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バスタード・ソードマン  作者: ジェームズ・リッチマン


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祭りの余計なつきもの


 通りが黄色い花と飾りで彩られ、レゴールがより一層華やかになる。


 精霊祭。ハルペリア王国で行われる、数少ない宗教行事の一つだ。


 もちろん宗教に対して淡白なこの国において、お堅い儀式をやるわけではない。まぁ一部宗教関係者は真面目にヒドロアを崇めたりするんだろうが、俺たち一般市民は飲んで食って騒ぐだけのお祭りだ。

 宗教的背景なんて、酒飲んだおっさんが“実はこの祭りはな、こういう由来なんだぜ?”とマウント取るだけのものでしかない。だいたいの人らはよくわからないけどめでてぇって具合に騒ぐだけなのである。


「モングレル先輩、おはざっス」

「ようライナ。お、衣祭りで買った服だな。やっぱ似合ってるぞ」

「……そっスか。えへへ……」


 去年もライナと一緒に祭りを見て回ったが、今年もライナと一緒に回ることになった。一人で祭りをうろつくの寂しいしな。誘われるがまま快諾した。


 今日のライナは大胆に肩やら臍が出ている大人っぽい服だ。こうして形から入ってみるとライナでもセクシーさが増しているような気はする。身長が去年から全く変わらないのはさておき……。


「でもそれ俺が選んどいてなんだけど、この時期だとちょっと寒くねぇか?」

「うーん、まぁ平気っスよこんくらい。今日は周りの人もお洒落してるし、普通っス。……ちょっと落ち着かないスけど」


 まぁ確かに、周りを見ると似たような露出度の奴が意外と多いんだよな……。

 ほんとこの世界の人って冬以外はすげー肌見せてくる。なんでだろうな。ソシャゲか? 


「……今日はモングレル先輩もちょっと違う感じっスね?」

「ああ。前言ってた裁縫の練習でな。こういう日のための見た目重視の服を作ってみたんだ。ま、俺の腕じゃこんなもんだが」


 今日の俺はいつものシャツより身体のシルエットに合ったものを用意した。普段使いするにはちと息苦しい礼服じみたものだな。

 わざわざこのためだけにアイロンもどきまで作ってパリッと仕上げている。余計なシワがないとそれだけで高級に見えるから服ってのは不思議だ。


「……ううん、格好良いっス。あ、ええと、似合ってるっス」

「お? なんだよ本音出ちゃったなライナ。良いんだぞ、もっと格好良いって言えよー」

「……嫌っス。一回だけっス」


 ま、今日は祭りだ。

 しかも金は去年より潤沢に用意できている。買い食いするぜ買い食い。

 んである程度楽しんだらギルドに戻って二次会だ。


「ところでモングレル先輩」

「お? なんだ?」

「……その荷物、なんスか」

「見りゃわかるだろ、リュートだよ」

「ええ……モングレル先輩大道芸やるんスか」

「せっかくの祭りだからな、今日はちょくちょく俺の演奏を見せてやるよ」

「マジっスか……じゃあ演奏の後採点しよっと」

「身内贔屓してくれよな」

「公平っスよ」


 リュートは俺の特製で、鋼線を張ってある。というかほぼほぼクラシックギターだな。やっぱり弾き語りするにはこっちの方が良い。

 もう一個あるリュートは弦が普通のだし仕込みナイフがあるせいで弦を気軽に交換できないから結局リュートを二つ持つことになってしまった。俺の部屋のインテリアの主役みたいな奴らだ。

 今日は祭りだし、せっかくなんで演奏してみようと思う。そんでもっておひねりゲットして豪遊してやるんだ……。




「うわぁ、去年より人多そうっスねぇ」

「だな。はぐれないように気をつけろよ、ライナ」

「っス」


 しかしまぁ人が多い。レゴールの賑わいは年を経るごとに増していくし、最近じゃスコルの宿も客で埋まることが多い。好景気ヤバい。

 レゴール伯爵が早めに拡張区の整備に金を投じたのは英断だったな。これからもどんどん人の流入が増えていきそうだ。少なくともそう思わせるだけの賑わいを見せている。


「ローリエのお茶あるよー。こいつを飲めば病気も眠気も吹っ飛ぶよー」

「お、ローリエ茶だ。飲もうぜ飲もうぜ」

「あー、良いっスねぇ……今朝から寒いからちょうど良いっス」


 屋台は多い。飲み物、食い物、土産物。色々だ。

 アクセサリーもたくさんあって見てて飽きない。……と言いたいが、去年も見かけたようなアクセサリーを引き続き並べてるような屋台も多い。一年間売れ残ってたアクセサリーか……と思うとちょっと思うところはあるが、数年すれば観光客の誰かが買っていくもんなのかもな。

 毎年見てると屋台の常連なんかも見えてきて、それも結構面白い。


「あ、花飴売ってるっス! 王都で見たやつっス!」

「おー、すげー。レゴールにもこういうの売ってるんだな」


 屋台の一つに、てろてろに艶の輝く綺麗な花が並べられたものがある。

 これは食用にできる百合みたいな形の花を飴で覆って、リンゴ飴みたいにして売っている店だ。王都でたまに見かける高級な屋台である。

 並べられた花飴はそれはもう造花のように頑丈で、観賞用としてもなかなか良い。味は所詮花弁なのでお察しだが、綺麗な花を持ちながら歩けるからそれだけで結構人気の屋台だ。


「よし、ライナに一差し買ってやるからな」

「やったー!」


 お値段は甘い飴なこともあってなかなか馬鹿にできないが、祭りにおいては持ち歩いているだけで狐の仮面並に羨ましがられるアイテムだろう。

 こういうのはどんどん買った方が良い。


「モングレル先輩は買わないんスか?」

「俺に似合う花がないからな」

「……それなんかキザっスね!」

「ふんっ!」

「あーっ! 花びらへし折っちゃダメっス!」




 大きな通りは全てが店で埋め尽くされている。

 普段は宿屋をやってるような店も、表にテーブルを出して軽食を売っている。だからいつもより道は狭く感じてしまう。

 かといってちょっと奥まった道を歩いていても人ごみからは逃げられない。

 そして、こんな人の多い場所では良からぬことを考える連中が掃いて捨てるほど出現する。


「いてっ!?」


 歩いていると、目の前から子供が勢いよくタックルしてきた。さすがにちょっと衝撃はきたが、来るとわかっていたので比較的ノーダメージである。

 前見て歩きやがれと怒鳴ってやりたいところだが、実はこの子供はしっかり前を見て走っていた。前見て俺を見ながら、分かった上でぶつかってきたのだ。


「ち、ちゃんと前見て歩けよな!」

「おい待てガキ。授業料を払った覚えはねーぞ」

「痛っ!?」


 捨て台詞を吐いて逃げようとする子供だったがそうはいかん。

 ほっそい手首を捕まえて、そのままこっちに引き寄せた。


「今俺のポケットから抜き取った革のピックケースを出しな」

「え、なんスかそれ。財布じゃないんスか」

「リュートの演奏で使うピックを入れたかっちょいいやつだ」


 またの名を、レザークラフトで小銭入れ作ろうとしたらサイズ感ミスってろくなもん入らなかった革ケースである。

 指で弾くのもありだが、曲によってはピックの方が良いんでね。


「知らねえよっ……! 誰か助けて! サングレール人に襲われてるっ!」


 言うまでもなく、このガキはスリだ。

 普段からレゴールにはスリが多いが、まぁこいつは他所から流れてきたスリだろうな。俺のこと知らねーもん。

 サングレール人のハーフなら言いがかりをつけやすいし逃げやすいから、結構標的にされるんだ。一時期は、だが。


「運の悪いガキだな。俺はスリを捕まえたら絶対に許さないことに定評のあるモングレルおじさんだぞ」

「くっ……誰か助けて!」


 そうは叫ぶが、俺に厳しい目を向ける奴はそう多くない。この街の人間には顔も名前も通ってるんだ。周りを味方につけられると思うなよ。


「……おい、かわいそうだろう。離してやったらどうなんだ?」


 しかし祭りの日なもんだから、当然こうやってしゃしゃり出てくる奴もいる。

 よそ者かつ、サングレール人をよく思わない奴だ。いかにもスリっぽいガキと天秤にかけてサングレール人の方がムカつくなってだけの理由で介入してくるおせっかいさんである。


「かわいそうじゃねぇよ。俺はな……」

「この人は、スリに遭いかけた普通の人っスよ。その子供がモングレル先輩のポケットから財布を抜き取ったのは私も見てたっス。なんか文句あるんスか」


 俺が何か言う前に、ライナの方が前に出て男に詰め寄った。


「……いや。見てたなら、そうだな。犯罪だし、悪いことだ……」


 ライナの毅然とした態度に怯んだのか、男は去っていった。弱い。


「くっ……なんだよ、放せよ、見逃してよ、初めてなんだから……」


 上等とは言えない粗末な服。比較的痩せた身体。どう見ても育ちの悪い子供だ。

 かと言って、“これやるからもう二度とやるんじゃないぞ”と見逃すほどこの俺は甘くはない。そもそも絶対に初犯じゃねーし。


「おーい、そこの衛兵さん。スリ捕まえたぞ。しょっぴいてくれ」

「ん? ああモングレルさんか。よくやった、間違い無いんだな?」

「ちょっ……返すから! 見逃してってば……!」

「私も見てたっス。間違いないっス」


 近くを通りかかった衛兵に子供を突き出し、任務完了だ。


 子供とはいえスリを見逃してやるほど俺はお人よしじゃない。

 そもそもスリに小金を渡しても改心なんてしない。人の心の温かさに触れて自分を改めることなんて絶っっっ対にしない。

 こういうガキにそんな甘やかし方をしても内心で舌を出してこっちを馬鹿にするだけで終わるだろう。あるいは金を持ってる奴に対する理不尽な妬みと憎悪をより一方的にたぎらせるだけだ。見かけたら絶対に確保しなきゃならない。


「ふざけんなっ、触るなよ……!」

「暴れるんじゃない。クソガキが」

「痛っ! くそ……サングレール人の味方なんかしやがって……!」

「お前に何がわかる? 黙ってついて来い」


 結局衛兵に引き渡されたガキは、最後まで悪態を吐きながらドナドナされていった。

 同情心はこれっぽっちも湧かない。ああいう奴が野放しになると間違いなく盗賊になるのでね。


「……子供とはいえ、酷い奴っスね。モングレル先輩、あんな奴の言うことなんて気にしちゃダメっスよ」

「ああ、気にしてねぇよ。上辺だけの悪態なんて心に響かないもんさ。ありがとうな、ライナ」


 俺くらいの大人になるとな、普通の理由で叱られる方が圧倒的に心に響くんだ。

 それ以外は基本的にノーダメージよ。


 いや嘘、ノーダメージってわけではない。クソガキとはいえ子供に罵られるとちょっとは傷付くわ……。


「やっぱり人が多くても店が並んでる方が良いっスね! あ、モングレル先輩、今度はお菓子食べたいっス! こっち行かないスか!」

「おお、菓子か。いいな、食おうぜ食おうぜ」


 気分を切り替えて、引き続き祭りを楽しむことにしよう。


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― 新着の感想 ―
無駄に甘くないところがこの作品の好きなところ
[良い点] 衛兵さんの「お前に何がわかる?」が、すげー良い モングレルが築いてきた信頼を感じ取れて最高だ
[一言] アブ○ハムの宗教って貧者の為の宗教だから、 悪いことしたら神様に謝れば許してもらえる、 よいことしてもらっても神様に感謝するだけ。 ラノベによくある改心?そんなのまず無いな(^-^; モン…
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