豪傑の師事
御存知の通り、“アルテミス”には一人、すげー強そうなメンバーがいる。
彼女の名前はゴリリアーナさん。
数年前まで俺が“アルテミス”唯一の男メンバーだと思いこんでいた、しかし未だに女じゃなくて男っぽく見える、ゴツ……いやまぁ普通にゴツいお人である。
一度間違えた時は“アルテミス”の連中から“酷いわね”だの“ゴリリアーナさんかわいそー”だの“さすがにそれは最低っスよ”だの言われまくって好感度がびっくりする速度で下がったものだが、さすがに今ではもう針の筵から脱することができた。……と、思っている。少なくとも本人は許してくれたからセーフだ。
けど実際、見た目はゴツいし筋骨隆々だし、雄々しい人なんだ。間違えるのも仕方ねえんだよ……。
見た目はもう完全にギリシャ神話に出てきそうだし。世紀末世界で生きてそうだし。画面上から落下しながらクソ強いチョップしてきそうだし。超ギルドマン級の格闘家っぽいオーラ持ってるし。血液型B型っぽい名前してるし。いや名前は違うな。名前をそういう言い方するのは良くないな。うん。
何度か一緒に任務した時に見た戦闘スタイルも、その見た目を裏切らないものだった。
ゴリリアーナさんの武器はロングソード以上のリーチと重量を持つ、この世界の剣士にとっての特大武器、グレートシミターだ。
それをブンブンと力強く振り回すので、小さい魔物であればスキルを使うまでもなく一撃で両断してしまう。素の一撃一撃がほぼ“強斬撃”だ。完全なパワータイプと言えるだろう。言い方を変えればゴリラだ。ちなみにこの世界にゴリラという動物はいない。なので、ゴリリアーナという名前に俺が思い浮かべるようなゴリラ要素は含まれていないのである。
そんなゴリゴリなゴリリアーナさんではあるが、性格の方はというと全くゴリゴリしていない。
眼光だけで人を射殺せそうな雰囲気を出しているものの、基本的には引っ込み思案というか、物静かなタイプであろう。釣りをしている時ものんびりやっているし、お酒を飲んでも“ヌハハハハ”とは笑わないし、他人を“うぬ”と呼んだりすることもない。非常に優しく、穏やかな性格だ。
見た目とステータスと名前に反して、実におしとやかな女性。それがゴリリアーナさんなのである。
「おう、ゴリリアーナさん。その席……隣空いてる? 誰か待ってたり?」
「あ、モングレルさん……い、いえ。待ってはいないです……はい」
「じゃあ隣失礼するわ。いやぁ、今日は混んでるな」
で、俺はそんなゴリリアーナさんと珍しく森の恵み亭で遭遇し、店内も混んでいたものだから隣同士の席に座ることになった。
普段は見かけても“あ、どうも”くらいの挨拶で済ませる程度の関係でしかないんだが、お互い初対面ってわけでもない。しかしこれまで話すきっかけも無かったから、今日はある意味、ゴリリアーナさんの人となりを知るには良い機会だったのかもしれない。
「今日は店主さんがまた大雑把に肉を買い込んだらしいね。ディアもボアも安売りだって噂を聞いたもんだから、つい足を運んじまったよ」
「あ……私もそうです。本当は別のお店に行こうかなと、お、思っていたのですが……」
そうこう言っている間に、ゴリリアーナさんの前に大きな皿が運ばれてきた。
……あらまぁ。これはまた、とんでもない量の串焼き肉だ……。
「や、やはり安くてたくさん食べられるお店は、良いですよね」
「ああ、全くだ。身体が資本のギルドマンにとっちゃ、ここは最高の店だよ」
「褒めても料理しか出ねえよ」
店の奥の方から店主さんがやってきて、何かの野鳥らしい骨付き肉を俺の前にドンと置いていった。突然のサービスである。
それを見ていた周りの男客たちが調子良く森の恵み亭に媚を売るかのように美辞麗句を並べ立てるが、店主さんは鼻で笑っていた。ここの店主さんはマジで気分屋なのである。
今日はツイてるな……お、美味い美味い。しかしこれは何の鳥だろうな。鶏肉じゃないことだけは確かだが、調理された後だとわからんね。
「……ゴリリアーナさんは最近調子はどうよ。“アルテミス”も人が増えて、色々な所で分かれて活動してるみたいだけど」
「あ、はい……調子は、その、良いです……昇級できたので、今はゴールド目指して……です」
ぼそぼそと気弱そうに喋っているゴリリアーナさんだが、こう見えて合間合間に串焼き肉を一口で三欠片ずつ食っている。
「で、ですけど……最近、貴族街の方の仕事で……つ、強い剣士とお手合わせする機会が多いのですが」
「貴族街の剣士か……訓練したお貴族様はつえーからなぁ」
「は、はい。強いです……とても」
正直ゴリリアーナさんはゴールドに匹敵する力があると思っているんだが、そんな彼女をして“強い”と言わしめる剣士……間違いなく只者ではあるまい。
「私も、強くなったと……思うのですが、実際はそ、それほど強くはないんじゃないかって……思い、悩んでいます。はい……」
「自分より強い人と比べちゃったか」
「ナ、ナスターシャさんは、気にすることはないと言ってくれるのですが……」
「んー、俺もそう思うけどね。人と自分を比べてるとキリがないからさ」
どの世界に行ったところで、上には上がいる。比べ始めてしまうと、自分がてっぺんに登るまで葛藤は終わらない。そして、そんな不器用な悩み方をしてると絶対に途中で折れてしまう。
他人と比べず、自分で積み重ねてきたものを認めてやるのが一番だと思うがね。
「力が欲しい……」
なんか殺意の波動に目覚めそうな言葉をポツリと漏らし、ゴリリアーナさんは物憂げなため息をついた。
よく見たら既に串焼き肉が半分以上消えている。食事も喉を通らなそうな雰囲気出してるのに普通に健啖家である。
「力さえ、あれば……私も……素敵な殿方に……」
「え?」
「あ、す、すみません。つい……」
ちょっと難聴系主人公なところが出かけてしまったが、しっかり話は聞いている。
俺の頭の中で単語と単語が結びつかなかっただけだ。
「……殿方ねぇ」
「うっ……は、はい……力が強ければ、良い男性と巡り会える……そう、両親から教わったので……」
「……???」
スパルタかアマゾネスの話だったかな……?
「私の家は、代々戦闘能力を磨くことで、女としての魅力を高めてきました……」
「お、おう……初めて聞く世界観だ」
「私は三人姉妹の三女で……そ、その中でも最も弱くて……姉達は二人共、素敵な男性と結婚できているんです……」
ちょ、ちょっと待っ……いや突っ込み入れたいけどゴリリアーナさん真剣に悩んでるから無理だわ。
「未だ殿方を射止められていないのは私だけ……と、時々、思うんです。私にもっと……力があれば……と……」
思い悩む部分があくまで戦闘力なせいで俺の脳がバグりそうなんだよな……。
「ご、ごめんなさい。モングレルさんにこんな話をしても、困りますよね……」
「いや……どう答えたらいいものかすげぇ悩みはしたけど、困りはしないさ。人それぞれ世界観は違うからな……」
「世界観……」
「ゴリリアーナさんがどうしたら強くなるのかは俺にはよくわからないけどな。ゴリリアーナさんが戦いの参考にできる相手を紹介するくらいなら俺にもできるぜ」
「戦いの参考、ですか……?」
「ああ。そいつからコツを教われば、きっとゴリリアーナさんは更に上を目指せるはずだぜ。……ちょっと人柄がキツいかもしれないけどな。俺から頼めば多分、まぁきっと……応じてくれるはずだ」
ゴリリアーナさんの戦闘スタイルはギルドマン全体で見てもかなり特殊だ。
しかし特殊であっても唯一ではない。全体を見ればゴリリアーナさんとほぼ同じ装備で、しかもゴリリアーナさん以上の腕前のギルドマンだって存在するのである。
「お……教わりたいです。い、今より強くなれるのであれば……!」
「おお、すげぇ覚悟だ……けど、覚悟は良いのか? きっとキツい人柄と訓練が待ってると思うぜ……」
「だ、大丈夫です。どんな数の試練でも乗り越えてみせます……!」
なんて漢らしいんだゴリリアーナさん……。
力への強い渇望はまるでバーサーカーのようだ。
よし、わかった。そこまでの覚悟なら俺も上手いこと話を通してみせようじゃないか。
……未だに性別を間違えていたお詫びを形にできてなかったからな! だから今回のでチャラにしてくれよな!
そういうわけで、俺はゴリリアーナさんの期間限定師匠になり得る人物にコンタクトを取り……空手形であったにも関わらず、そいつは快く応じてくれた。
こういう話だけをしている時は至って普通というか、真面目でまともな人間なんだがな……。
「――こうして改まって言葉を交わすのは初めてになるか。俺の名はディックバルト。稽古を付けて欲しいとのことだったな。短い間になるとは思うが、よろしく頼む――」
「は、はい……! 私はゴリリアーナです……! お、同じグレートシミター使いとして……勉強させて、いただきます……!」
……うん。
そう、ゴリリアーナさんと同じグレートシミター使いで、ランクも上……。
それがこいつ、ディックバルトなんだ……。
……ディックバルトは快諾してくれたし、ゴリリアーナさんも嫌な顔はしなかったけども……今更だがこれ、大丈夫なんだろうか?
なんか心配になってきたな……。




