冬季キャンプお試し回
冬になったなーと思ったら急に寒気が流れ込んできたらしく、バロアの森はすっかり静かになってしまった。
狩猟シーズンは完全に沈静化し、後はバロアの森のごくごく浅い所で樵が作業するばかりである。それもこの冷え込みでは、働き手も多くはないだろう。暖房をつけた作業小屋でちょくちょく休んでになるだろうな。それさえも雪が降るまでの間だ。
しかしこう寒い時期になると、カラッと揚げた串揚げはより美味くなるものだ。レゴールにいくつか生えてきた串揚げ屋は繫盛しているらしい。まだまだ目新しい料理ってのもあるだろうが、まぁ寒い時ほど美味いもんな。逆にラードは冷めたら不味いけども……。
揚げたての串に、キツめの酒。文化的な生活を送れているようでなによりではあるが、ちと健康が心配になってくるな。まぁ、その辺りもいつかケイオス卿として言及するようにしておこう。
後は、そうだな。近頃は空き地に大きな天幕が張られたりなんかして、そこで簡単な劇だとか芸を行うような興行も増えたそうだ。
冬場に仕事が無いような暇な人々はこういう天幕を訪れて楽しんでいるらしい。最近行った森の恵み亭でも珍しく吟遊詩人がそっち方面の明るい曲を歌ってたりして盛り上がっていたので、着実にサングレール圏の文化は広がっていそうだ。
サングレールというとそれだけで排斥され得る属性なのだが、吟遊詩人達もそこらへんは慣れていてバランス感覚があるのか、政治色の全くない曲をチョイスしている。あるいはしっかりハルペリアをモチーフとした曲を作ったりもしているな。
俺個人としては……ハルペリアの曲はマジで地味だし堅苦しいし、聞いててあんまり楽しくないので結構歓迎している変化ではある。
これもアーレントさんが外交官として色々頑張っている成果の一つなんだろうか。
と、色々とレゴールの近況について振り返ってみたが、今回の俺の活動圏は街中ではない。
人も魔物も消えて静かになったバロアの森。それこそが、目的のフィールドである。
「よし、キャンプ行くぞキャンプ!」
「うっわぁー……過去一番の大荷物だねー……」
「僕らも念入りに準備してきたけど、すごいや……アーケルシアに行った時よりもずっと重装備になってるね」
今日は俺とウルリカとレオで一緒にバロアの森でキャンプする予定である。
こいつらは野営こそ慣れっこだが、わざわざ冬に無目的なキャンプをする意味がわかんねーとか言うんでね。大人としてちょっとその辺りをわからせてやろうって魂胆なわけよ。
「ちょっと興味はあったから準備はしたけどさー……今日はもう昨日よりずっと寒いよー……? 本当にやるのー?」
「まぁ最低限、防寒装備は手を抜けないけどな。それさえしっかりしときゃ冬場でも快適に楽しめるもんさ」
「楽しめるって冬の野営を……? 軍人さんでもそんなに楽しんでないと思うけどなぁ」
こいつらにとっては野営ってのは普通のことだ。つまり、キャンプというのはかなり身近な行為なのである。だがそれもやむなくやるのがほとんどだし、狩りとか長距離移動の途中で仕方無しにというイメージが強いのだろう。
わざわざ獲物のいない冬に、自分から野営をしに行く。なるほど確かにマゾいっちゃマゾいな。仕事でやるわけでもないし、ただ赤字になるだけなのは確定だしな。その辺りはまぁわかる。
わかるけどキャンプってそういうもんだから……まずは受け入れろ……!
「まだギリギリ樵の人らが利用するバロア方面の馬車が残ってるから、それ乗って行くぞー」
「帰り馬車無しで徒歩だったらやだなー……」
「せっかくだし、今回は冬季野営の訓練だと思ってやってみようかな」
「その意気だぞレオ。何事も前向きが一番だ」
そんなわけで、俺たちは静かなバロアの森に向けて出発した。
落ち葉がカラカラになって、土は踏むとシャリッとなる場所もある。霜柱だろう。もういつ雪が降ってもおかしくない寒さだ。
この季節はもうめぼしい果物も野草も全て枯れるか食われているので、採集にはとことん向いていない。狩猟対象も奥地へ奥地へと行っているので、魔物と遭遇することは極めて稀だ。もちろん全くゼロってわけではないんだが。
「なんだか二年前のブリジットさんと一緒にやった任務を思い出すねー」
「あー……あの歩き回っただけのやつな」
「それ僕も話だけは聞いたよ。ブリジットさんも大変だったんだってね」
「お、そういやレオはその時居なかったよな。でもブリジットにはもう会ったのか?」
「うん、貴族街の任務でちょっとね。稽古も付けてもらったよ」
「マジか」
男爵令嬢ブリジット・ラ・サムセリア。二年前に突然ギルドにやってきて討伐をやりたいと言い出したおてんば令嬢である。
その後春になってすぐに王都で護衛の仕事についたのだが……護衛としてついた相手が現レゴール伯爵夫人だってんだから、人生ってのは本当にわからないもんだよな。
それが巡り巡って、レオの剣術指南までするのか。いつか再会する可能性も微粒子レベルで存在するかもしれないくらいには思っていたが、ここまでガッツリ戻ってくるとはさすがの俺も思わなかったぜ。
「ブリジットさんの剣術は凄いなんてものじゃないよ……貴族の近衛に選ばれる人って、ここまで凄いんだって思ったよ。全然勝てる気がしないんだ。……ステイシーさんはもっと強かったけど」
「ねー。多分あれだよね? ブリジットさんはとにかく速いけど、ステイシーさんは守りが堅いよね!」
「うん。ゴリリアーナさんの一撃でも受けきれるんだから、僕の軽い斬撃なんかじゃ小揺るぎもしないわけだよ」
えっ、伯爵夫人そんなつえーの?
ゴリリアーナさんの斬撃受け止められるとかもう最強の英霊クラスじゃん。
「最近はゴリリアーナさん、邸宅に通ってるけどさー……戻ってきたらすっごい強くなってそうだよね!」
「うんうん。その時は僕もまたゴリリアーナさんと手合わせしてみたいな」
「レオ、お前も結構バーサーカーなところあるなぁ」
まぁでも男なら誰しも一度は地上最強の男を夢見るものだ。
こういう最強談義にも似た話ってのは良いもんだよな。
キャンプ予定地は奥地ではなく、一般的な場所を選んでそこに決めた。
俺はソロでやる時だったらバロアの森の奥地でやるが、今日は二人がいるんでね。伐採も罠猟も絶対来ないような区画の、川に近い場所にベースを作ることにした。
「でも今更だけどさー……冬の野営なんてやることなくない? ……それこそ天幕の中で寝るくらいしか……」
「まぁ寒い時期はそれも賢い選択だけどな。ちまちまと小物を作ったり手のかかる料理を作るのも良いもんだぜ」
背負った荷物をドカンと降ろし、物に応じてテキパキと展開していく。
大人数用の天幕、薪ストーブ、ダッチオーブン……は宿屋に貸したままだし今回は使わないので普通の鍋で……。
「ほれ、二人でそこの天幕張ってみろよ」
「僕たちが?」
「できるだろ? 自分たちの寝床くらい自分たちで作らないとな」
「んー、立てたことのない形ではあるけど、できるかも……ウルリカ、一緒にやってみよっか」
「うんうん。じゃあ私こっち側ね!」
二人に作業させながら、こっちはこっちで水汲みと料理の下準備だ。
鍋や水筒にありったけの水を入れて川を往復する……前に触らせてもらった水を出す魔道具がすげぇ欲しくなるな。でもああいう魔法を封じる魔道具ってすげぇ高いらしいし、魔法を逐一封じるのも金が必要ってのがね……。魔法で楽したきゃ死ぬ気で勉強するしかないようだ。……どうにか楽して覚えらんねーかなぁ。
「あ、これだ! レオこれ、この張り綱についてる金属板をずらすと縄が引っ張れる!」
「……あ、ここか。へー、こういうのもあるんだね。便利だ」
あとは薪だな、薪。薪と炭。
炭はちょっとだけ荷物に入れてきたが、薪はそこらのバロアの枝をへし折って集めるしかない。まあでも冬場は乾燥しているし、集めやすい季節だ。火口の枯れ葉だっていくらでもある。問題は量だけだな。景気よく拾って山と積んでおくとしよう。
今日は薪ストーブで暖を取りつつ美味い飯を食って……ウルリカとレオに、冬季キャンプの良さってのをその身に刻んで帰ってもらわなきゃな……。
「あれっ!? なんかこの天幕ちょっとシワになってないー……?」
「うーん……あー、本当だ……ウルリカ、ちょっともう一度張り直そうか」
「ぐぐぐ……しょうがない、やろっか……! きっちり張れてないと気持ち悪いし!」
……頼むから寝てる時に倒壊するようなテントにはしないでくれよ?
「バスタード・ソードマン」第二巻の表紙が公開されていました。
※みてみんの使い方を忘れたので画像は作者のTwitterかハーメルンで御覧ください
ライナとモングレルが精霊祭を楽しんでいるシーンです。とても綺麗。
( *・∀・)カワイイワ……
(ヽ◇皿◇)カワイイネ……
発売予定日は2023/10/30です。
メロブ、ゲーマーズでそれぞれ特典短編SSがつきます。また、それぞれ限定版があり、そちらは長編SSが付きます。
特典は全部内容が違うのでお気をつけください。




