ケツ穴に無理やりアルコール
「寒いの嫌だから薪たくさん集めておこーっと。ついでに食べられる生き物がいたら仕留めちゃおうかな?」
「今の時期に森を歩いたことないんだけど、いるのかな?」
「んー私もよくわからない。けど、全くいないってほどではないんだって。ジョナさん言ってたよ」
「そうなんだ。じゃあ僕も一緒に薪集めするよ。護衛ついでにね」
冬場の野外はじっとしていると寒くてどうしようもない。なので常に動いていたほうが快適だ。ぼけーっと何も仕事しないでいるとただただ辛いだけである。
薪を集め、水を汲んで、薪を集めて集めて集めて……。まぁほぼ薪集めだな。これは仕方ない。一日中燃料を絶やさないようにするってのはそう簡単じゃないのだ。幸い、バロア材の燃費は非常に良いので山と積み上げる必要はないのだが。しかし燃料ケチって使うような、そういう不便を楽しむためにこの冬のキャンプをやっているわけではないんでね。男三人が快適に過ごせるくらいの量を整えないといけないだろう。
ついでに風の対策も必要だ。バロアの森の中はそこそこ風も弱いのだが、無風というわけにはいかない。寒い時間になってどこからか吹いてくると、単純にめっちゃ寒いし煙も目に染みるしでしんどい思いをする。
なのでグルグルに巻いて持ってきた宿屋の古いシーツを使い、簡易的な風よけになるよう張っておく。スコルの宿でこれいらないからって貰ったやつだ。ボソボソかつペラくなってしまったシーツだが、部分的にレザーで補強しつつグロメットで穴を開けている。屋外でこういう使い方をする分にはまだまだいけるはずだ。
そこらへんに落ちている薪の中でも丈夫そうなやつをペグ代わりにし、枝やら根っこやらも上手く活用しながら壁を作っていく。ある程度の風を防いでくれるだけでも快適性が違うからな。一部分だけではあるが、多少の仕事はしてくれるだろう。
「ちょっと回ってたらセディバードとパフ鳥居たよー。パフ鳥の方は逃げられちゃったけど」
「お? マジかよ仕留めたのか?」
「運が良かったかなー……あれ? なんか布の壁ができてるじゃん」
「薪も拾ってきたけど……あ、これ風除けかな」
「よくやったウルリカ。ほんと弓使いって食いっぱぐれないな」
「えへへー。ま、私天才ですからー」
ウルリカが仕留めたのはセディバードだった。デカめの鳩ほどのサイズの、肉食性の鳥である。肉食ではあるが、味はそこまで悪くはない。
しかしまぁ、よくこんな季節でもコンスタントに獲物を仕留められるもんだよ。ライナもそうだったけど本当に感心するわ。まずこっちは獲物がどこにいるかさえわからないってのに。
「それでー? モングレルさんは今日は何を作ってくれるの? 今回はそれだけ楽しみに来てるんだけど」
「おいおいそれだけってことはないだろ。飯以外にももっと楽しめるもんだぜ冬は。……まあ、鳥が手に入ったなら丁度良い。普段は作れないような料理でも楽しんでみようか」
薪ストーブの他に、石で作った大きなかまどがある。雑にデカい木材を放り込んでぼうぼうに燃やす焚き火だ。こういうデカい炎があるとそれだけで暖かいし、何より見た目が良い。
今回セディバードを使った料理は、こっちの焚き火で作ることにしよう。
「まず羽を毟って産毛を焦がして処理したセディバードの内臓を取り除く。で、全体に串を刺しまくって穴を空けて……あとは頭が無ければそれで良い」
「捌かないの? 丸焼き?」
「丸焼きも美味しいよね。小さい鳥を捕まえてまるごと串にして食べるの、よくやったなぁ」
「コリコリしてるもんな。けど今回はちょっと違う」
セディバードの表面にハーブ入りの塩をよくすり込み、内側には首の断面から調味料漬けの山菜を強引にねじ込んでいく。内臓を掻き出す時に使った肛門のところからも同じく、味付きの山菜を詰めていく。
「う、うわー……な、なにしてるのそれ……?」
「部位ごとに落とさず、そのまま味付けしてるんだね?」
「そう。で、全体的に味付け準備ができたら……ケツ穴にこのコップをぶち込む!」
金属製の小さなコップに、お楽しみ用に持ってきたビールのボトルからほんの少し……だいたい缶半分弱程度の量を注ぎ入れたもの。こいつをグリュッと差し込んでやれば準備完了だ。
「いっ……痛そう……!」
「あはは、そうだね。でも普通はこんなに太いものが入るわけないよ、ウルリカ」
「そ、そうだよね……?」
「針金で固定してやれば……よし、こんなもんか。こいつに鍋を被せて窯焼き状態にしつつ、じっくりと調理する!」
バーベキューの定番料理、ビア缶チキンだ。
首無しの丸裸になった鳥がコップに腰掛けているようなショッキングな見た目をしているが、こいつがなかなか美味い。
本来はこのケツにぶち込まれているコップはビール缶なのだが、コップでも問題なくできるだろう。加熱していくと共に表面の皮はパリパリになり、逆に内部は蒸発したビールでふっくらと仕上がるという……スペースを取る上に脂もボタボタ落ちるせいで屋内ではマジでやりたくない宴会料理だ。
「この被せた鍋の上に炭を置いとくと上からも加熱できて良いんだ」
「へー……本当に窯みたいなんだ……完成が楽しみー!」
「初めて食べる調理法だけど、きっと美味しいんだろうね……!」
「まぁじっくり焼くからな、のんびり待ってようぜ」
完成しても三人で食うにはちと量が物足りないだろうが、まぁその辺りはしょうがない。逆に鶏一匹分食いまくるってのも飽きるだろうしな。
さて、キャンプというのは実のところ、やることを見つけなければ退屈なものである。
何もしないという目的があるのであればそれも良い。ぼーっと過ごしたい時もあるし、そういうのが好きな人もいるからな。
しかし何かやってないと落ち着かない人にとっては、これほど焦れったい時間もないだろう。
「お願いします、モングレルさん」
「おう。ま、寒い時は良い運動になるからな」
「二人共がんばれー」
鳥が焼けるのを待つ間、レオは俺に模擬戦を挑んできた。
時間はいくらでもあるし、まだまだ明るい。身体を鈍らせたくもないというのであれば、キャンプに誘ったこっちとしても断る理由はない。
お互いに模擬刀代わりにちょっと良い感じに削った枝を持っての打ち合いだ。こっちはバスタードサイズの枝が一本だが、向こうは二刀流である。
「モングレルさんが強いのはわかっているからね……僕も手は抜かないよ」
「おいおい、こっちはブロンズだぜ? ちょっとくらいハンデをくれたって良いだろうよ」
「必要ない……でしょッ!」
「うおっ」
ヒュッと風が吹くような速さでレオが飛び込んできた。
二本の剣はそれこそ旋風のように華麗に連撃を重ねてくる。そいつをどうにかガードするのだが、やっぱりレオは手が速い。一撃一撃は軽いが、それぞれを無理に押し込もうとはせず、防がれたらすぐに次の手に切り替える柔軟さがある。
正直こういう戦い方を仕掛けてくる相手が一番苦手だ。パワータイプよりスピードタイプの方が厄介さは大きい……おおっと、あぶねっ。
「お貴族様に鍛えられて腕を上げたか!?」
「そりゃ、少しは……ねッ!」
良いコースを見つけて打ち上げるように振り上げたが、交差させた二本の剣で見事に防がれてしまった。
二刀流の防御はマジでずるいて。力任せにやっても破れる気がしねえ。
「速さを上げるよ……“風の鎧”!」
レオの目が緑色に輝き、身体が風を纏う。
自身の体重を半減させ、同時に風の鎧を身につけることで防御力を上げるなかなかの強スキルだ。
防御力の上昇も厄介だが、身体が軽くなって速度が上がるってのも結構キツい。
「はぁっ!」
「うおっ」
木の根を蹴ることによって凄まじい加速を付けたレオが勢いよく傍らを通り過ぎる。……剣で咄嗟に守ってなかったらすれ違いざまに斬られてたな。
「前は修練場で何も無かったけど、森の中だったら一味違うよ!」
「足場か……! 身軽な奴め!」
軽くなった体重に加え、身体強化によるブースト。そこから生まれる鋭い踏み込みは、そこらの樹木を足場にした高速機動を可能にした。
一人だけ別の格ゲーをやっているかのようなアクロバティックさだ。上からも下からも素早く切りつけてくるもんだから、こっちの防御もすげぇ必死だ。一撃一撃が軽いのがマジで救いになっている。人並みに重かったら普通に負けてたかも知れん。
「ハア、ハアッ……!」
「けどそろそろ燃料切れだろ! よいしょっ!」
「うわっ!?」
二本の剣でガードした瞬間を狙い、詰め寄って足払いを決める。するとレオの身体は簡単に宙を舞い、そのまま尻もちをついた。
「はーい、モングレルさんの勝ちー! ……けど惜しかったなーレオ。良い感じに押し込めてたのに」
「勝ちは勝ちだぜ! はい俺の勝ち!」
「ちょっとー! 大人気無いよーモングレルさん!」
「いたた……はぁ、はぁ……いや、負けたよ。完敗だ……モングレルさんの防御、いくら畳み掛けても全然剥がせる気がしなくて参るなぁ……普通は多くても十回剣をぶつければ、相手の守りも崩せるのになぁ……」
ああ、そういう勝機を狙ってたのか。悪いなレオ、俺のスタミナゲージは画面からちょっと飛び抜けてるみたいなところがあるからな。持久戦じゃ無理だと思ったほうが良いぞ。
「まあでも、連撃にはビビったよ。前より速くなってたから、少しでも気を抜いてたら斬られてたぜ」
「……本当かなぁ……前と同じで余裕そうだし……はぁ。もっと修行し直さないと」
がっくりとうなだれると、レオはそのまま先程の戦いをおさらいでもするかのように素振りを始めてしまった。
反省点をすぐに振り返る。勤勉な奴だ。
「ねー、そろそろ鳥焼けたかな? そろそろいけるでしょ?」
「小さいからいけるかもな。ちょっと見てみるか……うん、美味そうだ。いけるいける。運動して小腹も空いたし、食っちまおう」
「お腹すいたよー。レオ! 鳥肉食べよー! 練習ばっかしてないでさー!」
「は、はーい」
そんなわけで、鍋を取っ払ったビア缶セディバードをご開帳。
もわっとした蒸気と共に現れた鳥肉は、脂でテラテラしてとても美味そうだ。焼けた調味液とハーブの芳醇な香りもなかなか悪くない。照り焼き風のソースが無くてもなんとか様になってるじゃないか。
「お、美味しそうだね……!」
「適当に切り分けちゃおう! 三等分で……こんな感じかな?」
「やっぱ男三人で分けるには少ねえな……」
「おやつにはちょうどいいよ!」
「どれどれ……ビールの匂いはほとんどしないかな……?」
外側の皮がパリパリになっている。内側はほっこりと良い感じだ。
さて、お味はどんなもんか……ムシャァ。
「……おー、悪くないな。良い感じに仕上がった」
「んー! 柔らかーい! 美味しいー!」
「食感が良いね! いつもはもっと固い感じだけど……別の種類の鳥を食べてるみたいだよ」
セディバードが貝を食べてるからだろうか。肉食らしい癖の強さが本来はあるのだが、この調理法で柔らかくしたセディバードはなかなか美味いぞ。中に詰めておいた山菜も良い意味で癖のある味とマッチしている。欲をいえばもうちょっと良い感じのソースで皮を照り焼きにしたかったが、これ以上の贅沢は言うまい……。
「もう全部食べちゃったよ……」
「あっという間だったね……」
「……もう一度鳥を探してくる?」
「あはは、僕はちょっと疲れたから遠慮する……」
まぁちょっと使う道具が手間なだけで、簡単にできる料理ではあるからまた今度な。今度。
なんなら屋外炊事場でやったほうが楽だよこれ。そん時に作れば良いさ……。
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