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バスタード・ソードマン  作者: ジェームズ・リッチマン


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屋台付近の騒ぎ


 レゴール伯爵を一目見ようと屋台仕事をちょっと抜け出して見に行った俺達だったが、人が多すぎて無理だった。

 結局そこらの屋台で色々買ったくらいで終わっちまったな。けどまぁ、それだけレゴールが発展してるってことだ。そう考えれば慰めにはなる……かもしれん。いや本当は結構見たかったけどさ。


「串揚げの屋台は大丈夫スかねぇ」

「“若木の杖”の頭良い魔法使い連中がやってるから大丈夫だろ」

「サリー先輩が揚げ物するって言ってたスけど……」

「ははは……いや、サリーか……」


 あいつ頭は間違いなく良いんだが、目を離した次の一瞬に何をやらかすかわからんとこしかないからな……。

 屋台に戻ってみたら“ははは、ごめんねモングレル。なんか屋台が全焼しちゃったよ”とか言い出しても何もおかしくはない。

 油火災が起きたら水ぶっかけるのだけはやめろよとは言ってあるが……やべぇな心配になってきた。


「モングレル先輩、あそこに誰か……あ」

「あっ……」


 俺達が串揚げの屋台が見える通りまで戻ってくると、……俺達の屋台の近くに、何人かの衛兵が集まっている姿が見えた。


 ……こ……これは……ははは、いやまさかな。そんなまさかなサリー。

 嘘だろ? 嘘だと言ってくれ……。


「おっと、噂をすればだね。やあモングレル、おかえり。君が戻ってくるのを待っていたんだよ」

「待て待て待て、聞きたくない聞きたくない」

「? 何を聞きたくないというのか。いや、ちょっとしたトラブルがあってね。ついさっき、この屋台のお金を盗んでいこうとした人が居たんだよ」


 あ、なんだ。それなら良し。いや良くはねえけど。

 ……よく見ると、衛兵達は一人の男を捕らえている。年若い、しかしちょっと小汚い感じの装いの男だ。伯爵様の結婚祝いの日に犯罪をやらかそうなんてとんでもない奴だぜ。実際、こういう日に犯罪をやらかすと罪が重くなったりするのがこの世界だ。


「待てよ……俺は盗んでねえって!」

「嘘よ! あの男、私のとこの屋台もジロジロ見てたし、怪しかったもの! 屋台の奥からお金を掴んだところもしっかり見てたわ!」

「だ、ダフネさんが声を上げてくださったおかげで私達も気付けました。その後は……魔法で制圧して、今に至ります」

「マジか……ありがとうダフネ、それに“若木の杖”の皆も助かったわ。悪いな、金の管理まで任せちまって」

「構いませんよ! 仕事ですから!」


 女だけの屋台だったら盗んでもどうにかなるとでも思ったのだろうか。

 残念だったな。わざわざギルドマンの中でもおっかない女連中に手を出すとは、運の無い奴だ。


「なるほど、そちらがこの屋台を借りたモングレルさん、であると……ふむ、ふむ」


 衛兵の中から不気味な雰囲気の男が前に出て、俺の正面に立った。

 病的なほどの強い猫背。カッと見開かれた黒い両目。


「ギルドマン、ブロンズ3、サングレール人とのハーフ……ふむ、ふむ」


 他の衛兵たちのように鎧は身に着けておらず、しかし上等な服を着ている。レゴールでは見たことがないが、きっと偉い人だろう。だがそれ以上になんというかこう、独特の雰囲気がある男だ。

 なんか口を開くとすげぇ強烈なミントの匂いがするし。


「あ、失礼。私はデューレイ。衛兵長です。貴方がモングレルさんですね? であるならば、屋台の貸し出し許可証を見せていただきたい」

「貸し出し許可……ああ、アレか。はい、これです」

「おい! そいつはサングレール混じりだろ! そんな奴の店の人間の言うことを信じるのか!」


 俺が取り調べに応じていると、拘束されている男がなんかギャーギャー喚き出した。

 俺の白い前髪を見て活路を見出しちゃったか? 必死すぎるだろ。もういい加減諦めとけ。


「ふむ……確かに私はサングレール人が嫌いです。私情を優先して良いならば、連中は全員鉱山にブチ込んでやりたいところですが……」

「だ、だろ? 信じられるような奴じゃ……」

「しかし犯罪者ほど嫌いなものは他にありません」

「うっ……」

「ご協力、感謝致します。この男は囚えておきますので、ご安心下さい……それと」


 最後にデューレイが俺の方にギョロリと目を向けた。


「くれぐれも騒ぎなどは起こさぬように」

「はい。お仕事お疲れ様です」

「……」


 俺の返事が気に入ったのか気に入らなかったのか、特に表情を変えることもなく、デューレイは衛兵たちを連れて去っていった。


「……なんか、嫌な雰囲気の衛兵さんだったっスね。最後、モングレル先輩にだけ釘刺したみたいで感じ悪いっス」

「まぁ、予め怪しい連中に釘を刺しておくのもああいう人たちの仕事だからな……それより、遅くなって悪かったな」

「ほんとですよ! 忙しくて大変だったんですからね!」

「お土産はあるかい?」

「いきなり催促かよ。まあ一応甘いものは買っておいたけどさ」


 どうやら俺とライナが居なくても屋台はしっかり回せていたらしい。

 ストックが結構減っているから、それを吐き出しながら対応していたんだろう。だが忙しすぎて犯罪者に狙われる隙が出来たのは失敗だったな。やっぱ迂闊に離れるもんじゃねえわ。


「ダフネもありがとうな。こっちの屋台のことなのに、なんか悪いやつ見つけてくれたみたいでよ」

「良いのよ、最初から怪しかったもの」


 怪しい、ねぇ。ひょっとするとダフネが持っているかもしれない“ギフト”がそれに気付かせてくれたんだろうか。

 いや、考えても仕方ないか。


「二人が居ない間、アレックスさんやチャックさんも店に来ましたよ! 皆さん何本も買ってくれました!」

「マジっスか。ギルドマンの人たちにも売れるとやっぱ嬉しいっスねぇ」

「入れ違いになっちまったか。いや、でもチャックは俺が居る時よりも見栄張って沢山買ってそうだな」

「僕が作った五度揚げ串肉を三倍の値段で買ってくれたよ」

「お前何この短い時間で新メニュー作ってんの……?」


 よく見たらストックのところに他の串揚げと比べて明らかにぶっとい奴が一本だけ並んでいた。

 いや美味しいけどさそれ……。


「……まぁいいや。よーし、午後からも稼ぐぞ。あ、“若木の杖”は休憩入っても大丈夫だぞ。その後忙しい時間が終わるまでもうちょい手伝ってほしいが……」

「だ、大丈夫です。私は回る予定は無いので……」

「私も平気です! 母さんも!」

「そういえばレゴール伯爵の姿は見れたかい?」

「いや、見れなかった。人多すぎて広場に入れねえよ。……まぁ手伝ってくれるならありがたい。報酬は弾むぞ」

「あ、お客さん来てるっス!」


 ああ忙しい忙しい。

 世間話をしている暇もねえや。

 さあ昼の忙しい時間だ、こっからもうちょい頑張っていくぞー。




 それから串揚げの評判を聞いたんだか聞いてないんだかわからないが、とにかく大勢の客を捌いた。

 “若木の杖”のメンバーが祭りを見て回ったり、途中で串が足りなくなりそうだったのを隣の“ローリエの冠”の屋台から貸してもらったりなど慌ただしくなったりもしたが、日暮れ前にどうにかほぼ全ての材料を使い切ることができた。

 大量に用意した肉も粉も油も、すっかり減って無くなりかけている。


「わぁ……この古くなった油で揚げた串揚げ、結構味が変わるものなんですね。美味しいと言えば美味しいですが、新鮮な油で作ったやつには及ばない感じがします」

「た、確かに。色もちょっと……」

「ドロドロの油で串揚げ作るくらいなら串焼きにした方がマシっスね……」


 なんだかんだで、ライナもモモもサリーもミセリナもよく手伝ってくれた。

 合間合間で俺がよそから買ってきた肉やら野菜で変わり種の串揚げを作って振る舞ったってのもあるかもしれないが、ここまで協力してくれたことには感謝しか無い。


「あーっ、なんだよまた食おうと思ったのになぁ。もう肉は無いのかよ」

「ようバルガー、二度目の来店かい? わるいな、もう材料が尽きてよ。野菜しか残ってねえんだわ」


 肉の串揚げは好評で、あっという間に無くなってしまった。

 骨からなんとかこそぎ落として作ったりもしたが、もうしつこい脂身くらいしか残っていない。さすがに脂身の串揚げは邪悪な食い物すぎる。好きな奴もいるかもしれないが、やめておいた。俺の店は美味い串揚げしか出してないんでね……。


「だったら店を畳んで、飲みに行こうぜ? タダで配ってるやつはもう無いけどな、西門側じゃ色々な強い酒置いてあるんだよ。蒸留酒だっけか?」

「良いっスねぇ!」

「マジで? それはちょっと気になるな……」

「おや、営業は終了かい?」


 まぁ、ここまで来たら店は畳んでも平気か。隣のダフネたちも肉が無くなって片付け始めてるし。

 油と燃料の始末をしたら、引き払っちまおう。


「……よーし! 串揚げを手伝ってくれたチームモングレルの諸君!」

「なんですかその名前は!」

「諸君らの頑張りに敬意を表し、今日の報酬に色をつけて渡してやろう!」

「わぁい」

「モングレル、俺の分は無いのか?」

「お前にあるわけねえだろバルガー! ……いやぁほんと助かった。初めてこういう店をやってみたが、人が多くないとなかなかしんどそうだったな。“若木の杖”が居てくれて良かったわ」


 今日の収益を皆に分配すると、普段そこそこ稼いでいる“若木の杖”の面々ですらその額にちょっと驚いていた。

 まぁね、うちの屋台は値段もそうだし量もかなりのものを用意してたからね。そりゃ莫大な稼ぎになってますよ。


「こ……これだけ稼げるならもう串揚げのお店やった方が良いんじゃないスか!?」

「嫌だ」

「ええ、稼げるのに……!?」

「いやこれな……マジで……やってると、揚げ物を食う気力が減るから……」


 金は稼げる。だが、グツグツと熱せられた油の匂いを嗅ぎ続けているとね。食って無くても飽きが来るんよ。

 俺はな……好きな食い物を嫌いになりたくねえんだ……。


「……それに、今日俺達がこういう屋台を出したことで、レゴールで揚げ物が広まったりするかもしれないだろ? そんな今日みたいに上手く稼げはしねーって」

「あー……そういうもんスかね」

「人気だったからねぇ。真似をする店は出てくるかもしれないね」


 俺としてはそっちの方が助かるぜ。

 自分で作るよりも、金を払って食うのが一番だ。なんだかんだ言って、揚げ物は他人が作ったものをサッと食う方が面倒が無いしよ。


「さあ、酒飲みに行こうぜライナ!」

「っス!」

「好きだねえお酒。モモ、ミセリナ。僕らも遊びに行こうか。お金もあるし」

「うん」

「回るんですか……わ、わかりました……」

「俺達の祭りはこれからだ!」


 西門側の店でまだ蒸留酒が残っていることを信じて……!


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― 新着の感想 ―
俺たちの祭りはこれからだ! お買い上げありがとうございました!           バッソマン 完
そういや廃棄予定の油ってどうするんだろう……? 灯り用とかなんか用途があるんだろうか
>お前何この短い時間で新メニュー作ってんの……? さすサリ。 しかし五度揚げ…そこまで(多分結構粗めの)パン粉付けまくったら、それもう揚げパンなのでは…?肉入りの…。
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