少し早めの豪華な酒宴
途中、コックさん達から調味液のアドバイスなどもありつつ、すべての料理が完成した。
俺としては後ろから興味深そうに調理風景見られるのが若干息苦しかったが、彼らの知らない調理法もあったのかもしれない。まぁこっちも美味しいソースの作り方なんかも教えてもらったしお互い様だな。
「レゴールじゃ料理も進んでるんですかね」
「王都じゃ見ないもんなぁ、この作り方」
アーケルシアのコック達は“レゴールの食文化も侮れんなー”って雰囲気になっているが、まぁ勘違いしてもらえると俺としては助かる。
別にコックの称号なんて欲しくないしな。作り方を真似したければどんどん真似して美味いもんでも作ってくれ。
実際レゴールでも似たような感じでジワリと作り方が浸透しつつあるしな……グフフ……。
「王都を経由していけば旅程は安定するけど……」
「アガシ村も別に見るとこはなかったしねー。もう海遊びは飽きる頃だろうし……」
「仕事の安定してる王都ルートがやっぱ良さそうっスけど」
「帰り道は違うルートを通りたいっていうのは僕も賛成だね」
料理を持って食堂に入ると、“アルテミス”のメンバーは手製らしい地図を広げて旅程を話し合っているところだった。
そろそろアーケルシアの旅行も区切りがついて、レゴールへ戻らなきゃならないだろうからな。俺の釣りもそろそろおしまいだ。まぁ一匹大物が釣れたから充分よ。一応まだやれる時には釣り竿振るけどな。
「料理できたぞー」
「わぁい」
「あら、ようやく。ずっと良い匂いさせてたから気になっていたのよ」
「わ、いっぱいあるねー!」
コックさんたちに配膳を手伝ってもらい、テーブルに料理が並ぶ。
俺が用意したものだけだと魚料理ばかりになってしまうので、サラダやデザートなどは宿の方で用意してくれた。ありがたいことである。
「俺が釣ったヒドラシア・スカーフはここらへんの皿だな。ま、いくらでもあるから好きに食ってくれ」
ヒドラシア・スカーフの塩焼きはシンプルに焼いて塩振っただけの料理だ。
脂が乗ってて普通に美味い。正直余計な調理せずこうして食った方が一番かもしれん。
フリッターは一口サイズに切った身に衣を付けて揚げた……まぁ洋風の天ぷらみたいなもんだな。
味付けはローズマリーに似た乾燥ハーブを指でモリュッとこそぎ落とし、塩と合わせたハーブ塩ってやつだ。一口サイズのフィッシュアンドチップスみたいな感じでなかなか良い感じに仕上がっている。
フリッターで使った油がもったいなかったのでムニエルも作った。
こっちはコックの人から教えてもらったソースがかけてあって、多分“アルテミス”の連中の口には合うんじゃないかな。
刺し身が俺一人じゃ食いきれなかったし、そのまま残ったのをお出ししても民意は得られないだろうってことで、残った刺し身はマリネにした。オイルとビネガーと香味野菜とスパイスで、ほぼ海鮮サラダみたいなもんである。
そして汁物として、アラを使った潮汁……のようなものを作った。臭みは最大限取る努力はしたし、こっちにもネギに似た香味野菜をたっぷり入れてあるので、まぁそこまで……ほとんど……あまり強烈な生臭さはない。
見た目がちょっと悪い部位が多く入っているが、昆布出汁も出ているし味は最高だ。いや、人を選ぶかもしれんけどね。少なくとも俺好みではある。
あとは宿の人らが用意したサラダやちょっとしたパン系の主食類に果実のデザート。
俺が作った物の量が多いから、あくまで足りていない物を補うような献立を用意してくれた感じだな。いやぁほんと色々と助かってます。ありがとうございます。
「んーっ! この揚げたやつ? すごく美味しいー!」
「うん……! 良いね、こっちのムニエル……だっけ。これも美味しいよ。バターじゃないけどこういうのも悪くないね」
「な……生のように見えますけど、これ……酸っぱくて、さっぱりしていて……美味しいですよ、本当に……」
「塩焼き……お酒が進みそうっスね! すみません、ビールお願いしまっス!」
「あ、ライナのお皿のそのこんがり揚がってるとこ美味しそー……もーらいっ」
「あー! なんで取っちゃうんスか!」
「えへへー、はい代わりにこっちあげるー」
いやぁ若者がガツガツと飯を食ってくれる姿は癒されるな……俺の胃袋も何故か不思議な力でちょっとずつ満たされていくような気分だよ……。
「……うむ。このスープも……生食とは違った生臭さを感じるが、許容範囲か。何より深い……味わいを感じる」
「癖は強いけど、悪くないわね。もっと香りのある野菜を入れた方が良くなるのかしら……?」
なんとか潮汁の方も気に入ってもらえたようで何よりだ。
くせぇ奴は本当に人を選ぶからな……実際、アーケルシアで頼んだ食事についてきたこれ系統のスープはそこそこ生臭かった。処理が甘かったりしたんだろう。その点、俺の作った汁物の方が万人受けはするはずだ。
「モングレル先輩は器用っスねぇ……色々料理できて……」
「うん、驚いたよ。とても美味しくて……ありがとうね、モングレルさん」
「なーに、構わねえさ。俺の食いたいやつを分けてるようなところもあるしな。一緒に作るんだったら量は多い方が良いだろ」
マリネと塩焼き、あと潮汁が個人的には好みかね。フリッターとムニエルは……美味いんだけどまぁ、なんだろ。油のせいか……? いやまさかな……ハハハ……。
「モングレルさんの故郷は水辺だもんねー……って、あ」
「え、ウルリカ先輩、そうだったんスか」
「ご……ごめんこれ言っても良いんだっけ?」
ああ、前にウルリカには零してたっけな。詳しくは話していなかったと思うが、釣り関係でそんなことをポロッと零して妙な雰囲気になった覚えがある。
「いや別に隠すようなことでもねえって。周りに教えてくれる人も多かったし、それで俺も教わってたってだけさ。俺くらいの歳の奴はみんな魚の料理は出来たぞ?」
「はぇー……すっごい……」
まぁこれは完全嘘だけどな。開拓村では魚を獲ってる人もいたけど塩焼きしかしてなかった。けど知識の出どころを聞かれるとどうしようもないので過去は捏造させてもらう。
事あるごとに口からでまかせを重ねるせいでシュトルーベがどんどんすげぇ村になっていくな……。
「で、そんなことよりもさ。お前たちさっきは何の話し合いをしてたんだ? 聞いてた感じ、帰り道の相談みたいだったが」
「ああ、モングレルにも話しておかないといけないわね。そう、帰りに通る道をどうするかで少し悩んでいて……あー、その前にモングレル。このカクタス島は明日中に出ようと思っているんだけれど、問題ない?」
「問題ないぞ。もう充分にこの離島を楽しんだからな」
魚も釣れたし海水浴もした。人のいない環境でのんびりできて楽しかったよ。
カクタス島でもう一日二日釣りをするのも悪くはないが、まぁ狭い島だしな。やれることは限られている。デカい鳥を釣るなんて体験も出来たし土産話は十分すぎるくらい用意できた。出発するなら俺はいつでも構わないぜ。
「“アルテミス”は帰り道にどっか寄っていく予定でもあるのか? だったら俺は一人でさっさとレゴールまで戻るが……」
「いえ、レゴールまで護衛依頼を受けつつ帰還するつもりよ。悩んでいたのはその経路ね」
「いかにも。来た道をなぞるか、王都方面を経由してレゴールへ向かうか。それについて話し合っていたところだな」
「その辺りは“アルテミス”の判断に任せるよ。帰り道なら俺はどっちでも付いていくぜ。その方が楽で良い」
一人旅は宿やら馬車やら任務やら全部自分でやるからな。それを他人に任せきりにできるのであればこっちは気楽だ。
そんな俺にできることはこいつらの決定に文句を言わず粛々と従う姿勢を示すことばかりよ……。
「まぁ、だったらこちらで決めちゃうけどね。……明日の朝には島を出発する予定よ」
「わかった。……船酔いは大丈夫なのか?」
「うるさいわね……できる限り頑張るしかないでしょ。思い出させないでよ、そんなこと。考えたくないんだから……」
シーナはとても嫌そうな顔でため息をついている。
よほど行きに乗った船の乗り心地が堪えたらしい。それでもしっかり帰りの計画を立てるのだから、偉いもんだ。
「ぷはーっ……モングレル先輩、このフリッターお酒に合うっスね!」
「おーライナ、食ってるか。そうだろそうだろ、どんどん食えよ」
「先輩も飲まないスか。こんなに美味しいんスから」
「……じゃあ飲むかぁ!」
「あーあ、お酒好きがまた一人増えちゃったー」
「ふふふ、良いじゃないか。賑やかで楽しいからね。僕も少しだけお酒、貰っちゃおうかな」
そうだな、せっかくの旅なんだから美味い酒を飲まなきゃ損ってもんだ。
何より自分が釣った魚で自分好みの飯を作ったんだ。これと合わせて不味いはずもない。
明日は島を離れるんだし、今日くらい景気よく飲み食いしておくか!
「こちらアーケルシアの離島で栽培しているレモンの皮を香り付けに使ったエールでして、別料金ではありますがとてもオススメですよ」
「よーしそれ一つ!」
「いや二つっス!」
「またお金が飛んでいくわね……」
「ムーンカイトオウル討伐の報奨金もかなり消耗したな」
なんかシーナとナスターシャが色々言ってるけど美味いからヨシ!




