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バスタード・ソードマン  作者: ジェームズ・リッチマン


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男だっておしゃれでキメろ


「ねえ見て見てーモングレルさん! これどうー? レオのこういう格好も似合うと思わない!?」

「う、ウルリカ……恥ずかしいんだけど……」


 ちょっと料理の下準備をしている間に、ウルリカが俺に対して火力強めのクイズを放り込んできた。


「ほら、さっきまで運動してたから汗かいちゃってたしさー。だから私の服を貸してあげたんだけど。ね、どう? 可愛くない!?」


 そう言って無駄に楽しそうに見せてきたのは着替えたらしいレオである。

 まぁ確かにレオはバテバテになるまで動いていたし、この時期じゃ着替えても不思議ではないが……その着替えた姿というのが、明らかにこう、女の格好っていうのがね。


 ……いや、わかるよ。前に見てるしな、レオのそういうの……。

 ウルリカみたいにそういう格好をしたいんだろうお前も。同じ故郷出身だったらそういう共通の趣味ってのもあるのかもしれないしな。

 けど他人には言えねえんだよな、そういうの。わかるよ。こういう世界じゃ白い目で見られることも多かろうよ。

 でもお前はそういう格好がしたかったんだろう……男の子だってプリキュアになりたいもんな……わかるぜ……高校時代の文化祭で女装しながらライブやってた軽音部の一人が卒業後に女装にハマって大学時代はお姫様扱いされてたらしいからな……そういう感じに憧れがあるんだろう、お前も……。


「いや、でも僕はこういうのは……ウルリカみたいに似合うわけじゃないから……」

「モングレルさん、どう!? 率直な意見!」


 わかるけどもよ。わかるんだけどもよ。そういう聞き方をするのは良くないと思うぜ俺は……。

 だってこの流れじゃもう“似合ってるよ”って言うしかねえじゃん……! 貶す真似なんてできねえって。そんな無神経じゃねえもん俺は……!

 ウルリカの“レオのこういう趣味を後押ししたい”って気持ちはすげぇ伝わってくるけどさ……俺を相手にスコアを稼ぐのはやめてくれよ……。俺は別にこういう時に気の利いた言葉を伝える担当の人間じゃないんだぜ……?

 どういう因果かこれをきっかけに女装したディックバルトが俺の部屋にやってくる可能性が生まれるかもしれないだろ……!? マジで嫌だからなそういうのは!


「ほら、モングレルさんも困ってるじゃないか……」


 だからってわざと傷つけるような言葉は吐けねえしよぉ……。


「まぁでも、俺から見ればレオの場合は元が美形だから似合ってると思うぜ」

「!」

「ウルリカとは方向性が違うっつうのかね。まあ、美人系が似合うのかもな」

「美人だってー! やったね!」

「痛っ、痛いよウルリカ。なんで叩くの……あ、ありがとうモングレルさん。一応ね……うん」


 嘘は言ってないし本心から思ったことを言っただけなんだが、なんだろうなこの“言わされてる感”は。

 昔付き合ってたすげぇかまって気質な短大の子を思い出すわ。


 ……こういう感覚はなんというか、男女関係ないんだな……。




 まぁちょっと見てくれが変わったところで、こいつらの中身は変わらない。

 いくら外面を変えようとも胃袋の容量は変わらないのだ。まだまだ食欲旺盛なこいつらも、こってりした料理を前にすればやんちゃな男の子ソウルを取り戻すに違いない。


 というわけでまぁ今日はメンチカツでも作ろうと思う。

 ボアの肉を芋とか野菜とかと一緒にミンチにして衣つけて揚げるだけだ。肉オンリーの揚げ物も悪くはないが、最近のレゴールじゃそんな料理も珍しくないからな。肉肉しい料理が男の欲望を満たしてくれるのは間違いないが、たまにはもうちょい手の込んだ料理を食いたいもんである。そこでメンチカツなわけですよ。

 ソースがないのが最大の難点ではあるが、まぁその辺りは適当な調味料を使ってやれば良いだろう。なんだかんだ酸味のあるソースだったら俺の舌でもそこそこ満足できる物にはなるからな。


「……で、ウルリカは何作ってるんだ?」

「んー?」


 俺が食材を適当に細かく刻んでいる最中、その隣ではウルリカが乳鉢で何かをすり潰していた。

 レオもその手伝いっぽいことをしてるんだが、どうも料理というよりは調合に近いように見えるんだが……。


「これはねー、薬! 前に教えてもらった調剤レシピを試してるんだー」

「ああ……前に言ってたな。薬の調合にはまってるんだっけな」

「ウルリカはこういうの得意だからね。ナスターシャさんから色々と教わって、クランハウスでも役立つ物を作ってるんだよ」


 そいつはすげぇな。薬事法の希薄な世界特有の緩いサブジョブって感じで恐ろしくもあるが、役立つ物を作れるってのは素直に羨ましいぜ。

 俺もポーションとか自作してみたいもんだ。


「クランハウスでもやってるんだけどねー……部屋の中で粉が舞ったらあんまし良くない薬とかもあるからさー。外でこうしてじっくり作業できるのは良いかもね」

「なるほどな。今は何を作ってるんだよ」

「幻覚を見る薬」

「……何らかの法に抵触してない?」

「失礼!」


 いや薬とか言いながら幻覚を見るやつってお前……そりゃもう法に触りまくるやつしか思い浮かばないでしょうよ。


「毒と薬は表裏一体なの! 特にこれは摂取するとぐわんぐわんしてまともに動けなくなるらしいんだけど、毒っていうわけじゃないから後に残ったりはしないんだって。獲物だったら肉を汚さずに、人だったら致死性は低く無力化できるから結構便利そうなんだよ」

「へー、そういうもんか」


 まぁ幻覚剤とだけ言われるとただのヤバい薬でしかないが、後遺症が残らないのであれば優秀な麻薬みたいなもの……と言えるのかもしれない。


「……気を付けてねモングレルさん。ウルリカって新しく作った薬をよく僕とか人で試そうとしてくるから」

「同意は取ってるから良いの!」

「おいおい本当に大丈夫なのかよ……“アルテミス”のメンバーが違法薬物でしょっぴかれるなんて話は聞きたくねえぞ?」

「図鑑にもちゃんと乗ってる大丈夫な植物だけを使った薬だから平気だってば。試しにちょっと舐めてみればー? はいっ」

「マジかよ」


 ウルリカが指先に青っぽい粉を取り、俺の方に差し出してきた。

 毒々しい色だ。マジでこれ薬なの? 毒か顔料にしか見えないんだが……。


「このくらいの粉だったら数秒とか数十秒くらい、視界が歪む程度で済むと思うよ。ほらモングレルさん……舐めて?」

「いやまぁ……安全だって言うなら少し試すくらいなら良いけど」

「勇気あるね、モングレルさん……」

「さすがに直では舐めねえよ」


 乳鉢の中の青い粉末を少しだけ指先に乗せ、そっと舌に乗せてみた。ちょっと苦い。

 無用心と言うことなかれ。正直、安全であればちょっとこういう変わった効果を及ぼす薬を試してみたいという好奇心があったのだ……。


 と、しばらく待っていたのだがどうにも効果は出てこない。


「うーん、特に何も無いな」

「えー? おかしいなぁ……分量の問題かも。モングレルさんくらいの体格だと薬が少なすぎたのかなー……じゃあ矢に乗せて使う時にはもっと調整をしないと駄目か……」

「あ、やっぱりなんか来てるわ」

「本当? 大丈夫なのモングレルさん?」


 何もないと思いきや、視界がちょっとブレるというか、回った。

 風邪をひいてぼーっとしてるときの回る視界と表現したらいいのだろうか。どことなく軽めの車酔いをしているようで、気分も悪い。このコンディションで馬車に乗ったら吐くかもしれないな。

 しかしそんな悪影響もすぐに収まり、すぐに元の健康な状態に戻ってきた。なるほどなるほど。確かにちょっとした幻覚作用のある薬といえばそうかもしれない。

 名前だけ聞くとちとヤバい薬に思えてしまうが、別にハイになるとか気分が良くなるとかは一切ない。ただグワングワンと悪酔いするだけの薬って感じだな。つまり毒では……?


「効果が出るまでの間に時間のズレがあるのが気になるけど、こいつが効いてればしばらくの間は動けないだろうな」

「ほんと? やった、成功! えへへー、こういう薬を使ってスキルが無くても戦えるようになりたいんだよねー」

「毒矢か。そいつは恐ろしいな……」

「しかも獲物の肉を駄目にしない毒矢! 良い感じの配合を見つけられたら、今度使ってみる予定なんだー」


 “アルテミス”でも将来有望な弓使いと見られているウルリカでも、自己研鑽を怠っていない。ストイックな奴だ。スキルも三つ目が生えてきたのによくやるもんだよ。


「……あとは、こういう毒っぽい使い方とは違う身体に良い普通の薬とかもあるんだけど……モングレルさん、試してみる?」

「いやなんか怖いからいいや」

「えー」


 けど薬はやっぱりちゃんとしたところで買いたいぜ。


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― 新着の感想 ―
読者は皆んなウルリカレオの女装に夢中だけど、若い男の子達を暖かく見守りつつ彼らの胃をメンチカツで満たしてやろうという男子寮のおばちゃんみたいなメンタルになってるモングレルも大概だと思う
[良い点] 2巻買いましたー [気になる点] 電子版93ページのウルリカの左手は。。。w
[良い点] 嘘みたいだろ…こいつら…男なんだぜ…? [一言] 舐めて?
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