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オルゴール

作者: 蓑虫

 ちょっと、俺の話を聞いてくれないかな。そんな、楽しい話じゃないんだけど。


 俺の姉さんは、年が二つ上の花の大学二年生で、弟としての贔屓目なしでも美人だったし、頭も良かった。友人にはさんざんシスコンだとか馬鹿にされてたけど、それは紛れもない事実。


 姉さんは音楽が好きで、お気に入りのオルゴールがあった。ちょっと奮発して飼った高いやつらしくて、姉さんはよくそれを聴いていたんだ。確かに音が綺麗で、聴いていて落ち着く良い曲だったように思う。


 当時、俺は大学受験の勉強でストレスが溜まっていてさ。

 元々姉さんほど頭が良くなかった俺は、それでもなんとか姉さんと同じ大学に行こうと、毎日日付が変わってもなお勉強をしていたんだけど。そのせいで、ちょっと怒りやすくなっていたんだよね。


 そんなある日、夜中の三時半くらいかな。勉強をしていたら姉さんの部屋からそのオルゴールが聴こえてきてさ。

 こんな夜中になんだよって、イライラしていた事もあって凄く頭に来たんだ。普段夜中にならすことなんてなかったのに、何で今日はって気持ちもあって、姉さんの部屋の扉を叩いて文句を言ったんだよ。


「こんな夜中に、うるさい!」


 って。正直、思い返してみれば俺の声の方がうるさかったと思うけど。すると姉さんは、部屋の中から、


「ごめんね、最期だから、もうちょっと我慢してくれないかな?」


 って、謝りながら頼んできたんだ。仕方なしに、俺は部屋に戻って、もう一度勉強を再開したんだけど、結局一晩中ずっとオルゴールの音が流れていてさ。

 それで俺は翌朝、母さんに文句を言ったんだ。姉さんのオルゴールが凄くうるさかった、母さんからもなんか言ってくれって。


 それを聞いて、母さんは不思議そうに首を傾げてさ。母さんの部屋は一階で、俺と姉さんの部屋は二階だったから、母さんには聴こえなかったのかなとか思ったんだけど、次に母さんが言ったんだよ。


「何言ってるの。お姉ちゃんは今旅行中でしょ?」


 えって、その時思ったね。確かに、その時姉さんは女友達との四泊五日の旅行中で、家に居なかったんだ。でも、オルゴールの音は確かに聴こえたし、姉さんと会話もした。じゃあ、あれはいったいなんだったんだよって、頭がぐるぐるしてた。


 意味がわからなくてボーッとしていたら、家の電話が鳴ったんだ。母さんは朝御飯を作っていて手を離せないから、俺が電話をとってさ。

 その電話の相手は、警察だった。


「すみません。○○さんのお宅ですか?」

「はい、○○は姉ですが……」

「実はですね、○○さんが泊まっていた宿で昨夜三時頃、火災が発生しまして……。先ほど消火されて、中で○○さんの遺体が発見されました」

「……え?」


 一瞬、警察の言っている事が理解出来なかった。

 なんでも姉さんは他のお客さんの避難誘導をしていたら、ロビーで一酸化炭素中毒で倒れてしまい、逃げ遅れてしまったらしい。死体は燃えていなかったらしくて、死亡推定時刻は三時半頃だって。

 それは、あのオルゴールな鳴り出した時間と同じで。


 受話器を置いてしばらくその場を動けなかった。あまりにも遅いから様子を見に来た母さんに声をかけられて、ようやく我を取り戻した。


 それからは凄く忙しかったよ。死体を受け取りに行って、お葬式やらなんやら。お前は受験生だからって手伝わなくて良い、勉強しろって言われてたけど、結局集中出来なくて大学は落ちた。翌年、違う大学に入ったよ。

 ……消防士に、なろうと思って。


 骨になった姉さんは、凄く小さかった。


 あの時、姉さんがオルゴールを聴きに家に帰ってきた時は、やっぱり幽霊だったのかな。心残りで、最期に聴きたかったのかな。

 ……だったら、邪魔して悪かったなぁ。


 だから、姉さんのお墓にはそのオルゴールを一緒にいれてもらった。思う存分、聴けるように。

 お墓参りの時には、それを鳴らしてる。

 最近は壊れてきたのか、ちょっと音が悪くなって、変な風に聴こえるんだけどね。






 でも、気のせいかな。







 そのオルゴールの音が、悲鳴に聴こえるのは。あの世に、招いているような気がするのは。




































『──続いてのニュースです。△△県□□市にて、落盤事故が発生しました。車が一台巻き込まれ、乗客三人が亡くなりました。

 三人は以前亡くなった○○さんのお墓参りの帰りに事故にあい──』

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