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バスタード・ソードマン  作者: ジェームズ・リッチマン


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311/404

一足先に来季の予約


 大荷物を抱えてレゴールに戻ってきた俺は、一旦宿で重荷を降ろしてからギルドへと向かった。

 何も無い場所でのんびりするはずの冬キャンプが大ボリュームの変なイベントまみれになってしまったからな……せめてギルドでぼーっと過ごし、いつもの空気を吸おうと思ったわけだ。


「ようエレナ、暇そうだな」

「モングレルさん、なんだか久しぶりですね。はい、札はお預かりします。ああ、バロアの森に居たんですか……まあ、この季節はいつも暇ですからね。もうちょっと忙しくても良いんですけど」

「仕事が無いってのは平和なことだぜ。そうだ、ついでにビールと酢の物でも貰っておくか」

「はいはい、かしこまりました」


 暖炉の前は“収穫の剣”の連中に取られていた。

 屈強な男どもがテーブルをいくつも寄せてボードゲームに興じている姿は癒やされるな……けどやけにプレイマットがデカくねえか? あれバロアソンヌだよな。


「よう、モングレル。お前もこっち来てやろうぜ」

「インブリウムのマットと合体させてやり始めたら全然ゴールできねえんだ……」

「なにやってんだこいつら……無駄に広いマス数でやってもゲームがダレるだけだぞ……」

「ほらみろ、俺の言った通りだ」

「やっぱ無理があったか……けどこの方がリアルだろ?」

「俺たちこんなに頻繁に王都行かねえだろ」

「……やばそうなゲームだな。近づかんとこ」

「あっ、モングレル逃げやがった」

「今回ばかりはいい判断だけどな」


 喧騒から離れたテーブル席に陣取り、やってきたビールを飲む。

 ……うん、冬はデフォで冷えてるからやっぱり良いな。ぬるい酒にも慣れたが、やっぱ冷えた炭酸が一番よ。

 サッと出てきた野菜の酢の物が身体に沁みるぜ……金がかかるとはいえ、ぼけーっとしてても勝手に飯が出てくるシステムはやっぱ最高だな。自分で飯を作るのも好きな味付けにできて悪くはないんだが、できることなら毎食外食で済ませたいね……。


 男たちのどこか下品な笑い声と、酒を交わす連中の騒々しさと、年若いルーキー達のお粗末な作戦会議。

 今日もレゴールのギルドは賑やかだ……。


「あれ、モングレル先輩。ご無沙汰じゃないっスか」

「お?」


 いつもより少し早いペースで酒を飲んでいると、冬装備のライナがやってきた。


「よう、ライナ」

「……なんか、お疲れっスかね?」


 あれ。そんな会って一目でわかるほど顔に出てたか?


「まぁな。バロアの森でキャンプして、さっき戻ってきたところだよ。お疲れっちゃお疲れだ」

「もの好きっスねぇ……野営なんてしてたらそりゃ疲れるっス」

「冬のキャンプは別だと思ってたんだがなぁ」


 ライナもビールを注文し、俺と同じテーブルに座った。

 まあ、酢の物もあるから好きに食ってくれや。一人で食うよりはそっちの方が良さそうだ。それよりあれだな。もうちっと気の利いた言葉を返したほうが良いか。


「ライナは何してたんだ?」

「さっきルーキーの子たちへの弓の指導が終わったとこっス。ちょっと生意気だけど弓に乗り気な後輩が多いっスね」

「生意気か……シルバーの指導が聞けないような奴なら相手にしなくても良いんだぞ?」


 多かれ少なかれそういう不真面目な奴はいる。教わりに来ているのに態度が悪すぎるという、何しに来たんだお前って奴だな。正直そういう連中に関わっている暇もないので、指導を邪魔されるようならさっさと追い返すことにしている。実質そういうのはアイアンランク未満の連中だ。


「いや……別にそういうわけじゃないんスけど……みんなあまり私を先輩っぽく扱ってくれないというか……」

「あー」

「あーって言った!」


 あれだよな。ちょっと背伸びして教えたがってる妹みたいな……そんな微笑ましい扱いだよな。なんとなくわかるわ。


「……そんなことより、モングレル先輩スよ。バロアの森で何かあったんスか?」

「あー? 特に何もねえなぁ。何もなさすぎて、逆に疲れたというか」


 ライナはちょっとだけ心配そうな目でこっちを見ていた。

 ……顔に出てるわけでもないはずなんだけどな。何を察されているんだろう。


「煤汚れの掃除がしんどかったってのはあるぜ? 寒い中、川の水を使うのはさすがに厳しかったな……」

「あー、川」

「けど今回はそれなりに成果もあったんだ。聞きたいか?」

「なんスかなんスか」

「自前でな。デカめのテントを立てて手製のサウナを作ってみたんだよ。テントサウナってやつだな」

「はえー、すっごい……え、そんなの作れるもんなんスか」


 実際、今回のキャンプで得た一番の収穫といえばこれだろう。思いの外上手くいったからな。


「デカめの布で三角テントを作ってな、その中に焼き石をいくつも用意しておくわけよ。で、あとはそこに少しずつ水を垂らしていくだけだ」

「……すごい簡単っスねぇ。暖かいんスか」

「かなり暖かいぞ。冬でも汗だくだ。まぁ、焼き石自体で暖かい空間ができてるってこともあるんだろうが……ヘロヘロになるまで入って、外の寒い外気を浴びてぼーっとしてるとなかなか気持ち良いもんだぞ」

「おー……サウナは私も好きっスけど、野営でやるのは聞いたことないっスね」

「俺も綺麗なサウナだったら好きなんだけどな。レゴールのは……」

「ああ……」


 レゴールにもサウナはあるが、そこも衛生的にちょっとな……公衆浴場よりはマシではあるんだが……。


「本当は今回はもっと長居して、ゆっくりとそのサウナを楽しみたかったんだが……ちと計算違いでな。食料をあまり持ち込まなかったせいで、早めに撤退せざるを得なかったんだ」

「それは災難っスね……」

「ああ。……本当に運が悪かった」


 長居してボルツマン絡みのことで探りが入っても困る。オーガのグナクは……まぁそこまで気にしなかったが、やっぱ落ち着かない状況だったからな。そんなところで野営を続ける気分にもなれなかった。

 マジで運が悪かったと思う。レゴールの治安を守るって意味では幸運ではあったんだろうが……。


「……じゃあ、また春になったらやれば良いじゃないスか」

「春かぁ」

「春になったら湖とか行って、そこでテントサウナに入ってみるの良くないスか」

「おお……確かに。湖か、それは良いかもしれん」


 ちょっと冷えた空気の中、テントサウナでゆっくり身体を暖めてから湖へ……それくらいなら普通の水風呂くらいの温度で楽しめそうだ。


「私もちょっと興味出てきたっス。一緒にまたザヒア湖とか……どっスかね」

「ザヒア湖か……」


 前は“アルテミス”の連中と一緒に行って釣りをしたっけな。

 ……うん、悪くない。そこで釣り含め色々やって、サウナおじさんのリベンジといくか。


「良いな。春になったらまた行こうぜ」

「! っス! 楽しみっスね!」

「だな。また魚でも釣って食うかー」

「モングレル先輩だけ大荷物になりそうっスねぇー」

「平気平気、竿とかは馬車に乗せるからな」


 まぁ、春なんてまだまだ先の話なんだけどな。冬は当分終わらんよ……。


「あ……でも、サウナだったら服とかどうすれば良いスかね……」

「ああ、服か……いや、俺たちなら水着でも着てれば大丈夫だろ」

「おー、なるほど」

「そのまま湖も泳げちまうぞ」

「わぁい」


 アーケルシアで買った水着がこういう場面でも活かせるとはな……高かったが、わりと良い買い物だったかもしれない。


「春が待ち遠しいっス」

「だな」


 ビールを飲みつつ、春の待ち遠しさを語り合う。実に良い冬の過ごし方じゃないか……。

 肝臓以外全てが癒やされる気分だぜ……。


「そうだライナ知ってるか? サウナでフラフラになるまで温まってから冬の寒い水に入るってのを繰り返すとなんかすげー気持ちよくなれるらしいぞ」

「……全然大丈夫じゃなさそうなんスけど……良いんスかそれ」

「わからん。俺も知り合いのサウナ大好きおじさんに聞いただけだからな……なんでも、“ととのう”っていう、全身ビクビクして白目をむくような心地よさらしいんだが」

「それただのヤバい人っスよ」


 ライナもそう思うか? 俺もちょっとそうなんじゃないかと思ってるフシはあるが……。


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― 新着の感想 ―
交感神経、副交感神経が活性化するらしい。 アクセルとブレーキを交互に踏むことで同期を調整するとかなんとか.....?
モングレル先輩。ご無沙汰じゃないっスか。 あれ…? ライナ、モングレルが冬キャンに「とりあえず7日間予定で」って言って出てったの目の前で見てるのに、「案外早かったっスね」じゃなくこの反応なの…? な…
冬の滝行とかも効くらしいね(どちらも未経験) 結局は、極限状態になる方法的な……?
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