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バスタード・ソードマン  作者: ジェームズ・リッチマン


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見逃す獲物


「私もこっち側に寄せて寝ようっと!」

「ほらな。来ると思ってたよ。ぜってーそうなると読めてたぜ俺は」

「……僕もこっちにしようかな」

「レオ、お前もか」


 大きな天幕。そして薪ストーブ。バロアの森で快適に夜を過ごすための設備が整った俺の拠点は当然、居心地が良い。そうなるように色々持ってきているからな。

 それにウルリカは毎度毎度こっちに来て暖を取ろうとするからいい加減に慣れたもんである。

 まあ実際、夜に寝る時なんかはこうやって固まっていた方がお互いカバーしやすくはあるし理にかなってはいる。そんなことはウルリカはあまり考えてないだろうけども。俺だってあまり考えてない。


「明日の罠の様子を見て、駄目そうなら二つくらい場所変えようかなーって」

「良いんじゃないかな? 望み薄なところにずっと仕掛けても良くないしね。……あ、このスープ美味しい」


 時間はすっかり夜だ。細かい作業は明るいうちに済ませてしまったので、あとは飯を食って寝るだけである。

 今日の晩飯は普通に肉を焼いたり、持ち寄ったパンを切り分けたり、塩漬けにした野菜をスープにしたりといったごくごく普通のラインナップになった。

 とはいえ、塩漬けの野菜を熱いお湯で戻してボアの肉と脂身を適度に加えてやればそれなりに上等なスープになってくれる。寒い時期に外で飲む温かいスープというのは格別で、別に揚げ物だとかそんな豪勢なものでなくても、むしろこのくらいの方が満足感は高い。


 ウルリカもレオも今日はそれなりの食事で満足し、やることがなくなった後は寝ることになった。

 気がつけば全員こっちの天幕に寄っての就寝である。これで長期間洗ってないような臭い装備を身に着けた男だったら蹴っ飛ばして五メートルほど脇に転がしてるところだが、二人とも清潔なのでその辺りは問題ない。


 さて、俺もさっさと寝ることにしよう……。

 魔物除けのお香を炊いて、薪ストーブに燃料を突っ込んだのを確認して……スヤァ……。




「起床ー、起きろー、朝だぞー」


 薄明るくなる少し前に目が覚めた。夜、途中で何度か目覚めて薪を足したりちょっとした物音にぼんやりと警戒したりなどはあったが、特に何も起こらない平和な夜だった。

 強いて言うならウルリカがこっち側のラグマットに少し侵入気味ってことくらいだろう。


「若者はさっさと起きろー!」

「きゃー!?」

「う、ウルリカ!? どうしたの……って、なんだ、モングレルさんか……」


 ラグマットで簀巻きにしてやるのもご愛嬌だ。

 さて、今日も一日張り切って仕事していこう。




 早朝から始まるバロアの森探索では、まず腹ごしらえから始まる。腹が減っては良い糞が出ないからな。飯食って今日ひり出す分のうんこを補充しておかなければならない。

 低血糖でバテたり栄養不足で咄嗟に動けないなんてのは最悪だ。油断せず、しっかり食っておくのが吉である。

 レオの持ってきたパンに焼いた肉を挟んだサンドをもさもさと齧りつつ、ひとまず今日の行動指針を決める。


「当然罠も見回るけど、ちょっと遠回りして川沿いも歩いて獲物を探してみよっかー。ボア以外にも色々いるかも知れないしねー」

「うん、悪くはないね。……モングレルさんはどうかな?」

「おう、良いぜ。俺は狩人としては二流以下だからな。二人に任せるわ」


 こっちはいざという時の近接役兼荷物持ちだ。方針は丸投げさせてもらうぜ。


「よーし。じゃあ張り切って探索していこう! 色々仕留めて、今日こそ美味しい串揚げを食べるんだから!」

「ウルリカ、それが目的だったんだね……」

「まぁ具材は色々あったほうが美味いけどよ。わかったわかった、今日は揚げ物な」

「やった!」


 揚げ物にハマるのは良いが、その調子でバクバク食ってると数年後に一気に太るかもしれんぞ。……いや、よく野外で活動してるギルドマンならその辺りは平気か。運動量あるしな。




 薄暗い中を進みつつ、昨日に引き続き罠の確認が始まった。

 罠はもう根気との勝負だ。俺はこの勝負によく負けているから罠猟は苦手なんだが、今回みたいに後ろにくっついてるだけで良いなら自分であれこれ工夫したりしなくて良い分楽である。

 護衛とかもそうだな。タラタラ歩くのは性に合わないが、気を張ってれば良いだけという一点においては護衛任務も楽な方だ。


「あっ、ゴブリンの死体だ」

「一体だね。これはギルドマン……というより、チャージディアの仕業かな。刺し傷が低いし、引きずられたような跡もある。あ、蹄も沢山残ってるね」

「チャージディアはとりあえずいる、と……うーん、ゴブリンがいるとなー……獲物の分布が乱れるから困るんだよねー……」


 道中では色々な物を見つけた。

 それは魔物の痕跡であったり、死体であったり、食べられる道草であったりと様々だ。特に痕跡は俺が見落とすような魔物のサインなんかを二人はよく見つけてくれる。


「あ……スワンプタートルだよあれ! 結構大きいけど仕留めれば良いお肉になりそうじゃない!?」

「本当だ。川の近くで甲羅でも干してたのかな」

「おー、本当だ。ただの岩かと思ったわ」


 スワンプタートルはデカい亀だ。リクガメほどではないが、そうだな。すげー成長したアカミミガメより一回り大きいくらいのサイズはあるだろう。

 甲羅は岩のようにゴツゴツしているが、顔つきはすっぽんに近い。その顔つきを裏切らず、やたらと好戦的に噛み付いてくる亀だ。

 しかし好戦的なだけで危険ってほどではない。魔物扱いもされておらず、迂闊に手を出したりすると危ない動物っていう程度の分類だ。解体は面倒くさいが、爬虫類ではあるので一応肉は食える。俺は食ったこと無いが美味いらしい。市場でもそこそこの値段で売られているのをよく見かける。


「とりあえず仕留めておくかー」

「うんうん! これで具材一つ目だね!」

「良かった。罠も掛かってると良いね」


 それから罠を回るうちに、昨日の寂れっぷりが嘘のように色々な獲物を発見した。

 目的のクレイジーボアではないが、罠に引っかかっていた若い雄のチャージディアが一体。くくり罠で首を締めて死んでいた間抜けなハルパーフェレットが一体。日が登り切る前に二体も見つけられたのは幸運という他ないだろう。いや、罠を設置するウルリカの勘が冴えてるのか。


「すげぇな。これだけ獲物が引っかかるなら俺も罠やりてえよ」

「……うーん、目当ての魔物を引っ掛けられなかったから褒められた気がしないんだよねー……」

「あはは、そうだね」


 そういうもんか? チャージディアを引っ掛けられたら充分だと思うけどな。そもそも設置した人間が選べるわけでもないぜ。


「というかモングレルさん、それ重くないのー……?」

「余裕余裕。チャージディアが来たお陰で天秤棒のバランスが取れてむしろ楽になったぜ」


 ちなみに今現在、捕まえた全ての獲物を棒にぶらさげて運んでいます。軽くなるように無駄な部位は落としてあるけどな。

 今は罠の見回りを中断して、拠点近くの川に向かっている最中だ。川にぶち込んで肉を冷やすついでに、ひとまずの成果を捌いたりまとめておこうと考えている。


「チャージディアの気が立ってるなら向こう側を探す意味は薄いんじゃないかなー。縄張りにしてた場所ってことだし、そうなるとあの辺りにはボアが来てないのかも」

「どうかな……チャージディアも結構気まぐれなところがあるからね。獲物や外敵に執着するから、こっちに来てたのは偶然かも」


 作戦会議を挟みつつ、再度出発。

 狩人は色々考えながら森を歩いてるんだなぁ。すげーや。

 俺なんかバスタードソードで木をバシバシ叩きながら歩いて、音を聞きつけてやってきた魔物を返り討ちにするっていう狩り方をスマートな方法だと思いこんでたクチだからな……この手の深い考察とかは全くできる気がしない。


「あー、こっちの罠も壊れてる……誰だろ……人だったら最悪……」

「しょうがないね。次に行こう、ウルリカ」

「……全く! これだから罠は嫌なんだよねっ!」


 しかしまぁ、罠のトラブルの多いこと多いこと。

 元々罠自体の精度も低いので、誤作動や壊れたりすることも多いのだろうが……それにしても不自然な故障や紛失が起こる事は多いらしい。

 昨日の今日でギルドマンの誰かが……というのは考えづらいように見えて、実は結構有り得たりするのが悲しいね。


「お!? おいおい、あそこにクレイジーボアかかってるぞ!」


 なんてこと考えてたら、歩いている途中で不自然な怒り方をしているクレイジーボアと遭遇した。

 樹木を中心にえぐれた地面。そして紐で拘束されているクレイジーボア。罠にかかり、何時間も暴れた形跡が深々と地面に刻まれていた。

 これで今日何体目だ? いや、とにかく目当てのクレイジーボアが来たってのはありがたい!


「……あ、他人の罠だ」

「お? なんだよあれウルリカの仕掛けた奴じゃなかったのか」


 が、どうやらそれはぬか喜びだったようだ。

 確かにクレイジーボアは罠に掛かっていたが、それはウルリカの仕掛けたものではなく、他人。つまり別のギルドマンの獲物ということである。


 ……罠にかかって無抵抗な獲物。そして周囲に人はいない。

 なるほど確かに、こういう光景を見ると魔が差すものなのかもしれないな。自分が獲ったわけではない獲物だってのは承知していても、目の前には金と食料になってくれる魔物がいるのだ。誰かが来る前にちょろまかしてしまえばわからない……なんとも嫌な話である。


「二人とも、一応聞くが」

「獲らないよ」

「見くびらないでよ、モングレルさん。僕たちはそんなことは絶対にしないから」


 おう良かった。ここで他人の引っ掛けた獲物を横取りしようってなったら逆にこっちがどうしようかと思ってたところだ。


「惜しいけどねー……もういいよ、早く次いこ、次!」

「うん。なるべくクレイジーボアを刺激しないように、さっさと場所を移さないと」


 それはそれとして、無抵抗なクレイジーボアをスルーする時の二人はそこそこ不機嫌そうにしていたのがなんか面白かった。

 まぁモヤッとはするよな……絶好の機会を逃している感じがして……。



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― 新着の感想 ―
スキルで鼻が光る人って居るんだろうか……(感知系)
罠の破損理由の一つに他の罠師による獲物を巡る妨害がありそうなんよな
[一言] “スワンプタートルの鍋は朝まで戦える”……!
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