、逮捕そのものは当事者と衛兵に任せるのが筋っていうか……あくまで俺等はそのお手伝いっていうか……」

「もう素直に賞金が欲しいって言えば良いのに……お金目的でもちゃんと付き合うよ。僕も“報復の棘”の人からは何度か剣術を教わったし、犯人に思うところはあるもの」

「ああ、レオは何度か連中と稽古してたんだっけか」

「うん。皆とても強くて、勉強になるんだ。お世話になった分、お返ししなくちゃね」


 爽やかに微笑むレオの純粋さに俺の邪念が除霊されそうになったが、金が欲しいという想いもまた人間にとってある種の純粋な欲求である。負けてらんねえぜ……。


「よし、じゃあ早速捜査を始めるぞ! ワトソン君!」

「誰?」


 そういうわけで、俺達の事件捜査が始まったのであった。




「さて……まず事件について詳しく調べないことには捜査もクソもない。今朝何が起こったのか、現場に行って詳しく聞き込みするぞ」

「あ、結構まともに調べるんだね……安心した。てっきり怪しい人を見かけたら無差別に声をかけたりするんじゃないかと思ってたよ」

「お前は俺をなんだと思ってるんだ……?」


 レオからナチュラルに失礼な嫌疑をかけられたが、捜査の基本は聞き込みだ。そもそも俺らは事件のあらまししか聞いていないし、部外者である。噂好きのおばさんと同レベルの野次馬だ。当事者にはなれないにせよ、しっかり情報を集めないことには捜査の足がかりにすらならん。

 なのでひとまず、殺人事件が起きた現場へと脚を運ぶことになった。


 殺人は、安い宿屋が連なる狭い裏通りで行われた。

 建築資材の加工を行う現場から少し離れたところにある路地で、殺された被害者は加工所で働く出稼ぎ労働者の一人だったらしい。


「当たり前だけど、もう死体は残っていないみたいだね」

「まぁ現場保存なんてこっちも期待しちゃいなかったけどな……噂話で大体のことはわかったし、良いだろう」


 被害者の詳細な情報も集まったが、あまり重要ではないと思われる。ローザに罪を着せるためだけに行われた犯行だとすれば、無差別な殺人だったろうからな。

 重要なのは殺人が行われた時間やその方法、犯人につながる手がかりだ。


 犯行現場の近くには衛兵が数人いて、聞き込みやら警備を行っている。既に被害者の遺体は回収された後のようだが、彼らも俺達と一緒で現場近くを張っていたらしい。いいセンスだ。


「おい、そこのお前」


 と、衛兵を見ていたのが悪かったのか、声をかけられてしまった。


「はい、なんでしょう」

「ギルドマンだな? ここで何をしている」


 若い衛兵だった。怪訝そうな目は、俺の前髪や胸元のブロンズ3の認識票を睨んでいた。

 なるほど、現場を観察するならず者に目をつけたわけか……いいセンスだぜ……。


「いやー……何か大きな事件があったそうなんで、どうもそれが気になっちゃいまして」

「ふん……ここはお前たち暇なギルドマンの出る幕じゃないぞ。現場を荒らされると困る。さっさと散れ」

「ええ、そうしますよ。死体ももう残されてないみたいですしね……朝から警備ご苦労さまです」

「……ふん」


 あ、もうちょい押せば少しは喋ってくれそうな感じがするなこれ。

 最初の感触こそ塩だったが、話せばいけるタイプだ。


「随分と惨たらしい現場だったって聞きましたよ。そういうとこの調査も大変そうっすね。……被害者にはたくさんの針が突き刺さってたって話でしたけど、やっぱりそれが凶器だったんすか?」

「さあな……衛兵長の見立てでは、血の流れ方からして後から刺したものも多いそうだが……犯行の瞬間を見た奴は誰もいない。確かなことは言えないな」

「殺した後にわざわざ何本も針を刺したってことっすか。じゃあ……やっぱりローザが無罪ってのは間違いなさそうだな。良かったな、レオ!」

「え、ええ……?」


 さもレオに吉報を届けられたという感じで、彼の肩をバンバンと叩いてやる。レオは困惑気味だったが、一応俺に合わせるように笑みを作っていた。


「ああ、こっちのレオはローザってギルドマンに世話になってたんですよ。今回、そのローザが疑われてたもんだから、こいつも心配になったみたいでして……俺と一緒に殺人現場まで来て、こうして自分らなりに調べてるんです」

「う……うん。ローザさんからは剣術を教わったから……」

「そうだったか……だが、あまり現場をうろつくんじゃないぞ。俺達からすれば、それだけで怪しい奴に見えてくるからな。捜査はこっちに任せて、お前らはお前らの仕事をやっててくれ」

「ええ、それが良さそうだ。……ああ、最後にもうひとつだけ。良いですかね?」

「なんだ?」


 去り際、俺は思い出したような素振りで聞いてみることにした。


「ここの捜査を担当する衛兵長さんって……なんていう人なんです?」

「デューレイ衛兵長だが」

「あー、あの人か……」

「知ってるのか?」

「いや、以前お祭りの時に騒ぎを鎮めてもらったことがあるんですよ。真面目そうな人だったな……」

「なんだ、デューレイ衛兵長を知ってるのか。だったら話が早い。あの人は怪しい奴にはしつこく聞き込みをするぞ。やましいところがないなら、時間の無駄だからさっさと帰ってくれ」


 言われなくてもそうするつもりだ。

 くっそー、デューレイ衛兵長か……前の祭りで一度だけ会ったことがあるが、あからさまに俺のようなハーフを差別するタイプだったのを覚えている。

 衛兵長が俺の知ってる別の知り合いだったなら、ワンチャン現場でうろちょろと捜査ごっこさせてもらえるかとも思ったんだが……逆に厳しい人が来ちゃったな。こりゃ無理だわ。変に疑われないうちに逃げておこう。


「レオ、現場での調査は一旦切り上げよう。次は周辺での聞き込みだ」

「うん。……衛兵さん相手でも、随分と色々尋ねるんだね、モングレルさんは」

「話が通じる相手ならそりゃ話すさ。誤解も偏見も、話しているうちに大体は解けるからな」


 レゴールの衛兵はお行儀が良いのでその点特にやりやすい。これが辺鄙な村の自警団とかになると、怪しいやつだからひとまず強めに当たっておくかって実力行使になることもあるからな。理性的に対応してくれるなら、ありがたい相手さ。




 周辺の聞き込みでは、レオが思いの外活躍してくれた。


「なるほど……被害者に刺さっていた針は、その革工房から盗まれたものだったんですか」

「ええ。せっかく伸ばして干してあったのに、鋲を盗まれたせいで革にシワができちゃって台無しよ。さっさと犯人を捕まえてほしいもんだわ」

「あはは……それは大変でしたね。でも大丈夫ですよ、さっき衛兵の方とも話しましたけど、とても真面目に捜査されてましたから」

「そう? そうだと良いわね……貴方みたいなギルドマンの人が捕まえてくれたって良いのよ? そうしたらこっちもたっぷりとお礼してあげるわ」

「はは……」


 レオはなんというか、おばさんやお姉さん方から特にモテた。

 事件現場の近くで暇そうなご婦人方を相手に情報収集をしていると、俺よりもレオの方がずっと良い話を聞けている気がする。彼の王子様みたいな雰囲気が女の口を軽くさせているんだろうか。まあ、肝心のレオはグイグイ来る女たちにタジタジのようであるが。


「凶器は革工房からくすねてきた鋲……被害者は不運な通りすがり……うーん、そこらへんにあるもんで事件を起こされると、なかなか次に繋がらねえなぁ……」

「目撃者も全然いないもんね」

「殺人現場が元々人通りが少ないからな……被害者は深酒をした帰り道に襲われて、叫ぶ間もなく死亡。針を刺された後は犯人も逃げて……もうそこから迷宮入りだ。こんなんじゃ探偵ごっこにもならねえよ」

「でも色々と調べて回ったから、事件に詳しくはなれたよね。酒場で話す分には、誰よりも詳しくなれたんじゃないかな」


 そりゃ酒場で酔っ払い相手に概要を話すくらいだったらできるかもしれねえけどよ……俺が欲しいのは金貨なんだよ、金貨。

 ……まあけど、内心上手いこと捜査が進むとも思っていなかった。俺らみたいな部外者の素人が首突っ込んでどうにかなるなら衛兵が爆速で解決してくれてるだろうからな。


「もう腹減ったからギルドに戻っちまうか、レオ」

「うん、そうしようか。でもモングレルさん、僕結構こういうの楽しかったよ」

「お? ワトソン君は探偵の素質があるようだな」

「だからさっきから誰なのさその人は……」


 結局、俺達はなんの成果も得られないままギルドに帰ることになってしまった。

 一応今回の捜査で得られた井戸端会議レベルの情報が金にならねーかなとも思って話してみたんだが、既知の情報だったらしく1ジェリーにもならんかった。俺達の労力がまるで少しも報われないようで、悲しくなったぜ……。




 ちなみに、事件の犯人はその一日後に普通に衛兵に捕まっていた。

 衛兵さんすごい。やっぱ探偵よりも国家権力だわ。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


マスクザJ様によるコミカライズ第1巻が発売されました。

店舗特典がメロンブックス様、ゲーマーズ様、アニメイト様、WONDERGOO様であります。チェックしてみてください。


書籍版最新4巻も発売開始です。

今回も各種店舗特典があります。よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

コミカライズ版バッソマン第1巻が2024年9月27日発売になります。漫画家はマスクザJ様です。
バッソマンらしい世界観を味わえる素敵なコミカライズとなっております。店舗特典も各種ありますので、是非とも御覧ください。
Amazon
(販売ページ*・∀・)
(ニコニコ漫画*・∀・)


書籍版バッソマン第4巻、2024年9月30日発売です。
素敵なイラストや追加エピソードも色々ありますので、ぜひともこの機会に29万冊ほど手に取っていただけたら幸いです。

ゲーマーズ、メロンブックス、BOOK☆WALKER電書版では特典SSがつきます。
さらにちょっとお値段が上がる限定版では長めの豪華な特典SSがついてきます。数に限りがありますので、欲しい方はお早めにどおぞ。


Amazon
(販売ページ*・∀・)

ゲーマーズ
(販売ページ*・∀・)
(限定版販売ページ*・∀・)

メロンブックス
(販売ページ*・∀・)
(限定版販売ページ*・∀・)
BOOK☆WALKER
(販売ページ*・∀・)

― 新着の感想 ―
これだけ文明レベルが低いと冤罪じゃないかって心配になる
最後にもう一つ…って杉下さん?てかあの人探偵でなくて警察側の人でしたね
警察が優秀で探偵が必要ない物語
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ