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超常捜査官:岐庚 〜アサルト・オン・ヤオヨロズ外典〜  作者: 執筆・八雲 辰毘古/監修・金精亭交吉
File3:信じるものは掬われる
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28.大乗新宿殺戮浄土

 あまりに劇的な変化というものは、内側にいるよりも外から見たほうがわかりやすい。だから、次に続く最悪の事件がもたらした一部始終は、その内側にいた人物よりも外側にあった人物の視点を設けるべきだろう。

 しかし無辜(むこ)の市民が事態に気づき、記録映像を撮るまでにはまだ時間が必要だった。多くの市民が事前に避難していたため、命知らずのマニアか、さもなくば指定避難区域ギリギリに住んでいたものでしかその事態の変化を捉えることができなかった。


 この記録は事態を始まりから捉えたいと思う。そのためにはもっとも客観的な映像記録が取得される以前から発生した出来事を、可能な限り時系列に並べ直す努力が必要だ。


 したがって、ここから始まる事象の群は錯乱する現場の記憶のつぎはぎでしかない。



     ※



●第一の視点:自衛隊・特殊害獣駆除作戦群


 作戦そのものは順調だった。ライゴウとのせめぎ合いが長く続いてはいたものの、どれだけ妖力と呼ばれる得体の知れないスタミナがあったとしても、しょせんは巨大なクマネズミである。すでに作戦は消耗戦に入りつつあり、強いて言えば死に物狂いのライゴウが暴れる二次被害をどこまで抑えることができるのか。そこが問題だった。

 だから、作戦行動に一定のアルゴリズムができ始め、部隊にも余裕が出てきた頃に、それはいとも容易く観測されたのだ。


 まず、異変はライゴウの挙動が唐突に止まったことに始まる。


「なんだ……」


 第七班の班員がその様子を報告した。指揮系統は椹木三佐に正しく情報を伝達する。彼はまず近くにいた鹿ヶ谷佐織(PIRO関東支局長)に疑問をぶつけた。


「ライゴウの動き、どう思われます?」


 彼女は咥えていたアメリカンスピリットを手挟み、フッと紫煙をくゆらせた。

 煙の奥で、女性の顔は渋く眉をひそめている。


「まるで我に返ったみたいな感じね……」

「洗脳状態が解けたようなものでしょうか」

「そうね。怪獣を使役している式神使いに何か邪魔が入った……だとすると、少し厄介よ」

「と、言いますと?」

「一言でいうと、暴走するわ」


 無線機器の密集する作戦指揮所からやや距離を置いて、鹿ヶ谷佐織はスマートフォンを開いた。グループ通話を繋げて、待機させているPIRO隊員に声かけする。


「聞こえる? 全員、持ち場から離れて、今すぐに……そう。特に飛鳥ちゃん。あなたのいるところはヌレハガチの場所にも近いわ。うん。はい。衛介はゴタゴタ言わない。早いとこ撤収なさい」


 早々に通話を終えると、鹿ヶ谷佐織は皇重工ビルの方を見た。

 そして、スマートフォンを落とした。


「なにあれ」


 視線が徐々にビルに集中する。豪雨直前の黒雲のようなものがその天辺に凝縮しつつあるのを、人々は見た。

 のちに〝悪魔の卵〟と呼ばれたその現象について、判明したことは少ない。しかしこの時点においてこのできごとを見ていたのは現場に詰めていた自衛隊員及びPIROの現場職員のみだった。


 闇の塊は凄まじい速度で球形にまとまると、やがてゆっくりと殻を剥いでいくように中身を現した。しかしそれは外から見ても様子がわからなかった。その中心にたたずむ悍ましき術者:宗谷紫織のすがたなど、望遠鏡でなければ外部のものから見えないのは当然のことであった。


「ヌレハガチ、ビルから落下します!」


 だから彼らにとって、その報告が場に響き渡ったとたんにすべてが始まったのだ。



●第二の視点:東新宿在住・五十代独身男性


 花火のような音が夜でもうるさかった。もともとでかい怪獣が数件新宿近辺で頻出していることから安眠なんてできた試しがないのである。今日にいたっては自衛隊が出てきているからなおさらだった。


「ッたく、国の偉い人たちァ何やってんだよ……」


 怪獣・天災・戦争。幼少期を平和憲法と国際的中立によって、治安の良い穏やかな国に過ごしてきたつもりだった男にとって、これらの言葉はアニメやゲーム、映画のなかだけにある現実だった。しかしニューヨークに飛行機が突っ込んだり、大地が揺れて原子力発電所に異変が起きたり、はたまた怪獣が出現して人類の文明を粉々に砕いたりすることによって、まんざら絵空事でもないことがわかってしまった。

 立て続けに都心や地方都市が被害に遭い、行き帰りの通勤電車でうわさ話をすれば必ず怪獣被災者とすれ違うような現実になった昨今、日常生活の意味は変わっている。頭の良い社会評論家は〝新しい日常〟と抜かしているが、それは怪獣が出てきた翌日も平気で出勤を命じてくる社会に他ならない。


 男は工場勤務だった。土曜も稼働する週休二日制の──つまり、月に一回は土曜が休みになる程度の勤務形態で、日ごろの楽しみなんてものもろくにない。暇があればパチンコスロットに給与の半分を注ぎ込み、これ以上やってはならんと自分を戒めたその日の最後に大当たりをして、結局やめられない。年末に宝くじを買い、何かが変わることを祈りながらも日々出勤を繰り返す。

 怪獣が怖いなんていうのは昔の話で、その衝撃から三年も経ついま、ときおりスーパーやコンビニの臨時休業や、棚に並ぶ商品の物価向上が目立つ以外はいたって普通と変わらなくなってしまった。消費税は依然下がる気配もない。国会は常に非常時であることを訴えるが、あまりに繰り返しているうちに非常時と日常の区別もつかなくなってしまった。ときどきニュースにPIROだとかMIBみたいなわけのわからないアルファベットが並ぶほかは、世の中のことなど何も変わらない。政府はいろんな言い訳をしては、国民に従順でいるように呼びかけている。自粛とはつまり、死ぬことと自由の取引を持ち掛けているようなものなのだ。


 だから男にとって、その日は勤務にくたびれた身体に自衛隊のドンパチを聞かされる、非常にストレス多い夜だった。

 テレビもない。仕事の都合でスマートフォンは買ったが、ネット動画とSNSで余暇は全てなくなる。そんな過ごし方をしている男でも、外の様子が気になるとベランダに出るだけの行動力があった。


 都庁の方を見ると、いろんな音が鳴っていた。怪獣の鳴き声と思しき遠吠えも聞こえる。しかしここはギリギリ指定避難区域から外れている。さすがにここまでは来ることはないだろうとたかを括っていた。

 だからだろう。異変が起きたとき、彼はその瞬間を目の当たりにした最初の一般人となった。


 最初、音が止んだ。彼のいる場所からは皇重工ビルは見えない。しかし何か、妙な気配が波動のように伝わった。

 風が止んだ。音もない。ジリジリと熱されるような夏の暑さの名残がある。日時は二〇一八年、七月十四日、二十二時三十二分。その数字が次の時刻へと動く以外には、あらゆる生命は息の仕方を忘れてしまったかのような、そんな歪な瞬間があった。


 月だけが明るく、冷たく下界を睨め下ろしていた。


 その時だった。


 男の視界に屹立していたビルが、ダルマ落としのように崩れ落ちた。その滑落は思っていたよりもあっけなく、砂のお城が塵に還るのと大差ない印象を受けてしまった。

 しかしお陰で男の視野に皇重工ビルが見えるようになった。そして彼はつぶやく。なんだあれ、と。陳腐な疑問の台詞を。


 彼の目には、皇重工ビルの先端部分が、さながら泉の湧水口のようになみなみと黒い奔流を大地に注いでいる光景が映っていた。



●第三の視点:親子連れの避難民・三十代後半夫婦と三歳児


 冷房が効きすぎたのか、悪寒がすると思った矢先に子供が泣き出した。

 小学校の体育館である。しかし息子が通っている学校とは違う。都が避難場所と指定した場所である。そこには何十世帯の家族がひしめきあって、ブルーシートでスペースを取り合いながらかろうじて寝る場所を確保している有り様だった。


 だから、子供が訳もなく泣き出すと、周囲の非難の目が痛くて痛くて仕方ない。


 おまけに三歳未満の子供は共感力が強い。ひとりがワッと感情を爆破させると、池に大きなつぶてを投げ込んだ時のように周囲に波紋を及ぼした。波は大きければ大きいほど煽りは強くなり、次第に同じように泣き出す声とリンクする。

 理由なき恐怖の泣き叫びが、大人にとっては地獄の始まりだった。


 いくら事前に予告された避難指示だとは言え、都心のかなり良い立地に住んできた都民が受けていい仕打ちではない。怪獣災害の連続が、どれだけ国民に防災訓練の意味づけを強くしたところで、理不尽に対する怒りは絶えず発生する。

 ときにそれは、避難民同士の諍いにも発展しかねない。時間は夜遅い。もう眠りについて、明日には自宅に帰れるか──もしかしたら自宅は破壊されているかもわからない、そんな不安のなかに揉まれながら、訳もわからず駄々っ子のように泣く子供に、ストレスを感じない聖人の心を持つものは滅多にいないだろう。結果として、言葉で指摘するまではいかなくとも、非難と恨みがましい目線があちこちに向かい、絆とは程遠い様相を見せつけていた。


「ごめんなさい、ごめんなさい」


 ついに堪えきれずに謝る母親。傍らでいいのよ、子供は泣くものだからねえ、と優しく諭す高齢者がいても、慰めにはならない。現に迷惑をかけている。悪目立ちをしている。それが夫婦にとって心苦しい。

 なんで子供というのは──と父親はデリカシーもなく考える。こうも空気を読まずに泣き喚くんだ。まだ小さいからって、大人のいる社会のことなんてわからないなんて言うけどな、だからと言ってわがままが通るほど世の中甘くできてないんだぞ。


 苛々した気持ちが子供に伝わったのか、子供はまだ泣き止む気配がない。ひたすら、「怖いよ、怖いよお」と叫ぶ。父親はついに堪えきれずに息子と同じ目線に立って、軽く頬をぶった。


「男の子だろ。泣くな」

「でも、でもお」

「でもじゃない。周りの人が迷惑しているだろ。暗いの怖がってどうするんだ!」

「ちがう。ちがうって!」

「ちがわなくない」

「ちがう! ちがうんだってばあ!」


 ヒステリックな声を上げる子供に、父親の怒りは沸騰した。しかしそれを遮ったのは母親の腕だった。


「なにやってんの」

「いや、その」

「迷惑掛けてるのはあなたじゃない」

「……」


 もはや空気は最悪だった。しかし周囲は──特に子持ちの家庭はそれどころではなかった。赤ん坊の鳴き声、急に暗闇を恐れる幼稚園児、小学生の中でも勘の強い子供に至っては、失神すらしたものもいた。

 何かが、へんだ。そこでようやく大人にはわかりかねる異変があったと察知できたとき、ドンドンドン、と体育館のドアを拳で殴る音がした。


 最初はいまさらになって避難してきた人間がいるのでは、と苛立たしく構えていた。まるで指定時間を大幅に遅れてきた、タイミングの悪い宅配便に対する八つ当たりのような心地が、場を支配していたのだ。

 ところがドンドンドン、と規則的に叩く音が突如として人間を桁外れに超えた重量による体当たりのような音にすり替わって、場の空気が変わった。それはまるで、追い込まれた人間がついに逃れ切れなかった何かに押し潰されてしまったかのような、そんな悪夢の連想を催すものだった。


 あとで避難民が体育館のドアを見たところ、そこにはあの分厚い鉄の板に人型の凸面ができていたという。そして、翌日になって初めて、彼らは東京新宿を襲った最悪の悲劇を知るのだ。



●第四の視点:夜遊び中・二十代女性


 また飲み過ぎたな、と思ったのは明日も休みだからだろう。なにやら自衛隊が近くで通行止めをしているのは知っていたが、彼女にとってはさしてどうでもいいことだった。

 自分に関わりのない事件は、たとえ隣家の火事であろうとどうでもいい。女はとにかく自分を棚に上げることに関しては一流の才能を持っていた。そこそこの企業の総務に就職し、毎日上司のセクハラまがいの言葉に愛想笑いを浮かべながら、マッチングアプリで格の低い男をブロックする。ときおり見つけた好みのタイプにはワンナイトで縁が切れ、悔し涙を堪えて会社が違う女友達と飲み歩く。会社の同僚とは接待と付き合い以外で飲みに行く気はない。なぜならお互いの実情を知らない間柄のほうが、互いに自分が被害者だと言い合えるからだった。


 酒飲みの場に必要なのは、真実などではない。その場の誰も悪くないという合意と、そこから発せられる無害な暴言の数々なのだ。

 今日もそんな愚痴と妄言を羅列して、混雑ピークのファストフードチェーン店みたいな回転率で言いたい放題をかましたあと、電車で友達を見送り、ほろ酔い気分を名残惜しげに胸に抱えて帰路に着いた。


 たくさんの悪口を言った。コンプライアンス違反な暴言も少なからずあったと思う。社内法規は飲み屋での発言にも社会人らしい節度を持てという。しかし人の口に戸が立てられるのなら苦労はしない。誰もが自尊心とストレスを持て余して、「ここだけの話」を連発している。そのなかで、問題になるものとそうでないものの差は、ニュースになるか、ならないかだ。

 女には、ニュースになりようがない「ここだけの話」のレパートリーが無数にあった。実際にはセクハラを受けているわけではないし、機密情報の漏洩もない。その点にかけては世渡りが上手かったのかもしれない。しかしストレスは一向に減らず、仕事周り以外で建設的な話は一切なく、男運は全く上がる気配がない。残されたのは自分は頑張っているんだという感触のみで、それが余計に悪口を生み出す要因となっていた。わたしは頑張っている。周りはそれを認めてくれない。なぜ? という具合に。


 お酒は昔はそんなに好きではなかった。特に男連中が好き好んで飲み耽るビールの類は全然好きになれなかった。しかしいつのまにかビールを飲み、酎ハイを飲み、家でストロングゼロを飲む習慣も付いた。アルコール度数の強さは現実逃避の速度の速さを意味し、まともな現実を忘れるための魔法の薬と化していた。

 正気のままでは、現実は見てられない。酒の力を借りていれば、少しの間だけ違うものを見ていられるのだ。


「あーあ、道端にイケメンでも転がってないかなあ」


 思わず吐いた妄言。我ながらおとぎ話じみていて嗤ってしまう。

 別にイケメンが転がっていたからと言ってどうだというのだろう。どこかの女性向けのR指定のようなものを期待しているのか。冷静に考えてみれば自宅の冷蔵庫に入っているのはおつまみとアルコールの缶と腐れかかったキャベツの玉ぐらいではないか。拾った人間を世話する余裕のない一人暮らしのマンション。立派なのは不審者防止のセキュリティだけである。


 思い出せば思い出すほど自分という人間が嫌になる。だが、何から変えればいいのかなんてわかりようがなかった。この世は地獄だ。頑張っている人に何ひとつ恵んでくれないケチンボの神様の世界だ。だからわたしはプライベートでは頑張ることをやめようと思う。脳みそのギリギリまでアルコールに浸して、考えるのをやめておけば、少なくとも世渡りをギリギリうまくこなすだけの脳みそのシワぐらいは残してくれるだろう。

 いろんな想いがぐるぐる回るのは、きっと女が酔っているからかもしれない。酒の席での会話が果てしなくリフレインする。地元で〇〇が結婚したって。でもあいつは浮気してたんじゃなかったの? へえ。そう。寝取ったんだ、うわー。身内同士、付き合いのないギリギリのラインで相手を蔑む。ルールはただひとつ。その場にいないこと。当人の耳に届かなければ、立派な酒の肴に早変わり。もしかしたら、自分のいない酒の席で、彼女たちはわたしのことをアル中と呼んでいるかもしれないしね。


 寂しかった。とても寂しかった。


 上弦の月がとても冷たくいやらしく見えたものだった。人間世界を見下し、劣等感を強く駆り立てる。青白い光が目に沁みると思ったとたん、彼女は「わたしはなんも悪くない!」と叫びたい気持ちになっていた。


 その時、彼女は()()()()足を踏み外し、道端の段差状の花壇にダイブしていた。


「いっ()ーッ!」


 枝が顔やら腕やら脚やらを傷付けた。ちくしょうとか、このやろうとか、思いつく限りの低級な罵詈雑言を撒き散らかすと、たまたま同じ道を進んでいた品の悪そうな中年が蔑むような目を向けた。それがなんだか癪に障った。女はからだを起こそうとした。


 その時である。


 ざわざわざわ、と何か第六感のようなものが働いた。全身の毛が逆立ち、酔いが一瞬で覚めてしまった。

 何か悪い気配がしたと思ったとたん、顔は無意識に危険を察知してそれを目視していた。


 彼女が見たのは、無数の黒い奔流だった。


 泥水なのかと言われると、そこまでハッキリとした物質ではない。しかし月明かりが作った巨大な影の錯覚なのかというと、いやあれは実体があったと感じる。

 とにかく女が目の当たりにしたのは、道路を覆うほどの凄まじい黒い流れが、西新宿出口B1Fの大通りを恐ろしいほどの勢いで飲み込むその有り様だった。ついさっき女を蔑んだ中年の目つきの悪い男性は、とっさに逃げようと向きを変えたが遅かった。彼は黒い波に呑まれて、砂糖菓子をすり潰すようにあっけなく溶けてしまった。


 破片が飛び散った。それが人体の一部で、血液であると知った時、女は叫んでいた。そして叫びながら花壇の段差を登っていく。わたしは悪くない、わたしは悪くないと繰言を述べながら──


 

     ※



 これ以上の視点は不要だろう。あとに続く悲劇の連鎖は、それぞれの不幸を強調するが事象の全体像を掴むにはあまりにも膨大すぎる情報を提供することになる。

 だから、記録としては次のような文章を書かざるを得ない。


 二〇一八年、七月十四日、二十二時三十二分ごろに端を発すると思しきこの不可解な事象は、西新宿を中心に半径二キロ以上にわたって低所を侵食し、さながら西瓜を砕いたかのようにあっけなく無差別に人間を殺戮していった。

 範囲内で生存したのは、とっさにその場で高所に逃れたもの、たまたま範囲から免れたもの、体育館のように密閉空間に礼儀正しく居残ったものだけだった。


 被災者は万の単位に及ぶ。そのほとんどが死者であり、わずかな傷病者はすべて転んだりけがをしたりしたものだ。事象に巻き込まれて生きていた人間はいない。むろん自衛隊員も例外ではなく、作戦参加のうち三分の一近くが殉職という形となった。

 また、PIROの報告書によると新宿参加メンバーはとっさの機転で全員生還したという。しかしながら公安第十一課は、この混乱のなかで一人、殉職者を出してしまった。


 その人物の名前は、大国忍と言った。

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