口うるさそうな随行員
「モングレルさん。以前ギルドに出したザヒア湖の調査報告が上がっていますよ」
「おっ、ついに来たのかいミレーヌさん」
ギルドで都市清掃の報酬を受け取った時、報酬以上に待ち望んでいた報告をもらった。
そろそろザヒア湖へ旅行に出かけるので、そのための魔物の調査を依頼していたのである。調査と言っても、“冬の間に現地で何かやるならついでにこれも調べといて”くらいのもので、大きな手間がかかっているわけではない。
知りたいことも別に複雑なものではなかった。湖に変な魔物がいなければそれで良し。なのだが、さて。肝心の調査報告は……。
「……ほーん。マーマンを始めとする魔物は発見できず。現在も調査中……か。なるほどね」
「“アルテミス”の皆さんと一緒に行くと聞きましたよ」
「おお、そうなんだよ。釣りとかキャンプとか、まぁ色々とね」
冬の間は色々あった。本来は色々なことなんて起こらない季節のはずなんだが、まさか森の中でサングレールの騎士と出会うなんてな……。
もっと静かな癒やしの季節になる予定だったのが、地味な心労を貰っちまった。それを癒やす意味でも、今回のザヒア湖旅行は楽しみなのだ。
「この調査報告を見てから出発しようぜって話になってるから、近々予定立てて向かうことになるよ」
「なるほど……“アルテミス”の皆さんを守ってあげてくださいね」
「いやいや、そいつらよりもランク下だからね俺は。前衛として前に立つくらいのこたぁするけどさ」
「格好がつかないなら、いつでも認識票のプレートを交換しますよ?」
「勘弁してくれよ。気楽なランクのままやらせてよ、ミレーヌさん。お土産買ってくるからさ」
「フフフ、お構いなく」
ザヒア湖か、久しぶりだな……。前は湖をちょっと泳いだり、釣りでデカい魚……ハイテイルなんかを釣り上げたりしたっけか。“アルテミス”が仕留めた水鳥も結構美味かったな。
今回も何か釣れると良いんだが……新鮮な魚料理を補給してぇよ。
「ああ、けどモングレルさん。近頃はドライデンの方が不穏らしいので、道中はくれぐれもお気をつけくださいね」
「ドライデンの方は通年うっすらと不穏だけどな……向こうで何か事件でも?」
「街道と宿場町で盗賊が出没しているそうです。まだ解決したとも聞いていませんから、荷物の管理は用心したほうが宜しいでしょうね」
「そいつは物騒だ。わかったよ、ありがとなミレーヌさん」
しかし本当にドライデンの方面は治安が悪いな……良かったっつー話をマジで聞いたことがないレベルで治安が悪い。
山がちというか、起伏の多い地形が多いから悪い連中も身を隠しやすいんだろうか。向こうの方では噂によると無法者による洞窟占拠も多いらしいし……。いや、単純に領主のせいか。
「貴族街での仕事も数日で切りがつくから、いつでも出発できるわね。春本番になって仕事が増えないうちに、ザヒア湖へ行きましょう」
“アルテミス”の皆にザヒア湖での魔物調査結果を伝えると、狩人酒場で本格的な旅行計画を話し合うことになった。
シーナを中心に話が進んでいるのは当然だしまぁ良いとして。
「なんでここにモモがいるんだ?」
「居たら駄目なんですか!?」
「いや駄目ではないけどよ……お前“若木の杖”じゃん。なに、移籍でもすんのか?」
何故かこの場にはモモの姿もあった。
シーナ、ナスターシャ、ライナ、ウルリカ、レオ、ゴリリアーナ、そしてモモ。うん。お前だけパーティー違うだろ。
「モモちゃんも一緒にザヒア湖行きたいって言うからお誘いしたんスよ」
「賑やかで楽しくなるねー! モモちゃん水魔法使えるから色々と助かりそうだし!」
「そうです! 湖で色々やりたいこともあるので、母に言って暫く“若木の杖”を離れ、こちらでお世話になることとなりました! 移籍ではありませんよ!」
「“若木の杖”の仕事とかは無いのか?」
「……むしろ母も一緒にザヒア湖に来たかったようなのですが、貴族街で定期の仕事があるので渋々諦めた形のようです……私は、特に重要なお仕事もないので……」
あっ……まぁ、まぁまぁ。腕の立つ魔法使いは色々と忙しいもんな……。
逆に言えばモモくらいの歳の奴じゃないとこうして自由に旅行もいけないってことだ。そう考えると恵まれた時期だとは思うぜ……。
「ナスターシャの他にも魔法が使える子がいると助かるのは事実よ。それに、水鳥に上手く闇魔法をかけることができればモモでも獲物を捕れるかもしれない。普段はできない魔法を使った狩りをするには、丁度いいんじゃないかしら」
「はい! 魔法で獲ってみせますよ!」
「そいつは頼もしいや。もしマーマンが出たらそいつも任せていいか?」
「え、ま、マーマンはちょっと……」
「あはは。そういう魔物は僕たちに任せていいからね」
“アルテミス”+1か。モモが加わると尚更賑やかになりそうだぜ。
「ゴリリアーナさんは仕事大丈夫なのかい? 貴族街の方とか」
「は、はい。今は忙しくないですし……手合わせや稽古も、ひとまずはお休みということになっていますから。はい……」
どうも話を聞く感じゴリリアーナさんはかなり伯爵夫人と近いところで色々やってる感じなんだよな。下手すりゃ伯爵夫人と頻繁に話してそうですらある。
となると、確かに伯爵夫人が妊娠して安静にしてないといけないってなると、こう、チャンバラする機会も少なくなるのかもしれない。
「じゃあ今回も一緒に釣りできるな」
「はい……! 今回は、ま、前よりも大きなやつを、釣りたいですね……!」
「私も前より大きいのを捕まえたいなー……」
「鳥も魚も捕りたいっス」
魚はその時の水辺の様相にもよるが、鳥に関しては撃ち落とすプロがいるから心配いらないだろう。是非とも食いきれない量の水鳥を仕留めてくれ。
「だが、ギルドが言うには道中の治安が少々悪いそうだな。盗賊が出没するとの話だが……」
「宿場町では良い宿を取って、街道では……普段通りよ。敵を警戒して、怪しい相手には応戦する。今回はレオもいるから、前衛は万全でしょうね」
「おいおい俺も戦力に入れてくれよ」
「ちゃんと入れてるわよ。頑張って」
「馬車の護衛をしながらドライデンまで行くんでしょうか? 前に“若木の杖”で行った時はそうだったんですけど」
「ええ。適当な護衛依頼を見つけてそれを消化しながらの旅になるわ。定期便も始まっているし、条件を選ばなければ私達だったらすぐに見つかると思う」
“アルテミス”はゴールドランクのギルドマンがいるパーティーだ。そんな奴らが護衛してくれるというのであれば、是非にという依頼者も多い。あと単純に面の良い女達ばかりなので人気がある。
護衛依頼に困ることはないだろう。その後ろの方で特に関係のないおっさんが一人混じっているくらいでは文句も言われないはずだ。
「あっ、そうだ! モングレル、湖についたら私の作った道具をまたいくつか試してもらいますよ。今回も遊泳用の道具です。よろしくおねがいしますね!」
得意げな顔でモモはそう言うのだが……。
「いや、多少は湖にも入るつもりではいるんだけどよ……モモ、この時期に湖で泳ぐのは大変だってわかってるか?」
「……あ」
「おいおい……」
このちょっと気まずそうな顔は本当にわかってなかったやつだな。
さすがに今はまだ冬と同等レベルの寒さだぜ。
「まあ、けど多少は平気だ。なにせ今回はテントサウナに入る予定だからな……長時間は無理だが、ちょっとくらいなら思い切りざばーんと湖で泳ぐつもりではある。その時にテストさせてもらうとするさ」
「サウナ……ですか?」
「楽しみっス!」
「水着用意しないとねー。もちろんモモちゃんも!」
「あ、はい。まぁ一応、私も湖に入るつもりではあったので……うう、でも湖冷たいの嫌だなぁ……」
まあまあ。水が冷たくてもあれだ。サウナが暑ければどうにかなるさ……。
……俺、冬の野外サウナで一度も川に飛び込んでなかったけどな!
今回は一応春っちゃ春だからいけるだろ。うん、ギリいけるはずだ……そのくらいの水温なら多分いける……いけるよな?
……どうせならナスターシャの湯沸かし器を運び込んで露天風呂を作って……それはさすがに無理か。
2024/4/26に小説版「バスタード・ソードマン」3巻が発売されました。
巻末にはマスクザJ様によるアルテミスの4P描き下ろし漫画もありますよ。
また今回も店舗特典、および電子特典があります。
メロブ短編:「シュトルーベで狩りを学ぼう!」
メロブ限定版長編:「シュトルーベでリバーシを作ろう!」
ゲマズ短編:「シュトルーベで魔法を学ぼう!」
電子特典:「シュトルーベで草むしりをしよう!」
いずれもモングレルの過去の話となっております。
気になるエピソードがおありの方は店舗特典などで購入していただけるとちょっと楽しめるかもしれません。
よろしくお願い致します。
「バスタード・ソードマン」のコミカライズの第4話が公開されています。
カドコミ、ニコニコなどで掲載されているので、是非御覧ください。




