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バスタード・ソードマン  作者: ジェームズ・リッチマン


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コーン畑は俺が守る


 秋本番。今年はコーンも植え付けが盛んだったのか、コーン収穫の護衛依頼とかも多く目につくような気がする。

 この世界のコーンは前世ほどデカくないし種子の数も多くないし、なんならほとんど甘さもない。それでも育てやすい作物として暇つぶしのように植えられているし、コーンパイプの原料にもなる。……とはいえ、やっぱ小麦とか大麦とかの方が割がいい気はするんだが……育てている人は何を思って育てているんだろうな。よくわからん作物だ。


 とまぁ、そんな感じで俺はわりと最近までコーンに対して良い印象は抱いていなかった。

 前にポップコーン作ろうとしたけど乾燥コーンの油炒めが出来上がったしな。なんで弾けなかったのか今でもよくわからん。

 コーンは駄目な奴だ。そう思っていたのだが。


「コーンウイスキーというお酒らしいわ。原料にコーンを使ってるそうよ。……戦場で知り合った騎馬部隊の人にツテがあったらしくてね。貰ったのよ」


 ある日、ギルドでライナ達と一緒にハンデ有りのリバーシで熱いバトルを繰り広げていると、シーナから一本の小さなボトルを差し出された。


 明らかに“貴族の品ですよ”と主張するような透明なガラス容器に、極々薄い色の液体。

 容量は300ccほどだろうか。ともあれ。


「俺はシーナの靴を舐めれば良いのか?」

「モングレル先輩、プライドが安いっスね」

「靴が汚れるからやめてもらえる?」


 俺の舌はブーツの汚れ以下かよ。


「そんなことしなくても飲ませてあげるわ。前にライナからウイスキーが好きだって話は聞いてたから。貰ったはいいけれど、私もナスターシャもあまり好んで飲まないしね」

「モングレル先輩に飲ませるよりアルテミス内で消費した方が良いと思うっス」

「こらライナ。独り占めするなって。俺たち友達だろ」

「じゃあこのリバーシに勝った方が飲めるってことにするっス」

「やめろ! 俺が負ける未来しか見えねえ!」

「……まぁ、ライナにあげても良かったんだけどね。あまりこの子に飲ませるのも将来が心配だし……」

「ええーっ!? い、いつも節度を保って飲んでるんスけど……!」


 ライナがすげーショック受けてる。お前そんなショック受ける顔しないだろ普段。どんだけ酒好きなんだ。

 こりゃもうアル中ですわ。大人が責任持ってお酒を取り上げてやらないとな……。


「もちろんモングレルにだけあげるわけじゃないから。他の人にも飲ませて、味の感想を聞くのが目的よ。向こうの人に頼まれてるから」

「なんだ、試飲みてーなもんか……まぁ新商品ってことなら仕方ない。良いぜ、俺が味を見てやるよ」

「わ、私も試飲するっス!」

「はいはい、少しだけね」


 そう言って俺たちの目の前に注がれたウイスキーは、やはり色が薄かった。

 なんだろうなぁ、琥珀色なんてほとんどない、ビールよりも全然薄い……ウォッカに耳かき一杯分のウイスキーを垂らした程度の色って感じだ。


「おー、なんかコーンの香ばしい香りっスね」

「確かに……説明されなくてもコーンが入ってるのがわかる香りだな」


 しかし色の薄さに反して、香りはとても強い。

 コーン特有の甘いような香りと、僅かに感じるウイスキーっぽさ。なるほど、色は少々物足りないが確かにこれはウイスキーらしい。


「普通のウイスキーのように樽に長期間入れない作り方をしてるみたいね。色が薄いのはそのせいかしら」

「いただきまっス! ……んん、強い酒っスね! 最高っス!」

「お前そんな酒が強ければ良いみたいな……うん、強い酒は良いなぁ! 喉が焼けるぜぇ!」

「私と同じ反応じゃないっスか!」

「似たもの同士ね……」


 見た目の大人しさと香りの甘さを裏切るように、味は苛烈だ。なんというか、アルコールが直接粘膜にガンと来る感じ。全く上品ではない。荒々しくて、まぁ包み隠さず言えば安っぽい味っていうか。

 しかしこの世界では紛れもなく高級酒の類なのだろう。こんな辛さを出せるのは今のところレゴールくらいだもんな。

 ……ああ、飲んじまった。


「他にも感想を聞きたいし、誰かに飲んでもらいたいところだけど……そこらへんのギルドマンの男に飲ませても大した感想は返ってこなさそうなのよね。誰が良いかしら……」

「……先輩先輩モングレル先輩、これはチャンスっスよ」

「おうなんだ、どうしたライナ」


 すぐそこにシーナがいるが、俺たち二人はコソコソと作戦会議を始めた。


「このコーンウイスキーを、試飲と称してお酒の苦手そうな人に飲ませるんスよ。そうすれば飲み残しを……」

「俺たちがおこぼれに与れるってわけか! おいおい……ライナお前いつからそんなに悪くなっちまったんだよ……よし、酒に弱そうな奴を狙っていくぞ」

「っス!」

「全部聞こえてるんだけど……はぁ」


 というわけで、俺たちはギルドの中で酒が苦手そうな奴を狙い撃ちにする事にした。

 何故か俺らがコーンウイスキーを振る舞う相手を決める流れになっているが、シーナは特に止める様子もない。お目溢しありがとう。お前はやっぱり団長の器だよ。


「モモちゃんモモちゃん、新開発された美味しいお酒があるんスけどどうっスか。ちょっと試飲してみないっスか」

「ん? ライナですか? それにモングレルも。新開発のお酒ですか?」


 まず俺たちが狙ったのはモモだった。

 ギルドの酒場の隅でミセリナとヴァンダールと一緒に革紐で何かアクセサリーのような物を編んでいる最中だったようだ。

 お洒落でいい趣味だとは思うがまぁ今は酒飲もうぜ酒。


「飲んでみて不味かったら残して良いんでほら、遠慮なくどうぞっス」

「コーンウイスキーって名前だぞ。まぁモモにはまだ早い酒だろうからあまり無理するなよ」

「む……私はもう16歳なのですけど!? 良いでしょう、新開発と聞いてはもとより試さずにはいられません! 全て飲み干してみせましょう!」


 あっやべ、逆にやる気を煽っちまった。


「んく、んく……か、かぁーっ! からい! からいですっ!」

「だ、だだ大丈夫ですか!?」

「一気に飲まれたっスね」

「失敗だな……」

「二人ともねえ……普通に飲んでもらえれば私はそれで良いのよ」

「からいぃ……辛さの中にコーンの甘い香りが漂うと思わせて、辛さが全てを裏切って余りある辛さですぅ……!」

「あ、ちゃんと律儀にレビューはするのな」


 しかしモモの子供舌には合わなかったようだ。まぁしょーがねぇ。ウイスキーなんて元々そんなもんだ。


「そちらの副団長……ええと? 失礼。お名前はなんだったかしら」

「私はヴァンダールと申します。アルテミス団長のシーナさんでしたね? そういえばご挨拶する機会がありませんでしたねぇ。今後ともよろしくお願い致します」

「ええ、是非。……お近づきの印と言ってはなんですが、ヴァンダールさんもいかがです? そちらのミセリナさんも」

「いただけるのですか。これは嬉しいですね」

「は、はい。ありがとうございますっ、いただきます……!」


 コーンウイスキーは二人の前にも注がれた。

 俺とライナは腕組みしつつ、二人の試飲をじっと見守っている……。


「ふむ、これは良い香りだ。……おお、確かに辛い。一気に飲むものではないですねぇ……なるほど、これが巷で有名なウイスキーというやつでしたか……」

「……!」

「ミセリナさん? 苦手でしたら無理に飲むことはないんですよ?」

「そっスよ! 体に毒っス!」

「後は俺たちに任せな!」

「親切さが卑しいわね……」


 ミセリナが残したコーンウイスキーは大した量ではなかったが、俺とライナはそれを分け合って再び熱い喉越しを満喫した。

 かーっ、たまんねぇな。


「おや、僕らのテーブルに珍しいお客様だね」


 そうこうしていると、ギルドの作業室からサリーも出てきた。今まで何をやっていたのかはわからないがちょうどいい。

 好き嫌いの多いサリーなら間違いなく酒を残してくれるはずだ。


「サリーさん。戦争の時に知り合った騎馬隊の方が譲ってくれたもので、コーンウイスキーという新しい蒸留酒なのですが……サリーさんも一口いかがでしょう? 感想をお聞かせいただけたら助かるのですが」

「新商品ということかな? 面白そうだね。……モモは何故寝ているのかな?」


 どうやらモモは酒があまり強くないみたいだな。

 後で水飲ませとけ水。


「まあいいや、僕もいただくよ」


 我が子が酒でダウンしてるところを“まあいいや”と流して酒を要求する姿はあまりにもアレだったが、俺とライナからすれば望むところだったので良しである。


「団長、強い酒なのでお気を付けて」

「前にもウイスキーを飲んだからね。知っているよ。さて……ふむ、なるほど、コーンの香りがする」

「苦手な味だったら残してもいいからな! サリー!」

「っスっス!」

「……なにやら圧を感じるが、どれ……」


 サリーはグラスを傾け、コーンウイスキーをスッと……おお? 一瞬で飲まれた。


「うん。美味しいね。体に悪そうだけど、寒い時期に飲むにはやはり良さそうだ。身体が内側から温まる感じだ」

「飲むのかよぉサリー」

「おこぼれなしっスかぁ」

「だって炭酸も入ってないし……」


 絶対炭酸よりもこっちの方が刺激物としてパワーある気がするんだけどなぁ……ほんとわからんなこいつ……。


「はい、じゃあ試飲会はおしまい」

「えっ!?」

「マジっスか!?」

「当然でしょ。一日で飲み干すものでもないのだから。ライナもお酒は控えなさい。飲み過ぎは体に悪いわよ」

「っスっス……」

「スは一回!」

「っス!」


 やれやれ、なんだよ早い店仕舞いだな。

 せっかくウイスキーを飲める機会だってのに……。


 ……でもそうか、コーンウイスキーか。樽の熟成なしで売られるのであれば、こっちはひょっとすると普通のウイスキーよりも早く出回るってことなのかね? 

 つまりコーンの収穫がこのコーンウイスキーの出回りに直結するというわけで……。


「……よーしライナ! ハルペリアのコーン産業を下支えするためにちょっくら収穫の護衛任務でも受けてくるかぁ!」

「良っスね! やりたいっス!」

「あのねぇ! ライナはもうバロアの森の討伐任務が入ってるのよ! 行くならモングレル、貴方一人で行きなさい!」

「うわーん!」


 畜生、同志ライナは先約ありだったか。


「しょうがねえ、俺がコーン畑の平和を守ってくるしかねぇかぁ」

「モングレル先輩、私の分までお願いするっス!」

「任せとけ! なんならコーンの収穫まで手伝ってやるよ!」


 そう言い放って、勢いで受付まで行って任務を確認してきた俺だったが……。


「あ、戻ってきたね」

「モングレル先輩、任務受けてきたんスか」

「いや。遠征先が全部遠いからやめたわ。面倒くさい」

「ええ……」

「……コーン畑の平和はどうなったのよ」

「適当だねぇ」


 いや冷静に移動時間とか考えるとそこまでしてするもんじゃねーなって冷静になるよね。

 けどまぁ大丈夫だろ。コーン畑の平和は、俺じゃない他の誰かがきっと守ってくれるさ。



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― 新着の感想 ―
このクソ適当なノリを見ると日常が帰ってきたんだなとほっこりする
せーの、お酒が大好きー! 全く、モンさんはポップコーンの外れ(不発)に当たったこと無いんですね…… いやまあ、原種系が丸いのかどうか知らんけど ……忘れてた 分かった、じゃあ足を舐めれば良いんだ…
[良い点] ふわーっとした雰囲気が良いよねw [一言] スは一回! 人生で初めて聞いたw
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