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バスタード・ソードマン  作者: ジェームズ・リッチマン


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暗くて狭くて怖い氷室


「うぃーっす。レゴール工務店のモングレルでーす」

「っスっス」


 地下室工事の仕事を請け負った俺は、翌日の朝にはもう“アルテミス”のクランハウスを訪れていた。ギルドの面々だけで話が通じるので楽で良いや。


「地下室の仕事、モングレル先輩が来てくれて良かったっス。冬までになんとかしておきたい工事だったんで……」

「いや、ていうかあの依頼ほとんど俺名指しじゃねえの。なんだよ風呂入っても良いって」

「あ、やっぱバレるんスか……いや、ほら、クランハウスにあまり変な人入れたくないんで……モングレル先輩なら大丈夫かなって……」

「まぁそういう事だろうと思ってはいたけどさ。こっちも風呂に入れるってんならありがてえし」


 なにせ最近、とてつもなく汚い公衆浴場を利用したせいで逆に風呂が恋しくなっていたからな。やっぱ風呂は綺麗じゃなきゃやってられん。

 なんだったら報酬は無しでもいいから風呂だけ入れて欲しい。回数券とか売ってくれねえかな……。


「じゃあ先輩、ひとまず中入って、どうぞ」

「おー」


 まぁ、とりあえず今回は先に仕事からだ。

 さっさと終わるかどうかはわからんが、給料分と入浴代の仕事はしておくとしよう。




 “アルテミス”のクランハウスは元々先代たちが主力だった頃に建てられたものであり、それを今のシーナたちが改修しながら使っているらしい。

 元々女ばかりのパーティーだったからだろうか。クランハウスの設備は清潔さが重視されており、そこらへんのちょっと良いくらいの宿よりも住み心地が良さそうな感じがする。


「こっちに氷室の入り口があるんスよ。けど階段は狭いし急だし……最近、この入り口部分だけなんとか広くはしたんスけど、肝心の氷室自体もちょっと狭めみたいで」

「うわ。本当に狭いな。階段も怖いな」

「地下が広くなったら階段も新しくするみたいっス」


 ライナに案内されたのはクランハウスの調理場だ。

 その片隅に地下に続くハッチがあり、パカッと開くと中には細くて急な階段が続いている。

 木製の階段はほぼ梯子のような急勾配で、上り下りするには手を使わないとちょっと怖い。ゴリリアーナさんなんかは一歩踏み込んだ瞬間に壊してしまいそうだ。

 で、地下に降りてみると……そこには汗だくなレオが居た。


「あ、モングレルさん。来てくれたんだ、ありがとう」

「おう。なんだ、レオもここの作業やってるんだな」

「うん。合間を見て、少しずつだけどね。けど、正直あまり進んでないよ。僕はどうも、こういう作業は苦手みたいで……」


 氷室に降りてみると、だいたい広さは三畳ほどだろうか。そのくらいの円形の部屋が広がっていた。部屋が四角じゃないのは、効率よく冷気を利用するためだろう。

 しかしこれ、倉庫っぽい広さといえばそうだろうが、氷室としてはどうなんだろうな。ちょっと狭いように感じるんだが。


「……この広さで雪とか氷を敷き詰めるんだろ? あとは木材とか藁とか。……そうしたらもうほとんど埋まっちまうんじゃないか」

「いやそうなんスよ。今これもう外側の木とか全部引っ剥がした後なんスけど、それと雪とかが入ってるともう全然冷やすものを保管できないくらいしかスペースがなくって……ほとんど使ってなかったんス」

「“アルテミス”の最初期の連中が氷室付きのクランハウスを建てたはいいが、設計をミスったってことか」

「そういうことらしいっスねぇ」


 保冷のための氷と断熱材だけでいっぱいになり、肝心の冷蔵物が入らない。悲しい氷室だな。俺も小さな冷蔵庫を買って後悔したことがあるぜ。缶ビール数本だけ入ったところでどうしようもねえんだよな。


「モングレル、地下にいるのか」

「あ、ナスターシャ先輩っス」

「おー、お邪魔してるぞ。ここを広げりゃ良いんだろ?」

「話が早いな。その通りだ」


 入り口からぬっとナスターシャの顔だけが出てきた。無表情なのが地味に怖い。


「既に役人の視察は入り、許可は取っている。拡張する規模については、この図面を参考にするように」


 そう言って、ナスターシャは一枚の羊皮紙を投げ込んできた。

 図面かーって思ったが、階段の位置と部屋の広さがざっくり書かれたシンプルなものである。部屋の形も円形だから難しいことは何もない。ただ掘っていけば良いだけだろう。

 いや、床の排水とかそこらへんの機構はいじっちゃいけないのか。なるほどね。まぁそれでも複雑ではないな。


「まあ、これならいけるだろう。任せておけ、修理したこのアストワ鉄鋼のツルハシがあれば余裕だからな」

「あ、やっぱりそれ持ってきたんスね」

「あはは、頼もしいなモングレルさん。……僕も手伝うから、やってほしいことがあったら何でも言ってね」

「おう。まぁしばらくは一人でやってみるわ」

「作業中はこの魔導ランプを使うと良い。ただし、一度にそう長く使えるものではない。ランプの点灯中だけ作業して、消えたらその日の仕事は中断だ。そのように進めて欲しい」

「はいよ。……てことは一回の作業時間は相当短そうだな」

「そうだ。だからこそ効率良く作業できる人間を雇っている」


 なるほどね、俺の出番ってわけだ。

 そいつは良いチョイスをしたと褒めてやろう。俺も素人ではあるが、地下室は過去にいくつか作った事があるからな。任せておけ。


「モングレル先輩、私も何か手伝うことないスか」

「風呂掃除しといてくれ」

「風呂のことばっかっスね……」

「仕事した後は綺麗な風呂に入りたいだろうが」

「ははは、僕もちょっとわかるかも」


 というわけで、俺はちまちまと作業を開始した。




 部屋の中心から紐を伸ばし、紐が届く距離まで掘り進める。

 円形の部屋を掘るならそれが一番楽だし正確だろう。なんならこの辺りの作業は多少暗くてもなんとかなる。レオは苦手な作業だと言っていたが、俺にとってはかなり楽なもんだ。


「ほっ、ほっ」


 ツルハシの先にまで強化の魔力を浸透させ、そいつで壁をガツガツ殴る。

 それだけで硬い地下室の壁面はボロボロと崩れ、瞬く間に瓦礫となって足元に山積してゆく。

 掘るよりもこの溜まった石ころをどうにかする方が面倒かもしれない。


「……結構汗かくなこれ」


 しかし地下でツルハシを振るっていると、疲れよりも先に暑さがくる。

 風もなく湿気の籠もる地下空間で運動をしてりゃ、まあ汗もかくか。おっと、削りすぎないように注意しないと。糸を時々伸ばして確認して……よし、ピッタリだな。


「お?」


 なんて熱中している間に、ナスターシャから貸し出された魔導ランプがチカチカと点滅し始めた。よくわからんが、これはもうそろそろ消えるという予兆だろう。

 二時間ほどぼんやりした灯りの中でやっていたが、そのくらいで作業はおしまいか……確かにこれは一気にやりたい作業かもしれん。


「やべ、暗くならないうちに上がらないと」


 これでフッと灯りが消えたらホラーだ。

 俺はさっさと梯子のような階段を登り、クランハウスへと戻ったのだった。




「なかなか進んだようだな。ここからでも山積した石がよく見える」

「ランプさえ保てばもっとできたんだけどな。まぁ今日の所はこんくらいだろう」

「お疲れ様っス」


 ひとまず今日の分の作業は終了した。これから何日かに分けて工事は行われるらしく、俺もあと何度かここにお呼ばれするらしい。ありがてえことだ。短時間の労働で風呂に入れると思えば最高の仕事と言って良いだろう。


「この調子なら更に長い時間の作業もできそうだな。ふむ、次は光魔法で長時間照らしながらやってもらうとするか……」


 しかしどうやら作業時間が短かったのは今日だけらしい。次からは真っ当な時間の労働になりそうだな。いや別に良いけども。


「モングレル先輩、お風呂準備できてるっスよ。レオ先輩はもう入ったんで、お次どうぞっス」

「よっしゃ! じゃあ俺、さっさと入ってくるんで今日はこの辺りで」

「ほんとお風呂だけは早いっス……」

「あまり湯船を汚さないように」

「わかってるって、綺麗に扱うさ」


 一番風呂じゃないのは残念だが、“アルテミス”の連中はそもそも皆綺麗好きだからな。二番だろうと三番だろうと綺麗なもんだろう。そこらへんの心配はしていない。

 むしろ俺が一番アレかもしれないが……ま、まあここに来る前にお湯もらって身体拭いておいたし、大丈夫だろ……多分……。


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― 新着の感想 ―
現代でも個人DIYで地下室作った時に、設計時は良い感じの広さだったけどそこから地下水や振動伝播を防ぐ壁や緩衝材を計算して無くてめっちゃ狭くなった・・・ なんて失敗を聞くのであるあるやねw
これホントに氷室なの? いくらなんでも設計ミスにもほどが…。 元は違う目的の地下室だったのを用途変更したけど、目論見が甘かったとかじゃないのかなぁw
[良い点] アストワ鉄鋼のツルハシがまさかの再登場で嬉しい
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