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バスタード・ソードマン  作者: ジェームズ・リッチマン


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戦列を見送る者たち


 サンライズキマイラは、バロアの森の主だ。

 広大なバロアの森の奥深くに生息する他、ハルペリア王国の領土にあと何体か存在するらしいのだが、詳しいことはわかっていない。

 というのも、このサンライズキマイラがあまりにも危険すぎるためである。


 まずこのキマイラ、存在するだけで周囲の気温がすげぇ上昇する。

 単純にキマイラ本体が強い熱を発しているというのもあるが、こいつが身にまとう魔力がじんわりと環境を歪めているのだそうな。実際、バロアの森の奥地は冬でも広範囲に渡って高い気温を維持している。雪なんて全く降り積もらないし、植生もかなり違う。夏場にあるような植物があるのは当然として、そもそも普通の森には存在しないような熱帯系のものまで生えている。ほぼ別世界だ。

 そんなエリアまるごと環境を書き換えてしまうような魔物が弱いはずもない。サリーが使う“光撃(レインボウ)”を百倍くらい強くしたような破壊光線を反動無しで一ターンに二回撃ってくるようなやべー奴だと思ってくれれば良いだろう。

 なので基本というか絶対に手を出してはいけない魔物として扱われている。下手に喧嘩売って街にやってきたらレゴールが滅ぶのでね。そうでなくとも、バロアの森全体の豊かさにも関わっているであろうと考えられているので、手出しするメリットはない。

 そもそもサンライズキマイラは縄張り意識が非常に強いので、バロアの森の奥から一切出てくることはない。外敵が現れても追い払いはするが、執拗に追いかけたりすることもないようだ。もちろん縄張りを侵した相手には全く容赦してくれない魔物ではあるが……。


「ま、サンライズキマイラっつったら恐ろしい魔物の代名詞みてぇなもんだからな。アレックスなんかは親からもさんざん脅されて育っただろ」

「ですねぇ……何か悪いことするたびに食べられるって脅されてきましたよ……」

「俺も親父がそのクチでな……ああ、今はそんな話じゃなかったな」


 バルガーはブーツの紐を固く結び終え、それだけでひと仕事済ませたような大きな息を吐いた。


「……アレックスはサンライズキマイラの遠吠えを聞いてビビってるが、まず心配することはねぇぞ。サンライズキマイラは縄張りから出たりはしないからな。あの咆哮だけ聞くとすぐ近くまで来ているように感じるかもしれないけどな。全然そんなことないんだってよ」

「そうなんですか?」


 バルガーはこのレゴールで活動して長いだけあって、ここ特有のトラブルにはかなり詳しい。

 俺もそこそこ長いから今でこそ落ち着いているが、最初は普通に戦慄したからな。アレックスの気持ちは良くわかるぜ。


「ありゃあ多分、威嚇だなぁ」

「威嚇ですか?」

「俺も先輩のギルドマンから聞いた話だから実際に見たわけじゃねえんだけどよ。サンライズキマイラってのはコルティナメデューサと大層仲が悪いって話だ。ほら、今日は雷だろ。ラトレイユ連峰で塵雪が降ってるせいなのかね。その雷鳴に反応して、威嚇してるんじゃねえのかな。サンライズキマイラの近くにでも落雷があったのかもしれん」


 あー、そうか。なるほどそう言われるとしっくり来るな。

 確かにサンライズキマイラとコルティナメデューサは仲が悪い。ちょっと強めの電磁波が垂れ流されてるだけでもサンライズキマイラがイラッとするレベルだもんな。今日みたいに雷がゴロゴロ言ってる日なんかはさぞ鬱陶しいことだろう。


「ま、あの馬鹿でかい咆哮がただの威嚇だからといって、周囲の魔物達はそうは思わんわけでな」

「……バロアの森の魔物が、混乱するということでしょうか?」

「おお、よくわかってるじゃねえの。そうそう、森の魔物がとにかく恐慌状態に陥ってな。中には森の外にまで飛び出してくる連中も出てくるわけよ。モングレルは前にも一度、討伐に参加したよな」

「おう、したぜ。まぁ、街道にまでバロアの森の魔物が溢れ出てくる迷惑なイベントってだけだよ。俺達の仕事は、グループに分かれてひたすら討伐するって感じだな」

「……あ、そう聞くとなんだか安心できますね。充分に想像できる範囲というか」

「おうおう、そうだ。あんまり緊張するもんじゃねえぞ。むしろ俺達の稼ぎ時くらいに考えとけや」

「街道に出てる商人にとっちゃ死活問題だけどな……」


 この緊急クエスト、サンライズキマイラに端を発するものではあるが、決してこの最強ボスと戦えとかいう無茶振りではない。じゃあモンスターによるスタンピードなのかっていうと、物語でよくあるような街に向かって魔物全てがゾロゾロやってくるってほど統率が取れているわけでもない。散発的にちらほらと魔物が現れて、それを大勢のギルドマンや兵士で各個撃破していくってだけのものだ。

 そりゃバロアの森も広いから、中には偏りもあったりして、強い魔物が一箇所に集まってくることもあるかもしれないが……それは人海戦術で柔軟にってところだ。ここらへんは俺達の仕事だからな。こっちでどうにかするしかない。



「パーティーの団長はこちらで受付して札を持った後、レゴール内のパーティーメンバーを連れて東門まで移動してください!」

「次のパーティーの方々、こちらへどうぞ」

「すいませんエレナさん、武器の貸し出しってやってますか!?」

「ああ、ええっと! す、すみませんミレーヌ先輩どうでしたっけ!?」

「札を見せれば東門の武器庫から貸し出して貰えますので、そちらでお願いします!」


 ギルドは賑やかだ。続々と入り口からギルドマンがやってきて、パーティーと合流したり装備の準備を整えている。

 遠くからは街の鐘の音も聞こえている。この打ち方は……魔物への警戒だな。これから始まる大規模討伐に備えているのだろう。街中も混乱しすぎないと良いんだが……。




 まぁ、このまま駄弁りつつ二人と一緒に任務に臨めたら退屈しのぎにもなったのだが、生憎と俺はパーティーに所属しないソロギルドマンである。

 バルガーは“収穫の剣”だしアレックスは“大地の盾”だ。二人はさっさと集団に入り混じって、それぞれの持ち場へと移動していった。


 じゃあ俺はどこが持ち場なのかっていうと、そこらへんは東門の衛兵さんに聞かないことにはわからない。

 そんなわけでまだちょっと塵雪が降る中、人でごった返す東門まで行ったのだが……。


「モングレル先輩、おっスおっス……な、なんか大変なことになったんスけど……!」

「ようライナ、と愉快な仲間たち。“アルテミス”もこっちに居たのか」

「ええ。貴族街から直接こっちにね」


 東門前広場には“アルテミス”達の姿もあった。……が、全員揃って緊張した面持ちだ。いや、後ろに控えているジョナ達“アルテミス”の先輩連中は結構余裕そうだな。やっぱりレゴールに長くいる連中とそうでない連中で認識は大きく違っていそうだ。


「今回の招集はサンライズキマイラと対決するものではないと聞いているが……あの咆哮を耳にすると、否応なしに身構えてしまうものがあるな」

「ナスターシャ先輩すら恐ろしいんスから、私なんかは本当に怖いっス……」

「ほ、本当にサンライズキマイラは近くに居ないのでしょうか……?」

「ねえモングレル、あなたは今回のような緊急任務の経験があるのかしら。前回は私達がレゴールに来る前にあったとは聞いているのだけど……」

「ああ、随分前に一度あったぞ。まぁそこまで深刻に捉える必要は無いんじゃねーの? お前たちはどうせ城壁近くでの待機組だろうしな」


 魔法使いや弓使いは城壁付近に集められ、街に近づいてくる魔物への防備として温存される。城壁の上をがっしりと遠距離役で固めておけば、どんな魔物の大群だろうと怖くないからな。


「ううー……どうせなら私達も街道組になりたかったなぁー……その方が獲物たくさん仕留められそうじゃない?」

「ウルリカは緊張しないね……」

「うーん、しないってわけじゃないけどさー。さすがにこれだけ人数いれば平気だろうしさー」

「街道の守りは兵士と選りすぐりのパーティーだけだろうな。移動中の馬車の護送、避難民の保護……弓使いには弓使いの仕事があるってことだろ」

「そうそう、その通りだよ。良い事言うじゃないのモングレルさん。私達は私達の仕事をしときゃいいのさ」


 ジョナはからからと笑い、ウルリカの背中をバンバン叩いている。

 良いおかあちゃん役である。実際に“アルテミス”の先輩はほとんどおかあちゃんだから間違ってもないか。


「ま、そういうことだ。外に出て魔物の群れと戦うのは、俺みたいな連中に任せておけってこった」

「……モングレル先輩、外危なくないんスか?」

「安全、と断言はできないけどな。森から逃げ出してくる魔物も多いだろうし、どんな連中が現れるかもランダムだ……下手するとオーガがゾロゾロやってくるなんてことも有り得なくはない」

「それは悪夢ね」

「単体でも厄介な魔物だというのに、複数体は困るな。私の魔法とは相性が悪い」


 バロアの森の生態系は複雑だ。何が飛び出してくるかはその時まで本当にわかったもんじゃない。

 大半は森の中を右往左往したり、同士討ちしたりするのがほとんどだろうが……森の外に逃げ出した魔物によっては、近隣の村が大きな被害を被ることだってあるはずだ。人的被害がなくとも、畑や建物が大きなダメージを負うのは間違いない。


「モングレル先輩……無茶しないで帰って来てほしいっス」

「心配すんな。俺を誰だと思ってやがる。ハルペリアで一番強いギルドマンだぜ?」


 俺は胸元で銅色に煌めく認識票を見せつけながら、手を振った。


「チャージディアだろうが、オーガだろうが、仮にサンライズキマイラが出てこようが……俺がバスタードソードで斬り伏せてやるからよ」

「モングレル先輩……」


 なんかちょっと録音したいくらい格好良い別れ方をした後、俺は東門に詰める衛兵にギルドでもらった札を見せた。


「うむ、ブロンズ3……お、モングレルだったか。この忙しい時に街に居てくれたのはありがたい」

「ああ。俺が来たからにはもう安心だ。とびきりキツい仕事をくれよ。長く住んでる街なんだ。ちったあ本気出してレゴールを守ってやるぜ」

「良い意気込みだ。助かるよ。……そうだな、じゃあ向こうの兵站長にこの札を渡して、さっそく仕事に入ってもらえるか?」

「ああ、わかっ……兵站長?」


 指で示された方を見ると、周囲の衛兵よりちょっと豪華な鎧を付けた男が周囲にテキパキと指示を出している。

 城門とその上の城壁に運び込む荷物を管理している人らしい。まぁ確かに偉い人だし、大事な仕事ではあるが……。


「バリスタの消耗品と物資を大量に運び上げないといけないんだ。モングレル……頼んだぞ。お前の馬鹿力を頼りにさせてくれ」

「…………おう! 任せてくれ!」


 俺はグッと親指を立てて応えた。




「ようライナ。ただいま」

「あれっ? モングレル先輩どうしたんスか……?」

「城壁で物資の運搬係になったわ」

「バスタードソード関係ないじゃないスか!?」

「ほんとな、それな」


 まぁうん、大事な仕事なんで真面目にやったりますけどね。


書籍版バッソマン第一巻、好評発売中です。

よろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
だからさっさとシルバーにあがれというに…
まあ馬鹿力の使いどころだよな……適材適所じゃないかw
衛兵さんの偉い人にまで馬鹿力で知られてるんだ…ほんとに普段から媚び売りまくってるんだな
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