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バスタード・ソードマン  作者: ジェームズ・リッチマン


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ハト、タカ、カッコウ

ウィレム・ブラン・レゴール伯爵視点


 私はウィレム・ブラン・レゴール。

 少々見てくれの箔が薄くはあろうが、この街レゴールとその周辺を支配する、ハルペリア王国のれっきとした伯爵だ。


「この街の騎士や衛兵はとても真面目で驚いたわ。王都ではもうちょっと不真面目というか、すぐに賄賂にも靡くような連中が多かったのだけど。フフッ、領主様のおかげなのかな」

「……ステイシーさん、あまり褒められてもね……私は何も出せないよ」

「フフフ、もっと自分に自信を持っても良いのに」


 ……伯爵であり、この麗しい女性の伴侶でもある。

 ステイシーさん。まさかこの私に妻ができるとは思わなかった。何より、これほど、なんというか、情熱的だとも……。

 ……不慣れな私は、いつもタジタジだ。いや、ステイシーさんが嫌いなわけでは断じてないけども。むしろ、日に日に惹かれて……いや、昼間だ。こういう話はよそう。


 今はランチの時間だ。

 食事の時間は目の前の食べ物に向き合うのが礼儀というものだろう。

 ああ、近頃のパンは美味しいなぁ……。


「騎士団や衛兵の他に、ギルドマンも良い仕事をするみたいだね? 王都ではあまり戦力や労働力として数えてないんだけど、この前の森の騒動では結構動いてくれたよ」

「ああ、ステイシーさんは直々に出てくれたからね……しかし、そうだねぇ。それはレゴールが特殊というよりは、王都が特殊なのかな。向こうは常備兵も充分にあるし、常駐勢力に振る仕事は色々とあるから。ギルドそのものがあまり活発じゃないんだよ」

「へえ。ギルドの本部は結構大きかったけれど」

「王都を経由する護衛の仕事が多いからね。その手続きや、情報の集積と分析で大きな場所を取っていると聞いたことがあるなぁ。あとは、貴族街向けの魔法使いの仕事が多いんじゃないだろうか」

「なるほど……まぁそうね。それに、王都に討伐の仕事は無いものね」

「うん。あとレゴールはバロアの森も近いから、トラブルも多くてね。ギルドと兵団がわりと密接なんだ」


 ギルド。それはこの国にとって欠かせない勢力の一つだ。

 国が管理する組織ではあるが、実態はかなり緩い。犯罪者予備軍を管理するための組織だとあけすけに言う領主もいるが、そんな言い方もあながち間違いというほどでもない。

 事実、ギルドマンは落ちぶれた民たちの最後の拠り所でもある。ギルドを軽視して活気を失わせれば周辺地域の治安は悪くなり、元犯罪奴隷の再犯も多くなる。

 この組織を上手く御すことのできる領主こそが名君であるとは、良く言われる話だ。半分くらいは冗談だろうけどね。


「……ええと、そういえばステイシーさんはギルドマンとも懇意にしていたよね。“アルテミス”だったかな」

「ええ。個人的には弓を教えてもらったりしてるけど、こっちが剣を教えたりもしてるわ。ゴリリアーナって子がなかなか有望でね。鍛え甲斐があるの」

「へえ、それはまた……弓も覚えるんだねぇ、ステイシーさんは」

「今までは剣ばかりだったから、一応使い方くらいはね。……貴方の横に居ながらでも、戦えるようになりたいから」


 ……まっすぐに言われると、ちょっと照れるな。


「私は、ステイシーさんが弓を持たずとも良いように政治を回していけるよう頑張るよ」

「アハハ、それが一番でしょうね」


 本当なら私がステイシーさんを守ってやるくらいのことは言わないと格好がつかないんだけど、出来ないことを放言しても仕方がない。

 私は私にできることを最大限やっていくだけだ。……自分一人だけの伯爵家でないと、気合が入るね。




 少し前まで、アーケルシア侯爵はこちら側、サングレールとの問題においては政治的に干渉はせず中立な立場を堅持していた。

 地理的にも遠く離れたアーケルシアだ。下手に嘴を突っ込むこともないと考えていたのだろう。それは正しい判断だと思う。

 けれど現当主であるマルテン・モント・アーケルシア侯爵は、“聖域派”にやや寛容、というより甘い立場を取っていたことは間違いない。


 ハルペリアとサングレールの国境に人の手で排除できない強大な魔物を配置することにより、二国間の交易も戦争も断絶させる……“聖域”を作ろうという過激な思想を持った派閥だ。アーケルシア侯爵からすれば陸路が封じられれば己の湾岸都市が大きく潤うのだから、“聖域派”の実現性はともかく、大らかに対応するのもわからないではない。

 だが、積極的に支援しようというわけでもなかった。その辺りは聡いアーケルシア侯爵のことだ。実現性に疑問があったのだろう。事実、貴族の中でも“聖域派”は決して多くはなかった。


 だからこそ、私はアーケルシア侯爵に取引を持ちかけた。

 交易に関する大きな提案と助言。長期間の契約……。結果として侯爵は私の案に賛同し、“聖域派”反対の立場に回ってくれる事となったのである。


 陸路によるハルペリアとサングレールの交易路の確保。

 これは両国が恒久的和平を結ぶに当たって重要な事だ。戦争を起こさず、内政に注力して領地経営するためならば是非とも実現しておきたい。


 そしてこれは私だけではない。ジュール・ロアル・ハルペリア国王の意思でもあるのだ。

 ……徹底抗戦を望む血気盛んな貴族たちも多い中、とても大変だと思う。敬われるだけの立場ではない。実態は常に陰謀が……嫌だなぁ……王様にだけは頼まれたってなりたくないよ、本当に……。

 そういう意味では今の私くらいの立場で動けるほうが、一番気楽なんじゃないだろうか。




「なるほど……軍需物資に成りえるものは取引せず、最初はあくまで嗜好品と……確かに、交易はそうした方が上手くいきそうだ」


 私は今、大男と話している。全身が筋肉に包まれた、……頭頂部の寂しさにどこか親近感の湧く、中年の男である。

 私の周囲には“月下の死神”達が護衛として臨戦態勢を取っているが、それだけの理由が彼にはある。


 “白頭鷲”アーレント。

 かつて戦場において無双の強さを発揮したという聖堂騎士団の一人は、今は目の前で外交官としてソファーに座っている。人生とは不思議なものだ。私とは無縁の人間だと思っていたのだが。


「サングレールからも似たような品を出させてもらいたい。争いに寄与しない……そうだね、甘味の原材料などはどうだろうか」

「おお、良いねぇ甘味。平和の象徴だよ」

「うん、甘味は素晴らしいものだ。ステラビーンズに……ああ、スターアニスなんかも良いかな。とても良い香りのする実でね……」


 アーレント氏は体格の物騒さのわりに、非常に穏やかなお人だった。

 もう何度か一緒に会談しているし、いくつかの式典にも出席してもらっているので慣れたものだ。最初は私もおどおどしながら接していたけどね……。


「……問題は、エルミート男爵領でね。ううん、困ったものだ……」

「エルミート……といえば、国境沿いの」

「そう。貴方がたサングレールでいうところのフラウホーフ教区と接する領地だね。……そちらとも交渉しているのだけど、なかなか進まなくてね」

「む……エルミート男爵は、交易に反対なのだろうか」

「あまり良い返事を貰えていないのは確かでね。まあ、これまで何度もサングレールとやり合ってきた土地柄もあるだろうけど、“聖域派”が多いのもまた厄介でね……」


 それとエルミート男爵は私のことがどうも嫌いらしい。あれは対抗心とでもいうのだろうか。私は何もしてないのに……。


「ふむ……エルミート男爵領には“タカ派”と“カッコウ派”が多い、と」

「……カッコウ?」


 アーレント氏の零した呼び方は、初耳だった。


「ああ、“聖域派”のことだね。サングレールではヘリオポーズ教区のイシドロ神殿長が筆頭なのだけど、彼らの派閥もなかなか無視ができなくてね。いつしか誰かがカッコウと、そう名付けたみたいなんだ。……ヘリオポーズだけでなく、フラウホーフ教区にもカッコウ派はいくらかいるけどね」


 ふむ……話には聞いていたが、サングレール聖王国の“聖域派”……カッコウか。

 二国間を結ぶにあたっては、こういった派閥への対処もこれからはどんどん必要になっていくだろうな……。


「アーレントさん。イシドロ神殿長はどのような人物かわかるかい?」

「……私も他の教区に関してはあまり詳しくはないんだけど、何度か会ったことはある。その上でイシドロ神殿長について語るのであれば、奇妙な人……としか言えないなぁ」

「奇妙」

「性格が全く読めない人なんだ。神殿長たちの中でも大の変わり者でね……」

「交渉はできるだろうか」

「うーん……難しいと思う」

「……そうか」


 サングレールとの交易を成立させるためには、まだまだやるべきことが多い。

 戦争を避けたい者、徹底的に戦いたい者、交流ごと関わりを絶ちたい者……ハト、タカ、カッコウか。様々な思惑をどうにか形だけでもまとめられないものだろうか。


 ……一筋縄ではいかないよなぁ。はぁ。


 ……今の私に出来ることは、エルミートとの粘り強い交渉くらいのものだ。

 頑張るしかないなぁ……。



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― 新着の感想 ―
面倒臭い考え方すると聖域作る技術が有ると殲滅戦争の準備が出来ちゃうよな 敵国の周り一周する聖域作った後、ある程度繁殖したの確認後 魔物を敵国へ追いたて戦力疲弊させた後、軍突入で敵国民殲滅とかやらかせち…
ラノベ定番の卵泥棒かも知れない まあ、現地の神話なのかも知れないけれど
ゴリさんに教えられるとなると剣豪令嬢は推定ゴールドクラスかぁ……。
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