おい、厄ネタ食わねえか
護衛も無しに単独でやってきた外交官。
それはさすがに危なくねえかって話だが、実際にもう既に身包み剥がされて重要書類も紛失している。ここまでやられるだけやられていると、なんつーかもう“生きてて何よりです”と言う他に言葉が出ない。
見えている地雷というか、容器無しでそのままばら撒かれている火薬の塊って感じだ。危ないにしてももうちょっと形ってもんがあるだろうよ。
しかしこうなっちまったからには仕方ない。
俺にできるのはこの自称外交官のアーレントさんをレゴールまで送り届けることだけだ。あとはもう貴族街に引き渡して、そっからは知らん。
お節介を焼けたとしても、ギルドで色々と調べ物をしてやる程度か。
……ギルド、ギルドねぇ。
俺にも一応兵士のツテはある。衛兵ともそこそこ仲が良いしな。アーレントさんの引き渡しはどうにかなるだろう。
しかしその後がわからん。アーレントさんが無事に扱われるのか、貴族からどんな扱いを受けるのか……そこらへんは俺の手を離れ、どうすることもできない。戦争狂な貴族がアーレントさんの身柄を引き取ったらどうなるか。あまり良い想像はできないな。
戦争に勝利してからというもの、ハルペリア貴族の間では戦争過激派なタカ派が勢いを増しているのだという。そういう奴らもレゴールの貴族街には潜んでいるかもしれない。
だからなるべく、穏健派のハト派に引き合わせておきたい。一番は間違いなくレゴール伯爵なんだが、俺には全くツテがないからなぁ……他の貴族にも詳しくねえし……。
……アーレントさんがただの災難な旅行者なら、門番に突き出すだけで良かった。あとは兵士がなんとかしてくれる。
だが身包み剥がされた地雷要素満載の外交官なら話が別物になってくる。少しは気を回さないと半年ぶりの戦争が幕を開けてしまう。それだけは防がなきゃいけない。
んー面倒だが、マシな貴族を探し出して引き合わせるか。
貴族は嫌いだが、ミスったら戦争突入になり得る現状を思えばそうも言ってられねえ。
「ライナ。アーレントさん。ちょっと考えがあるから、ひとまず俺のいう通りにしてもらえるか」
「なんスかなんスか」
「わかった、そうしよう」
いやまだ何も言ってないんだが? 外交官ならまず話を聞いてくれ?
「街に入る際、ひとまずアーレントさんは旅行者扱いで街に入れる」
「えー……身分を偽るのはルールで禁止スよね」
「だからまぁ街に入るまではアーレントさんの素性を知らなかったことにする。知らなかったならしょうがねーだろ? それに、門番は気の良い連中も多いが、取り次ぐ先がまともかどうかがわからんからな。だから最初にギルドに接触する」
「……アーレントさんを安全にってことなら、まぁー……良いスけど。政治とかよくわかんないス。その点、ギルドは大丈夫なんスか?」
「ギルド長は貴族との繋がりが深そうだから万が一もあるし、なんとも言えないけどな。副長は平気だ。戦争嫌いの人ならそこそこ信用できる」
ギルドは戦争に消極的だ。いや、好戦的なギルドマンが多いのは間違いないんだが、ギルドという組織そのものは戦争が好きではない。
というのも、軍とはあまり仲良くないからだ。ギルドは軍に見下されてるし、戦争中は実質的な軍の指揮下に入る。これがなかなか、ギルドの人らからすると嫌みたいでな。人員が損耗するのもそうだし、やたらと低い扱われ方をするのだから当然だろう。
もちろん仲が悪いとはいえ表向きいがみあっているわけでもないんだが……とにかく、ギルドに持ちかけてみれば俺の望む風に話を運んでくれるはずだ。
ベイスンの自称ギルドマンの護衛についても調べなきゃいかん。どの道ギルドに掛け合うのが最善だろう。
「そういうことなら、私の武器は預かっておいてほしい。無駄に怪しまれたくはないからね」
「おお、言おうと思ってたところだ。悪いな、アーレントさん。……言うまでもないが、大人しくしててくれよ?」
「わかっているさ」
不安だなぁ……。
通りかかる馬車に声をかけ、乗せてもらうことはできた。
東門での検問もあったが、アーレントさんについて深く追及されることもない。俺が演技指導するまでもなく、レゴールの街並みを眺めるアーレントさんのリアクションがあまりにも観光客のそれだったからだろう。俺たちがアーレントさんを紹介する前に、門番が“観光か?”と言ってくる始末だった。
それにアーレントさんは“荷物を盗られてしまって……”とすげー正直に答えたもんだから、完全に可哀想な観光客として扱われてしまった。
……俺はいざという時のために色々と嘘を考えていたのだが、アーレントさんはなんというか、嘘をつくことなく素直さで問題を解決できる人柄を持っているようだった。
なんだかなぁ。これで実はサングレールからやってきた刺客なのだとしたら脱帽もんだわ。この毒気のなさを演技で出せるなら俺はもう拍手でもなんでもしてやるよ。そのくらい、アーレントさんは純朴な人柄なのだった。
「ここがギルドな。俺たちはギルドで働くギルドマンってわけ。まーサングレールでいうプレイヤーみたいなもんかな」
「なるほど……立派な建物だなぁ」
「冬場は暖かいっスよ」
驚くほど何事もなくギルドに到着し、中に入る。
夕方前のギルドは報告にくる連中や酒を飲み始めてる奴らで賑わい始めていたが、俺と一緒に入ってきたアーレントさんを見て少しだけ静かになった。
まぁ、目立つくらいにはマッチョだからな。アーレントさん。
「おいおいどうしたモングレル。依頼人か?」
「まーそんなもんだよ。おーいエレナ、ミレーヌさんいるかい?」
「ミレーヌさん今日は非番ですってば。今朝言いましたよ」
「えー。じゃあジェルトナさんいる?」
「副長でしたら資料室に」
「そうか、ありがとな。あ、ライナ。先に報告だけ出しといてくれるか? あと彼にエールを奢ってやってくれ、金は俺が出すよ」
「はーい」
さりげなくを心掛け、資料室を目指す。
なるべくアーレントさんの名前を出さず、要人でもないかのように。
「副長いるかい?」
「ん? ああ、モングレルか。今ちょっと手が離せないんだ」
「……要人を連れてきた。大きな声じゃ言えねえ。個室を用意してくれ」
小声で言うと、ジェルトナさんはガラスペンを握る手を止めた。
「……要人ね。どのくらいの?」
「……本当にそうなら、多分まぁ、王族くらい」
「……」
わかるよ。眉間を押さえたくなる気持ちは。
「バロアの森近くで置き引きされたところを保護してな。今は酒場でライナと待たせてる。50過ぎくらいのハゲたサングレール人のおっさんだ」
「……よし。もう言わなくて良い。別室に行こう」
そのまま俺たちは酒場に移動した。
「観光のお話ですね? こちらへどうぞ」
「ん? 観光……あ、ああ。わかった」
「っス」
一杯やろうとしてたライナとアーレントさんをまたさりげなーく連れ立って、個室へ。
そこそこ込み入った話をするのに便利な機密性の高い応接間だ。
部屋に入ってようやく……俺は肩の荷が降りた。
ああ、やっと他人に丸投げできる。
「さて……モングレルの言うことだからあえて事情は聞かずに個室を用意した。ではまず……そちらの方に、事情をお聞きしたい」
「はぁ、事情ですか。では私の自己紹介から……」
まぁ後はギルドの偉い人に任せて終わりってとこか。
置き引きギルドマンの顛末は気になるが、その辺りの捜査までは俺は知れる立場でもなんでもないしなぁ……。
「私はアーレント。サングレールから来た外交使節……のようなものだ。私はこの手のことはとんと不得手ではあるが、ハルペリアとサングレールの国交を正常なものとするためならば命を惜しむつもりはない」
「ほお……外交官か」
「しかしここに来るまでの間に、ベイスンという街で雇った護衛のギルドマンによって、国から預かった書簡や私の荷物が盗まれてしまってね」
「ん?」
「水浴びをしていたところでやられたものだから、上着も取られてしまって危うく凍死しそうなところだったんだ」
「ほ、ほうほう?」
「それをなんとかこちらのモングレルさんとライナさんによって助けられ、ここまで案内されたと。そういうことなんだけども……」
「失礼、アーレント殿。モングレル、ちょっとこちらに」
「はい」
椅子を離れ、副長に耳を貸す。
「……あのねぇ……何故門番に引き渡さず私のところに来た……!」
「いやぁ……副長に通した方が一番穏便に話がまとまりそうだったから……下手な貴族に掌握されると悪用されそうだし……」
「確かにそうかもしれんがね、限度ってものがあるでしょうが……! ああもう、今日は娘と約束してたのに……!」
「なんかすんません」
けど現実逃避は良くないぜ。どう足掻いても爆弾は爆弾なんだ……。
「……ふぅ。失礼、アーレントさん。ギルドマンによって置き引きされたとのことですが、まずはその件についてより詳しい話をお伺いしたい。できれば出国から時系列順に、お願いできますかな」
「わかった。上手く説明できるか不安だが、なるべく時間に沿って話すことにしようか。私としてもできれば国から預かった書簡はなんとかしたい」
さて、これでようやく話が進むか。
すまねぇ副長。俺は副長と娘さんとの時間を犠牲にしてでも守りたいものがあるんだ……。




