誘発する罵倒
ウルリカの髪色が茶髪から薄紅色になりました。
過去の本文中で変更出来ていない箇所などありましたら、報告いただけると助かります。
「えっと、モングレルさん……準備とかは平気?」
「おう」
人気のないバロアの森の中で、俺とウルリカが向き合っている。
“アルテミス”のメンバーがそれぞれの分野に分かれて忙しくしている中で、ウルリカは俺を誘って二人きりで練習がしたいと言ってきたのだ。
討伐のついでということであれば否やはない。喜んでウルリカの練習台になってやろう。
まぁ、俺もこういう事に興味が無かったわけじゃないからな……。
「……うん、じゃあ……やるね……意識、飛ばさないでね……」
ウルリカの目を見つつ、その時を待つ。
さあ、いつでも来い。
「……“挑発”!」
目が紫色に輝き、見る者の意識を揺らす。
それは俺であっても例外ではなく……ウルリカの光る目を見ていると、なんとなく自分の中の衝動の振れ幅が大きくなっていくような気がした。
少なくとも、目を離せないだけの効果はあるようだ。
「……ふーっ、長く続けてるとちょっと疲れるなー……」
「結構長かったな。おつかれさん」
「で、で? どうだった? モングレルさん。なんかムカッとしたり、変な気分になったりしたー?」
「まぁそうだなぁ……前回と同じで意識を引っ張られる感じはあったぞ。まぁ、気構えもしてた上に棒立ちだったからそこまでかね」
「うーん……やっぱり?」
「つってもこれは人に向けて使うもんじゃねえからな。不発に近いならそれで十分だろ」
俺たちが何をやっているのかというと、見ての通りスキルの訓練である。
ウルリカがアーケルシアの旅行中に獲得した新スキル、“挑発”の性能をもう一度確認してほしいということで、今回もまた俺にお呼びがかかったわけなんだが。
「あれから練習する時間も実践する時間もいくらでもあっただろ? 他で使ってみた感じはどうだったんだよ」
「うーん……まぁ、魔物とかの気を引くにはすごい便利なんだけどねー……けど、魔物って大抵はスキルとか使わなくてもこっちに向かってくるじゃない? だから弓での当てやすさはそこまで変わらないかなーって感じで……頭に当てやすくなったのは良いんだけどねー」
「なんか不服そうじゃん」
「……鳥とか普通の動物には、なんだかなー。あんまし効果が無いんだよねー。最初からこっちに敵意がある相手にはそこそこ効くんだけどさ。ほら、さっきモングレルさんが受けた時みたいに、警戒されてると微妙なんだよ」
「あー」
なるほど。魔物は積極的に人を襲うが、普通の動物はその限りじゃない。
そういう連中はさっきの俺みたいに“お、なんか引っ張られてる感じあるな”程度で留まってしまうのだろう。
「鳥は逃げちゃうでしょー、家畜も反応鈍かったでしょー、あとクヴェスナにも効かなかったでしょー……」
「あいつは眼とかないだろ」
「あ、そっか。……とにかく、思ってたより状況を選ぶスキルだったんだよねー」
ゲームみたいに発動しただけでヘイトを取れるなら楽だったんだろうが、この世界はゲームっぽい要素がある割に細かいところがシビアだ。
さて、このままではウルリカの新スキルが産廃になってしまうわけだが……もちろんそう簡単に諦めるわけにもいかない。
「でも前にね、レオを相手にスキルを使ってみたんだけどさ」
「おいおい大丈夫かよ」
「いやーそれが、レオが急に掴みかかってきて……」
「おいおいおい大丈夫じゃねえじゃん」
「あ、でもそれは平気だったの。確かに一瞬だけ我を忘れた様子で私の肩を掴んだけど、すぐに気を取り直して離れたし……」
「やっぱり人に向かって使うスキルじゃねえなぁ」
「その時はレオもちょっとお酒飲んでたから、そのせいかも……」
酒飲みながら危ないことをするんじゃないよ。この世界でも飲酒しながら迂闊なことすると普通に死ぬぞ。
飲酒運転ならぬ飲酒騎乗してるおっさんが時々落馬して死ぬ話を聞くからな。
「でもさ? やっぱり盗賊相手にはいざっていう時使えるようになりたいじゃん? そんな時にさっきのモングレルさんにやったみたいに反応が鈍いと困るしさー……もうちょっと、人相手の練習をしておきたいんだよー……」
「レオは……その後どうしたんだ?」
「気の毒になるくらいすっごい落ち込んでた……そういうこともあってさ、練習に付き合ってくれないんだよぉ。“君を傷つけるわけにはいかないから”とか言っちゃうし……」
主人公か何か? いや言葉通りだし気持ちはよくわかるんだけどさ。
「んー……まぁ安全に十分配慮した上でやれば大丈夫か。俺の方でしっかり拘束具つけるなりして……それならまあ、良いだろ」
「やった! モングレルさんやさしー!」
「その代わりこの後獲物を探してもらうからな」
「はーい」
というわけで、“挑発”の性能向上のために色々やってみるわけなんですけども。
「まず“挑発”っていうくらいなんだから、発動してる間に目立たなきゃいけないんじゃねーの。ほら、盾役とかは魔物を引き付ける時に盾を鳴らしたりするだろ」
「え、そうなの?」
「知らんのか……ってそりゃ知らないか。盾持ちがいるパーティーはだいたいそうなんだよ」
盾をガンガン叩いてヘイヘーイと敵の注意を引く。最近までローサー君が身につけていなかったタンク役の基本技術である。
ウルリカは盾持ちではないが、スキルの運用を考えるに同じような考え方でも問題ないはずだ。
「でも盾なんて持ってないしなー……胸当てでも叩く?」
ウルリカが手で胸当てをコンコンと叩く。随分とやる気の無いドラミングだ。注目するというよりは“何やってんだこいつ”という疑問が先に湧いてきそうな気がするぜ。
「人間相手ならもっと直接的に、相手を煽ってやればいいんじゃねーかな」
「煽る……」
「まぁ悪口とかな。盗賊の気を引くつもりなら、汚い言葉で相手を馬鹿にしたりすりゃ効果が出るかもしれん。怒りを誘う感じでな」
「ふーん……そっか……」
相手の平常心を失わせれば、その分戦いを優位に運べるだろう。
まぁ今のところ机上の空論だが、実験してみればわかることだ。
「じゃあ俺を敵だと思って、ちょっとやってみてくれ」
「煽る、煽るかぁ……うんわかった、ちょっとやってみるね……」
なんか良く見るショートコントの始まり方みたいになったが、テスト開始である。
「ごほん……えっと……“挑発”!」
「よしきた」
「……ばーか。あほ。モングレルさんのまぬけー……」
「フフッ」
「ちょっと!? なんで笑うの!?」
「こらこら、スキル切れてる。てかウルリカがキレてどうすんだ」
語彙のショボさに思わず笑っちゃったわ。
別にこういう言葉を使い慣れてないってわけでもないだろうに。
「……うーん、でも知り合いの人に向かって適当じゃない悪口を言うのって……難しいというか、私もちょっと心が痛むんですけど……」
「それは……確かに」
言った後で、仮にテストが上手くいったとしても禍根を残しそうだな……。
そう考えるとちょっとアレか……。
「……えっと、じゃあもう一度やっても良いかな? 今度はちゃんと悪口言いながらやってみるからさ。あんまり酷いことは言わないようにするけど、ちょっと工夫して……」
「おう、やってみな。今度は笑わないように頑張ってみるから」
というわけでテイク2。
ウルリカが再び息を整え、“挑発”を発動し、目に妖しい輝きを灯してみせた。
そしてウルリカはニヤリと笑い……。
「……ざこ。ざーこ♡ モングレルさんのヘタレ♡」
「は? ヘタレじゃないが……?」
うおおお……なんだこれは……俺の心がイラッとくる……。
「弓のセンスなし♡ 照準ぶれぶれ♡ ノーコン♡ 買い物へたっぴ♡ お財布スカスカ♡ 悔しかったらもっとお金貯めてみたらー?♡」
「このガキッ……! ぐわぁあああ」
と、衝動的に一歩前に出た瞬間、俺は盛大にコケた。
予めブーツの靴紐同士を結んでおいたのが功を奏したらしい。そして、俺はついさっきやっておいたこの予防策さえ一時的に頭から飛ぶほど、ウルリカの“挑発”に心を揺さぶられていたらしい。
「……ご、ごめんねモングレルさん……どう、だったかな……?」
「いや……なかなか俺の心に響いてきたぜ……ウルリカの気持ちがよ……」
「そ、そっか……」
気まずそうにするな……言われたことはまだ全然マシだから……シラフで言われても“はい……”ってなるようなものばっかだから……。
畜生、靴紐解かなきゃ……。
「いやぁ、しかし今回のスキルは上手く決まったな。やっぱり発動しながら相手を煽るのはアリなんじゃねーかな。人間相手に限るだろうけど」
「ほんと? 効くかな? だったら良かったー……」
「まぁ使い所は難しいだろうけどな。相手が逃げ出しそうな盗賊とか、そういう連中にはぶっ刺さるだろうさ。ただ、相手から狙われるスキルってことでもあるから、そこのとこは気をつけろよ」
「うん、わかってる。シーナ団長からもよく言われてるしねー」
そうか。まぁあの過保護な団長さんならよく言い聞かせるわな。
こうしてちょっと危険な練習を勝手にやったっていうだけでも、シーナは怒りそうなもんではあるが……。
「……ねーモングレルさん。さっきからずっと何してるの?」
「いや……ブーツの紐がな……固結びしたまま、ちょっと解けなくてな……」
「……へたっぴ♡」
「やめなさい」
結局、靴紐をちゃんと解くのに五分くらい使いましたとさ。
これはさすがにへたっぴだわ。
「バスタード・ソードマン」書籍版第一巻のカバーイラストが公開されましたね。
カバーイラストというのは表紙の文字とかがついてないやつのことだそうですよ。
イラストはマツセダイチ様です。
買い物中の雰囲気が和やかそうで良いですね。本当にありがとうございます。
タイトルも入るとなかなかかっこいい感じになりますよ。そちらのバージョンも追って公開されるでしょう。
自分の作品の表紙ができるっていうのは、感慨深いですね。
第一巻の発売日は2023年5/30です。
もう予約はできるみたいです。
また、ゲーマーズさんとメロンブックスさんでは特典がつくそうです。
これからもバッソマンをよろしくお願い致します。




